Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第22話 職場体験4

俺は首を落とされた。断頭されたわけだ。

 

だが幸いなことに、やつは俺の個性の本質を知らなかったようだ。協力している死柄木から情報提供はなかったのだろうか。

 

ないだろうな。あの低能に、情報共有という言葉があるかどうかすら怪しい。

 

まぁなんだっていい。今はただ、俺を殺した気になってるマヌケを、全力でぶん殴るだけだ。

 

「──死ね」

 

声を上げた瞬間、赤黒は猫のように反応したが、不意打ちに反応するには少し遅すぎた。

俺は奴の脇腹に向けてスコップの縁をフルスイング。一刀両断はできないにしろ、肉を裂くくらいならできると思ったが、どうやら何かが仕込まれていたようで、想像よりも与えるダメージが少なくなってしまった。

 

それでも赤黒にとってはかなりのダメージだったらしく、さっきよりも重そうな動きで飛び跳ね、俺たちから大きく距離を取った。

 

「はぁ……お前、何故生きている。確実に首を跳ねたはずだ」

 

「テメェのナニより粗末ななまくら刀で俺の首が落とせるわけねぇだろ。俺の首落としてぇなら、バイキングの斧でも持ってくるんだな」

 

「……何が貴様を突き動かす」

 

「理由か。いいぜ当ててみな。当てたら高級時計をプレゼントだ」

 

轟の話だと、あと5分以内かそこらで増援が来るらしい。きっと俺は、それまでの間に殺されまくるだろう。数回、数十回。何回殺されるか検討もつかない。

 

だがやらなくてはならない。盾になれるのは、俺だけなのだから。

 

「いい感じに逃げてくれよ轟ィ!!」

 

「死ね」

 

逆袈裟に刀を振るう赤黒に対し、俺はスコップの柄の部分で防御しようとするが、直径3cm弱しかない木製の柄ではやはり十分な盾にはならず、俺は胸をスコップごと斬られた。

 

いいとこ斬られたが、傷が浅い。死ねない。

 

「幽霊!!」

 

「……?──ッ!?」

 

ここで今日二度目の黒い幽霊を出す。目的は──俺。

 

黒い幽霊の長く鋭い爪が心臓を貫通し即死。そして蘇生する。

 

「おっらよぉ!!」

 

俺の奇行に驚いた赤黒は動きを一瞬止め、その隙にまたスコップを振るって赤黒の横っ腹に命中させる。

今度は鈍い手応えが手に伝わる。どうやら左体側には何も仕込みがないようだ。

 

生身に入った一撃に、これは決まったと思ったが、赤黒は大型のサバイバルナイフを腰から引き抜いて俺の喉元に刺してくる。

意識が飛ぶ前にそのナイフを引き抜いて、大量出血を誘発させることで即死からの即座に蘇生。俺は斬られてふたつになったスコップを赤黒の顔面目掛けて突き出す……その瞬間に体の自由が奪われ、スコップがすっぽ抜けて遠くに飛んでった。

 

「幽霊!」

 

「!?」

 

先程までは見えなかった幽霊を見て赤黒は目を見開き、脅威と感じとったのかまた刀を振るうが、黒い幽霊を構成する黒い物質は刀を通さなかった。

その隙、幽霊は鋭い爪で赤黒を串刺しにしようとするが、赤黒はこれを紙一重で避けると、また間合いの外に逃げた。

 

なら、と幽霊で俺を串刺しにしてリセット。

 

やはりというか、赤黒の個性は、俺のリセットでどうにかできるようだ。

 

「やめてくれ永井くん!僕が兄さんの名前を継いだんだ!僕がソイツを倒さなきゃならないんだ!君が命をかける必要なんてないんだ!!」

 

「おお!なら変わってくれるか!?ああ無理か!お前には地面がお似合いだ!轟!さっさと避難させろ!」

 

「出血量が多いから応急処置中だ!もう少し時間稼ぎ頼む!」

 

幽霊を使って少しでも時間を稼ぐ。強固な幽霊の体を盾に、赤黒を前に進ませない、むしろジワリジワリと押し返す戦法を取る。

 

だがそれでも赤黒は止まらない。幽霊の機動力を持って、バスケのディフェンスのように通せんぼするのが今の精一杯。少しでも幽霊の操作を謝れば、すぐに突破される。

俺の腕っ節じゃ、赤黒を止められない。

 

