その鴉は黄昏を見せるかそれとも夜明けを起こすか 作:0.The_Fool
ノベルと別れたイサの端末に、封鎖機構の内規が重い音を立てて開いた。
〔機密通達:封鎖機構・作戦部/閲覧許可 LV.4〕
目標:ウォッチポイント・アルファにおける侵入者、不穏機体の監視·排除
実施:外部協力機「ニュクス」(機体:レトゥス)を先行観測に投入
条件:腕輪型制御具を必ず装着させる
補足:腕輪反応が閾値逸脱(N-Δ)した場合、命令違反(敵性)として処理
→ 封止措置 δ:焼却を作戦中に実行
→ 記録は「敵性行動に伴う自壊事故」として処理
備考:本通達は共有範囲を限定
“回収不能時”じゃない。
“腕輪が異常になった時”だ。
つまり、戻すつもりではなく、異常が起きた瞬間に消すつもり。
異常の定義は、上が決める。
イサは目を細めた、ノベルとアイシスの予測通りとはいえこの決定はあまりにも機構に都合がよすぎる。
イサ
(守るためじゃない。都合の悪いものを消すため。)
装着/ニュクスの手首に首輪を付ける
~~~~~~
格納区画。
レトゥスの横で、ノベルは淡々としていた。
怒りも恐怖もない。あるのは「見ている」目。
イサ
「時間が近いノベル、腕輪を装着する」
ノベル
「首輪だね」
イサ
「……制御具だ。命令違反を防ぐための」
イサ
「……作戦が終わったら外す」
ノベル
「んー、やめておくよ」
イサ
「帰ればまた別のものを付けることにはなるが?」
ノベル
「ま、そうだよねぇ」
腕輪がロックされる。
端末に、心拍みたいな緑の波形が出た。
〔WCU:SYNC OK〕
〔制御リンク:確立〕
〔監視:開始〕
イサはそれを見て、胸の奥が冷えた。
イサ
(これが上の思っている通りである限り、上は安心する。)
(そして緑が狂った瞬間、焼く。上の考えそうなことだ)
「そろそろ機体に乗っておくようにあとは、フリーフィング通りだ」
~~~~~~
イサ
『作戦開始、ウォッチポイントに近づく不穏分子の監視もとい排除』
ノベル
「了解」
ウォッチポイント外縁。
上空よりも薄いが赤い霧の“濃さ”が視覚より先に皮膚を撫でる。
LCが群れ、砲台が唸り、管制が怒鳴る。
そして侵入者の報告が上がる。
「侵入機影! ACだ! 速度域、異常!」
同時に、イサの端末が嫌な音を立てた。
〔WCU:SIGNAL FLUCTUATION〕
〔SYNC:コーラル反応〕
〔判定:N-Δ(閾値逸脱)〕
〔手順:命令違反(敵性)として処理〕
〔封止措置 δ:起動準備〕
“命令違反”。
……違う。
命令を破ったのは、まだ確認すらしていない。
ただ「揺れた」だけだ。
イサの指先に、確認ボタンが出る。
〔EXECUTE δ〕
〔YES / NO〕
〔制限時間:00:30〕
三十秒。
たった三十秒で、人間ひとりと機体とAIを「事故」にする。
イサは息を吐いた。
ルビコンの風じゃないのに、肺が冷える。
(早いな、どうやら早く消しておきたいらしい。無論Noだ)
ノベル
「通知が来た?」
イサ
「そろそろいいかもしれんな、そちらの準備ができ次第始めてくれ」
ノベルは手首の腕輪を一度だけ見た。
首輪。
そして“起こさせて焼く”ための導線。
けど、それを利用する。
ノベル
「イサ、動くよ。ヘリを壁際に。今すぐ」
イサ
「……わかった、——」
アイシス
〝イサさん。今からマスターはAAを使用します〟
イサの顔色が変わる。
だが真面目な人間は、怖くても動ける。
壁際へ飛ぶ。
ノベル
「アイシス。局所偏向。イサの位置にコジマ抑制用のバリアを展開して。
“EMP”として使うからそこの調整は任せる。最大出力でログだけ殺す」
アイシス
〝了解。出力の主成分を電磁衝撃に寄せます。
被害半径を4mに制御。イサさんはそこを動かないでください〟
一拍。
白い輪が、レトゥスを中心に膨らんだ。
爆発じゃない。音より先に世界の電気が鳴る。
空気が一瞬だけ“無音”になる。
警報が途切れる。
端末も、監視も、腕輪も――“生きているすべての電気”がまとめて死ぬ。
腕輪が、焦げた匂いと一緒に内側から割れた。
〔WCU:SIGNAL LOST〕
〔判定:命令違反(敵性)〕
〔封止措置 δ:実行〕
扉の外で、イサの端末が勝手に「実行」に飛んだ。
イサ
「……くッ!」
だが、イサは理解した。
これは暴走じゃない。
ノベルが“起こした”逸脱だ。
