とあるギンガのPartiality INNOCENT 作:瑠和
ある日、みんながそろそろ帰ってくる時間、クイントは買い物に出掛けていた。アキラは屋根で一人、のんびり中島家姉妹が帰ってくるのを待っている。テントから上半身だけ出して寝っ転がり、アキラは空を見ていた。そんな時、中島家の玄関から声が聞こえた。アキラは玄関の方を見る。玄関の前では赤い髪の少女がいた。
「おかーさーん!……いないのかな…鍵、今朝うっかり家に置いてきちゃったのに…」
玄関先で困っているのはこの家の末っ子、ノーヴェだった。アキラは屋根からノーヴェに声をかける。
「ノーヴェ」
「あ、アキラさん!」
「どうした?」
「その……鍵……忘れちゃって………」
「ああ…………待ってろ。開けてやる」
アキラは屋根からベランダに降り、家の中に行った。そして、少しすると、鍵が開く音がしたあとにアキラが出てくる。
「ほれ」
「ありがとうございます」
ノーヴェとアキラは一緒に家に入り、ノーヴェは手を洗うために洗面所へ、アキラは何となくテントに戻るのが面倒だったので居間に座る。まぁ、居間に何かあるわけではないが。少ししてからノーヴェが居間に戻ると、居間にいるアキラに少し驚く。
「どした?」
「いえ………」
ノーヴェが驚いた理由は、普段はテントにいるアキラがいるのが不思議だったし、何よりあまりアキラとは交流を持とうとしなかったのでノーヴェは二人きりという状況に少し緊張していた。……………特に話すことも、理由もなかったのでアキラは話そうとしない。ただボーっと庭を見つめるだけだ。家事などは午前中に終わってしまったし、溜め込んでいた本も全部消化してしまった。
「………あの」
「ん?」
「え……あ………その…………」
「?」
「今度は………いつまでウチにいられるんですか?」
ノーヴェはモジモジしながらアキラに尋ねる。
考えてることとかが顔に出やすいギンガのアキラに対する想いに最初に気づいたのは、姉妹の中でノーヴェだった。だから、初めてアキラが中島家から姿を消した時にギンガのことを家族の誰よりも心配していたのだ。だから、二人きりの今、アキラに聞いて見た。
「………さぁな明日までかもしれねぇし、来年かもしれねぇ」
「その……できれば、もういなくならないでください……」
ー夕食時―
あれから、ウェンディ、ディエチ、チンク、ギンガ、クイント、スバル、ゲンヤと皆が帰宅し、晩ごはんの時間になる。アキラは夕食の準備を整えながら小さなため息をつく。
「あら、どうしたの?ため息なんて珍しい」
「いえ…今日ノーヴェが…俺にもう出ていってほしくないって言ったんですよ」
「あら、ノーヴェが?」
「はい……でも、俺は…実は、気まぐれで出ていくんじゃなくて…みんなに、迷惑かけたくなくて…………」
クイントは料理の手を止め、微笑む。
「出ていくのは私たちに迷惑かけないための、それなりの事情があるってこと?」
「はい」
「理由はいえないの?」
アキラはゆっくり頷いた。すると、クイントはアキラの頭を撫でた後に抱き締める。アキラの顔はクイントの胸の中に埋まり、クイントの行動に、アキラは驚いた。
「話したくないならそれでいいわ。でもいつかは話してくれる?」
「…多分、もっとずっと先になると思います…」
「そう………それならそれでいいのよ。あなたはもう家族だけど、話したくないことの一つや二つくらいあるものね」
「クイントさん…」
今この手の中にある温もりを、アキラはずっと欲しがっていたような気がした。が、その刹那、背後で何かが落ちる音がする。見ると、ギンガが飲み終えたペットボトルを落とし、呆然と立ち尽くしていた。
「あら、見られちゃった」
「ギンガ……」
「アキラさん!何をしてるんですか!!」
ギンガは顔を真っ赤にしながらアキラに叫ぶ。
「いや、何と言われても………スキンシップ?」