「急いでくれ轟!」

 

だがどうする。幽霊の二体現出は操作が複雑になり、むしろ奴の防衛線突破を容易くする。かといって一体じゃ手数と頭数が足りない。

 

どうする。どうす──

 

「センスはピカイチだが、思考が長いな」

 

気が付けば赤黒は、俺の目の前に。幽霊は両腕が崩壊している……()()()に勘付かれたか。

 

「四肢を落として達磨にしてやる」

 

幽霊の生成が間に合わない──

 

「永井!」

 

「永井くん!」

 

轟と緑谷の声が重なり、奴の刃が俺の腕に食い込む瞬間──

 

「レシプロ──バァストォ」

 

F1マシンのような轟音と速度で飯田が俺の隣を駆け抜けて、今にも左腕を切り落とさんとしていた赤黒の凶刃を叩き折ったのだ。

 

「く、ぅっ……!」

 

飯田はさらにそのまま赤黒の頭部に蹴りを放つ。

タイミングもあっただろうが、ここまでとてつもない俊敏さを見せていた赤黒が、回避でなく防御を強いられていた。

 

「個性解けたか。何分だ」

 

「約3分だ……轟くんも、永井くんも、緑谷くんも……関係のないことなのに、申し訳ない」

 

「まだそんなこと言って……!」

 

飯田は緑谷の言葉を遮って、力強く、言った。

 

「だからもう、君たちにこれ以上血を流させるわけにはいかない」

 

「感化され、取り繕おうとも無駄だ。おまえは私欲を優先させる贋物にしかならない。〝ヒーロー〟を歪ませる社会の癌。誰かが正さねばならない」

 

つまらん思想犯だ。

 

「ほぼ民間人のヒーローに私情を捨てろってか。反吐が出るな。ヒーローの歴史から学んでこい低学歴」

 

「ヒーローとは見返りを求めてはならない。自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない……本物は、オールマイトだけだ」

 

「時代錯誤の原理主義者か……」

 

なるほどな。

 

こいつは正真正銘のクソ野郎だ。勝手な理想を押し付けて発狂して人殺し?アイドルに恋人ができたというニュースで顔真っ赤の連中と大差ないな。

 

原理主義か……それは違うな。むしろこれは思想流派というか、理から派生した、ただの思想だ。

 

「よく分かったぜ。俺はてめぇが嫌いだ」

 

ヒーローは日本語では英雄と訳されるが、名称の起源は必ずしも事象の起源ではない。

実際、日本においてヒーローはかつて存在した、陸上自衛隊の部隊『第一異能大隊』が元であり、部隊改編によりその規模が縮小したと同時に民営化。個性を使用する部隊は今でも残っているが、頭数は民間のヒーローの方が圧倒的に多い。

 

まぁなんで民営化したかって説明したら長引くから端折って説明すると、超常黎明期における暴徒や凶悪犯罪者に対応するにあたって、警察能力では鎮静することはできず、かといって自衛隊の治安出動ではひとつの事件を解決するのにコストがかかり過ぎていたためだ。

 

警察と自衛隊。ヒーローはその中間として生まれた職業だ。黎明期当時は今で言うヴィジランテ、比較的穏便で理性的な自警団の『個性使用』の許可を与えていた程度で、死ぬほど曖昧で不安定だったが、今では知っての通り事業独占資格だ。定義そのものは安定している。

 

「なんとでも言え。俺は俺の信念に従う。あとは……信念をぶつけ合うだけだ」

 

「ぶつけ合ってどうなる。仲良くマイムマイムでも踊るか?」

 

「ほざけ!」

 

赤黒が動く素振りを見せた瞬間、後方から巨大な火炎が飛んできた。轟だ。

 

「馬鹿野郎お前!!個性使いやがったな!」

 

「やつの動きが変わったことに気が付かなかったか!?明らかに焦ってる!!」

 

それは分かってる。だからこそ時間を稼ぐんだよ。

奴が動きを変えた理由は、どう考えても飯田と、視界の端っこで動き始めが緑谷が影響している。それと、赤黒は俺と幽霊の動きのクセを見つけて、そんで幽霊の性質に気が付きやがった。

 

幽霊はあと一体。そしてやつは幽霊の弱点に気がついた。これ以上出せない。

 

何故か炎から無傷で飛び出してきた赤黒に対し、轟が氷と炎を交互に出して牽制するが、これも赤黒に軽くいなされてしまう。

 

