Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第11話 死の定義

永井はすぐに駆け出した。そのまますぐに、出していた幽霊を相澤の回収に向かわせる。

この瞬間に、脳無には黒い幽霊が見えなくなり、脳無のターゲットは永井以外になくなった。

 

「脳無。殺し続けろ」

 

死柄木の声に脳無は即座に反応した。その巨大な手を握りしめ、永井に向かって何度も何度も、果てしない暴力の限りを尽くす。

永井はそれに反応ができず、複数の内蔵が破裂し、出血のショックでまだ死亡した。

 

永井は自身の個性を不敗の個性だと言っているが、これは全くのハッタリである。

不死身だろうが、無力化する方法など無限にあるのだ。

 

例えば、今永井が食らっている、連続した殺害である。

蘇生し復活したところでまた殺す。それを続ければ、永井は何も出来ない。黒い幽霊は永井の指示がなければ何もアクションを起こさないのだ。

 

死柄木がそれを察するのはあまりにも早かった。最初は不死身の個性なんて聞いたことがないと慌てふためいたが、蓋を開けてみればこうだ。

 

永井は何も出来ぬまま死ぬ続ける。今の永井に、不死以外の特別な力は何も無いのだ。

 

「死柄木弔」

 

「黒霧。13号はやったのか」

 

死柄木の背後に現れた黒いモヤが彼の名を呼んだ。死柄木は振り返りもせずに黒霧に現状を聞く。

 

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……1名逃げられました」

 

「は?はぁ……はぁー………黒霧お前……お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ……」

 

黒霧の返答は死柄木が望むものではなかったが、目の前の光景に気を取られ、そこまで苛立っていない。

 

「それはそうと死柄木弔。アレは?」

 

「ああ、アレか。なんか勇敢に飛び出してきたから、勇敢な肉塊にしてやってるんだ。でも笑えるだろ。アレで死んでないんだぜ」

 

「死んでない?……なるほど、蘇生する個性ですか。それは珍しい。()()が喜びそうな個性です」

 

「せっかくだから持って帰るか。脳無に使えそうだ」

 

ここで主犯格のふたりは撤退の様子をみせた。その一言に、水難ゾーンの水際で全てを怯えながら見えていた生徒に安堵が広がる。

これなら何とかなる。どういう訳かわからないが、とにかく全員生きて帰ることができるからだ。

 

だが当然──乗り込んでおいて死者ゼロというのは拍子抜けなわけで……

 

「……一人くらい生徒を殺しきって帰ろう」

 

その接近を、緑谷はまったく認識できなかった。緑谷のすぐ隣で、蛙吹に伸ばされた左手を視線だけがかろうじて追えた。

相澤の右肘をボロボロにしたその掌が、少女の、頭に──。

 

「……ほんと、スゲェよお前。かっこいいぜ」

 

すんのところで、永井が間に入り、蛙吹の代わりに自分の心臓を差し出していた。

なんと、殺される一瞬の隙をつき、殺されに来たのだ。

 

次の瞬間には、緑谷は動き出していた。もはや得意の深い思考もなく、とにかくヤバいと直感して、気付けば身体が動き出してた。

 

──これ以上、クラスメイトを殺させない

 

緑谷の個性はあまりにも危険だ。使えば自分は深く傷つくし、調整を間違えれば間違いなく人を殺してしまう。

 

しかし、それでも拳を振りかぶった。

 

運良く調節できて、骨も折れないで、そして制圧するくらいの力を発揮する。祈るしかなかったのだ。

可能性は低くても、やるしかなかった。

 

「手っ……放せぇ!!」

 

初めて人に向けて撃った一撃。緑谷はすぐに違和感に気が付く。

 

(折れてない!?こんなときに、初めて調整がうまくいった!)

