【書籍化】設定厨、悪役貴族になる。 ――原作知識で破滅シナリオを攻略し、闇堕ち確定ヒロインを全員光堕ちさせるまで── 作:涼暮皐
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二日後。インフィディアの街外れで合流したミリアは、たとえるなら遠足の日の、引率の先生みたいなテンションだった。
「よく来てくださいました!」
待ち合わせ場所に来ただけで、もう目的地に到達したみたいなことを言っている。
その傍らには豪勢な造りの
「うわスゴっ、
ほへーっと口を開けてアビ子が呟いた。
相変わらず感情が動くと、どんどん口調が間延びしていく奴だな……などと考えていた俺だが、視線を追ってみると同じようにほへーっと口が開いた。
ミリアが用意した獣車――その正面に繋がれた大きな獣は、確かに見応えがあったからだ。
「黒い
「そうですとも!」
答えたのはミリア。むふんと胸を張っており、何やら自慢げなご様子である。
「ごく低い確率でしか生まれてこない、希少な個体です。別名を《
「へえ……」
原作にも麒麟は登場していた。麒麟は雄が《麒》で雌が《麟》のはずだから、この黒麒は雄なのだろう。確か鳳凰とかも、雄雌に分かれる名前だったはず。
設定厨は周辺情報も調べる。
クロスロ世界の魔獣種は現実でいう中国系の幻獣が多いため、その辺りの知識も、少しではあるが仕入れた記憶があった。
ただ見た目はオリジナルなのか、伝承の麒麟とはかなり異なる感じ*1だ。
確か元の麒麟は鱗のある、鹿と馬と牛のハイブリッドケモノみたいな感じだったと記憶しているが、目の前にいる黒麒はだいぶ馬寄りだった。
金の角が一対あって、鱗の代わりに黒い体毛が全身を覆った大型の馬っぽい獣って感じに見える。
ただ実際の馬よりだいぶ顔が厳つく、しかもムキムキなため、ケモノ感は高めだ。
「六人も乗るのに、一頭だけで大丈夫なのか?」
普段使っている
黒麒は小駮より大きいが、その分、牽いている車体も豪奢で大きい。
そう思っての問いに、ミリアは薄く微笑んで答えた。
「それを言うなら七人ですけど」
「七人……? あ、そっか。御者がいるのか」
「そうです。こちらに」
ミリアが言うと、その言葉に従うように白フードが車から降りてきた。
どうやら編纂官がひとり同行するようだ。
「御者は彼女が務めます。旅の間の安全確保や雑用も担当してくれますので、頼りにしてあげてくださいね」
彼女、ということはどうやら女性の編纂官らしい。
さすがに認識阻害のローブ越しだと、口も開かない相手のことは、背丈くらいしかわからないが。ともあれ、この旅にもうひとりの同行者がいることは了解した。
「よろしく頼む」
そう告げると、フード越しの目線が俺に向く。
表情はまったく見えないし、何を考えているのかも謎だったけれど。
「……?」
なぜだろう。やけにこちらの顔を凝視されているような気がして違和感だった。
顔が見えないがゆえの思い込みだろうか? まあ今日まで何人かの編纂官と交流があった*2けれど、全員なんとなくふんわり俺が嫌いみたいなので、そんなものかもだ。
彼女はそのまま御者台に戻ってしまう。
俺が認識阻害を少し
なんならミリアが『彼女』と言ったことすらミスリードで、本当は男って可能性もありそうだ。気にしないことにしておこう。
「ご質問の件ですが、無論問題ありませんよ。麒麟種は生態特性で、風の術を纏って走ることができますからね」
ミリアは続けて黒麒についての説明をしてくれた。
獣車は一見して車を牽く魔獣が動力だが、より実際的なことを言えば魔獣の命術と御者の魂術で動いている――と見るほうが正確ではあるのだろう。
同じく興味を持ったのか、ミリアに訊き返したのはアビ子で。
「風の術?」
