とあるギンガのPartiality INNOCENT 作:瑠和
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ずっと旅を続けてる橘アキラは、偶然助けた中島ギンガに誘われ、中島家に泊めさせてもらうことになった。だが、急に変な男を呼んで泊める訳にはいかないので、中島家の子供達が寝静まった後にアキラは中島家に入った。
アキラはとりあえず居間まで通され、座らされる。そこで少し待っているとクイントがお茶を運んできた。クイントはお茶をアキラの前に置き、アキラの向かいに座ると深々と頭を下げた。
「この度は、娘を助けていただきありがとうございます…」
「いえいえ、ただの成り行きですって。むしろ、こんな俺を泊めてくれて逆にありがとうございます。ていうかすいません!俺なんかが泊まると迷惑なんじゃ……」
「いや、いいのよ!こんな家で良ければゆっくりしていって」
そう言われても、見ず知らずの人間を止めてくれる訳だから当然遠慮は生まれる。家に上がってしまったが、アキラはやはり帰った方がいいのではとクイントに言った。
しかしクイントも何かお礼をしなければ済ませられない性分な上に、アキラが親に捨てられたりした浮浪児だったら保護してやりたいと思っていたので、クイントは是非泊まって行く様に説得する。
説得の末、アキラはどうにか泊まってくれると言った。
「まぁ、そこまで言うなら………」
「良かった………でも本当にありがとう。それにしてもよく助けようって思ったわね…………犯人は銃も持っていたんでしょ?」
「いえ……相手は素人でしたし、あんなところで子供の命より、自分の命を優先したら……橘家次男としての名が廃ります」
アキラは遠慮がちな笑顔で言った。クイントは橘家と言うアキラの出どころであろう家の名前が少し引っかかったが、今はとりあえず気にしないことにする。
今はそれ以上に気になる点が多くある。
「ふぅん………で君はそこで何をしてたの?なんか寝床だとか何とか言ってたけど………それに旅って……」
アキラはお茶を一口すすり、はぁっとため息をついた。
「色々あって今俺、旅してるんです。まぁ、国内ですけど。行く先々でバイトして、小銭稼いで、主に野宿して生活してます」
「学校は?まだ……15〜17歳って感じだけど……」
この頃、アキラは15歳。見た目は完全に成長途中の中学生って感じだ。顔もそんな感じだからクイントは確信を持って聞く。アキラは何だか照れ臭そうな顔をする。
「学校ってものはもう‘行き終わりました’」
「行き終わった?」
アキラは頷く。アキラはバッグの中をガサゴソと漁り、一枚の写真を取り出し、クイントに渡した。クイントは写真を見て驚く。その写真は、大学の卒業写真だった。二十歳を少し超えたくらいの卒業生の中に紛れもなく子供のアキラが混じっている。
「飛び級ってやつです。あんまり良い気で卒業は出来ませんでしたけど」
「へぇ………じゃあすっごく頭良いの?そういうのって生まれつき?」
その質問の返答をする時、アキラは少し暗い表情を浮かべた。
「……頭が良いのは生まれつきじゃないです。それ相応の努力………いや、苦痛が必要なんです。俺はその苦痛が嫌で逃げて来たんです………」
「え?」
クイントが詳しく聞こうとした時、二階からドタバタと何か大きい物音が鳴り響く。
「あの子たち、まだ起きてるのかしら……ごめんなさい、ちょっと注意してくるわね?」
クイントが席を立った瞬間、涙目のスバルがバタバタと駆け下りて来た。
「スバル、どうしたの!?」
「ギン姉が………ギン姉が………………」
それを聞いた瞬間、アキラはクイントよりも先に動きだし物音のした………正しくは物音がしている方に向かって走り出す。まだ知らない中島家の中でアキラは必死で走り、現場にたどり着く。