 

やった、と、場違いな喜びが胸に満ちて──しかし、舞った土埃が晴れた頃には、何も上手くいっていないことに気が付く。

 

黒い大男。脳無が、緑谷の一撃を平然と身体で受け止めていたのだ。

 

「良い動きするなぁ……スマッシュって君、オールマイトのフォロワーかい?」

 

死柄木が脳無の背後で口を開く。

脳無は空いた左腕で、SMASHを放った後の無防備な緑谷の右腕を掴んだ。

 

「まぁ、なんでもいいや」

 

永井は中途半端な攻撃にリセットされることなく沈黙し、蛙吹は緑谷に舌を伸ばして、死柄木はその蛙吹と、『もぎもぎ』で抵抗しようとしている峰田に再び触れようとしている。

 

緑谷の両腕は塞がれていた。脳無は、元々右手に握りしめていた腕をその場に放って、血だらけの手のひらで緑谷の左腕をも掴んだのだ。

 

絶体絶命の、まさにその時。

 

〝彼は来た〟。

 

「子供たちよ、いいまでよく……よく頑張った」

 

 

「ここからは大人たちに任せなさい」

 

 

「私が来た」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「な、永井……!永井!」

 

「上鳴……」

 

……この混乱の中、助けに来てくれる上鳴。俺はお前をただの品のない奴と思っていたが、認識を改める必要があるみたいだ。

 

「お、おまおまお前!無茶すんなって言っただろ!?」

 

「こんなん無茶に入るか……!」

 

体に力を入れて立ち上がろうとするが、力が入らず、腕から崩れ落ちる。

どうやらいい感じに崩壊させられたらしい。

 

「充分無茶だって!」

 

上鳴はそういうが、俺にとって死に続けることなんて無茶でもなんでもない。

足が速い人がいたとして、100メートルを12秒で走ることがその人にとって無茶だろうか。答えはいいえだ。それと同じで、無限に生き返る俺にとって、死に続けるなんて無茶に入らない。

 

殺される瞬間は痛てぇしすげぇ怖えけど、伊吹が言ったように、俺には力の責任があるんだ。

火力を持った伊吹は戦闘系ヒーローを目指したように、俺も、この力を持って盾となる。

 

「……リセットする。目を瞑れ」

 

「……え?」

 

俺はじきに瀕死になる。そうなる前にリセットだ。

 

「っひ!」

 

「上鳴、戦況を教えろ。全部ひっくり返す」

 

「え、いや……分かった。」

 

それから上鳴におおよその戦況を教わった。上鳴は頭が悪いのか、パッション重視であまり要領を得なかったが、大体はわかった。

 

「上鳴。力を貸してくれるか?」

 

「……何すんだ?」

 

今、オールマイトと脳無が戦ってる。単純な有利不利で話せば、不死身の脳無よりもオールマイトの方が不利だ。だから持久戦になればオールマイトが負ける。かと言って俺たちがあの戦いに参加してどうにかなるものでもない。

なら俺たちが狙うのはあの司令塔ぶってる死柄木だ。アイツの個性は相当厄介だが、脳無よりマシ。しかも脳無はアイツの命令があってからしか動かない。死柄木を抑えれば、こっちの勝ちだ。

 

「俺がお前の盾になるから、お前の電撃を奴に食らわせてやるんだ」

 

これは上鳴も危険だし、正直多分滅茶苦茶痛いからやりたくないけど、もう四の五の言ってられない。

最終手段だ。

 

「いやいやいやいや!お前自分で知ってるだろ!?アイツちょー強ぇんだぞ!?」

 

「俺がアイツを拘束する。その隙を狙って、俺ごと電撃を食らわせるんだ」

 

「でもそれじゃあお前も巻き込んじまうぜ!?俺の個性は電気を纏うってだけで、操作はできねぇ!」

 

「知ってるよ!でも俺はどれだけ強力な電撃を食らっても死なない!お前がありったけの電撃を俺ごと喰らわせれば、俺を介して電撃を食らわせるわけだから、アイツに届く電撃は小さくなる!俺が死ぬくらいでも死柄木は動けなくくらいに痺れるはずだ!」

