Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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7月13日まで連日投稿します


第18話 ヒーローネーム

「それではこれより、表彰式に移ります!」

 

打ち上がる花火を背にした香山先生がそう宣言すれば、指定の位置に着いた報道陣が一斉にカメラのフラッシュを焚いた。距離はあるけくクソ眩しい。

 

さて……事の顛末を話そう。

決勝戦は俺と爆豪のカード。どう考えたって爆豪が勝つとしか思えなかった。だから俺に程々に全力を尽くして、気持ちのいいところで終わらせようとした。

でも俺は、爆豪の超必殺技を受ける直前、何を思ったのか爆豪と一緒に場外に飛び、おかげで同時場外の引き分け判定。決着は延長戦のアームレスリングにまでもつれ込んだ。

 

そして俺と爆豪は治療を終えて30分後。再びリングに戻った。

個性による相手への妨害は無し。爆豪は爆破したらそれは俺への妨害になるし、俺はもう幽霊を出せない。正々堂々小細工無しの腕力勝負だった。

 

結果は……俺が勝った。

途中まで均衡していたが、多分三角絞めで利き手を取ったとき腕を痛めて、そのせいで上手く力が出せなかったのだろう、爆豪の腕は徐々に弱まっていき、俺が完全に押しきった。

 

俺は俺なりの全力で戦い、全力で勝った。連続の不戦勝ありきの優勝だったけど、運も実力のうちだろう。文句があるなら次を考えず無茶した緑谷と、インゲニウムを打った犯罪者に文句を言うんだな。

 

あ、ちなみに鼓膜は修善寺先生のおかげで治ってます。

 

「ではメダル授与よ!今年メダルを贈呈するのは、もちろんこの人!」

 

どーせ八木先生だ。

 

「私が!! メダルを持って来「我らがヒーロー!! オールマイトォォ!!」

 

打ち合わせしてこいバカ教師共。

 

まずは3位からのメダル授与だな。常闇からか。

 

「常闇少年おめでとう!強いな君は!」

 

「もったいないお言葉」

 

「ただ!相性差を覆すには個性に頼りっきりじゃダメだ!もっと地力を鍛えればもっと地力を鍛えれば取れる択も増えるだろう」

 

全くもってその通りだ。柔道なら教えられるぞ。必要なのはも求める姿勢だ。『求めよ、さらば与えられん』は2000年以上前から言われてる言葉だぞ。

 

「えっと、爆豪少年、準優勝おめでとう?」

 

「……ンで疑問符ついとんだ」

 

「いや、いつもの君なら『こんなもんいるか!』とかって言いそうだなって思って……」

 

「……ハッ」

 

筋骨隆々の身体で、なぜか怯えたようなコミカルな動きをするオールマイトに、爆豪は鼻で笑いつつも静かに答えた。

 

「……負けは負けだ。相手の土俵に引きずり込まれて負けた。それに文句つけるほど、俺は女々しくねぇ。だからこれは貰っとく。これは俺が弱かった証だ。俺はこっからスタートする」

 

「そうだな。この銀のメダルを見て、初心を思い出すんだ」

 

爆豪は八木先生からメダルをひったくると、ふんぞり返るようにメダルを首にかけた。向こう傷みたいなもんか。

 

「来年を楽しみにしているぞ!爆豪少年!」

 

「……おう」

 

爆豪の反応は極めて薄いが、きっと内心、舞い上がってるはずだ。緑谷曰くアイツも相当なオールマイトファンらしいしな。緑谷の保身のために黙っとくけど。

 

「さて永井少年!君は機転が利くなぁまったく!」

 

「ありがとうございますオールマイト。貴方からメダルをいただくこと、光栄に思います。きっと父も母も、そして友も、誇らしく思っているはずです」

 

「うん!立派な宣誓に見合った気品と強さだ!君ならきっと、自分の理想を叶えられる!頑張れよ!永井少年!」

 

そういうと、八木先生は俺を抱きしめる。

 

筋肉分厚すぎだろ。潰れるかと思ったじゃねぇかこの筋肉ダルマ。

 

そうして仕事を終えたオールマイトは、カメラに向けて振り返った。

 

「さぁ皆さん!今回表彰台に登ったのは彼らだった!しかし皆さん!この場の誰にもここに立つ可能性はあった!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!次代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている!ってな感じで最後に一言!!皆さんご唱和ください!!せーの!!!」

 

「「「「プルス・ウル『お疲れさまでした!!!』」

 

だから打ち合わせしとけって。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

体育祭での疲れも癒えて二日後の登校時間。

空模様は生憎の雨だった。おかげでローファーが既に汚れてる。今日はクリーム使って手入れをしよう。

 

「よ、緑谷。傷は癒えたか?」

 

「永井くんおはよう。うん、リカバリーガールのところに通いつめてね」

 

「そりゃ大変だったな。体は休まったか?」

 

「うん。お陰様で」

 

