Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第21話 職場体験3

突如として脳内に響いたこれは、マンダレイの個性『テレパス』で、一方通行の送信だけだが距離や通信環境等は無視できる、最強の通信手段だ。

 

マンダレは今プッシーキャッツのと面々に一緒に保須市の警察署に行っている。そのマンダレイから大規模個性テロがあったと知らせがあった。咄嗟にホテルの窓から外を見てみると、街のあちこちから煙が上がっており、消防や警察のサイレンが響いている。

 

「急いで避難するよ洸汰くん!仲直りはその後で!!」

 

「え、お、おう……」

 

とりあえずサイフとかスマホとかをリュックに雑に入れて、洸汰くんを片手に抱えてホテルの部屋から急いででる──その時。

 

「──伏せて!!」

 

ほかの宿泊客と同じように、避難経路から避難しようとしていたところ、何かがこちらにに猛スピードで、脇目も振らず突っ込んできていた。明らかな不穏。俺は洸汰くんを全身で覆うように庇う。

 

一泊置いての衝撃。地震のような衝撃がホテル全体を揺らし、突っ込んできたナニカがガラスにぶつかり、窓ガラスを突き破って部屋に入ってきた。

 

「コイツ!」

 

俺は突っ込んできたソレに見覚えがあった。焦点の合っていない目、あからさまに露出された脳みそ、不自然に細長く歪な手足。ヴィラン連合を名乗る個性犯罪集団の怪人兵器『脳無』だ。

オールマイトがぶっ飛ばしたアイツと比べれば全体的に色素が薄く、見るからにひょろっこい雑魚だが、衝突でホテル全体を揺らすだけの力はある。もう一度突っ込まれれば、ガラスは完全に木っ端微塵にされる。

 

本当なら黒い幽霊を出して脳無を今すぐにでも倒したい。だが脳無があと何匹いるか分からないし、あのチンピラ集団がどこに潜んでいるか、そして何を目的としているのか。何も分からないから、出し惜しみせざるを得ない。

 

「く、来るな!」

 

「あ、ダメ!」

 

腕の中で酷く震えていた洸汰くんは、脳無に向けてまたコップ一杯ほどの水を出して牽制する。

だが結局5歳児程度の個性出力。シャワー以下の威力程度しかないそれは、脳無にとっては牽制ではなく、頭に来る挑発だった。

 

「キヤアアアアアッァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」

 

「っひ!」

 

「キモイ動きすんじゃねぇ!!教育に悪ぃだろ!!」

 

脳無はこちらに狙いを定め、ドタドタと転がりながらこちらに猪の如く突っ込んでくる。

洸汰くんか抱えたままでは迎え撃てないと察し、さらには内開きのホテルのドアでは外に逃げきれないと判断した俺は、脳無をギリギリまで引き付け、ちょうど脳無の進路から外れるバスルームに逃げ込んだ。

 

外ではバダン!!という脳無がドアに激突した音が聞こえる。その衝撃で力尽きてくれないかと思ったが、音を聞くに、まだ正常に動いているらしい。

 

あいつも不死身か?

 

「洸汰くんごめん!携帯でマンダレイに電話して!僕がドアを抑えるから!」

 

「え、お、おう……」

 

洸汰くんを浴槽に入れてカーテンで隠すと、脳無が扉を開けて入ってきようとしたので、俺は急いで扉を抑える。

黒い脳無に比べてひょろっこいとは言ったが、こいつも十分化け物じみた力だ。

 

「クソッタレがああああっ!!」

 

俺一人の力じゃ脳無を押し返せない。かと言って洸汰くんの力を借りてもしょうがないし危ない。でもバスルームに扉を抑えられるようなものもないし、鍵をかけようものなら、いよいよ逃げ場が無くなってしまう。

 

「洸汰くん!そのまま頭を守ってじっとしてて!!」

 

仕方が無いので一度扉を開けて脳無をバスルームに向かい入れる。当然脳無はバスルームに入ってくるが、当然罠だ。

俺は洗面台を足場に脳無を飛び越えて背中に立つと、予め手に取っておいたドライヤーのコードを広げて脳無のおでこ辺にコードを巻き付け、勢いを付けて背中から飛び降りた。

 