ノベル
「これで、筋書き通りだ。
“命令違反”に見せて、焼却処理を走らせる。——走らせたまま、空振りにする」
アイシス
〝現場監視へ“焼却相当の熱スパイク”を偽装を用意します。
温度、圧力、光量。
『事故死として妥当な絵』を生成。ログ整合を開始〟
現場と機構/「焼却完了」として処理される
管制のスピーカーが荒れた声を吐く。
「封止措置δ、実行! 対象ニュクス、焼却確認——!」
監視モニタには、一瞬だけ“白い爆ぜ”が映った。
実体はEMPの輪だ。
でも現場は“見るべき絵”しか見ない。
〔封止措置 δ:完了〕
〔対象:ニュクス(レトゥス)〕
〔結果:焼却完了〕
〔付随AI:消磁焼却完了〕
〔事象:命令違反に伴う自壊事故〕
――封鎖機構はそう処理した。
処理しないと、作戦そのものが露呈するからだ。
イサの端末にも「完了」が出た。
完了していないのに、完了。
イサ
「……最悪だ。完璧な最悪」
ノベル
「“公認の秘密”ってやつだね」
イサ
「……さて、完全に戻れなくなったな」
ノベル
「戻る気があるの?」
イサ
「ないな。やり方は変わるが、やるだけやるさ」
その言葉が、ノベルの中で“可能性”から“信用”へ変わった。
アイシス
〝外部の焼却処理ログ、送信完了。
監査に反映済み。
現在、封鎖機構上層の認識:『ニュクスは作戦中に焼却された』と処理されています。それと、イサさん――あなたの痕跡も“巻き添え”として処理し手ありますのでお気になさらず〟
イサ
「……そうか、ならもうこれは要らないな」
ノベルを担当することになってから渡されたタブレット、ヘリに使われている機器はタブレットを使わなければただの飾りとかす
アイシス
〝退避ルート生成。
封鎖機構は“焼却完了”として追跡優先度を下げます。
ただし“現場の目”は今だ健在です。二分、急いで〟
イサ
「行くよ、ノベル。
私たちは死んだことになってる。だから好きなようにいこう」
ノベル
「……わかった、よろしく頼むよ」
辺りは、さっきより暗い。
EMPで照明も死んでいる。
暗いのは
ノベルは走り出す。
AAで焼いたのは人間じゃない。
電気と、腕輪と、筋書きの“導線”だ。
その導線の上を、夜が滑る。
焼却されたことになったまま。
二人が消えるのと入れ替わりに、ウォッチポイントの内側が騒がしくなる。
警報が変わる。声色が変わる。焦りが混ざる。
「侵入者だ! 敵影は一機!現在正面入り口にて交戦中各員戦闘態勢!」
~~~~~~
外縁宙域。
621の機体がウォッチポイントへ向かう。
ウォルターの声が、いつも通り短い。
ウォルター
『621。ウォッチポイントに到着する。壁を壊せ。外部からの応援は来ない、ウォッチポイントを調べるぞ』
621は返事をしない。
返事の代わりに推力で答える。
だが今日の封鎖機構は、いつもと違う。
砲台の射撃が一拍遅れ、迎撃が噛み合わない。
“目”が揺れている。
それを621は知らない。
知る必要もない。
突破は突破だ。
~~~~~~
アイシス
"マスターどうやら侵入者のようです。封鎖機構のACデータベースとの参照………………見つかりました、識別名レイヴンどうやらデータとしてはレイヴンとして処理されていますがどうやらオペレーターと登場者が違うようです"
イサ
「おそらくノベルが来る前に侵入してきた存在がレイヴンの名を拾ったのだろう」
ノベル
「この星のレイヴン、か」
"自由意思の象徴"
私の中でのレイヴンの意味。かつての空を飛び回っていた時に感じた思いをそのままのせるために。世界を飛び回るために必要な名前。
「借り物の翼はこの世界に何を見せてくれるだろうか?」
イサ
「そろそろ通信も戻るはずだかおかしいな、何が起こっている?」
アイシス
"どうやら外部からの妨害のようです。現在、封鎖機構の防衛設備等についてですが、残っている数は少ないようです"
逃走中のはずのイサは、もう“封鎖機構の人間”としては存在しない。
だからこそ、回線の隙間に生きる。
イサ
「出口が近いはずだ、障壁をアクセスして外へ出るよ」
アイシス
"マスター外でレイヴンと何者かが戦闘を行っていたようです撃墜されたACは、エンタングル。
登場者スッラ第一世代強化人間の傭兵のようですログを見るにどうやら621と呼ばれているのは状況から見るにレイヴンでしょう。
