Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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今日から数話、1日1話更新します


第12話 火力

USJ襲撃事件から二日後。

 

「こういう話は早い方がいい。そうですよね」

 

「……なら用件を話せ」

 

俺は登校時間の三十分も前に登校し、あまり会いたくない相澤先生と話していた。

顔中に包帯を巻いているせいで目の位置がわからないけど、おおよその辺りに予想をつけてそこに向かって話す。

 

「単刀直入に言います。この前の一件ではっきりしました。私には火力が足りません」

 

「火力か……たしかに、お前の個性じゃどうしても轟や爆豪のような高火力な技は無理だろうな」

 

事件の後、俺を迎えに来た母さんと話したことだ。

 

俺の個性はそもそも戦闘系じゃない。強いていえば黒い幽霊が唯一の攻撃手段であり、それも一日に3回しか使えない。

俺は脳無との戦いに、殺されることしか出来なかった。それで十分ではあるが、その結果、俺の弱点が露呈した。俺の弱さに付け込まれた。

 

今後、そんなことあってはならない。

 

一人の弱さは集団の弱さと同義だ。誰かひとりの弱点を誰か若しくは全員でカバーしようなんて、軍隊のような統制がないと不可能だ。

ベストは、一人の弱点を、一人でカバーすること。

 

近代ヒーロー社会での課題はこれだ。

一人一人が独立し、そして独自のスタイル、独自の個性という個人武器を携行している原題では、統制の取れた戦闘など不可能なのだ。

 

そんなわけで、俺の課題は戦闘面における火力。個性を使わない火力が必要だ。

 

「ですので……まず、精神鑑定書です」

 

「……は?」

 

「先生、銃器取扱課程を私に受けさせてください」

 

ヒーローにおける火器による武装はあまり例を見ない。でも無い訳じゃない。

 

身近な話でいえば、雄英3年A組担任のスナイプ先生だ。玩具みたいな見た目をしているが、アレはれっきとした火器であり、スナイプ先生は高等教育の場で傾向が許可されている。

もちろん、銃携行は許可されており、間違いなく合法である。

 

あれが合法である根拠として、永井誠一内閣における大規模な法及び憲法改正にある。

ヒーローが自衛隊から独立し、民政化したことにより、銃刀法がヒーロー業に限り緩和。もちろん、武器の携行にあたっては本人の精神状態と政治思想等を鑑み、なおかつ責任追及能力が十分にあることが認められ、さらには公安委員会による不告知の立入検査をクリアしなければ、武器の携行は認められず、月に一度以上の実包射撃が義務付けられる。

 

さらにヒーロー候補生では本免許発布までの間、担当教官と教育機関の長、雄英なら根津校長先生の許可が必要であり、月に一度のメンタルチェックが学校に義務付けられ、また、銃の管理は学校が行うことになっている。

 

面倒極まりないないが、裏を返せばこの面倒な審査や検査をクリアすれば、国内で公安職でなくても銃を持てるということ。

火力は一気に雄英一に躍り出る。

 

「直ぐにとは言いません。ですが、今後争いは一層激化し、私のような非戦闘個性でも火力は必要になります。銃はいつか絶対必要になります」

 

「……銃を持つということを、お前は理解しているのか?」

 

「勿論です」

 

「……ちょっと待ってろ」

 

相澤先生は席を立つとスナイプ先生のところに行き、このことを相談している。

 

銃は必ず必要だ。武力は抑止力になる。今、世界中が核を持って睨み合いをしているように、人間同士も武力を持って牽制をすることもできる。

 

そのための銃だ。

 

「永井、まずは今日の放課後にメンタルチェック兼面談面接だ。絶対に空けておけ」

 

「はい。ありがとうございます」

 

銃は──何も相手を撃ち殺すために存在している訳じゃない。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

午前お昼午後すっ飛ばして、俺は相澤先生の面談を終えた。

 

手応えは上等。メンタルチェックでされた質問が、何を目的とした質問かなんて、ちょっと考えればすぐに分かる。好感が持てる質問を上辺でするなんて朝飯前だ。

 