そこは子供部屋。姉妹全員で寝る場所でもある。
中では涙を流し、頭を押さえて布団の上でのたうち回る様に暴れるギンガ。そしてそれを必死に押さえようとするチンクとディエチ。一番下の双子は怯え、隅によっていた。
「いやぁぁぁぁぁ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「姉上!落ち着いてくれ!一体どうしたのだ!」
「ギンガ!落ち着いて!」
ギンガは奇声を上げ、暴れるばかりで周りの声が聞こえていない様子。アキラはギンガに駆け寄り、そのまま抱き抱える。アキラを見た姉妹達は誰なんだと言う顔をするが、アキラは気にしなかった。
「おい、落ち着け。しっかりしろ。大丈夫だ」
「いや!いや!」
アキラが来てもはギンガは暴れ続け、アキラの腕を引き剥がそうとする。強く振ったギンガの左手の爪がアキラの頬に引っかかり、頬の皮が少し剥がれた。それでもアキラは必死にギンガを強く抱きしめる。
「大丈夫。大丈夫だ。恐ぇことは何もねぇよ……」
「あ……あぁ………はぁ………はぁ……」
アキラが抱きしめているとギンガはアキラの服を握りしめたまま、また眠りについた。その光景に、クイントも姉妹達も驚くばかり。しばらくぽかんとしていたクイントがハッとする。
「大丈夫!?橘君!」
クイントが駆け寄る。アキラはギンガを見つめながらクイントに向けた言葉を言い始めた。
「ギンガのお母さん……やっぱりこの子に外傷はなくても精神的にダメージ受けてたみたいだ。心的外傷………トラウマ…………やっぱりトラウマになった………」
「トラウマ……」
アキラはギンガを抱きかかえたままクイントの方を見る。
「さっきまでいいって言ってましたが………やっぱり泊めてください!この子が………ギンガが心配なんです。だから…お願いします」
「………」
クイントはアキラの服をぎゅっと握ったまま離さず、どこか安心した表情で眠るギンガを見た。クイントは頷く。
元々そのつもりだったし、もしギンガの将来に関わることがあっても困る。そう考えたクイントは一泊と言わず、好きなだけ泊まって行くと良いと、中島家に居候する事を許可した。
そして、アキラは中島家の家族に迷惑をかけられないと、よっぽどのことがない限り家の中では寝泊まりはしなかった。
ー二年後ー
そんなこんなで二年間中島家に居座ってるアキラはこの家で結構良い関係を築いていた。一日も中々充実している。
平日の朝。
アキラは生まれてからずっと厳しい教育を受けてきている。そのため、掃除、洗濯、炊事、裁縫、その他諸々の知識はあったので、家では忙しいクイントの仕事を半分にしてやれた。
「アキラくーん!」
朝、庭から屋根にいるアキラにクイントが呼びかける。アキラは屋根からひょこっと顔を出した。
「はい?」
「悪いんだけど洗濯物、干しておいてくれない?私はお昼作ってるから〜」
「わかりました〜」
アキラは屋根から勢いよく飛び出し、空中で一回転したあとに中島家の塀の上に着地する。アキラは庭や外に直接行く際はよくこれをした。
クイントは「娘達がマネをするから危ない」と初めは注意していたが、中島家姉妹の中で二回から飛び降りる度胸のあるものはいなかったので、最近はあまりうるさくなくなっている。
「じゃあお願いね」
「はい」
クイントと二人きりの時はアキラは日頃家事の手伝いばかりだが、アキラは文句一つなしにやっている。むしろそれくらいで家にいさせてくれる事を感謝していた。アキラが一生懸命やってくれてるおかげでクイントはかなり楽ができている。また、手伝いだけでなく、ゲンヤがいない時に酒に付き合ってやっていたりした。(当然アキラは飲まないが)