「轟くん!君の個性は温度調節は可能か!?」

 

「左はまだ慣れねぇ!なんでだ!?」

 

「僕の足を凍らせてくれ! 排気筒を塞がずに!」

 

……なるほど。轟の氷を利用して足のエンジンを冷やそうって話か。

 

「やれ轟!!俺が盾になってやる!!」

 

もうすぐでプロが現着する。奴もそれを悟って焦っているんだ。だから、速さと遠距離攻撃手段を持ったコイツらが回復した以上は俺たちを振り払うんじゃなくて、動けなくしてから逃げた方がいいと判断した。

俺たちの役目は、1秒でも長く赤黒をこの場に拘束すること。そして俺の役目は、コイツらの動きを1秒でも早くすること。

 

「永井!」

 

牽制目的で投げられたナイフを俺は身を呈して防ぐ。それに驚いた轟は冷却の手を止めたが、今ではその瞬間も惜しい。

 

「早くやれ!それともお前が変わってくれるか!?」

 

俺が振り向いた時、既に飯田は覚悟を決めていた。本当に変わってくれそうな目だったが、本当にそんなことをされても困るので、俺は檄を飛ばす。

 

「火力を集中させろ!!叩き込め!!」

 

空中にいた赤黒に向かって、オーグメンターを全開にした飯田が跳躍する。

さらには、その反対側から奴を挟み込むように、緑色の閃光を迸らせながら緑谷が跳び上がっていた。

 

「レシプロ──バァストォ!!」

 

「10パーセント──スマーーッシュッ!!」

 

奇麗に頬を捉えた緑谷の拳と、同じく完全に右脇腹を捉えた飯田の蹴りは、赤黒の体から異音がなるほどの威力で、さすがの赤黒も意識を一瞬飛ばした。

 

……にも関わらず、

 

「贋物は……死ねぇ!!!」

 

奴の目はまだ光を失っていなかった。なんてしぶとい野郎だ。

 

「叩き込め!飯田!!」

 

だが赤黒が見せた一瞬の隙。飯田が二発目の蹴りを決めた。再び耳を塞ぎたくなるような異音がなり、今度こそ赤黒は完全に沈黙した。

 

「お、おおおおお」

 

赤黒と共に落下していく飯田と緑谷を、轟が器用に氷の滑り台を作って軟着地させる。赤黒は途中でせき止められた。

 

「飯田緑谷立て!まだ──」

 

「いや、もういい」

 

俺は刺された右腕を庇いながら氷を登って赤黒に近づくと、とりあえず武装解除の後、奴の顔を覗き込んだ。白目を向いており、呼吸が若干浅い。

 

「気絶してる。拘束するぞ。なんか道具あるか?」

 

「いや……何も」

 

「俺も救急品くらいしかねぇ」

 

「僕も……」

 

「次からパラコードくらい標準装備にするんだな……あークッソ、ゴミ捨て場漁るしねぇのか」

 

非常にやりたくないが、俺は素手のままゴミ捨て場を漁り、拘束可能な物品を探す。

クソッタレが。お気に入りの服が台無しだ。血で汚れてるし、何よりゴミ捨て場の匂いがこびり付いちまってる。クリーニングに出しても……どうせ穴空いてるなら、破棄するしかねぇか。

 

これって損害保健的なのって降りるかな。

 

「お、あったあった。ロープあったぞ。探してみるもんだな」

 

「こっちも武装解除完了だ。こいつ、10個くらいナイフ隠し持ってやがった」

 

と、ここで、これまで空気だったプロヒーローが赤黒を縛り上げた。流石はプロだ。手際と道具の活用方法が俺たちとはレベチだ。

 

「緑谷、お前腕やっただろ」

 

「うん……ちょっと出力をね……」

 

「飯田も足やられてるし……轟はどっか刺されたか?」

 

「いや俺は無事だ。それより永井、お前は大丈夫なのか?頭落とされてただろ」

 

「流石にヒヤッとしたぜ。でも大丈夫。俺はピカピカ無傷だ」

 

大量出血でついさっきリセットされたところだ。

 

「緑の君、足を怪我してるんだろ。背負うよ。背負わせてくれ」

 