 

「お前ごとって……本気か!?」

 

「ああ!今更猫かぶってられるか!」

 

死柄木もああ見えて生物だ。つまり脳からの電気信号で動いている。たとえオールマイトでも、強力な電気が身体に流れれば、身体が硬直して動かなくなる。

……正直、俺を介せば死柄木に届く電気が小さくなるってのは、俺の口から出たとは思えないゴミみたいなデマだけど、上鳴の殺人への恐怖を少しでも小さくするためだ。

 

「頼む上鳴……もうお前しかいないんだ。殺しちまうかもって不安はわかるけど、今は手段を選んでられないんだ」

 

「う、う〜ん……」

 

上鳴は両腕組んで少し考えるようなポーズを取って、

 

「よし永井!帰ったら一緒に道徳の教科書読もう!」

 

……訳の分からないことを言い始めた。

 

「何言ってんだお前」

 

「やっぱお前には道徳教育が必要だよ。自分の命を粗末に扱っちゃ、いつか痛い目見るって」

 

「……いや、ちゃんと道徳教育は受けたぞ」

 

「じゃ復習だな。勉強には予習復習が必要だろ?」

 

「いやその必要はない……と思うぞ。だって……心のノートは全部覚えたから……」

 

「いや道徳って暗記科目じゃねぇから!」

 

ちょっと何言ってるか分からないが、それはともかく。

 

「やってくれるってことでいいんだな?」

 

「ああ!お互い、生きて帰って、一緒に読もう!」

 

「……ちょっとそれは別の機会で」

 

やってくれるって言うのなら、存分に利用させてもらおう。

 

「──行くぞ!!」

 

俺と上鳴は同時に飛び出した。俺が作戦に巻き込んだんだ、上鳴は俺が死ぬ気で守る。

 

「……またお前か」

 

死柄木は俺たちを確認するが、脳無がオールマイト手一杯だと悟ると、俺たちに対して臨戦態勢をとる。いいぞ。予想通りだ。

 

「死柄木ィ!!」

 

分かりやすい虚勢だ。今の俺に、コイツをどうにかできるだけの火力はない。

一応、幽霊を出してみようとするが、さっき特別濃い幽霊を作ったせいで形が保てず、すぐに崩壊してしまう。

 

「……お前、不死身なんだよな」

 

「それがどうした!今更怖気付いたか!?」

 

死柄木はこちらに手のひらを向ける。コイツ相手に接近戦、特に柔道は不利だ。だから俺はさっき百さんに作ってもらった鉄パイプを振りかぶる。

 

「さっきの戦いで思ったけど、お前の個性って、ちぎれて遠くに行った部位は基本新しく作り直される」

 

死柄木の話を聞きながら攻撃するが、どうも当たらない。妙にすばしっこい野郎だ。

 

「もしそれが、頭だったら……お前はお前でいられるのかなぁ?」

 

「……」

 

……その一言を聞いて、心臓が飛び跳ねたのを感じた。

 

俺は無神論者だ。魂というのを信じない。

死柄木の言う通り、俺がリセットする際、ちぎれて遠くに行きすぎた部位は新しく作られる。これがもし頭部だった場合、当然そのまま、遠くに行った頭はそのままで、新しい頭が作られる。

 

人の心や記憶、意識は全て脳にある。このとき、俺自身はどこにいる。新しく作られる頭?違う。捨てられる方だ。

新しい頭に、記憶は全くおなじに作られるだろうが、意識が古い頭を飛び出して新しい頭に移る訳じゃない。

 

新しい俺は生きるが、今までの俺は死んだままだ。

 

簡単に言えば、クローンがいたとして、クローンが生きてさえいれば死んでも構わないなんて言う奴がいるだろうか。答えは百人共Noというだろう。

 

これが、俺における『死』だ。

 

「───チャンスだ」

 

「……あ」

 

気がつけば、死柄木の手のひらが俺の目の前にまで迫っていた。

 