「ええ。麒麟は風を纏い、凄まじい速度で駆けることができますから。何より麒麟が移動用の魔術として最高位とされているのは、術の作用が麒麟の《運ぶもの》にまで適用されるからですね。この上なく快適な旅路をお約束しますよ!」
「はー、なるほど、そうなのかい。スゴいな、キミ」
そう言って黒麒を見つめるアビ子。
ほかの獣車のときよりテンションが高い辺り、好みの魔獣なのかもしれない。
まじまじと目を見開くアビ子を、ミリアは微笑みながら見つめて。
「高位の魔獣が持つ《生態命術》というモノですね。生きているだけで発揮される、能力としての術的効果。
「麒麟は《風の力で高速で走り、かつその走りを阻害されない》という術的効果を、生きているだけで発動しています。つまり跨る者や運ぶ荷なんかを《走る邪魔をするもの》と見做して、その影響を軽減しているわけですなー」
ミリアの説明を
なるほど、と俺も納得。魔獣が持つ生態命術や、麒麟の風の力の設定は俺も知っていたが、術理論的な解釈だと《走る邪魔をされない》ってことになるのか。
面白い。高位の術は結構概念的な部分があるよな、割と。
そういう部分ってゲーム的には無視されがちというか、システム的に簡略化されることが多い(行動不能が《
「さて、そろそろ出発いたしましょう。この車なら王都までたった三日ですよ!」
軽く手を打ってミリアは言った。さっきからなかなか自慢げだ。
「普通の獣車だと、確か七日から十日くらいかかるんだっけ? そう考えると、実際かなり速いな……」
「当然です。いや本当、予約もしてない黒麒を手配するのは大変でした……」
あー……さっきから自慢げだったのはそういうことか。
ありがとね、お気を遣っていただいちゃって。
その気遣いが、そもそも呼び出さない方向に傾いてくれてればなおよかった――と昨日までの俺なら皮肉ってそうだが、さすがに今さら迷っていない。
行くと決めた以上、せめてこの旅路をプラスの収益に変えるべきだろう。
「最短距離を全速力で駆け抜けられれば一日かからないんですけどね。実際はそうもいかないので、せめて平野だけでも急ぎましょう」
「なるほど」
麒麟クラスの獣車であれば、現実の自動車並みの速度が出せる*3。
だが、この世界は道のほうが整備されていないため、そんな速度で進み続けられる土地のほうが限られているわけだ。
山があったらトンネルが繋がっていて、川があったら橋が架かっている――なんて期待できるはずもなし。登るにせよ渡るにせよ、迂回するにせよ時間を喰われる。
最速を取りたければ車を牽かせるのではなく、本体に騎乗すべきってわけだ。
――そういや原作のキャラにひとり、この世界に車を作ろうとしている奴がいたなと、あまり関係ないことを俺は思い出していた。
確か、一度作った獣車を壊して組み立て直すことで、魂術により自動走行する車を作るというアイディアだったはず。
俺は魔獣に騎乗する技術がないけど、車やバイクなんかを発明できれば行動範囲を広げられるかもしれない。そのうち個人で試してみようかな……。
「では出発しましょう」
ミリアに促され、俺たちは車へと乗り込んだ。
同行者は俺以外に、ヤミ、アビ子、クラウ、フィーヌと一家総出。
フィーを同行させるかはかなり迷ったが、幼い彼女を残す場合は当然、留守番役も必要になる。いろいろ考えた結果、戦力を分けないほうを選択した形だ。
ここに案内役のミリアと、もうひとり補佐の編纂官が加わった、総計七名パーティである。
原作じゃ組めない人数だな、とゲーム的な縛りを思い出して、ふと苦笑が零れた。
――目指すは王都《ラルセティオン》。
この世界に来て以来、最長距離の移動となる。
※
獣車に揺られること半日。
その間、特に大きなイベントはなかった。
大街道を東方向へと高速驀進。午前中に出発して、昼に一度、通過する町で休息を取ってから再出発。夕方まで再び進んで、最初の夜を明かす《リリト村》へ到着。
車内こそだいぶ騒がしかったものの、特筆すべきできごとは特にない。