緑谷はプロの人に運ばれることになり、赤黒は俺と轟で引きずって運ぶことにした。ただアスファルトに直で行くと、警察まで運ぶ過程で赤黒は間違いなく大根おろしになるから、ゴミ捨て場にあったダンボールに赤黒を乗せて引いていくことに。

 

「悪かった……プロの俺が完全に足手まといだった」

 

「いえ、ヒーロー殺し相手じゃ、あの個性もあって仕方がなかったと思います。あれは一対一で強すぎる……」

 

「四対一、しかもこいつ自身のミスと……永井が時間稼ぎをしてくれたから、ようやくギリギリで勝てた」

 

「そうだ君!本当になんともないんだな!?」

 

「そうですよ。そういう個性なんで」

 

「……強いな君は。でも、自分の命を軽んじちゃダメだぞ。それで傷つく人もいんるだ」

 

「はーい」

 

まぁそれはそうと。

 

「飯田。お前はなんたってあんな場所に一人でいたんだ?騒ぎの中心から随分と外れてるじゃないか」

 

「……それは」

 

俺の質問に、飯田はバツが悪そうに視線を逸らした。

その反応で大体わかった。

 

「分かった。訳まで話さなくていい。でも俺は同級生として、お前を叱らなきゃならない。轟、お前もだぞ」

 

保護管理者及びヒーローの許可なく、個性を他者に向けて使用した……これは個性使用法大原則である『他者への加害』を著しく犯している。

 

そんで話を続けると、どうやら緑谷も許可を受けずに超パワーの個性を使用したらしい。

 

「待てよ。飯田が駆けつけなきゃ、ネイティブさんは殺されてたんだぞ。緑谷が来なきゃ、飯田が殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現には気がついていなかったんだぞ。この件は正当防衛の範疇だろ!」

 

「それは違うぞ轟。個性による正当防衛はそんなに単純じゃない」

 

個性による正当防衛を掲げるには、相手も相応に危険な個性でなくてはならない。

 

例えば赤黒の個性が爆豪の『爆破』だった場合、轟の個性も緑谷の個性も使っていい。それは『爆破』が危険な個性であり、容易に人を殺せる個性であり、『爆破』から自己又は他者を守るには『半冷半燃』や『超パワー』等が有効だと判断できるからだ。

 

だが赤黒の個性は、個性そのものは危険ではない。赤黒本人の凶暴性や凶器を持っていることの危険性はともかく、血を舐めることで発動する相手の動きを止める個性は、少なくとも『半冷半燃』や『超パワー』そして『エンジン』を相手するには貧弱すぎる個性だ。

 

そもそもとして、俺以外全員、職場体験先のヒーローの掌握から外れており、独断で赤黒と戦ったこと。資格未取得でありながら、関係のない戦いに首を突っ込んだこと。

全てが明確な規律違反だ。

 

「お行儀よく規則守って見殺しが正しい行いってか!人を助けるのがヒーローの仕事だろ!」

 

「そうだよ!で、お前はなんの資格があってヒーローを自認してんだよ!」

 

「──む!?んなっ……!」

 

俺と轟とで口論が勃発したその瞬間、どこからか老人の唸り声が聞こえてきて、

 

「何故おまえがここに!!!」

 

「グラントリノ!」

 

「座ってろっつったろが!!」

 

「グラントリぶへぇ」

 

コスチュームを身に纏った小さい爺さんが駆け寄ってきて、いきなり緑谷の顔面を踏んずけた。

うっわ痛そ。

 

てか……グラントリノ?なんかどっかで見聞きしたことがあるような……

 

「こっちだ!すぐそこの細道だ!」

 

「エンデヴァーさんからこっちに行くよう指示されたんだが……子供!?酷い怪我だ!」

 

なんて思考をよそに、矢継ぎ早に色んなヒーローが現れる。

コイツら事が終わってからぞろぞろ出てきやがって。まぁ人目に付きにくい裏路地だったからしょうがないんだけど。

 

「ひどい怪我じゃないか、すぐに救急車を」

 

「ちょっとこいつ……ウソでしょ、ヒーロー殺し!?」

 

プロの人たちは近寄ってくるなり矢継ぎ早に言って、理解が追いついていないという状況だ。

 

「説明は全部後で。誰か、しっかりした拘束具持ってる人いません?最悪頑丈な紐でいいんですけど」

 

「あ、ああ。俺持ってるよ……でも、君私服……ヒーローじゃないよね?」

 