俺と脳無の身長差から来る運動エネルギーによる引き付け。一般的なコードに使用される塩素ビニルは基本的に機械的強度が極めて高いため、脳無に引っ掛けたコードは断線することなく、勢いよく脳無を後ろに引っ張り、頚椎あたりを簡単にへし折った。

 

「ギャーーーーッ!!」

 

「汚ぇ声で叫ぶんじゃねぇ!!」

 

俺は客室の備品のボールペンを脳無の喉を突き刺そうとする──が、

 

「お客様!?大丈夫ですか!?」

 

「なっ!?」

 

騒動を聞きつけたホテルマンが部屋に駆けつけ、脳無が激突してる歪んだ扉をこじ開けた。

この存在を忘れていた。こんだけの騒動、そりゃホテルマンとして駆けつけてくるか。

 

「離れて!!僕は大丈夫ですから──」

 

「ホッキャウッ!!」

 

一瞬。一瞬脳無から視線を外したその瞬間に、脳無は手を硬化させ、抜き手で俺の肝臓を貫いた。頚椎が折れてんのにまだ動くとか、やっぱコイツも不死身らしい。

不気味なまでに長いその腕は、俺を貫通してもなお有り余り、俺を持ち上げて壁に叩きつけた。

 

「……へ?」

 

「くあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

全身に激痛が走るのと同時に口から大量に血が吹き出て、ピクピクし手指が痙攣する。

まずい。串刺しの失血では即死できない。これでは意識を失ってから死ぬのに十秒はかかる。十秒。俺ではなく、洸汰くんやホテルマンの生死を分ける十秒だ。その十秒はあまりにも長い。

 

「くそったれがアアアアァァァァッ!!」

 

俺は身体中に走る激痛を無視して脳無の腕を引っこ抜き、一気に出血を加速させる。だがそれだけでは終わらせない。

死に際の、正真正銘の火事場の馬鹿力を発揮させ、脳無を割れた窓ガラスに押し込む。

 

「落ちろオオオオオオッ!!!」

 

幸いにもガラスは脳無が突っ込んできた段階で既に粉々。脳無は気持ち悪いくらい長い手足で窓枠を掴んで抵抗したが、割れ残ったガラス片で上手く掴めず、すぐにバランスを崩して落ち始めた。

 

そして俺も、出血多量のショックで意識が遠のき、勢いのままに窓の外に身を投げ出す。

薄れゆく意識の中、飛び出した洸汰くんがホテルマンに抱えられるのが見えた。いいぞホテルマン。そのまま洸汰くんを連れて安全なところまで逃げてくれ。

 

俺はこのまま落ちるだけだから──

 

 

 

『ヒーロー候補生イブキ!!プロヒーロー『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』の名において個性戦闘を許可する!!』

 

 

 

──ナイスタイミングだマンダレイ。そして連絡ありがとう洸汰くん。

 

「ぶっ殺してやる」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

俺はホテルの3階から落ちた。

 

飛び降り自殺をするには少々高さが足りないが、頭から落ちたことで無事に即死。俺は脳無の身体の上で蘇生した。

脳無は俺の足の下で力なく横たわっている。胸の動きを見るに、まだ息はあるようだが、この様子なら当分動けないだろう。

 

しかし念には念を。俺は黒い幽霊を出し、脳無の首を爪で貫かせると、今度こそ脳無の体動かなくなったのを確認した。やはりというか、この色素が薄い脳無は黒い脳無に能力的に劣るようだ。

 

「洸汰くんの保護状態だけでも確認しないと」

 

俺がもう1回ホテルに入ると、スマホに着信が入った。

わざわざスマホを出す程でもないので、スマートウォッチで確認してみると、そこには、緑谷から。クラスグループあてに、現在位置を送ってきていた。

 

場所はそこまで遠くない。緑谷もいつのまにか保須に来ていたらしい。

 

というかなんだ?まず緑谷が保須にいるのは、職場体験先のヒーローが保須市の要請を受けて支援に来ているのは明白だが、なぜこの騒動の中で自分の現在地だけを送ってきたのだろうか。

 