それでもあえて旅路を、ほんのわずかに公開するのなら――。
「速い速い速い速い速い怖い怖い怖い怖い怖い!」
「うるさいですよ、アビゲイル。なぜ怖がりながらずっと外を見てるんですか」
「逆になんでヤミはそんな冷静なんだい!? もしかして慣れてる?」
「一応これでも貴族の屋敷の使用人ですので、ほかの人よりは」
「あ、そ、そっか……ぼくはぜんぜん乗ったことないから、慣れなくて……」
「でも割と快適ですよ? 正直、もっと揺れるくらいを想定していましたが、さすが黒麒と今は感心しています」
「いや、だって、外を見てみなって! 景色が、景色があり得ない速さで、後ろ側にぴゅーって流れていくんだよ!? これ何かにぶつかったらお終いじゃないか!?」
「……いや、そりゃそうでしょうけど」
「ていうかむしろ、旅人とかすれ違ったら大変じゃないか? もし歩いてる人を撥ね飛ばしでもしたら想像したくない光景になるよ!?」
「大きな赤い花になるでしょうね」
「なんで口に出すのさあ!? ……あっなんか想像したら気持ち悪くなってきた……」
「……要するに酔ったんですよね?」
「酔うって何……? お酒は飲んでないけど……」
「なんでもないです。それよりこっち見ないでください」
「じゃあどこ見てろって言うのさ――!」
とか。
「すごーい! たのしーい!」
「ふふ、いいですね、フィーヌちゃんは。愛らしくて素直で、素敵です」
「えへへ。ね、ミリアおねえちゃん。これ、ほかの人とぶつかったりしないの?」
「魔獣は賢いので、自分から避けて走ってくれますよ。街道を行く方々も道の中心は避けて進みますから、滅多に事故はありません。むしろ狙っても、轢かせようと操るほうが難しいです。まあ、たまに鳥とぶつかったりとかはゼロじゃないですけど」
「ふむん。そういえば以前、物の本で読みましたが、かつてどこかの国家が、戦争に魔獣を利用しようとした歴史がありましたね。実話かどうかは怪しいですがー」
「そうなんですか、クラウさん?」
「八百年以上前の小国家での話ですね。麒麟と同じく高速で走る《
「へえ……知らない魔獣ですね」
「そうですねー。魔獣って現代だと種類がかなり減っていますから。禍斗は火を操る魔獣だったそうですが、本当にいたのかどうかは割と謎ですな」
「火をあやつる……おりょうり、上手そう」
「そうですね、フィー。今、フィーは料理の勉強中でしたか」
「えへへ。ヤミおねえちゃんと、くんれんちゅー」
「なるほど。まあヤミ様も魔獣みたいなものと言えばその通りかもしれません」
「……いいんですか、そんなこと言って? すごい目でこちらを見られてますけど」
「喜んでくれたのだと思いますー」
「……えっ。褒めた、つもりだったん……ですか……?」
とか。
そんなようなことを、俺も笑って聞いただけ。
旅の途中を日常と感じるような、そんな――なんでもない時間だった。
そんな道中を思い出し、俺は宿の前でひとり涼んでいた。
「……ふぅ」
小さく息をつく。騒がしかった一日の終わりは、静かな涼しさに彩られていた。
明るい時間も好きだが、こういうひとりの落ち着きも嫌いじゃない。別に人嫌いなほうではまったくないけれど、一日一回はひとりの時間が欲しくなる習性だ。
「気温が過ごしやすいのはこっちの利点だな……」
年々、四季が崩壊気味になっていく日本を思えば、こちらは落ち着いた感じだ。
もちろん場所によるとは思う。学院都市インフィディアを、今回とは逆に西方向へ進んでいけば砂漠エリア*4が広がっているし、ラヴィナーレ本家がある北方面には王国最大の大森林エリア。さらに北上していけば王国北西を占める大雪山エリアだ。
ほかにも火山だったり熱帯気候の密林だったりと、平均的な都市部は過ごしやすい反面、気候が極端な土地がいくつかあるのはファンタジーの
「――お疲れ様です、アロルドさん」
