【書籍化】自滅する天才悪役貴族に転生したけど、設定厨知識で闇堕ちフラグをへし折ったヒロインたちの様子がおかしい 作:涼暮皐
※
「……っ、ふぅ――」
三人の侵入者をそれぞれ気絶させ、俺はほっと胸を撫で下ろす。
《
そう自分に言い聞かせて、ようやくように昂っていた気分を落ち着けた。
「ん、ぐ……」
「うおっ」
そんな折、最後に眠らせた男が小さく呻いたのを聞いて心臓がドッと跳ねる。
対象を眠らせる
俺は咄嗟に男が落とした《レストの短剣》を拾い上げ、刃が刺さらない程度に軽く男の肌に当てた。そして暗記している解放令を
「《奪え》」
「っ、――……」
わずかに漏れていた男の呻き声が、それで止まった。
上手く発動できたようだ。
この《レストの短剣》という武器は原作登場武器のひとつで、
ゲーム的には《
原作だと序盤レベルの正直弱い武器だが、
「……現実だと結構強いな、コレ」
基本、武器による
その中じゃ《
低レベル攻略などの縛りプレイでもしない限り、基礎攻撃力が低いがちな短剣類はあまり輝かない*2のだ。
だが現実であるこの世界では、なんなら決まれば必殺だ。
麻痺させる、意識を奪う、行動を制限する、毒で動けなくする――といった類いのフレーバー効果は、ゲーム上でのバトルシステムだと《
この世界では、個々でかなりの違いがある、と思ったおいたほうがいい。
「……いや……」
ゲームでは《
何かしら対策を考えたいところだ。
武器だけではなく、防具やアクセサリー*5のことも今後は考えていこう。
ともあれ、ひとまず侵入者の撃退には成功した。
手の中で短剣を弄びつつ、魂術による同調でフレーバーを読み取ってみる。
【レストの短剣】
【不殺の義賊レストが愛用していた短剣。鍛冶師でもあった彼は、盗みの際には常に同じデザインの短剣を携行し、盗んだ品の代わりにそれを現場に置いていった。彼は生涯、八十八回の盗みにおいて、ただ一度も血を流さなかった。峰打ちで意識を奪うのみに留めたナンバー入りの不殺の刃は後世、熱心な愛好家を生む。――一説には、それこそが不殺の義賊の本当の目的だったとも語られている。】
やはり俺の同調は、フレーバーとして文章が浮かぶ形か。
同調によって読み取る情報がどう認識されるかは、術者によって異なるそうだ。
ただ大抵は元の持ち主や製作者の記憶を映像として見る形らしく、今の俺のように文字情報として受け取る者はほぼいないらしい。と、これはヤミから聞いた。
「この短剣は……ナンバー66か。ゾロ目だけど、まあハズレ寄りか」
「――ハズレって何がだい?」
「うわビックリした!?」
突如として背後からかけられた声に、俺は両肩を跳ねさせた。
振り返れば、そこには呆れた表情のアビ子の姿。
「あ、アビ子か……急に声かけるなよ」
「いや。むしろアロルドこそ、終わったんだから声かけてほしいけど」
そういえばそうか。いや、アビ子はすぐ傍に控えててくれたから、最初から顛末を見ていたとは思うけれど。
俺みたいに術に頼らずとも、アビ子であれば自力で気配を消せるという話だ。
正直もはや《気配とは何か》みたいな概念的なコトまで考えてしまうが、ともあれアビ子が念のための保険として控えていてくれたワケだ。
「お疲れ。……いや、このナイフ、《レストの短剣》ってシリーズなんだけど。アビ子は知らない?」
「あー、なんか聞き覚えあるかも。確か、何十年か前の有名な盗賊だっけ? 盗んだモノの代わりに自分で作ったナイフを置いていって、そのせいで捕まった、とか」
「そう表現されるとロマンに欠けてアレだけど、まあ合ってる。この短剣がそれなんだけどさ、結構愛好家がいて、シリアルナンバーが一桁とかだと価値が高いんだよ」
「ふぅん? そうなんだ」
そんなに興味ない感じのアビ子のリアクションであった。
俺なんかこの手の話は聞くだけでテンション上がってくるのだが、アビ子のほうが普通の反応なんだろうか。だとすればちょっと悲しい。
まあいいや。
それより隠れて見ていたアビ子には、今の戦闘の総括を聞いておきたい。
「ところで。アビ子的には見ててどうだった、俺の手際は?」
俺の問いかけに、アビ子は目を細めて肩を竦めた。
「……どうかな。戦いと言えるほどのコトにはならなかったと見るべきだろうし」
「んー……まあ結局そうだったか」
「ただ立ち回りはそんなによくなかったかもね。各個撃破しすぎてる」
「あれ。それって悪いのか?」