しかも騒動も中心地である駅前からは微妙に離れている。あいつの正義感、そして機動力で、なぜこの騒動でそんなところにいるのだろうか。

もしかしてコイツも脳無に襲われているのだろうか。

 

「あ、永井兄ちゃん!」

 

1階から2階の階段を上ると、ちょうど避難していた宿泊客と洸汰くんに鉢合わせた。

どうやらしっかり保護されていたようだ。

 

「洸汰くん。無事だったんだね」

 

「お、お客様!?ご、ご無事だったんですか!?どうして……」

 

「そういう個性です。それとホテルマンさん。私は雄英高校ヒーロー科一年永井喜一です。若輩ですが、このホテルのロビーを簡易的なセーフルームにする指揮を取らせて貰います。私はその後、外のヒーローと合流し、自体の沈静化を図ります」

 

「ま、また戦うのか?」

 

「そういう学校だからね。でも大丈夫。僕強いから。これでも雄英体育祭一位なんだ。着いてきて」

 

──幽霊。お前は緑谷の様子を見てこい

 

安全な場所……まぁ、とりあえずホテルのロビーをセーフルームとして、シャッターを下ろさせたり、バリケードを作らせる間、幽霊に緑谷へ派遣する。

 

もしかしたらアイツも脳無に襲われているかもしれないし、他の厄介事に巻き込まれているかもしれない。

 

「……俺も行くか」

 

江向通り4-2-10の細道。緑谷によってクラスグループで共有されたその場所に幽霊を向かわせ、観察して分かったが、状況は想像以上に最悪に近かった。

 

緑谷はヒーロー殺しと遭遇していた。

 

幽霊が到着した段階で、既にプロヒーロー一名と飯田が倒れており、緑谷が救援に駆けつけフルカウルで応戦するも、一瞬の隙を付かれて緑谷も行動不能にされてしまう。

 

間違いなく歴戦の凶悪犯。経験の少ないヒーロー志望で立ち向かっていい男ではなかった。

 

幽霊は既に時間制限で崩壊が始まっており、もはや一歩歩けば崩れ落ちるというところだった。

 

「──永井!」

 

「……お?」

 

指定場所に走って向かっていたら、後ろから氷を出しながら移動している轟と鉢合わせた。

コイツがいるってことはエンデヴァーも保須にいるってことだろう。事態の鎮静はすぐになりそうだが、コイツだけが来てるってことは、もしかして……

 

「乗れ!こっちの方が早い!いるんだろ!ヒーロー殺し!」

 

「助かる!で、轟!エンデヴァーにはなんて伝えてこっちに来てる!」

 

「……?江向通り4-2-10の細道にヴィランがいるかもしれないから、増援を頼むって。俺は先に行くって」

 

「うっそだろお前!」

 

俺は轟の話を聞いて頭を抱えた。

最悪だ。まぁ轟は赤黒がいることを知らなかったから、エンデヴァーを連れてこなかったのは、別にいい。

 

「お前個性戦闘の許可は!?」

 

「取ってねぇ!そんなヒマなかった!」

 

「ふっざっけんなお前!何しに来たんだ!」

 

「緑谷の救援だ!!ヒーロー志望なら当然だろ!!」

 

「ヒーロー志望なら正規のやり方でやるんだよ!今からでもエンデヴァーに許可取れ許可!!俺を犯罪に巻き込むんじゃねぇよ!」

 

なんて軽い口論をしていると、目的地最寄りの大通りに出た。

今からエンデヴァーに許可とって来させようとしたが、もうそんな時間はなくなった。やれるだけの事をやるしかなくなったわけだ。

 

「この細道だな。お前は絶対に戦闘に加わるなよ。俺が前線に出るから、お前は防御に徹しろ。殺されかけてから個性を攻撃に使えよ」

 

「……お前は()()で戦うのか?」

 

「ああ。ホテルから借りてきたんだ。これで奴をぶっ殺してやる」

 

「……お前もお前で捕まりそうだな」

 

そんなことを言う轟は、俺の手に握られたスコップを怪しげに見る。

 