アキラはやられた側なので、正直なんとも言えないのでクイントの方をチラチラ見ながら答える。クイントは笑顔で二人を見守っている。アキラはもしかして殴られるんじゃないかと不安に思っていたが、ギンガはそのまま居間に戻って行った。
アキラは頭に「?」を浮かべながらも夕食の準備に戻る。
◆◆◆◆◆◆◆
ー屋根ー
アキラがテントでボケーっとしていると、ベランダからウェンディとチンクが上がってきた。
「アキラさ〜ん!」
「あん?」
あぐらをかいて座っていたアキラの膝の上にウェンディが飛び込んで来る。アキラは結構体格が大きいので、小学生くらいなら普通に膝の上に載せられた。
「どした」
ウェンディの頭を撫でながら、アキラは要件を聞く。
「どうやら、台風が近づいてきているようで……流石に外は厳しいかもしれないから家の中で寝た方が良いのではと母上が……」
「台風か………確かにここ最近風が強いとは思ったが………」
「家の中でみんなで寝るッス♪」
「そうだな………」
アキラは少し考えてからチンクに言った。
「んじゃ、そうさせてもらうわ。しかし、邪魔にならないか?」
「大丈夫ですよ。まだギンガを除いて皆小学生ですから」
ー風呂ー
アキラは、子供達の寝る時間に合わせるためにいつもよりずっと早い時間に風呂に入っていた。風が強くなっているのが、音でわかる。台風が近づいているようだ。
こに家に住み始めてから、こういうことは初めてだった。まぁ、ギンガがいつトラウマを発症させるかわからないから側にいれるのは良いのだが……やはり少し遠慮というか、緊張している。
「はぁ……そーいや明日バイトか……」
アキラが呟いた瞬間、風呂場の扉が開いた。
「ん?」
扉の方を見ると、ピンク色の髪をした女の子が立っていた。しかも裸だ。
「…………………」
「…………………」
女の子もアキラの存在に気づく。
アキラは見知らぬ少女の出現に驚き過ぎて逆に声を出せていなかった。少女はアキラを視認するも、何も言わずに浴室に入ってくる。アキラは未だに声を出せない。
少しすると、ノーヴェとウェンディが浴室に入ってきた。
「七緒、待って〜」
「お風呂ッス〜」
「あ、アキラさん」
アキラは驚いた表情のまま、七緒と呼ばれた少女を指差す。そういえばアキラに合わせるのは初めてだったという顔をしてウェンディが説明する。
「ああ、アキラさんが会うのは初めてッスよね。この子は七緒っていってあたしらの従姉妹ッス!お隣に住んでるッスよ」
「それで、今日隣の家のお風呂が壊れたから、借りにきたんだ」
気づくと、ディエチが扉の前に立っていた。
「アキラさん、三人が長風呂しないように見ててもらえない?」
「え?いや………」
アキラが戸惑っていると、今の方から聞き慣れない大人の女性の声がした。
「ディエチ〜」
「あ、呼んでる…ごめんなさい、アキラさん、お願いします」
「いや……え〜………」
返事をする前に行かれ、今さら断るに断れない状況。まぁまだ全然あったまってないし、子どもの世話は得意だから構わないのだが、どうにも一緒にお風呂というのは、小学生とは言え意識してしまう。
どうしようかと考えていると、身体を洗った三人が湯船に入ってきた。流石に三人入ると、お湯の量が増して溢れるか溢れないかくらいになる。
「あったか〜い」
「生き返るッス〜」
「……………」
どうにもこの七緒は、無口なようでさっきから一言もしゃべらない。しゃべらないが、なぜかアキラのことを見つめている。タオルも何もしていない少女を見つめ返したりするのもアレなのでアキラは目をそらしている。
「そういえば七緒はアキラさんのこと知ってるッスか?」
ウェンディが尋ねると、七緒は首を横に振る。
「じゃあ教えてあげるね」
ウェンディとノーヴェが二人でアキラが家に来ることになった話を七緒に教えた。ちなみにこの話は、アキラが見てないところでギンガが、いかに優しくアキラが自分を誘拐犯から救ってくれたかという武勇伝を姉妹に何度も話していたのだった。何度も聞いたので二人もすっかり覚えてしまったのだ。
(なんでこいつらこんなに詳しく知ってんだ……?)