ふと声をかけられて振り向けば、そこにはミリアの姿がある。その後ろには、昼とまったく変わらない姿の編纂官も控えていた。
そちらはわからないが、ミリアのほうは金糸の髪が少し湿って見える。この宿には浴場がなかったが、どこかで湯浴みなりは済ませたのだろう。
「お疲れ。って言っても座ってただけだけど」
「それはそれで疲れるでしょう? 距離が距離ですから」
「かもね……。でも獣車も宿も手配してもらってるし、快適ではあるよ」
「そう言っていただけると幸いですね、ふふっ」
嬉しげにミリアは微笑む。俺たちをもてなそうと気を張ってくれているようだ。
本当、余計な事情さえなかったら、ずっといい人なんだけどな……。
「つーか宿に泊まれるんだもんな。正直、野宿かと思ってた」
「普通ならそうですが、黒麒の速度であれば一日ごとに人のいる場所をしっかり経由できます。今日は小さな村ですが、明日は観光もできる大きな都市に着きますよ」
「へえ、そうなんだ? いやでも見て回る時間はないのか」
「すぐに出発したらそうですけど、お望みなら余計に一泊したって構いませんよ? 別に急ぐ旅路というわけではないですからね」
「あ、そうなんだ」
「王国西部は、王都からインフィディアまでほとんど平野部ですからね。途中にある障害は、明日迂回する《ロクリヤ湖》と、その先の《キツナ川》くらいです」
「ほえー、知らん」
「おや、ご存知ないですか。ロクリヤ湖は王国最大の湖です。海かと思うくらい広いですから、ご覧になったら驚くと思いますよ。キツナ側はそこに注ぐ川ですね」
「へえ……」
「かの湖には精霊がいたとされます。ご存じありません? 王国では《
「あっ――ああ、なるほど、それか……!」
得心がいった俺は、ぽんっと思わず手を打った。
六大霊蹟。
それはどちらかといえば、アロルドが登場する初代『クロスロ』ではなく、続編である『クロスロ2』でピックアップされる土地のことだ。
クロスロ2は、初代であるこの時代より遥かな過去を舞台とする。
まだ乂印教が成立する千年以上の昔。
象徴たる乂字の所以となった、ふたつの聖剣。
その所有者である《勇者》と《聖女》が、初代魔王と戦った時代の物語である。
俺が最も得意とする
その発動に必要な聖句の再現となったシーンを演じた、あの勇者と聖女だ。
魔王を倒す聖剣を鍛えるために、勇者と聖女は仲間を連れて各地の精霊を訪ねる。
現代――つまり乂歴の900から1000年代にはとっくに消えてしまった精霊がまだ息づいていた、
そのとき訪ねた火、氷、水、地、風、雷の精霊たちがいた場所を、現代では《六大霊蹟》と呼んでいるわけだ。
そこには各々の精霊が遺した自然の神秘が残っている。
たとえば火山であったり、たとえば雪原であったり――その精霊の影響で
2になってから明かされた設定のため、初代の時点だと六大霊蹟という単語自体は登場しないのだが、たとえば初代でも行ける大砂漠は《地の精霊》がいた場所だったとか、そういうふうに繋がりが明かされた感じだ。
「んじゃ、水の精霊が現代にまで遺したものが――」
「
「ありがとう愛してる」
「――どうしたんですか急に!?」
急ではない。そういうのだよ、そういうのを俺にくれという話なのホント。
そういう話を教えてくれる人には、俺から無限の愛を渡すの。いらんならそっちで捨てたらよろしい。
六大秘蹟ってさ、要するに《2で精霊がいた場所を無印時代ではそう呼ぶ》ということを、遡る形でできた用語なワケ。
つまり無印では出てこなかったけれど、2の時代ではまだそう呼ばれていないってことになるから、どっちも作中では使われないんですよ。
初出が資料集なの、この用語。
そこでは《湖》としか記載されてないの、水の精霊の霊蹟は。
1だと精霊が住んでるから、同じ場所だけどロクリヤ湖はできてないワケ。
それが今回、こうして場所が特定できたわけですわ。
これが嬉しくないわけないんですよ設定厨は!