スコップは万能だ。各国の陸軍じゃサバイバル用具兼近接武器として採用されている、掘ってよし、調理してよし、殴ってよしの万能器具。それがスコップだ。

これはホテルにあったガーデニング用の市販スコップだがよく手入れされていて、これなら十分戦えると思って持ってきた。

 

「──行くぞ」

 

俺と轟は同時に飛び出した。

黒い幽霊の偵察通り、暗闇に支配された細道には人影が3つ4つ。地面に伏すプロヒーローが一人、少し離れた場所で膝を着く緑谷と、倒れたままの白アーマーは飯田だろう。そして今にもそれに刀のような刃物を突き立てようとしているのが赤黒だろう。

 

「──こっちだッ!」

 

俺はスコップを振りかぶりながら怒鳴った。

 

俺の足では飯田が刺殺されるのに間に合わないから、あえて分かりやすい敵意をむき出しにして、こちらに意識を向けさせて少しでも時間を稼ぐ。

 

そして俺の狙い通り、赤黒はこちらを見て、刃を突き立てるのをやめた。

 

「子供が増えたな……やめておけ。死ぬぞ」

 

「じゃあ殺してみろ!!」

 

突撃は勇ましく殺意を持って口汚く。

俺に集中が向いた隙に轟が右足からノーモーションで氷を伸ばしていくと、赤黒は跳躍してこれを避ける。拘束目的と判断したようだが、違う。

 

赤黒の跳躍のその間に緑谷と飯田、それとプロヒーローの三人を氷で持ち上げて滑らせ、俺たちの背後へと移動させることに成功する。

 

俺も俺で攻撃の手を緩めることはなかったが、振り抜いたスコップは赤黒には当たらず、代わりに氷に当たって当たって氷塊が砕けた。

 

──上

 

「お前も贋物か?」

 

自由落下の勢いで俺を串刺しにしようとする赤黒に対し、俺はスコップを改めて握りしめ、上に向かってフルスイング。が、こちらも当たらず、赤黒は異常に軽い身のこなしで、ゴミ箱の上に着地した。

 

「子供……スーツも着てないじゃないか」

 

「スーツを私服で着るかバカがいるか。クリーニングとアイロンが間に合わねぇだろ」

 

「……?お前はヒーロー志望じゃないのか?」

 

「……ああ、コスチュームの話か。そうだけど、もっと着てねぇよそんなもん。テメェらがゲリラ的に事おっぱじめっから、私服で走ってきたんだよ」

 

赤黒は着地した後、動き出そうとはしなかった。俺たちの様子を窺っているように見える。

 

「お前はどうしてヒーローを志す」

 

「面接か?お生憎様。テメェとのご縁は金輪際なさそうだ」

 

「茶化すな。答えろ」

 

「ならそれ相応の態度を示せ。欲しいものだけを主張すんのはガキでも出来るんだ。ほら、言えよ。教えてくださいってな」

 

「……もういい」

 

一瞬。俺の瞬きの瞬間を狙って、赤黒は幅の広い大型ナイフで切りつけようとしてきた。

だが大きなナイフは重さを利用して叩き切るものだから、自然と動きが大きくなり、捉えやすくなる──これは釣り針。

 

本命は──上の日本刀。

 

でも……それが分かったからなんなんだって話だよな。

 

「うっ!」

 

何とかナイフだけは避けたが、日本刀の斬撃は避けきれず、苦し紛れにガードした左腕を大きく切り裂かれた。危うく骨ごと叩き斬られるところだった。

 

「弱い!」

 

さらに赤黒は足裏での蹴りを放ってきて、俺はそれを腹部にもろに食らってしまう。

咄嗟に腹筋に力を入れたものの、内蔵に響くその蹴りの影響で、胃液のようなものが込み上げてくるのを感じ取った。

 

「テメェ──っぐ!?」

 

蹴られた衝撃で少し後退りはしたが、まだまだやれるとすごんだ直後、俺の身体は蛇に睨まれた蛙のように動かなくなった。

 

動け動けと何度命じても、指先ひとつ動きはしない。これが赤黒の個性……なるほど。道理でゲリラ的に1人づつ殺していくわけだ。

 

あーあ……こりゃ、死んだな。

 

「死ね」

 

動けなくなった俺は、為す術なく、なまくら日本刀で首を落とされた。

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