まずい。奴の口撃に乗せられていた。冷静さを欠いた。

 

 

まずい

 

 

 

 

 

死ぬ

 

 

 

 

 

 

 

助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあああ!!」

 

その瞬間、何故か死柄木の手が弾けた。

少し遅れて、短い乾いた音が俺の耳に飛び込んだ。

 

「1-Aクラス委員長飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

……しくじった。

 

この俺が、だ。

 

俺の本性をバラしちまった挙句、ビビって上鳴を危険に巻き込んだ。この上ない失態だ。伊吹が見たらなんて言うだろうな。また笑い飛ばしてくれるだろうか。

 

「修善寺先生」

 

ヒーローの先生方が到着後、死柄木と黒霧はその他のチンピラを置いて退散。その後すぐに警察が到着し、俺たちは保護された。

警察や救急隊は俺のコスチュームに付着した血を見て病院へと言ったが、俺は服を脱いで傷はないと言って校舎に帰ってきた。

 

傷はないけど……酷く疲れた。今はちょっと、顔なじみの近くで休みたい。

 

「おや喜坊。気分でも悪くなったのかい?」

 

「……そんなところです。ちょっと休ませてください」

 

俺の個性は実質無限だ。いくら使い、いくら蘇生したところで体力は消耗しない。むしろ回復するとまで言っていい。

……でも、心までは復活しない。一度深い傷を負って、死んでしまったら、二度と正常には動かないだろう。

 

だから俺には休息が必要。どうせ父さんか母さんが迎えに来る。それなら少し休もう。

 

「いいよ。こっちのベッドをお使い」

 

「ありがとうございます。多分17時くらいに誰かが迎えに来るから、来たら起こしてください」

 

「はいよ」

 

その事を知ってか知らずか、婆さんは俺の保健室利用を認めてくれた。

 

窓際の気持ちよさそうなベッドは既に誰かが使ってるみたいだから、廊下側のを使えと。だが俺は知っている。空調の関係で、ここがいちばん安眠できるって。空気清浄機も加湿器も近いから、寝ているうちに口が乾燥する心配もない、一番のスポットだ。

 

「……頑張ったね。喜坊」

 

「俺は役割を果たそうとしただけだよ。じゃ、おやすみ」

 

……今日はすげぇ疲れた。疲労困憊だ。

 

今日一日で、クラスメイトからの印象は大きく変わっただろう。成績優秀な男子から、死をも怖がらない狂人。

多分挽回はできない。明日から何が起きるか……すっげぇ不安だ。

 

伊吹ならこういうとき、なんて言うだろうな。

 

アイツさえいてくれれば……全部どうにかなったんだけどな……

 

……ていうか、心のノート、まだ取ってあったけ。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「──う」

 

どこか遠くで、婆さんの声が聞こえる。

……もう来たのかな。仕事が終わってからだったら、5時間くらいかかると思ったけど、多分まだ2時間も経ってないだろう。

 

「──喜一」

 

……こういうとき、すぐに意識を覚醒させられるのは、流石俺って感じがする。

 

目を覚まして上半身を起こした時、まず目に入ったのは婆さんで、その奥に母さんが立っていた。なるほど、母さんならこの時間も納得だ。

 

「おはよう。母さんが来たんだ」

 

「ええ。お父さんのお迎えは時間がかかるのよ」

 

たしかに、退庁時刻の1730なんて待ってたら、21時になっちまう。さすがにそこまで学校に居るつもりはなかったけど、母さんが来てくれたならもう帰れるわけだ。

 

「とりあえず帰りましょ。ご飯食べてないでしょ?何か食べれるものはある?」

 

「なんでも食べられるよ。あでも、辛いものがいいなぁ」

 

「いいわ。買い物して帰りましょう。でもその前に」

 

いそいそとベッドシーツを畳む俺の肩に母さんの手が置かれ、何かを合図するように引っ張る。

思わず引っ張られた方向に首を動かすと、そこは保健室の外。見知ったシルエットたちがチラチラしていた。

 