「ええ私服のヒーロー科学生ですよ。でも個性戦闘の許可はプッシーキャッツから貰ってます」

 

ひとまずこの場で応急処置を、ということでネイティブさんの背中から緑谷が降りて、俺もとりあえず赤黒の身柄をプロヒーローの人に渡した。

すると、不意に飯田が「三人とも」と声をかけてきた。

 

「僕のせいで……君たちに傷を負わせた。本当に、済まなかった」

 

飯田は深々と頭を下げて、そんなことを言った。

 

「この一件に関して……僕が一切の責任を負う。僕は……何も、見えなくなってしまっていた……!」

 

「……しっかりしてくれよ。委員長だろ」

 

「そうだぜ委員長。そんな調子じゃ、お前を信じて委員長を下番した緑谷が救われねぇぞ」

 

「……っ、うん……」

 

飯田は弱々しくも確かに返事をして、肩でグイと涙を拭った。

 

そのとき。

 

「── 細道に入れ!!

 

声に、そして続いて耳に入る羽音に気付いて空を見上げると、ホテルに突っ込んできたアイツが猛スピードでこっちに突っ込んできているのが見える。

完全に殺したと思ったが、殺り損なっていたか。

 

グラントリノ野指示の通りは現場の半数は弾かれたように動き出すが、もう半数は事態が飲み込めていなかった。

 

「幽霊!!」

 

目的はおそらく、確保された赤黒の奪取。させてたまるかそんなこと。

 

「ダメだ坊主!逃げろ!」

 

「今度こそぶっ殺せ幽霊!」

 

最悪、俺があのクソ脳無にしがみついてでも赤黒はこちらが確保する。今こいつを持っていかれる訳には行かないんだ──と意気込んで、赤黒を守るように幽霊を出したが、脳無は急に方向を変え、緑谷の肩を掴んだ。

 

「っバ──緑谷!!」

 

「っえ!うそ!!」

 

緑谷を掴んだ脳無はそのまま急上昇。一瞬でビルよりも高い位置に飛んで行った。

 

「飛べ!グラントリノ!!」

 

「言われんでも!!」

 

すぐに脳無を追うようにグラントリノが空を飛ぶが、距離が開きすぎていた。

他に対空能力を持っているヒーローはどうやらいないらしい。轟の炎の射程も多分大きく脱している。

 

……やるしかないか。

 

「轟!ジャンプ台を氷で作れ!!」

 

「お、おう!!」

 

「んで飯田!幽霊乗せっから飛べ!最後の力振り絞れ!!」

 

道路幅に巨大なジャンプ台を形成。飯田の全力レシプロで幽霊と一緒に射出する。簡易即席カタパルト。今更飛んで届くかどうか、望みは薄いがないよりマシだ。

 

射出にGoサインを出す──そのとき。

 

「飛べ──」

 

「偽物が蔓延る社会も……」

 

何度となく聞いた声が、隣を駆け抜けていった。直後、空高く飛んでいた脳無が突然身体を硬直させ、ふらりと落下し始める。

 

「悪戯に力を振りまく犯罪者も」 

 

轟の氷のジャンプ台を利用して高高度まで跳躍し、そのまま脳無に飛びかかると、緑谷を脳無から乱暴に奪い取り、続けざまに脳無の頭部へ拳を、いや、小さなナイフを突き立てた。

 

脳無はそのまま地面と激突し、今度こそ完全に沈黙した。

 

「全て粛清対象だ」

 

立ち込めた土煙の奥で、奴は──赤黒は立ち上がり、脳無に刺したナイフを抜き取った。

 

「伏せてろ小僧!」

 

そしてグラントリノが追いつき、何故か再び動き出した赤黒に蹴りを放つが、赤黒は自身にまとわりついていたダンボールで自分のボディライン惑わし、グラントリノの蹴りをいなす。

 

「こンの──クソ犯罪者がァ!!」

 

だが奴に追従して行ったのはグラントリノだけではない。俺と飯田。レシプロを持て余した飯田が俺を背負い、体育祭の騎馬戦の時のように、超加速で一瞬で赤黒に追いついた。

 

「全ては……正しき社会のため」

 

「正しい社会のためにお前が死ね!!」

 

きっと赤黒は、さっきの跳躍で力を使い果たしたのだろう。

 

俺と飯田の超加速のラリアットを避ける動作も見せず、頭蓋骨が陥没する音が、奴が聞こえる最後の音になった。

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