それに加え、ハンドラー·ウォルターと言う人物がレイヴンのオペレーターかと"
イサ
「ハンドラーウォルター、猟犬達の飼い主か。一時期猟犬が噛みついてきたことで我々に大損害を被った時期があったな」
ノベル
「つまるところ、強い猟犬ってことでいいか?」
そうこう話している間に三人は外にたどり着く、外へ出たと同時にそれはノベルとアイシスを襲う。
アイシス
"!!急激なコーラル反応です。場所は、ウォッチポイント内部からのようです。それと同時にレイヴンの機体反応が一時的に消えましたが、自動操縦により外へ退避できたようです"
ノベル
「どうやら厄介なのも来ているね」
イサ
「ノベル。あれが門番。封鎖機構の“壁”。
でも今、管制がガタついてる。……あなたが作ったノイズが効いてる。ここを出るにはどうにかしないと」
アイシス
〝対象:バルテウス。
提案:ミサイル誘導の中心をずらして穴を作れます。
ただし、PAを常時はり続けていますまずはそれを剥がすのが先決かと〟
ノベル
「ならまずはそれをどかさないと。アイシス、イサ頼むよ」
『聞こえるか』
アイシス
"外部からの通信です、この状況を見るにハンドラーウォルターかと"
ノベル
「アイシス繋げて、イサは窓口なんだからよろしく頼むよ」
イサ
「……あなた、ほんとに傭兵向きね」
ノベル
「褒め言葉に聞こえない」
ノベルは撃たない。
位置で殴る。
QBで飽和の中心線を切り、誘導が一瞬だけ空を噛む。
ウォルター
《聞こえるか?とりあえず聞こえている前提で動かさせてもらう》
声色から若干の焦りを感じる、しかしどう対処するかは既に決めている声だ、
《無名機体、こちらに付くなら応答しろ。依頼がある》
イサ
「こちらACレトゥスオペレーターの…………(名前はどうしよう)」
ノベル
「セレス、私の昔のオペレーターの名前を少し変えたやつだけど使っていいよ」
イサ
「……すまない、通信が少し乱れた、オペレーターのセレスだ」
ウォルター
《そうか、依頼の内容だか現在急接近してきているバルテウスを撃破してもらいたい。こちらのACは先程の逆流により大ダメージを受けているが生存が確認できてはいる。
しかし通信が繋がらない上にこの状況だ、死にかねん。報酬は追って伝えるが、前金としてこれを送っておく。バルテウスに搭載されている武装だ役立ててくれると助かる》
イサ
「了解したその依頼受けさせてもらおう。ニュクスいけるな?」
ノベル
「誰にいってる?行くよアイシス」
ウォッチポイントの空は、赤い霧が薄い膜になって張りついていた。
風に流れるはずのものが、流れない。流れないから重い。重いものは落ちる。
落ちてきたのは兵器だった。
輪郭の丸い外殻、取り巻くミサイルポッド、そして薄い光の膜――パルスの壁。
バルテウス。
レイヴン(621)の機体は、すでに削れていた。
内部で起きた“逆流”の残り火が、制御の端々に噛んでいる。
外部通信は死んだまま。命令も、怒鳴り声もない。
あるのは、目の前に落ちてきた門番だけ。
ミサイルが咲く。
数ではない。面だ。
視界の四隅から「逃げ道」を潰すように、同時に降り注ぐ。
621は逃げない。逃げる方向が無いからだ。
逃げる代わりに「穴」を探す。
飽和の中に、ほんの一瞬だけ空く“薄い隙間”。
エア
——レイヴンこの状況なら近づくのが妥当です。
エアが言う。命令じゃない。方向だけ。
——盾は強い。でも、近いほど隙が生まれます剥がれればあなたのパイルバンカーが有効打になる。
621は推力を踏み、ミサイルの海に逆に突っ込んだ。
爆風が装甲を削り、衝撃が棺の中の肺を叩く。
それでも距離を詰める。詰めないと、いつまでも削られる。
だが、光の膜が立ちはだかる。
弾が弾かれ、蹴りも弾かれる。
攻めが攻めとして成立しない。
その瞬間、別方向の空気が裂けた。
“音”より先に“位置”が変わる。
レトゥス。
ノベル。
マッハを越える加速が、世界のフレームレートを狂わせる。
一歩先に居て、一歩先に消える。
NEXTの速さは、戦い方というより戦場のルールそのものだ。
アイシス
''対象:バルテウス。ミサイル飽和+常時パルス障壁。
後半、火炎兵装への移行確率が高いです,,
イサ(セレス)
「ノベル、管制はまだ乱れている。
……こちらのノイズがまだ効いてる証拠だ。だが門番は門番だウォッチポイントに異常があれば動ける状態になっているそれがあれだ」