「悪くはないけど効率よくもないでしょ。特に今回は、ふたり目が間抜けだったのが運よかっただけって感じだし。不意打ちなんてできて最初のひとりふたりで、普通は後続がもう少し上手く対処してくる。三人目の人みたいにね。それを想定するなら、ひとり目をしっかり盾にするとか、吹き飛ばしてふたり目も巻き込むとか、そういう感じで流れるように全員対処できたほうがいいと思うよ」
「難易度たっけえコト要求してくんなあ……」
思いのほか手厳しいアビ子からの評価に、若干落ち込む俺であった。
要は一対一を三回やるにせよ、ひとつの戦いの流れが、そのまま次の戦いの有利に直結するくらい展開を考えろという話か。……すげえ頭回るな、アビ子の奴……。
「難易度がどうとかじゃないでしょ。負けたら次があるとは限らないんだから、一戦一戦できること全部やって当たり前だと思うけど」
「……まあ、そう言われれば……そうだけど」
「クラウもそう思うでしょ。どうだった?」
と、そこで遅れて部屋に入ってくるクラウに話を振るアビ子。クラウは頷き、
「わたしからは、そうですねー。まーなんというか、どうにも先輩は
「え、そうなん?」
「ご自覚もおありでは? 言ってはなんですが《
「正直すぎて泣きそうになってきたんですけど……」
「いえいえ。とはいえ
「……そりゃどうも」
こういうトコはシビアだよな、アビ子もクラウも……。
これは彼女たちの性格というより、地球人とファンタジー人との、前提とする価値観の違いなのだろうが。
命の係わる戦闘の話で余計な気を遣わない。それはむしろ危険なことだから。
にしても、――
それ自体は別におかしな話じゃない。
人によって四大術の適性には違いがあって、どれかが得意な奴でもどれかは苦手なことが多い。
このふたりなんか実にわかりやすく、アビ子は
ヤミは体質と合っていないが、意外と
基本的には、万能型より特化型のほうが戦闘面では有利と言われがちだった。
本来なら別に優劣はないのだ。
才能の大小や経験の多寡はあれど、特化型は一芸に秀でる代わりに、万能型と比べ
だが今の時代、
まあ万能型でも全部が同じくらいという奴は非常に珍しく、大抵はひとつが得意でひとつは苦手寄りになる設定だが。
そんな話はさておき。
問題は、俺の適性が
原作のアロルドは、万能型の
とはいえ技量に違いはあって、アロルドはかなり
万能型だから苦手と言っても特化型ほど極端じゃないが、それでも教会との関係の悪さから、原作では
それが、考えてみれば今の俺とまったく違う。
俺は明らかに
初めて使っても発動できた
初めは
オドを上乗せして効果を増す、という裏技はできたものの、それだって逆を言えばオドを上乗せしなければ素の
別人なんだから適性だって変わって当然、かもしれないけど。
エネルギー量などのステータスは、元のアロルドを引き継いでいるわけだし。
何が違うのやら。
現状わからなかったが、ならそういう
「さて。それよか、……こいつらどうすりゃいい?」
話を切り上げて俺は訊ねた。
「どうもこうも、普通に騎士団とかにでも……いや、この格好ってコトは爻印教っぽいし、なら教会に突き出したらいいんじゃない?」
「まあ、そうなるんだけどな?」
その場合、なぜこいつらはここに来たのか、という話になる。
そのときこの屋敷の転移装置の話がバレたとする。
すると必然的に、転移装置が爻印教との取引で作られたっぽいこともバレる。
――それ乂印教会に消されるんじゃね、俺?
「よし。まあ、その方針を最終手段にするとしてだ」
「何を言ってるんだキミは?」
「いや……ひとまずこいつらを調べよう。何かわかるかもしれない」
アビ子の疑問をしれっと流し、俺はそう言った。
転移装置狙い、というのもまだ確定したわけじゃないが。
ただ、明らかにそれらしいものが、この地下室の床には存在していたのだ。
逆を言えばそれしかない。
この地下室は、明らかに転移装置のためだけに存在している部屋だ。
「ふたりとも、拘束頼んでいいか。俺は転移装置のほうを調べてみる」
それだけ言って、床にある紋様に俺は目を向けた。
床の一部。謎の鉱石でできた一枚の板が、おそらくそれだ。
中央に《
これが転移の命術陣だろう。
制圧する前に様子を見ていた結果、三人目の――ひとりだけ黒装束じゃない男が、ガサゴソ弄っていた様子だし、普通にはたぶん発動しないのだろう。
そう判断して、俺はひとまずその場に屈み、床の装置を指を触れてみた。
瞬間、
「――んぇ?」
突如として周囲を赤い色の光が覆う。
咄嗟に指を離したが、そのときにはもう手遅れで。
「アロル――」「せんぱ――」
アビ子とクラウの、驚いたような声が聞こえたのも束の間。
気づけば、――周囲の景色が一変していた。