一通りの家事が終われば学校に行く前の姉妹達と朝食を取る。朝食を作るのはアキラとクイントの二人ではあるが、どちらかと言うとクイントが多かった。
朝食後、姉妹達が学校に行くのを見送ったら少し暇になる。そんな時はアキラはゲンヤの部屋に置いてある本を借りる。それ以外特にやることもないからだ。いつもなら一番下のノーヴェが帰ってくるまで本を読んでいるのだが、この日は違った。
「アキラ君!来て!アキラ君!」
クイントが玄関からアキラを呼ぶ。アキラは慌ててテントから這い出て、屋根から飛び降りた。
「はい!?」
塀の上に着地と同時にアキラは返事をする。
「ギンガがお弁当忘れてっちゃったの!それと、ウェンディが体育着忘れてっちゃって…………」
「届けて欲しいと?」
「私これからちょっと出かけなくちゃならなくって…」
「わかりました。じゃあ言ってきます」
アキラは弁当と体育着を預かるとまずギンガの中学に向かっていった。クイントから聞いた話ではウェンディの体育の時間は給食の後。と言うことは、食べることを重要視してるギンガを最優先にしなければならなかった。
ーギンガの中学校ー
ギンガは顔を真っ青にしていた。
カバンをいくら漁っても、何度見ても、お弁当がないのだ。ギンガはこの後どう過ごせばいいのか悶々と頭を抱えて悩んでいる。そのギンガの心情を唯一知ってる物がいた。
幼馴染で親友の「ヴァルチ・メグ」だ。
「ギンガ……もしかして弁当忘れた?」
「うん………」
「はぁ………あたしの弁当分けてあげてもいいんだけど……あんたそれだけじゃ足りないっしょ?」
「うん…………はぁ、私のご飯………」
「金は?食堂いけば何か……」
「さっき見に行ったけど100円のパンが売り切れてたの…………財布の中には100円しかないし………昨日補充しとけば良かった」
ギンガは机にうつ伏せになって深いため息をつく。ギンガにとってはかなりの死活問題。メグに迷惑をかけることはできないと考えつつも、最悪分けてもらうしかない。
そんな事を考えた刹那、教室がざわめくと同時に誰かが勢いよく着地した音が教室内に響く。
「?」
「ふぅ………」
アキラが到着したのだ。
「アキラさん!?」
「ギンガ、弁当忘れってったろ。気をつけろよ?」
アキラはギンガに弁当を渡し、頭を撫でる。しかしギンガは唖然としていた。ギンガのいる教室は三階。そこにアキラは窓から入ってきたのだ。
「あ……ありがとうございます」
「じゃあ、俺はウェンディのとこ行かなきゃだからもう行くな」
「はい……」
そう言ってアキラは窓から飛び降りた。ギンガ…と言うかクラス全員が窓から身を乗り出してアキラを確認する。アキラは学校の雨樋を伝って安全に三階分の高さから着地した。
そしてそのまま走って行く。
「あれってギンガの家にいる居候だったわよね?」
「うん……」
「すごいわね〜。さすが旅してただけあるわね〜」
◆◆◆◆◆◆◆
「はぁ……」
ギンガは下校中ため息をついていた。
「なーにため息ついてんの?」
「いや、これからの家庭訪問とか心配だなって………」
「あはは、あのあと先生からも生徒からも質問攻めだったもんね〜」
そう、ギンガはアキラのことについて色々聞かれたのだ。主に女子に。
アキラはあの状況ではかなりかっこよく見えたのだろう。先生からは、アキラが何の用事で来たのか、何故受付嫌事務室に行かないのかと聞かれ、
ギンガは一応世間知らずの旅人と答えた。
忘れ物を届けてくれたのはありがたいが、もっと普通に届けて欲しかったとギンガは思ったのだ。
「今日注意しとこ……まったく……アキラさんは色々すごいとこはあるけど、常識知らないって言うか、度を超えた天然さんっていうか………」
「でもそんなとこが好きなんでしょ?」