ギンガが話しているとは知らず、アキラは「?」を一人浮かべていた。
さて、一通り話が終わった後、急に七緒が接近して来る。
「………………」
一瞬、声のようなものが聞こえた。
「あ?」
「ああ、七緒はすっごい声が小さいからよく耳すまさないと聞こえないッスよ」
ウェンディの説明に、納得できたようなできないような、微妙な気持ちでアキラは頷く。
「あー、七緒…ちゃん?」
「…………」
口が開いたのと同時にアキラは耳を傾ける。どうやら、「七緒だけでいい」と言ったようだ。アキラは頷きながら続ける。
「さっきなんて言ったんだ?もう一回言ってくんねぇかな?」
「………………(ネットで同じ名前の人…見たことある。あなた、よくにてる)」
七緒がそれを言った瞬間、アキラの顔が強張った。だが、すぐに普段は見せないような笑顔になって七緒の頭を撫でた。七緒は不思議そうな表情を浮かべて首をかしげる。
「気のせいだろ。世の中には似たような顔の人間も、同じ名前の人間も山ほどいるからよ」
「…」
アキラは急に話題をそらすように、自分の手で水鉄砲を作り、三人に水を飛ばした。普段そんなことをしないアキラをみて嬉しくなったのか、ウェンディがやり返して来る。アキラは、こうして騒げば、少なくともすぐこの話題は消えるだろうと思ったのだ。
「やったッスね〜!ノーヴェ!七緒!反撃ッス!!!」
「う、うん!」
◆◆◆◆◆◆◆
しばらくしてから、三人は風呂からでた。アキラは一足早く着替えを終え、居間に来た。
「ふー……」
「あら、アキラ君」
「あん?」
台所を通り抜ける時、僅かに聞き覚えのある声で名前を呼ばれ、アキラが台所を見るとそこにはいつぞや会った一架がいる。
「あんたは……前にあったことのある………一架さんだったか?」
「あら、覚えててくれたのね。嬉しいわ」
「まぁな……今夜はこの家に泊まるんですか?」
「いいえ、ちょっとお邪魔してるだけよ。そういえば、あなたお酒は飲める?」
「あ?」
「もし良かったら今度、私の一個下の妹を連れて飲みにでも…」
「いや、俺まだ今年で17なんですけど」
一架の話を遮るようにアキラは言った。一架は目を丸くする。どうやら、アキラを二十歳そこそこに見ていたようだ。
「十七?」
アキラは頷く。
「その体格で?」
「はい」
「大学卒業してるって聞いたんだけど…」
「飛び級です」
「……………………すごいのね、あなた……………」
一架は驚き過ぎて、ようやく口にでた言葉がそれだった。少しフラフラしながら一架は台所作業に戻る。アキラは首をかしげてから台所をあとにする。
それからまっすぐ進み、騒がしくなっている居間のドアを開けた。
「上がったぜ」
「あら、アキラ君」
居間に入った瞬間、アキラは動きを止めた。居間には、中島家の面々、それからアキラは初対面なスカリエッティ家の面々、そしてもう一人………メガネを付けたきつね色の髪をした男が一人。
男はアキラが居間に入って少ししてからアキラに気づく。
「あれ………?君、まさか………………橘アキラ君?」
「………………っ!」
アキラは男の腕を掴み、立ち上がらせる。
「おおっと」
「来い」
「ちょっと?アキラ君!」
男を何処かへ連れて行こうとするアキラをクイントが止めようとする。しかしその瞬間、アキラは今まで見せたことも内容な恐ろしい形相でクイントを睨んだ。クイントはその顔を見た瞬間動けなくなった。恐怖で身体が固まったのだ。
アキラは男を廊下まで連れ出し、壁に叩きつける。
「なんであんたがここにいる!!!……………ウィードォ!」
男の名は、ウィードといった。
「それはこっちが聞きたいくらいなんだけど……」
「俺を探しに来たんじゃねぇのか」
「いやまぁ、君のお義父さんに僕のところへ来てないか聞かれたりはしたけど………」
「なら、なんでこんなところにいる!」
アキラはウィードを押さえる力を強くする。
「いたたた!ちょっと待って!僕は元々この街の町医者なんだよ確かに君のむぐぐっ」
アキラはウィードの口を塞ぐ。クイント達が様子を見にきたからだ。アキラは、自分のとある事情を知られたくなかったのだ。
「余計なことは言うな。とにかく、俺の家にだけは絶対に連絡はするな。いいな?」
ウィードは小さく頷く。アキラは腕を外し、今日自分が寝る寝室に、寝る準備をしに行った。クイントが心配して後を追いかける。アキラは部屋に入ると、壁を少し強く叩いた。
それと同時にクイントが部屋に入ってくる。
「アキラ君……」
「クイントさん……あの医者はなんでここにいる?」
「えっと、色々事情があって、話すと長くなるんだけど………」
続く