まぁでも、相澤先生は俺の回答の真意をわかってた臭いけど、それはあくまで相澤先生の主観。質問の回答とは切って離すべき結果だ。

 

「……ん?」

 

そんなこんなで教室に帰っていると、なんかA組の前からかなりの人数とすれ違って、全員が俺の顔を見るなり足早に去って行った。

 

「あ、おかえり永井くん」

 

「葉隠、なんだこれ」

 

「他のクラスからの雄英体育祭に向けた敵情視察、みたいな?ずっとこの調子で、ちょっと帰れなんだよね……」

 

「後ろの扉空いてるぞ。結構な人数帰ってる」

 

「あホント?」

 

敵情視察?偵察?バカかよ。あの程度の入試の本意を見抜けない時点で、コイツらに俺たちを理解するのは不可能だ。あきらめてとっとと帰れ。

 

「意味ねぇ事してねぇで……どけやモブ共!!」

 

肩で風を切り、獅子のように不満を吠える爆豪。

珍しく爆豪と意見が一致した。

 

「随分と偉そうだな……ヒーロー科に在籍してる奴ってみんなこうなのか?正直、幻滅だな」

 

そんな矢先、早速一悶着始まろうとしていた。

ダウナー気質な一人の学生がそう言いながら爆豪の前に立ち、爆豪もそれに気に入らなそうに睨み付ける。 

 

 「……知ってるか? ヒーロー科落ちた奴の中には、そのまま俺みたいに普通科に行った奴がいるんだ。けど、今度の体育祭のリザルト次第ではヒーロー科への編入が可能なんだ。敵情視察?俺は足下掬われるぞって……宣戦布告で来たつもりだ」

 

「くだらねぇ」

 

「……あ?」

 

その逆もまた然り?やっぱバカなヒーロー科に落ちただけあってさらにバカだ。

 

ここは雄英高校、ヒーロー育成名門校だ。

 

そんな雄英が求めるヒーロー像はオールマイトそのもの。純粋たる戦闘力を欲しているわけだ。まぁその他の志とかは後々だろう。

そんなんだから、ヒーロー科の入試はバリバリに戦闘力を図るものであり、その他の創意工夫はほとんどオマケ扱いだ。

 

もちろん、口田や葉隠のように、戦闘能力が乏しくても合格している連中は存外多い。

 

そう、存外多いんだ。そんな中で、コイツは落ちた。女子生徒で、さらに透明化という火力に乏しい個性でありながら合格した葉隠の存在で、コイツのことを否定できる。

 

「足元掬われる?宣戦布告?制度を語って強気になるのはわかるが、足りない頭を働かせろ。お前は入試で落ちたんだよ」

 

コイツは雄英が求めるヒーロー像に合致しなかった。ただそれだけの話だ。

 

雄英以外にもヒーロー科は沢山ある。きっと探せば、自分の個性とスタイルにあった高校もあっただろう。だというのに、コイツらは何も考えず、何も調べず、ただ看板に惹かれて門をくぐった。

 

なんて情けない話だ。ろくに調べない。ろくに考えない。そんな奴が宣戦布告?

 

笑わせんなよ。

 

夢見てばっかで積み重ねがない。積み重ねがないやつが叶えられる夢なんてあるわけないだろ。

 

「入学してからの短期間で俺たちに追いつくばかりか追い越すってか?現実を見ろよ。そんなの無理に決まってんだろ。」

 

「恵まれたやつには分かんねぇかもけどよ、俺たちだって努力をしてきてるんだ。ヴィランと一回戦ったくらいで威張っちゃ、本番で恥ずかしい思いするだけだぞ」

 

()()()()努力だろ。もし筋トレ程度でそれ言ってんなら、ここの大衆がお前の顔覚える前に帰った方がいいぞ」

 

俺はこういう奴が本当に、どうしようもないくらいに気に食わない。

 

ちょっと考えれば分かったはずだ。それなのに夢ばかりを追って、何にもならない妄想だらけで、結局なにもできず、その上で俺たちの足を引っ張ろうなんて、ほぼテロリズムだ。

