Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第15話 心操戦

『昼休憩が終わり、最終種目の時間だあ!だがその前に失格者の皆に朗報だ。あくまでも体育祭!全員参加のレクリエーションがあるぞ!そして会場を盛り上げるために、本場アメリカからチアリーディングのみんなが……おや?A組女子もチアの格好〜?どんなサプライズだこりゃ』

 

山田先生の疑問も最もだろう。俺も何が起こってるのか全然理解できてないんだからな。

 

ありのまま起こったことを話すと、『A組女子がチアの格好をしていた』。これ以上の説明はできない。というか、どうせ鼻の下を伸ばしてサムズアップしあってる峰田と上鳴が何かしたんだろう。

 

「騙しましたわね峰田さん上鳴さん!」

 

百さんが怒って2人の名前を呼んでいる。やっぱりそうか。

まぁ……うん。学生間のイタズラならどうでもいいか。正直、騙される方がどうかと思うし、それにちょっと眼ぷ……いや、やめよう。

 

『気を取り直してレクリエーションの後には最終種目!決勝進出者4チームからなる14名によるトーナメント方式の一対一のガチンコバトルが待ってるぞ!』

 

『それじゃあまずは、トーナメントの組をくじで決めちゃうわよ!組が決まったらレクリエーションを挟んで最終種目に移ります。進出する14名は、レクに参加するもしないも個人の自由です。体力を温存したいって人もいるだろうからね』

 

なるほど……参加しようかな。

 

トーナメントまでの時間、体動かしときたいし、健全な学生アピールしときたい。

 

『ではくじ引きの結果、こうなりました!!』

 

第一試合 永井VS心操

 

第二試合 緑谷VS轟

 

第三試合 塩崎VS上鳴

 

第四試合 飯田VS発目

 

第五試合 芦戸VS青山

 

第六試合 常闇VS八百万

 

第七試合 切島VS鉄哲

 

第八試合 爆豪VS麗日

 

なんで騎馬戦で落ちたはずの鉄鉄チームの2人が上がってきているのかと言うと、本来進出するはずだった尾白とB組庄田が辞退。で、さらに代わりに進出する拳藤チームも、鉄哲チームの方が頑張ったと言って辞退。それで騎手の鉄哲と、話し合いの結果で塩崎に決定したらしい。

 

『それじゃあ最終種目のことは一旦置いといて!全員楽しみまくれェェ!レクリエーションの時間だあー!』

 

さて、俺は……借り物競争にでも出ようかな。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

『今日はこの本を読んで、3000字程度の感想文を書いて。できたら、お母さんに読ませてね』

 

『どうした喜一。そんなんじゃ立派な大人になれないぞ。さぁ、できるようになったら、また腕立てだ』

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「──永井?聞いてるか?」

 

「……ああ。聞いてるよ。心操の個性だろ」

 

レクリエーションは普通に終わった。借り物競走や玉転がしなど、規模は大きいが一般的な競技が問題なく進行されていった。

 

ちなみに俺が参加したのは借り物競争。五十メートル走の後、クジを引いて借り物が決められる。俺が引いたのはカセットテープ。

 

ふざけんな。

 

CDも無くなってきてる時代なのに、誰がカセットテープ持ち歩いてんだよ。てか全盛期でもカセットテープ持ち歩いてた奴はいねぇよ。

ちなみに、まさかと思って発目のところに走ったら、何故か持ってた。じゃあテープ切れるもんくらい持ってこい。

 

まぁそれはそれとして、レクリエーションと最終種目の間の時間。俺はA組控え室に呼び出され、そこで尾白から心操の話を聞いていた。

 

「身体の自由を奪う個性ねぇ……発動条件は?」

 

「多分『会話』か『目を合わせる』だと思う。あの時はこの二つ以外に心操との接触はなかった。もしかしたら、二つ同時っていうのもありえる」

 

「会話……一方的なものは例外か」

 

「うん。それで、衝撃で解けるみたい」

 

「1対1じゃ、それは望めねぇな」

 

マークはしてた。奴はなるべく目立たないよう立ち回ってたみたいだが、普通科なのに40位に入ってたり、騎馬戦で上位4チームに入ってたり。目立たないわけないだろ。

だがなるほど。そういう個性だったのか。

 

「まぁ、俺から出る情報はこんなもん」

 

「十分だ。ありがとな、尾白」

 

情報というか、ほとんど答え合わせだったけどな。

 