俺が自宅にいたら今すぐにでもwikiを更新してるって話よホント。
「あ、あの……えと、アロルドさん?」
そこまで考えたところで、俺はようやく目の前で目を白黒させるミリアに気づく。
……おっと。テンション上がりすぎておかしなことを口走ってしまった。
「っと、悪かった。俺、そういう歴史の話が好きで。知らないことを教えてもらったことについテンション上がって、感謝が迸っちゃっただけだ。気にしないでくれ」
「そ、そうでしたか……もう、驚きましたよ。安易に口説かないでくださいっ」
めっ! ――と指を立てたミリアにお説教されてしまう。
しかしまあ今のは俺が悪い。どうにも設定の話はテンション上がっちゃってね。
反省反省。
ホントは今すぐにでも残り四つを特定させてほしかった(地だけは砂漠で確定しているため、六分の二がわかった)が、さすがに遠慮しておくか。
幸い残りの四つは、水と比べるとわかりやすいしな。火山とか雪原とか、明らかに一か所を指してると思うし。明言はされてないってだけで。
「まったくもう。アロルドさんは、いつもわたしの情緒をおかしくさせますねっ」
ぷりぷりと怒った様子で唇を尖らせるミリアが言う。
それはこっちの台詞オブザイヤー級だったが、さすがに今は言えない。
「いや、いつもって、俺なんかしたっけ?」
「してますよ。わたしを困らせることを結構たくさん」
「えぇ……?」
「ふふ。でもいいでしょう。アロルドさんが歴史をお好きだと知れたのは、なかなかよい収穫でした。それで今夜のところは許してあげます」
歴史が好きというか設定が好きなのだが。
まあ、それは言うまい。
「ではアロルドさん。そんなあなたにひとつ面白いお話を教えてあげましょう」
と、そこで機嫌の直ったミリアがふと指を立てて言った。
その言葉に首を傾げていると、彼女はその指をついと横向きに倒して。
「このリリトの村は特段、観光名所ではありませんが。それでもひとつだけ、過去の神話に縁のある遺跡がひとつあるのです」
「そうなの?」
「ええ。――それがこの先にある《賢者リリトの壁画》です」
「はえー。なんだ、それ?*5」
「わかりません」
「わ……わかりません?」
謎を呼ぶミリアの語りに首を傾げる俺。彼女は苦笑し、
「この村の名前の由来になったとされる賢者リリトですが、名前が残っているだけで具体的に何をしたとか、どういう人物だったのかとか、そういうことが一切伝わっていないんですよ。そのただひとつの例外が、村はずれにある祠の奥の壁画です」
「ふぅん……?」
「何を意味するものかも不明。ただやけに綺麗な絵が風化もせずに遺されている、というだけ。それだけしかしていないリリトがなぜ賢者と呼ばれるのか。果たして何者なのか――そんな歴史のロマンが遺されているというワケです」
「お、おお……!」
何それスッゴい。ワクワク界の重鎮が重役出勤か?(意味不明)
俺の中のテンションが急激に上昇していく。
そんな感情が伝わったのか、ミリアはわずかに肩を揺らして。
「今日はもう暗いですが、明日の朝にでも出発前にご覧になってはいかがでしょう」
「そっか……。うん、ありがとな、教えてくれて」
「いえいえ! それではわたしは先に宿へ戻っていますね」
ひらひらと手を振り、宿に戻っていくミリアに俺も手を振る。
と、そこで俺はまだ残っている、この旅の中で言葉ひとつ発さない編纂官の視線に気づいた。
ん? と俺は首を傾げる。
フードで顔を隠した編纂官は、その直後に踵を返してミリアを追っていった。
なんだろう? 何か意味深な目線だった気がするが、よくわからない。
まあいい。わからないなら気にすることではないだろう。
いったい何者なのか、興味がないと言ったら嘘になってしまうが、相手が編纂官である以上、藪をつついて蛇を出すのは避けたかった。
編纂官は、ミリアのような上位十三名以外だってプロ中のプロである。
怒らせないに越したことはないだろう。
――それよりも。
「まだ八時だろ……うし、今から壁画を見に行くか!」
俺は言った。うん、ほらだって、暗いとは言ってもまだまだ寝る時間じゃないし。
それに俺、あんま早起きとか得意じゃないしな。明日起きてから見に行くとなると時間だって限られるじゃん? それなら夜のうちにたっぷり見とくべきじゃない?
そのほうが余計な面倒をかけなくて済むと俺は思うんだよね。
――ていうか我慢できないんだよね(本心)。
村はずれと言っていたが、そう遠くじゃないだろう。一応、名のある遺跡ならば、道に迷うということもないはず。一時間もすれば戻ってこられると思う。
声だけかけておくかと俺は一度、宿に戻ってヤミたちを探したが、生憎とどこにも見当たらなかった。フィーもいるし四人で身体を清めている、とかだろうか。
ミリアたちは部屋だろうが……さすがにこの時間に訪ねるのはアレか。
なら、今のうちにささっと見てきてしまおう。
そう考えて、俺はひとりで壁画を見に行くことにした――。
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その後の記憶はない。
ただ次に目を覚ましたとき、俺は見知らぬ場所で拘束されていた。