 

普通なら無視すべきだ。俺はこんな奴に足を引っ張られるほどじゃない。だけど俺はこれが無視できない。多分、遺伝子レベルで嫌悪しているのだろう。

 

こういう連中はすぐに社会だなんだと喚き散らす。個性のせいで雄英に受からなかった、という次は、きっと個性のせいで会社の面接に落ちたというだろう。

 

「お前たちはいつもそうだ。自分は怠けてばかりのくせに、成功した者を見るとやれ馬鹿の一つ覚えで恵まれているだとほざき始める。どうせ自分ではどうしようもできない社会に不平不満を述べながら、ただダラダラ自己肯定して生きてきたんだろ?お前の親もそうだったのか?」

 

「テメェ……!」

 

「おうおう!俺は隣のB組のもんだけどよぉ!随分と好き勝手言ってくれるじゃねぇか!ヴィランとの戦闘経験持ちってのは、人様の努力を否定できるくらいエレェもんなのかぁ!?」

 

「喧嘩売ってきたのはそっちだろ。それに大勢で廊下陣取りやがって、ここは動物園じゃねぇんだぞ。それとも、実戦経験がないと、そのことも分からないくらい平和ボケするのか?」

 

「ンだとぉ!!!」

 

「まぁまぁ落ち着けって永井。気ぃ立つのは分かっケドよ、ここはひとつ穏便に行こうぜ。な?」

 

一触即発の雰囲気に上鳴と切島が間に入る。

……ちょっと言いすぎたか?こういう時は面と向かって謝っとけば全部帳消しになる。プライド隠せば失言も無くなるなんて、安いもんだよな。

 

「悪かったよ。ちょっと難しい問題でピリピリしてたんだ。言いすぎた。ごめん」

 

「お、おう……そうか。いやこっちも悪りぃ」

 

「こ、こっちも、映えスポット感覚だったよ。無神経だった。忠告もありがと」

 

なんか腑に落ちて無さそうだし、言いすぎたのはこっちだけど、とりあえず一件に区切りだ。

 

「さーさー!本人たちの言い合いは一件落着だ!ほかも帰った帰った!俺たちも帰るんだぞ!」

 

切島の仕切りっぷりに、見物に来ていた他クラスの生徒たちは帰り出す。俺も帰ろう。

 

因みにこの後、喧嘩したってことで上鳴と百さんに怒られた。

喧嘩ふっかけてきたのは向こうなのにな。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「永井くん?」

 

「んあ?」

 

学校最寄りのコンビニ。アイスを買い食いしていると、まさかの麗日たちと鉢合わせた。

珍しいな。確かこいつら電車通学だから、駅とは反対方向で鉢合わせることはないと思ってたんだけどな。まぁ別に出会って悪いことはないんだけど。

 

「永井くん!雄英生として買い食いは控えるべきだ!他に見られていると自覚すべきだ!」

 

前言撤回。飯田とは出会いたくなくなった。

 

「何言ってんだよ。買い食いなんて誰でもしてるぞ」

 

「しかし!」

 

「硬いぞ飯田。周囲に紛れるのも社交性だ。ていうかそういうお前たちは何しに来たんだ?」

 

「交通系ICカードのチャージと」

 

「僕はヒーロー雑誌のチェック。飯田くんには付き合ってもらってるんだ。永井くんは買い食い?」

 

「ああ。小腹減ったし、小銭が欲しかったからな」

 

「なるほど栄養補給か。それはすまなかった!」

 

本当は小腹がすいたからってだけだけど、適当な理由をつけてみるとなんか納得した。

アイスキャンディーなんかで腹が膨れるかよ。

 

「体育祭、がんばろうね永井くん!」

 

「おう。あんな啖呵きっちまった手前、まぁまぁな結果じゃ赤っ恥だな」

 

「あの一件は危なかったぞ永井くん。喧嘩になっては、謹慎ものだ」

 

「分かってるって」

 

あの後、本当に百さんたちに怒られたしな。もう無闇矢鱈に喧嘩はうらねぇよ。

 

「永井くんはやはり、お母様の後を継ぐ気なのかい?」

 

「どうだろうな。俺はキャリアで雄英選んだだけだし、特にヒーローになる気は無いしな」

 

「「「えぇ!?」」」

 

‥‥あぁ、本当に雄英ヒーロー科って本当に偏差値70か?