緑谷が治ってるってことは、轟も異常なく治っているだろう。

余談だが、轟は体育祭での緑谷をきっかけに過去を受け入れ、なんと長らく会っていない母に会いに行ったそうだ。色々懸念されることもあったが、冷さんも轟にも、精神的な乱れは見られなかったらしい。

これなら、冷さんが病院から出られる日も近いかもしれない。

 

「何呑気に歩いているんだ!!遅刻だぞ!」

 

「おはよう……カッパに長靴!」

 

「これまた剛健な格好で来たな……まだ10分あるぞ」

 

「雄英生たるもの、10分前到着が基本だろう!1分前に到着したとして、授業開始までに準備は整ってるのか!?」

 

「正論だな。走るか」

 

「え、あ、うん!」

 

走ってきた飯田に合わせて俺達も急いで校内に入る。

この速度なら無事教室には時間内に間に合いそうだ。

 

「飯田くん、あのっ……」

 

「兄の件なら心配無用だ。いらぬ心労をかけてすまなかったな」

 

「……なんかあったら話してくれよ。出来ることは少ないけど、力になるぜ」

 

3日前、ヒーロー関連のニュースはインゲニウムがやられたこと一色だった。ここ2日間の新聞もインゲニウムの途中経過や、事件を言及するものが一面を占めていた。

……だが、まぁ、飯田本人が心配無用というのならそうなのだろう。実際、天晴さんの症状として、特に命に別状はないと報道されていたし、本当なんだろう。

 

そうして教室に到着。

到着予定時刻ピッタリだ。

 

「超声かけられたよ、来る途中!!」

 

「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」

 

「俺も!」

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「永井はどうだった?体育祭1位なら、声掛けられまくったろ」

 

「ああ。朝ゴミ出しに行ったら奥様方に捕まったよ。子供たちに俺の爪の垢を煎じて飲ませたいって。SNSのフォロワーも一気に伸びたな」

 

「……え、お前SNSで顔だしてんの?」

 

「全国放送で顔も名前も出されたし今更だろ。お前たちもヒーローになるなら、セルフブランディングのつもりと思ってやってみろ」

 

今どきSNSやってねぇ方が少数派だ。まぁ学生で名前も顔も出すのはリスキーだってのは分かるけど、馬鹿なことをせず、ただゆっくり、自分の日常を上げていれば問題は少ない。

上手く行けば、SNSの動向でトガヒミコが俺に近づくかもしれないしな。あんま期待してないけど。

 

んで、数十秒後、予鈴が鳴ると同時に、肌色を取り戻した相澤先生が教室に入ってきた。

 

「相澤先生包帯取れたのね、良かったわ」

 

「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより、今日の『ヒーロー情報学』ちょっと特別だぞ」

 

特別っつても、法律関係の暗記科目に特別もクソもないだろ。抜き打ち小テストとかならまだしも、あんなの日頃から予習復習をしてれば9割は確実だろ。

 

「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」

 

……あ、特別ってそういう。

 

「……というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる」

 

あーなんかそんな話あったな。究極の青田買い。高校一年生の時から手形つけとくとか、最早種で買ってるのと一緒だろ。

 

「……で、その指名の集計結果がこうだ」

 

相澤先生が電子黒板にA組の結果を指名件数順に表示した。

俺は……45件か。

 

「永井1位で45!?轟と100倍差ついてんじゃん!」

 

「不戦勝続きだったし、個性が分かりにくかったからだろ」

 

「意外と少ないな〜緑谷」

 

「んん……」

 

「あれだよ!轟戦でボロボロになったのが悪印象だったんだよ!」

 

45の俺が終えた話じゃないが、緑谷の実力に反し、指名数は結構少ない。

峰田の言う通り、無茶苦茶やってボロボロ、不戦敗っていう流れが悪印象だったに違いない。結局入学三日目くらいに相澤先生に言われた通り、ひとつの事やって終わりってオチになった。

 

「この結果を踏まえ……指名、進路に関係なく、1週間職場体験ってのに行ってもらう。お前らは一足先に体験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りある訓練をしようってこった」

 

「なるほど、それでヒーロー名ってことですね」

 

「俄然楽しみになってきたぁ!」

 

職場体験……1週間?長ぇよ。あって2日3日くらいだろ。

てかヒーロー名かぁ……それ俺もやんなきゃダメ。俺別にヒーローになるつもりなんてないから、ヒーロー名なんて必要ないんだけど。

 

「まぁ仮ではあるが、適当なもんは……」

 

そしてそう言いかけたときである。

 

「つけたら地獄を見ちゃうよ!」

 

「ミッドナイト!」

 

言葉を引き継ぐ形で、香山先生が意気揚々と教室内に入ってきた。いつもの際どいコスチュームだ。

 

「このときの名が! 世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!」

 

「まぁそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん」

 

まー消しゴム頭に酷評されんのは納得できないよな。

……てか、ホワイトボードとマーカーが配られるってことは発表形式かよ。

 

──で、15分後

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね!!」

 

ほらやっぱり。まぁこの少人数の前で出せないものは世間にも出せないってか。それは合理的だわ。

まずは青山から。

 