「なっっっっ!」
ギンガの顔は真っ赤になり、慌てふためく。
「そ、そんな!違っ!違う!そんな!確かにカッコ良いと思うし……優しいし…たまに可愛い一面は見せるけど………そんな気持ちは……」
「そこまで細かく見れてるなら充分。それだけで好きって言ってるようなもんよ」
「うぅ〜!メグの意地悪……」
(でもどうなんだろう……私自身…………アキラさんを………好き………………なのかな………)
ギンガがそう思った直後、二人の鼻に良い、香ばしい匂いが漂って来る。ギンガは匂いのする方向を見た。そこには最近公園によく来るドーナツ屋さんがあった。
「メグ!あのお店寄ってかない?ほら看板に一個100円だって!」
「看板の文字ちっちゃくて読めないわよ……食べ物の話になるとなんで急に身体能力あがるのよ………てか、あんたまだ食べんの?しかも、あんたこないだたこ焼き食べながら「もう寄り道しない」とかなんとか言ってなかった?」
「うっ……………今回だけ!今回だけ!」
「どーだか」
冷たい態度をながらも、なんだかんだ言いながら付き合ってくれるメグ。二人で信号を一つ超えた先にある公園に向かったが、その信号で待たされる。
そして、もうすぐ信号が変わるというところで事件が起きた。公園からボールが車道に飛び出し、小さな子どもがそれを追いかけて来たのだ。考えるより先にギンガの身体は動いていた。
「ギンガ!」
メグが叫ぶ。しかしもう遅い。ギンガは子供を歩道まで突き飛ばしたのは良いが、肝心のギンガ本人がまだ車道にいる。更に、追い打ちをかけるように、ギンガがいる場所へトラックがクラクションを鳴らしながら突っ込んできた。
「っ!」
「持ってろ」
メグは目を瞑ったのと同時に、誰かがメグ買い物袋を預け渡して車道に飛び込む。
ギンガはトラックが迫って来た瞬間、死を覚悟した。しかし、トラックに当たったと思った時、ギンガの身体は痛みを感じず、誰かに抱えられてた。ギンガはゆっくり目を開ける。
「はぁ、はぁ、はぁ………大丈夫か?」
「アキラさん…」
夕方のアキラの仕事は、買い物だった。そこで偶然現場に居合わせたのだ。アキラはその現場を見たとき全身からアドレナリンが分泌され、通常の倍以上のスピードで動けていた。正しく火事場の馬鹿力と言うやつだ。
ー夜ー
その後、アキラとギンガとメグは三人でドーナツを食べ、そのまま直帰した。
そしてアキラは夕食の後、姉妹達の宿題の手伝いをし、明日の朝食と弁当の下ごしらえをすると、姉妹達が寝静まった後に眠りにつく。
「ふぅ〜。今日も色々疲れたなぁ……」
アキラはテントに入り、寝袋に入り込む。アキラが寝ようと考えてると、誰かが屋根に上がってくる音がした。
「?」
「あの………アキラさん」
テントの外から声がする。ギンガだ。
「どうした?」
「その………怖い夢見てしまって…一緒に寝てもいいですか?」
アキラは一瞬首を傾げる。が、あまり深く聞かない方が良いのだろうと考え、テントの入口を開ける。ギンガは枕を抱きながら入口で待っていた。
「こんなとこで良いのか?あんま寝心地良くねぇぞ?」
「良いんです…………アキラさんと寝たいだけですから…」
ギンガは最後の一言は聞こえない位の声でボソッといった。アキラはギンガと寝れるように、寝袋を閉まって毛布を取り出す。そして二人で毛布の中に入った。ギンガは毛布に入った途端、アキラにギュッと寄ってきた。
「今日は………色々ありがとうございました…それと…ご迷惑かけてすいません…」
「あ?別に構わねぇよ。こっちは居候させてもらってんだからな」
アキラはギンガの頭をポンポンと叩き、そのまま撫でる。ギンガはこれが好きだった。
その後しばらくお話を二人でしてたが、何時の間にか二人は深い眠りに誘われていった。
続く