 

「ヒーローになる気は無いって‥‥どう言うこと!?」

 

「そのままの意味だよ。ヒーローになったって実質的な日雇い労働者。市町村や県県所属のヒーローもいるけど給料が安い。そんなの俺はやだね」

 

「ひ、日雇い‥‥」

 

「おっと、誤解を招く言い方だった。上位ランカーにならないと生活は安定しない。俺の個性じゃ上位は無理だろうな」

 

ヒーロービルボードチャートは、市民への貢献度でランキングが作成されている。だがその貢献度とは、ほとんど個性犯罪者の確保数であり、命を救った数とかではない。

火力重視のランキングというわけだ。まぁランキングはあくまでも指標ではあるが、実質的な給料ランキングである。

 

「そ、それじゃあ卒業後は‥‥」

 

「大学進学だな。多分ヒーロー科出身ってのを生かしてヒーロー事務所お抱えの税理士、経理、とか‥‥文系もできなくないから、法学部に行って弁護士っていうのもいい」

 

「すごい現実的だね‥‥」

 

「当然だ」

 

雄英ヒーロー科では高校卒業後はすぐに就職というのがセオリーとなっている。俺や相澤先生のように卒業後大学進学っていうのは珍しい。

普通に納得いかない。高学歴(笑)なんだから目指すは大学進学だろ。

 

大手企業の求人には大学卒業が条件となっている場合がほとんど。さらに企業によっては大学で面接を受けさせるか否かを決める場合もある。馬鹿な大学じゃ、企業の筆記試験にすら受からない。ESで落ちるんじゃ無いかな?

 

「逆にお前たちは高校卒業後はすぐに就職か?」

 

「うん。僕はまだ志望する事務所決めてないけど‥‥‥」

 

「俺は兄のヒーロー事務所を継ぐつもりだ!」

 

「ウチも就職かなぁ。ウチはそもそも進学するお金が‥‥‥」

 

「スカラシップでも使えば?」

 

「借金はちょっと‥‥」

 

ここまで話してようやく合点がいった。コイツらは高校卒業後、すぐに就職するつもりだから、戦闘力をプロにアピールするつもりで体育祭に燃えているのか。

まぁ俺も、目立たないとトガヒミコにアピールできないから、それなりに頑張る必要があるけどな。

 

「‥‥ねぇ永井くん。ちょっといいかな?」

 

「ん?どうした?」

 

「僕に柔道を教えてくれないかな?」

 

「お?」

 

いきなりそんなこと言われるもんだから、思わず残りのアイスを一口でいっちまった。歯痛い。

 

「どうしたんだいきなり」

 

「僕、自分の『個性』を全然制御できなくて……1発撃つたびに戦闘不能になっちゃうから」

 

「ああアレな。やっぱ発動系の制御って難しいんだな」

 

しゅんとなる緑谷。

しかしすぐに、申し訳なさそうな目をしつつも、視線を上げて真正面から頼んできた。

 

「だから、体育祭までに、個性以外の武器を持たなきゃダメだって思ったんだ」

 

いいね。俺と考え方が似てる。

 

「付け焼き刃にはなるし、永井くんの時間を取っちゃうけど、お願い!」

 

「いいぞ」

 

「早!」

 

腰を90度に折って頼む……と同時に許可を出した。

 

「い、いいの……? そんな簡単に……」

 

「別に一子相伝、門外不出ってわけでもねぇし、お前のその、個性でできないことを個性以外で補うって考え方、嫌いじゃ無い。気に入った」

 

それに俺も、他人に教えることで気づけることがあるかもしれねぇしな。そもそも緑谷の柔道のセンスは元々感じてたんだ。

 

体育祭まで二週間。死ぬ気でコイツに柔道を叩き込んでやるよ。

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