ノベル
「わかってる。——なら“成立”を壊す」
ノベルは撃たない。
撃つとログが残る。ログが残ると“死んだはず”が揺らぐ。
だから、位置と刃で殴る。
ミサイルの中心線を横から切る。
誘導の焦点を一瞬だけずらす。
飽和の“面”に、穴が空いた。
その穴に、621が息を継げる。
621はノベルを見ない。
見ている余裕がない。
だが“穴”だけは見える。
穴が見えるなら、突っ込める。
バルテウスは賢い。
穴が空けば、別の弾幕で塞ぐ。
弾幕の形を変え、射出角を変え、逃げ道を作らせない。
ノベルはその“塞ぐ動作”の根元へ行く。
ミサイルポッドの可動部へ、刃を置く。
斬り飛ばさない。壊し切らない。
「動かすための関節」だけを裂いて、射出角を崩す。
一つのポッドが、狙い通りに振れなくなる。
すると飽和が、飽和じゃなくなる。
面が、粗くなる。
粗くなった瞬間、621の反撃が通る。
621は衝撃を叩き込む。
盾に弾かれても、押し込む。
押し込んだ分だけ、パルスが揺れる。揺れが“剥がれ”になる。
エア
——レイヴン焦らないで。徐々にPAが削れています。
剥がして、剥がして、剥がした瞬間だけ刺す。
ノベルは“刺す瞬間”を増やすために、バルテウスの射線を横から壊し続ける。
621はその瞬間に、確実に叩き込む。
二機の連携は会話じゃない。
結果だけで繋がる。
パルスの膜が、目に見えて薄くなる。
薄くなると、バルテウスは距離を取ろうとする。
距離を取られたら、また飽和に戻る。
621は追う。
ノベルは“追わせない角度”を潰す。
レトゥスが横へ滑り込み、外殻の側面を削るように加速する。
バルテウスの姿勢制御がわずかに乱れ、逃げる軌道が歪む。
その歪みが、621の最短を作る。
そして――
光の膜が割れた。
割れる音は、爆発より静かだった。
静かなほど、決定的だった。
バルテウスの外殻が剥き出しになる。
“ただの鉄”になる瞬間。
エア
——レイヴン今です!。
エアが背中を押す。
621が踏み込む。
短い距離、短い時間、短い判断。
そこに全てを乗せる。
ノベルは“決め手”を奪わない。
奪えば、この戦いはノベルのものになる。
そうはしない。
ノベルは、決め手の前に“芯”を露出させるだけ。
刃を置き、外殻の一部をズラす。
露出した中枢――そこへ621の弾が吸い込まれる。
バルテウスが怒る。
怒り方が変わる。
ミサイルの飽和から、火炎の“線”へ。
炎が伸び、薙ぎ、逃げ道を焼き払う。
当たれば終わる温度。
621が一瞬遅れる。
逆流の残滓が、身体の中で足を引く。
“間に合うはず”が、間に合わない。
その刹那、ノベルが割り込んだ。
止まる速さで止まり、QBを挟みながら撹乱する。
折れる角速度で折れる。
炎の軌道の“先”に入り、先回りして外す。
炎が追う先を失い、空を焼いて空振りする。
ノベル
「……熱いな、ルビコン」
イサ(セレス)
「生きろ。今はそれだけだ」
ノベルは一瞬だけ笑いそうになって、やめた。
笑うと、何かが緩む。
緩んだら前と同じになる。
火炎の線が途切れた瞬間、621がもう一度詰める。
ノベルが姿勢を押し、芯が露出する角度を作る。
621がそこへ叩き込む。
パイルバンカーのチャージ隙がある。
しかしその隙をバルテウスが狙うのをノベルが許さない。
チャージ完了と共に621は獲物を確実に突き刺し、後退する。
瞬間、バルテウスが爆ぜた。
光が空を満たし、赤い霧が震えた。
爆風が二機を押し、瓦礫が雨のように降る。
その光の中で、621は初めてノベルを見る。
速い影。
でも速さだけじゃない。
“成立を壊す”戦い方をする影。
ノベルは見返さない。
見返すと、名札が生まれるからだ。
爆発のあと、ノイズが薄れる。
途切れていた外部通信が、断続的に戻り始める。
ウォルター
『……621。生きているな。状況報告は後だ。離脱を優先しろ』
そして、別回線――イサを経由してノベルへ。
ウォルター
『無名機体、助かった。報酬は入れる。
……今は詮索するな。符号だけで十分だ。
……何かあれば連絡をくれ。なるべく早く恩は返しておきたい』
イサ(セレス)
「了解」
ノベルは短距離で621のとなりに着地する。
ノベル
「……帰れるか」
621は言葉を返さない。
推力を小さく吹かす。行ける、の合図。
ノベル
「死ぬな。面倒になる」
それが、初めての“知り合い方”だった。