【書籍化】設定厨、悪役貴族になる。 ――原作知識で破滅シナリオを攻略し、闇堕ち確定ヒロインを全員光堕ちさせるまで── 作:涼暮皐
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Q.ちょっと調べたいことがあるから屋敷の中を歩き回っても?
「無論、構いませんとも。ここはアロルド様のご実家なのですから」
という流れでヴィンセントからも許可を貰い、俺たちは屋敷の中の調査を始めた。
「……おかしいですね」
と言ったのはヤミである。彼女曰く、
「
「そうなんだ? って、まあそんな感じはしてるけど」
「この屋敷では唯一、元のアロルド様に対しても同じくらいに。私もアロルド様も、かなり厳しく戦いを仕込まれました」
「へえ……」
「その厳しさが許されるほどの実力者でもある、ということですが。ともあれ、そのヴィンセントが妙にアロルド様に甘いのは気になりますね……」
「……性格が違いすぎるからじゃない?」
「まあ……」
おそらく本家の使用人たちから見て、今の俺は『誰コイツ?』状態だろう。
ヴィンセントはともかく、メイドたちが違和感を覚えている雰囲気はこちらにも届いている。アロルドくんは相手が下の立場なら普通にデカい態度で出る男だ。
「実際、明らかに異常事態ではありますからね。屋敷の使用人たちから見れば、今のアロルド様は不気味ですらあると思います」
「だろうね……。触れてはこない辺り、さすが行き届いてるけど」
どうだろう。性格最悪で使用人など人とも思っていない悪役貴族が、突如いきなり実家に戻ってきたと思ったら、これまでとは打って変わって大人しくなっていたら。
その辺り、どういう風に捉えられるものなのだろう?
アビ子やクラウもついて来たことで、意外と案外、大人になって丸くなったね――で済まされているのかもしれないが。友達とか絶対ひとりもいなかっただろうし。
そこで俺は、ふと思いつきをヤミに言ってみた。
「……これは一案なんだけど、いっそのこと記憶喪失で通すのはどうだろう? 俺にある違和感の大半って、それで説明できる気がするし」
「ヴィンセントたちに記憶喪失だと説明する、ということでしょうか?」
「あー……いや、説明はしない。何か秘密があるってのは向こうもわかってるだろうし、そこを勘繰ってくれれば、向こうから記憶喪失説が出ると思うんだよね」
なにせ事実として俺はこの屋敷のことを何も知らない。
それは傍から見れば、屋敷で過ごした記憶を失っているということ。
ヴィンセントは察しもよさそうだし、何も言わなければ向こうが勝手に『アロルド様は記憶を失くされたのでは?』と深読みしてくれそうな状況ではなかろうか。
そんな俺の企みに、ヤミは小さく息をついて。
「……いい性格してますよね、ホントに」
「それ、褒め言葉だと思ってもいいのかな?」
「そうですね。ええ、さすがはアロルド様です」
「……やっぱ褒め言葉じゃねえだろ」
だってもう『アロルド様』が罵倒語だもんな。
俺も初プレイ時は、普通に『なんやねんこのカス』くらいに思ったよ正直。
「ふはー、終わりました。いや疲れましたなー、アビ子同輩が」
「なんでぼくが疲れさせられてんだろ……」
と。そんな感じで半ば雑談を駄弁る俺とヤミの目の前に、調査を終えたクラウと、その付き添いをしていたアビ子が戻ってくる。
いやまあ、戻ってくるも何も、さきほどからクラウをなぜか肩車しているアビ子の姿はずっと見えていたのだが。
「さすがのバランス。なかなかの居心地と見切りましたー」
「ぼくの肩を気に入らないでもらいたいんだけど……」
「移住も視野」
「やめて? ホントに」
なんやかや割と仲のいいふたりであった*1。
友達いない同士のシンパシーとかがあるのかもしれない(ド失礼)。
――現在、俺たちは本家屋敷の二階部分にいる。
屋敷のだいたい真ん中くらいから探りたいというクラウの要求に従った形だ。
そこでクラウが「微妙に高さが足らずー」と言い出したため、アビ子が肩に乗せる流れになったわけだ。いや俺も言ってて意味はよくわからないんだけど。
とにかくそんなふたりを、俺とヤミは壁際でなんとなく眺めていたのである。
「もういいのか、クラウ? なんか術とか使ってる様子はなかったけど」
俺は訊ねる。クラウに任せた痕跡探しだったが、当の彼女はアビ子の肩の上で割とぼうっとしていただけだった。少なくとも俺の目から見る限りは、だが。
しいて言えば微妙に変な体勢でたまにゆらゆら揺れていたが、そこにいったいどんな意味があったのかは完全な謎だ。もしかしたら意味などないのかもしれない。
「んまー、そこはさすがに人様のお家なので遠慮と言いますか。防犯用の結界とかもあるみたいなんで、下手に術とか使って干渉しちゃうのも申し訳なしと思し」
とクラウ。要は配慮して術は使わず感覚で調べた、という話か。
「こういうのって命術メインなら誰でもできるもんなん、ヤミ?」
「まさか。エネルギーの有無や、ライフとオドの違い程度なら判別がついても、感覚だけで空間に残ったエネルギーから個人を特定するなんてあり得ませんよ」
「……だよな」