「輝きヒーロー I can not stop twinkling☆」

 

直訳すれば、煌めきが止められない……言いにくさ、覚えにくさ、大衆がすぐに意味を理解できない。論外。ペットに名前をつけるところから出直してこい。

 

「つっぎ私!ヒーロー『エイリアンクイーン!』」

 

あーうん……もうそれでいいんじゃない?半世紀以上前の映画だから、版権も無さそうだし。却下されてるけど。

……2回連続で訂正・却下されてるから、なんか出しずらい雰囲気になってる。

 

……今行くか。

 

「ヒーロー『イブキ』。ヒーローを諦めた、友人から貰いました」

 

「しっかり想いが詰まってるわけね!いいじゃない!」

 

好印象だな。上鳴がサムズアップしてるし、発表しやすい空気に戻ったみたいだ。

その後、続々と思い思いのヒーロー名を発表していき、そして駄作は却下、改善された。

 

ちなみにクラスで一番センスがあったのは、麗日の『ウラビディ』だろう。自分の苗字と個性の『ゼログラビティ』を合わせたもので、とてもキャッチーでキュートだ。

あと蛙吹の『フロッピー』もいいと思う。

 

爆豪?

 

……まずは自分が卿を名乗れるくらいの品性を身につけてからだな。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

さてなんとか大多数がヒーロー名を決めたところで、相澤先生から冊子を渡された。

これが俺に来ていた45件の指名リストである。週末までのあと二日以内に、この中から自分に合ったヒーロー事務所を選べと。45件でよかった。爆豪轟とか、ちょっとした問題集かなってくらい分厚い。

 

つっても、俺もそんなにヒーローに詳しい訳じゃないから、一件一件調べなくちゃだけど……まぁここはAIを活用しよう。

AIにリストを読み込ませて、それぞれの特徴と活動内容を簡略化して表示。で、こっかを興味があるものを深堀してく。

 

んで、俺のスタイルに近しいのは……ガンヘッド、デステゴロくらいか。しかし意外と上位ランカーからも指名来てるな。4位ベストジーニスト、10位ギャングオルカ……32位ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ。ここら辺は母さんの情報ありきか。

 

無理に高ランクのところに行っても仕方ないし、ここは、ガンヘッドかデステゴロで……まぁ、こっから近いガンヘッドでいいか。

 

「なぁ緑谷。ガンヘッドってどんなヒー……ロぉ……」

 

「まずこの80件のヒーローらの得意な活動条件を調べて系統別に分けたあと僕と似たスタイルでかつ僕にも取り入れられるような技術を持ったヒーローを割り出さないとこんな貴重な機会滅多になさそうだし──」

 

……ほっといてやるか。

 

「永井くんもガンヘッドのとこなん?」

 

「“も”ってことはお前もか?」

 

今パッと調べた感じだと、ガンヘッドはバチバチの武闘派、近接格闘や護身術のヒーローらしい。

一件麗日とは合わなそうだが、きっと爆豪戦でなにか思ったのだろう。

 

「俺はまだ決めかねてるんだ。ヒーローにならなくても、1週間を無駄に過ごすつもりはないから、ちょっと慎重に選んでるんだ」

 

「私も!強くなれば見聞広がる!まずは基礎を固めるところから!」

 

素晴らしい着眼点だ。個性に頼りきらず、そして個性も活きる術を身につける。考えうる最適解だ。

 

「飯田、お前は……あれ?」

 

「いないね……もう出しに行ったんじゃない?」

 

「即決か」

 

「……ねぇ永井くん。ちょっといいかな」

 

急に緑谷から、場所を変えて話そうと合図。随分深刻そうな顔だ。

 

「なんだ?」

 

「飯田くんのことで……」

 

「飯田のこと……天晴さんのことは気の毒だが、俺たちがどうこうできる話じゃないだろ。あの一家のことだから、保険とかそれ関係は」

 

「そうじゃないよ!」

 

……分かってる。緑谷が危惧していること、飯田が思っていること。

今の飯田と俺は、きっと同じ思い──要は敵討ちを思っていることだろう。伊吹をトガヒミコに殺された俺がトガを殺そうとしているように、兄を再起不能にされた飯田は、当然犯人を殺してやろうと思うほどに憎んでいるはずだ。

 

「飯田くんの職場体験先……保須市なんだ。インゲニウムがやられた場所で……」

 

「……考えすぎだろ。あの飯田だぞ」

 

そんなわけがない。復讐の憎しみは人を狂わせる。それが憧れの相手だったら、憎しみの渦はより大きくなる。こんな人もあんな人も関係なく、憎しみの渦は全てを巻き込んでいく。

 

でも俺は表面上だけでも取り繕う。分かっていない振りをする。面倒事はごめんだ。

 

「僕もそう思いたいけど……」

 

「──あー分かったよ。俺から飯田に話してみる。それで解決だ」

 

「……お願いできる?」

 

「ああ。口下手で回りくどいお前より、俺がストレートに聞いてやる。んで、もし本当に復讐を画策してたら、俺がぶん殴ってやるよ」

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