「永井、すごい勝手なこと言うようだけど……俺の分まで頑張ってくれ」

 

「ああ」

 

尾白は俺と拳をぶつけ、待機室を後にした。

足音が遠ざかっていき、尾白が近くにいないことを確認した俺は──

 

「クソ面倒だな」

 

一気に、貯めていたため息を吐いた。

 

俺の分まで勝ってくれ?いや、頑張ってくれだったか?まぁどっちでもいいけど、なんで俺が尾白の思いを背負わにゃならん。どいつもこいつも、面倒くさいもん押し付けてくんじゃねぇ。

 

尾白は心操に負けた。ただそれだけの話だ。なぜ負けた奴を、俺が救済しなくてはならない。

 

自分が負けたと思うのなら、自分で成長してくれ。その手助けくらいならやってやらんこともないが、俺から手を差し伸べること、俺から歩み寄ることは決してない。

 

それに、いわれるまでもなく、俺はあいつを叩きのめすさ。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

『色々やってきましたが!結局これだぜガチンコ勝負!頼れるのは己のみ!ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだわかるよな!心技体に知恵知識!総動員して駆け上がれ!一回戦!インテリ派に見えて実はゴリゴリの武闘派!ヒーロー科!永井喜一!ヴァーサス!!ごめんまだ目立つ活躍ナシ!しかし唯一勝ち上がってきた普通科、心操人使ィ!!』

 

まだ目立つ活躍なし?それりゃ誇張表現がすぎるぜ山田先生。騎馬戦での上位4位入りは、充分すぎる活躍だ。

 

普通科にしては、だけどな。

 

『ルールは簡単!相手を場外に落とすか行動不能にする、あとは「まいった」とか言わせても勝ちのガチンコだ!ケガ上等!こちとら我らがリカバリーガールが待機してっから!道徳倫理は一旦捨て置け!だがまあもちろん命に関わるよーなのはクソだぜアウト!ヒーローは敵を捕まえるために拳を振るうのだ!』

 

相手ヒーロー志望じゃねぇけど。

 

「あの猿はプライドとか言ってたけど、チャンスをドブに捨てるなんて、馬鹿だと思わないか?」

 

全くもってその通りだ。その上、敵討ちなんて面倒事も押し付けてきやがった。尾白は俺を立派な柔道選手だと思ってるようだが、生憎、俺は道の精神なんて学んじゃいない。健全な肉体を育てるために柔道を選んだだけだ。

 

でも

 

「……」

 

「なんか言えよ……こんな大衆の面前で無視は、印象悪いんじゃ──」

 

「林檎」

 

「……は?りん?」

 

「発動条件は『会話』だな?」

 

コイツは気に食わないから、一旦ぶっ潰そう。

 

『スタート!!』

 

開始と同時に心操に向かってダッシュ。一気に畳み掛けろ。コイツには何もさせるな。圧倒的な手数とフィジカルで、心の芯までへし折ってやる。

 

「──ッチ!あの猿から聞いたのか!」

 

心操は舌打ちをしながら、俺を待ち受ける姿勢だ。いいぜ。受け止められるもんなら、受けてみろ。

 

「ぐっ!!」

 

『あー!心操!早くも永井の飛び膝蹴りを食らってダウン!筆記で1位の男とは思えないフィジカルだ!』

 

素人が勢いの乗った膝蹴りを食らってまともに立っていられるわけがなく、すぐに膝を着いて少し吐いた。

汚いな。靴にはかけないでくれよ。お気に入りの運動靴なんだ。

 

「う、羨ましぜ……格闘技か武術か知らねぇけど、親に習わせて貰ったんだろ?俺も言ったら、今どき格闘技で何ができるんだって否定されたよ」

 

羨ましい……か。やっぱりそうだ。体育祭前の俺の予想通りじゃないか。

 

『恵まれた』の次は『羨ましい』か。その次はいよいよ『差別だ』だな。

 

コイツを始めとする、自称『恵まれない者』は、往々にして怠惰で、快楽的で、思慮が浅い。

だからこうして、一方的に膝蹴りを食らわされて、大衆の面前で膝を着く。

 

そんな負け犬が、この俺の努力を、勤勉さを『恵まれた者』と纏めてレッテルを貼り、冷笑だと。

 

ふざけるな。

 

お前はやったのか?平日は当然、土曜日曜だって机に齧り付いて勉強したのか?隙間時間を見つけては、休憩と称して筋トレはしたか?将来を見据え、自分のキャリアを見据え、自分の能力に合った学校学科を選んだか?

