Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第10話 死生観

改めて考えてみると……トガヒミコが俺を狙ったテロ行為ではなく、どっかの犯罪グループがオールマイト殺害を測った事件というのは、俺にとって都合がいい。

誰かがまぁまぁな怪我さえしてくれれば、俺がインタビューを受けた時の言葉に重みが増す。

 

でも問題は、この一件を受けた雄英の出方だ。この位の事件で国立である雄英が閉校に追い込まれることはないだろうが、文科省と世間がなんて評価するかが問題だな。

もしコレで雄英の評価が落ちるところまで落ちてしまったら、転校も視野に入れないといけないな。

 

とりあえず、崖の上に行こう。話はそれからだ。

 

「おーい!聞こえるかぁ!!?」

 

俺がチンピラとやり取りをしている最中、微かに上から俺の名前を呼ぶ声がしていた。

俺が死んで、チンピラと話していたのは見られていないはずだ。

 

「永井!?生きてるの!?無事!?」

 

「無事だ!ヴィランも気絶してる!ロープを垂らしてくれ!」

 

上には俺の背嚢があるし、なんなら百さんもいる。上に行く手段には困らない。問題は、俺が疲れるってことだけど……まぁ、頑張ろう。

 

で、崖に落ちる直前、外に向かう飯田が見えた。アイツの総力を考えれば、そろそろ学校に着いて、教員たちにSOSを出している頃だろう。

てかオールマイトが遅刻しなければ俺たちがここまで危険な目にあうことってなかったんじゃね?

 

俺はともかく、百さんとか、下手に怪我させるようなことがあったら不味いことになるぞ。

 

「うんしょ……」

 

「手伸ばせるか永井?」

 

「もうちょっと……よし!」

 

そうこうしているうちに頑張って登りきる。正直下から幽霊に支えて貰ったり、最後に上鳴が手を差し伸べてくれなかったら無理だった。普通に腕が上がらない。

まだ助けが来ないなら、どっかでリセットする必要があるな。

 

「これからどうする?」

 

「とりあえず13号先生か相澤先生の指示を仰ごう。あ、てか」

 

俺はさっき電気のチンピラを巻き込んで崖に落ちたことを思い出す。そうだ、アイツが居なくなったってことは……

 

「USJから雄英学生課。感*1

 

『──!感よし感*2!』

 

「学生課からの感よし。USJから報告。ヴィランと接敵し、生徒たちは分断された。報告者は永井喜一。永井は八百万百、上鳴電気、耳郎響香と行動を共にし、全員異常なし。終わり」

 

『了解!今そちらにヒーローたちが向かっている!そのままヴィランとの接触を努めて回避し、ヒーローの保護下に入ること!いいね?!』

 

「了解。通信終わり」

 

よし、無線が通じた。で、やっぱり既に飯田が報告を終えていて、ヒーローが向かってるらしい。ここから雄英校舎まで車で20分。オールマイトが出勤済みであれば、多分もう来るだろう。

 

……でも、オールマイト一人でどうにかできる相手と数じゃない。他のヒーローが到着して、そして百さんたちが保護されてから、初めて安全が確保される。

 

とりあえず、シグナルのクラスグループに今の通信内容を流して、これからを考える。

 

「これからどうするの?」

 

「俺は中央に行って、相澤先生に加勢する。百さんたちは急いで外に出るんだ」

 

「……え?永井だけ加勢するのか?なんで?」

 

俺は殺されても生き返るから、別にチンピラ共のタゲを引いてもいい。ていうか、俺が行くべきだ。

 

「……ねぇ永井」

 

俺が戦闘に向けて準備をしていると、ふと耳郎が俺の顔を覗き込んできた。なんだろう。血でも残っていただろうか。

 

「昨日峰田から聞いたんだ……永井の個性、不死の個性だって」

 

「ああ。俺は死なない。必殺じゃないが、不敗の個性だ」

 

「……それってさ。死なないんじゃなくて、死んでも生き返るってこと?」

 

「ああ。そうだ──」

 

その時、俺は失言をしたことに気がついた。

常人の『死』と俺の『死』では価値基準が違う。個性社会では個性ゆえに他人との価値観に差が生じることはよくある事だ。

 

でも俺と他人との価値基準の差は、俺の理想を叶えるのには致命的だった。

もし俺が、自分の命を粗末にする人間だと知られれば、きっと周りは俺を化け物のように扱うだろう。

 

それだけじゃない。

少し長い話をしよう。

 

人類は生き残るため、個々の肉体を強化するのではなく、他者と手を繋ぎ協力することを選んだ。その結果、自分の痛みを持って他者の痛みを慈しむことを覚えた。

だが俺にはそれがない。俺は死なない。故に、死への恐怖も、死への痛みも分からない。その事が他人に悟られれば、俺自信がどうあれ、周囲は俺を異常者と認識するだろう。

 

だから俺は蓋をした。半長靴に傷が出来ればパテやクリームで埋めるように、他人にその違いを悟らせないように。

周囲の人間全ての理解を得るのは不可能だ。だから俺は、俺が変わればいいと言う結論に至った。

 

だからこれはミスだ。他人に俺を悟られる。

 

「……やっぱり」

 

「……違う。俺は死なない。現に俺は、この高さから落ちて生きてる。下にいるヴィランだって、気絶しただけだ」

 

俺は必死に弁解した。ダメだ。悟られるな。俺を曝け出すな。

 

「じゃあさ、なんで顔の傷治ってるの」

 

「それは……」

 

不味い。忘れていた。リカバリーしきれなかった顔の傷が、リセットされたのか。

 