「お友達と話してきなさい」

 

「……はい」

 

別に友達って訳じゃないけど、わざわざ否定するのは違う気がした。

保健室の外にいたのは、一緒の場所に散らばっていた面子に加え、峰田と蛙吹がいた。

 

「喜一さん。お身体の調子は……」

 

「万全ですよ。そういう個性です」

 

さっきまで寝たいたためか、少し頭が働きが足らないような感じがするけど、それは疲労とは無関係だろう。

 

「でも、死なない個性だとしても……死んじゃうような怪我をする事自体、とても痛くて辛いことだと思うわ」

 

「ああ。殺されるのはすげぇ痛ぇし、すげぇ怖ぇよ。でも……約束しちゃったからな」

 

俺の約束という言葉に全員首を傾げるが、後ろの婆さんと母さんは悲しげな顔をしていた。

 

「な、永井……お前、死んじまったんだよな……お、俺……なんもできなくって……」

 

「お前に何もさせない為に、俺は飛び出したんだ。それに俺は死んじゃいないだろ?こうして生きてる」

 

「喜一、あなたヒーローになるのなら、体調と精神管理はしっかりなさい。きっちり体が機能しなければ、精神も崩れるの。次に戦いに備えなさい」

 

「次に戦い?何かあった?」

 

「忘れちゃった?体育祭、雄英体育祭があるじゃない」

 

俺は天井を仰いだ。そうだ。入学の目的がもうすぐ目の前に来ていたじゃないか。

 

「じゃあもう帰りましょう。貴方たちも、遅くならないうちに帰りなさい」

 

「「「はーい」」」

 

お世話になった修善寺先生に一礼して、学校の外に出る。

 

スマホを手に取ると、ネットニュースに重要な部分が秘匿された今日の一件、つまりUSJ強襲事件が報じられていた。

文面はまるでオールマイトの圧勝で、生徒の被害なんてないような書きぶりだった。

 

その中に、俺に昨日インタビューをした女性インタビュアーの言葉が乗っていた。

 

『今回の一件で雄英の警備体制の脆弱さが顕になった。この一件で、学校長の根津氏は……専門家の……評論家の……』

 

なんだこれは。

やれ専門家だの評論家だの、今回の事件の現場にいた人間が、オールマイト以外にいないではないだろうか。これではまるで、雄英を貶めるためのプロパガンダだ。

 

現場の声が反映されていない。何も知らない連中の言葉ばかりではないか。やはりあのインタビュアー、インタビュアーとしてではなく、ライターとしても三流。インタビューを受ける相手を間違えたようだ。

 

馬鹿馬鹿しい。そう思っても、ネットニュースの文面が忘れらない。

 

俺は今日、誰も守れなかった。

相澤先生は結局大怪我をしたし、上鳴にも危険な目に合わせた。俺が守りたかった連中が、軒並み危険な目に合ってる。

 

俺がもっと強ければ、もしもあの時、俺が死を克服していれば。

 

「……ぶっ殺してやる」

 

「ん?何か言った?」

 

「いや……なにも」

 

口に出した途端、思考がクリアになった。

そうだ。俺が目指したのは、戦い続ける母と、命令に忠実な父の背中だった。余計なことは考えず、己の為すことを為す。仲間を守り、名誉と自由と財産を守り、復讐を果たすために犯罪者を滅する。

 

友人を失った悲しみが、今瞬く間に憎しみへ渦巻いていくのを感じた。

今後、一人でも多くの犯罪者を捕まえよう。

 

ふと、伊吹との会話を思い出した。

俺は眠った。

戦う相手は下衆な犯罪者だ。情け容赦は不要だろう。

 

力の責任を果たせ。

犯罪者をぶっ殺すんだ。犯罪者に甘い世界なんて、犯罪者が許容される社会なんて、あってはならない。

 

伊吹を殺した罪を、トガヒミコに背負わせてやる。

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