 

俺はやったぞ。

 

どうせお前はやっていないのだろう。自堕落で、怠惰で、短絡的なお前は。なら俺の足を引っ張るな。邪魔をするな。そのまま大人しく、ベッドの上で妄想を膨らませていればいい。

 

「俺はこんな個性だから!スタートも遅れちまったよ!恵まれた人間には分からないだろ!?」

 

恵まれている──たしかにそうだ。俺は恵まれている。

 

だから。

 

だから、並大抵の結果じゃダメなんだ。並外れた努力をしなくちゃならないんだ。

 

俺は永井家の血を引いている。長い歴史を持つ永井家の恩恵を、一身に受けている。そんな中で、平凡な成績なんて、許されないんだ。

許されないのは父さんや母さんだって同じだ。3流の親だとバカにされる。そんなのダメだ。

 

俺が一流になることで、父さんも母さんも一流だったと言わしめる。誰にも二人を否定させない。

 

恵まれてる──ただそれだけじゃダメなんだ。ひとりで生きていけるようにならないと。ひとりで、他人を率いることができるようにならなくては。

 

自分語りが過ぎた。もう終わらせよう。

 

「俺は──偶像でなくてはならない。()()であり続けるんだ」

 

「──俺も!何もしてなかった訳じゃないんだぜ!」

 

「!?」

 

『し、心操!カニバサミで永井の足を取った!!」

 

……あー、ちょっと油断しすぎたか。

 

膝が決められてる。抜け出すのは少し難しい。

 

「参ったと言え!でなけりゃ、お前の足を折ってやる!靭帯も切れるぞ!」

 

そう言って心操は、腕に力を込め、膝関節とは逆方向に圧をかけ始めた。そのまま行けば、俺の足が逆関節に折れる。

正直俺はリセットすればいいだけの話だから、あまり脅威には感じていないが、正しい脅しではあると思う。でも骨折は痛いから、ちょっと止めたい。

 

「やってみろ」

 

「……は?」

 

迷わずそう言うと、俺の足を圧していた心操の腕が止まった。

身体の自由は奪われていない。割とシビアな条件なようだ。

 

「人の骨を折るにはそれなりの力がいるし、そもそもお前に、そんな覚悟があるのか?この俺を、一生車椅子に縛るような覚悟は」

 

優秀なヒーローや警察、軍人が戦闘で直面する最初の壁。相手を傷つけること。

人間、『なりたい』という程度の動機では、倫理観と大きく外れることはできない。それがまして、相手の一生を左右しかねるものであるなら、尚のことだろう。

 

たしかにこの膝固めは教科書通りだ。このまま圧すれば、俺の膝は折れるだろう。だはこの行動はあくまでの俺を降伏させるための材料でありのそこから先、その“線”より先に行くつもりはないのでは?

 

もし“線”より先に行くつもりなら、もう折っているだろう。俺ならそうしている。

 

「俺は──」

 

緩んだ。

 

「っあ!!」

 

心操人使。

 

やっぱりお前はダメだ。お前は、最後の線を越えられない。警察官くらいならなれるんじゃないのか?

 

まぁ、俺が知ったことじゃないけどな。

 

「終わりだ」

 

せめてもの情けだ。この技をかけられては、負けても仕方がないと言える技で落としてやる。

自分の内腿と相手の肩で、相手の頚動脈が絞まる三角絞めだ。中学柔道じゃ禁止されてるが……習得自体は難しい技じゃない。

 

「ぐっ……く!!」

 

「俺の足の筋肉なら、お前の首の骨も折れる──俺は折るぞ」

 

これは脅しじゃない。俺なら、心操くらいのひょろっこい男の首なんて簡単に折れる。倫理道徳的にも、物理的にも。

 

「ぅう……──参った」

 

『心操くんの降参を確認!よって二回戦進出は永井くん!』

 

まぁ一応言っておくと、呼吸を続けられる位にはしていたし、首をへし折るまでは絶対にしなかったけど、骨じゃなくて、心を折るには簡単だった。

 

これに懲りたら、ちゃんと自分に合った将来を選ぶんだな。

 

……

 

「いーぞー!シンソー!普通科の星!」

 

「柔道有段者に技かけるなんてな!やるじゃねぇか!」

 

「ヒーロー科への夢諦めんなよ!」

 

……ま、俺がどうこういう話じゃないかもな。

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