清廉潔白な、被害者の偶像──その像が崩れる……

 

「永井──無茶はすんなよ」

 

「……え?」

 

上鳴から発せられた言葉に、俺は呆気にとられた。俺は、俺はむしろ……

 

「死ぬってことは俺達にはよく分かんねぇけど、戦って死ぬってのは、多分痛てぇよ。だから、無茶はするなよ。なんだったら、俺たちを頼ってくれよ!」

 

「そうだよ。ウチ、友達を見殺しにはしないし」

 

「私もですわ!どうぞ八百万百をお頼りください!」

 

……杞憂だったか。

 

よし。言質もとったことだし……動くか。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

そして、俺たちが広場の端にたどり着いてから目撃したのは、まさしく絶望とでも言うべき状況だった。

 

相澤先生が、片腕をだらりと垂らしながら大人数を相手に立ち回っていた。全身真っ黒なヒーロースーツのはずなのに、右腕の肘の辺りだけ色が違って見える。肌色と、赤。何を意味しているのかは、すぐ分かるだろう。

 

「な、永井……」

 

「大丈夫だ。あの程度の傷なら、リカバリーガールがどうにかできる。本題は……」

 

相澤先生は初日に、自分はドライアイだと言っていた。だとすれば不味い。戦闘の継続時間がどんどん短くなる。

 

……飛び出すなら、今だ。

 

「相澤先生!」

 

「永井!?」

 

「……生徒の生き残りか?せっかく逃げられたってのに夢見て立ち向かうとか……いいねぇ、ヒーロー志望って。馬鹿ばっかだ」

 

それは同意する。俺がヒーロー志望じゃなかったら、伊吹との約束がなかったら、俺はまず一番にここから逃げ出していたさ。

 

「あと少しで先生たちが来るそうです!だからあと数分!数分持ち堪えるだけです!」

 

近くで見ると、相澤先生の肘の傷がよくわかる。まるで崩れているような傷。多分、さっきから手を向けて攻撃しているアイツの個性だろう。

黒い服と皮膚がなくなり、筋繊維が見えている。でも……申し訳ないけどもうちょっと耐えてもらう。

 

「永井!お前は──」

 

「お前が得意なのは、あくまでも奇襲からの短期決戦……生徒を守り切れるかな?」

 

「先生!雑魚はこっちに!」

 

相澤先生は俺に下がれとでも言おうとしたのだろう。でも俺の適材箇所は、盾であること。

傷なんてすぐにリセットできる。

不意打ちをしかけてきた残党を、俺は軽く投げ払い、相澤先生の盾となる。

 

「……やるなぁ。ところでヒーロー────本命は俺じゃない」

 

その言葉の、次の瞬間。

 

相澤先生の体が宙に吹き飛んだ。

 

「ぐふっ……!!!」

 

「先生ッ!?」

 

「対平和の象徴 改人『脳無』。個性を消せるなんて素敵な能力だけどなんてことはないね。圧倒的な力の前ではただの無個性だもの」

 

いきなり現れた、全身が黒くて脳味噌が剥き出しになったヴィラン。

 

異形型、なのか?目にもとまらぬ速さで相澤先生を拳で殴り抜けやがった。

 

先生はぶっ飛ばされた先で唸りながらとんでもない量の血が出ている。男はまた、先生を殴るつもりだ。

 

「幽霊!!」

 

ダメだ、ダメだそんなの。相澤先生は嫌いだけど、見殺しにするほど嫌ってない!

 

俺はすぐに幽霊に黒いヴィランを攻撃させに行った。拘束とか、そんなんじゃない。

確実に殺させる。幽霊は俺と目標人物以外には見えない。不思議な性質だが、そういうもんだ。

 

幽霊の鋭い爪が黒い男の目に突き刺さり、反対の腕で黒い男の肝臓あたりを貫手で貫く。ドス黒い血か何かが流れる。

確実に殺せたはずだ。確実に……

 

「──殺せ。脳無」

 

俺に、一切の油断はなかった。あの黒い男を殺す。それだけを考えていた。でも……もしという予感もしていたから、俺はありったけの黒い物質を出して、特別濃い黒い幽霊を作った。

でも気がついたら、黒い大男の巨大な拳が俺の心臓辺りをめり込んでいた。

 

おそらく、一瞬で心臓が破裂した。それに加え、中央広場から入口に続く階段の上段辺りまで吹っ飛ばされた衝撃で、色んなところの骨が折れてる。もう折れすぎて、どこがどう痛いんだがよく分からん。

 

……だから、考えろ。俺はもうすぐリセットされる。死ぬまで考え続けるんだ。

 

ヤツの個性は……なんだ?黒い幽霊の攻撃は確かに入ったはずだ。目は穿いたし、肝臓辺りにも穴は開けた。だがどうだ?奴は両目があったし、肝臓にも穴は空いていなかった。別個体?いや、奴は一体だけだ。もしこんなのが2体以上いるなら、俺ならすぐに雄英本校舎に向かわせる。

 

奴は一体……なるほど。答えは……かん……た──……

 

 

 

「──テメェも不死身か」

 

リセットされてスッキリした。身体も痛くないし、脳にも血が送られてくる。

 

「泥試合を覚悟しろよ。クソ野郎ども」

 

二着しかない父さんの防暑砂漠用戦闘服に穴開けやがって。

思ってたよりずっと早かったが、猫被んのはもうやめだ。

 

「ぶっ殺してやる」

*1
『感明送れ』の略。無線がちゃんと通じているか確かめる言葉

*2
『感明送れ』への返答。正しくは『〇〇からの感よし、こちらの感明送れ』となる

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