原作にも《術から術師を特定する術》といった類いの解析術は設定として出てきたが、普通に感覚で見分けがつくなら術として存在する意義がない。
さすが原作ラスボス。なんか家にいたから――とかいう斜め上すぎる理由で簡単にパーティインしていい味方キャラではなさすぎる。
何がすごいって、できることの範囲が広すぎるのがすごい。万能すぎる。
「ウチのネコ型ロボットだよな、クラウは」
「ネコ……、なんですか?」
きょとんと首を傾げるクラウ。
どうやらロボットは翻訳適応外単語のようだ。たぶんこっちに概念がない。
――ともあれ、
「ふむん。結論としては、あの侵入者三名の痕跡は見つけられませんでしたね」
「んじゃやっぱ、連中はこの屋敷から転移してきたわけじゃないんだな?」
「んんー……まあ、わたしから言い出しておいてなんですが、さすがに絶対とまでは断言できかねますな? ないことを証明するのは難しいですゆえー」
「だな。それはわかる」
「ただ少なくとも、何か術を使った痕跡などはないと思います。実際に使った感じ、最低でも《転移装置の起動》自体に当人のライフを使うっぽいので、その残り香すらないなら初めから来ていない――と断じてよいかと」
「まあ、違うって考えたほうがいいだろうな」
なんの術も使用せず、誰かの手引きで速攻で侵入して、装置の起動も他人に任せてやって来た――レベルのことがない限り、ラヴィナーレ本家はたぶん無関係だ。
「じゃやっぱクラウの読み通り、あの装置は奴らが侵入してくるときだけ、一時的に別のどこかに繋がってたってことなんだ?」
アビ子が肩の上のクラウに訊ねる。クラウは頷き、
「かと思います。装置自体は基本的に転移の術式制御がほとんどっぽいんで、肝心のペアリング方法とかがわたしもまだわからなくて、推測しかできないんですがー」
「なるほど……」
さすがのクラウでも、あの装置に関してはまだ《使用者登録》と《起動》しかできないというわけか。別の装置とのペアリングのオンオフなどは彼女にもできない。
いや、それだけでも充分すぎると言えば、それはそうなのだが。
「ただでさえわたしは
「あー……さっきから言ってるのはアレか。いわゆる《
「ですですー」
こくりと頷くクラウ。
たとえば攻撃命術同士の衝突で大きな反応が起きるとか、傍でより強いエネルギーを用いて術を使われると自分の術の制御に失敗するとか、そういうことが起きる。
原作では、一度に複数の術を使うとか、複数の装備を持つだとかを否定するための設定として存在した――と言えばいいだろうか。
あとまあ、術同士のぶつかり合いが絵面的に派手になるしね。そういう意味でも、元はかなりメタ的な設定として存在していた。
装備できる武器はひとつ。防具もひとつ。アクサセリはふたつまで――。
そういうゲーム的な制約を設定に落とし込んだモノだったのだが、現実化したこの世界でも、もちろんしっかり活きているらしい。
ちなみに、
「命術陣は特に
「わかった。行き届いた配慮でありがてえよホント……」
「なんのなんのー。お礼なんて一生養ってくれるだけで充分ですホント」
「だいぶガッツリ要求してくるじゃん」
俺は苦笑して肩を揺らす。隣のヤミは、そんなクラウを『こいつ……』という目で見ていた。
でもまあ、そんくらいの貢献度はあるかもしれない。普段ニートでもクラウに文句言えんよな俺ら……。クラウの存在が俺の異世界転生チートまである。
「――調べ物はお済みですかな?」
と、そのときだ。廊下の向こう、一階へ続く階段から上がってきたひとりの男が、こちらに近づいて声をかけてきた。
老執事ヴィンセント。このラヴィナーレ本邸の使用人のトップである。
「ああ、お陰様で終わったよ」
「それは何より。お疲れでしたら一階でお茶でもいかがですか、皆様?」
「用意してくれてたのか」
たぶんヴィンセントは、こちらの用件が終わったとわかった上で来ている。
どういう理屈でそれがわかったのかは謎だが、ヤミも大概、俺が何をしているのかいつでも把握しているし。その師匠なら、同じ使用人スキルを持っているのだろう。
それは本当に使用人スキルか?*3
――さておき。
クラウのお陰で、ヴィンセントたちが無関係である可能性は非常に高くなった。
お互い触れずにいた転移装置についての話題が、これで出せるというものだ。
「んじゃありがたく頂きたいけど、ヴィンセント。その前にいいか?」
「――ふむ。それは、あの物置部屋のことについてと思ってよろしいですかな、アロルド様?」
「まあ、……そういうことだ。訊きたいことがいくつかあってな」
なんとなく機先を制された気分だが、さすがにそれは誰でもわかる。
ヴィンセントは特に慌てたような様子はなかった。
落ち着け、俺。初めこそ焦ったが彼は別に敵じゃない。むしろ味方ですらある。
「――あの部屋にある装置について、何か知ってることはあるか?」
「ふむ。……私の知る限りでは」
わずかに目を細め、それからヴィンセントは言った。
予想通りであると同時に、予想だにもしていなかった言葉を。
「あれは、アロルド様から御父君へとお贈りしたものと伺っておりますが」