Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第3話 入学試験

俺がトガヒミコと戦った日から、数週間。

夏休み序盤、8月某日。日に日に照りつける太陽が強くなり、外にたっているだけで熱中症になるような猛暑日であった。

 

今日は三者面談による進路相談の日だ。秋白の大多数、九割の生徒は今日の三者面談で進路が決まる。

神奈川県屈指の名門私立である秋白中学の生徒の進路は8割が系列である秋白高校へのエスカレーター進学、残り2割が外部への進学だ。

 

「待たせたな喜一。行こうか」

 

「うん」

 

今日の三者面談に来たのは父親。駐屯地司令兼高等工科学校学校長である父は、他隊員は夏季休暇中であるにも関わらず多忙なようで、三者面談に制服のまま来た。

どうやら仕事の合間を縫ってきたようだ。

 

「三年生の教室は……こっちだったか」

 

父さんはこの学校のOB。この学校を卒業後、高等工科学校に入学、そして防衛大を経て今では陸将補だ。

 

それはともかく。

 

俺と父さんは担任の待つ教室に入ると、早速三者面談が始まった。

 

「喜一くんの成績は非常に優秀です。定期テストでは常に上位1パーセントをキープし、夏休み前に行われた校内作文コンクールでは中等部の部最優秀賞、部活動の柔道部では神奈川県大会準優勝の成績。授業態度も非常に優秀です。私共としましては、このまま秋白高校への進学をおすすめしますが、可能性を広げるという意味で県外、特に首都圏への進学も視野に入れてもいいかもしれません。ご家庭ではどのようなお話を?」

 

「本人は秋白高校への進学を希望していたと記憶しています。良い友人にも恵まれたようで、毎日楽しそうに学校での話をしてくれます。喜一、考え方に変化は?」

 

「雄英ヒーロー科に行きたい」

 

その一言で、2人がとても驚いたような顔を浮かべた。

そりゃそうだ。俺がヒーローになりたいなんて、一言も言っていないからだ。

 

「……ゆ、雄英高校ヒーロー科だね。えっと……ああ、これです。雄英高校ヒーロー科、偏差値は79。一般入試の定員が36名、推薦4名。入試形式は筆記と実技のふたつ。前年度の倍率は3000倍」

 

「雄英……いきなりどうしたんだ?」

 

「心情の変化だよ。秋白ほどじゃないけど、雄英も名門。悪くない進路だと思うけど」

 

「それにしたって相談してくれてもいいじゃないか」

 

俺が雄英を目指したのは、ほんの三日前だ。

俺がトガヒミコと戦って、どうやって奴に自分の存在をアピールするか考えていた時だ。まず前提として、周りに危害が加わるようなことがあってはならない。

 

俺は偶像だ。可能な限りの清廉潔白が望まれる。

 

だから、俺を狙った犯行で、他人に危害が加わるようなことは避けたい。俺の個性も個性だ。ある程度なら守ってやれるが、せめて周囲の人間にはある程度の自衛能力が欲しい。

 

トガへのアピールと、周囲の自衛能力。このふたつを兼ね備えた進路先。日本最高峰のヒーロー科である雄英高校ヒーロー科の他にない。

あそこなら周囲の戦闘能力は言わずもがな、年一の体育祭は全国に生中継され、優秀な成績を残せば、次の日のニュースにはなる。ただの高校生が一躍注目の的になるってわけだ。

 

それと……伊吹との最後の会話は、雄英への進学を勧められたってものだったしな。

 

「たしかに喜一くんの学力なら入試は余裕でしょう。しかし……その、雄英は戦闘系のヒーロー育成の傾向が強く……喜一くんの個性を活かしきれるかは、こちらとしては断言できかねます。県外の名門なら、関西にはなりますが、士傑という選択肢もありますが……」

 

「第一志望が雄英です。第二が秋白です」

 

「と仰っていますが……お父様、どうでしょう」

 

「……私としましては、この子がやりたいことを応援するつもりです。この子が最善だと言うのなら、きっとそうなんでしょう」

 

「では……そういうことでこちらの手続きを進めます」

 

それで三者面談は終わった。

 

「……伊吹くんか?」

 

廊下を出て少し歩いたところで、いきなり父さんはそう言ってきた。

流石は俺の父親、元特戦団の怪物だ。

 

「あの子のことは残念だったが、お前が背負う事はない」

 

「伊吹は『残念』なんかじゃない。犯罪者の、社会の出来損ないに殺されたんだ」

 

「だからと言ってお前に何ができる。復讐のために夢を捨てるな。殺人犯のためにお前の人生まで捧げる価値なんてない」

 

「親友を殺されて泣き寝入りなんてできない。トガが海の向こうに逃げたって、大陸の端まで逃げたって、俺は正義の大義名分で追いかける」

 

俺がやろうとしていることは、あくまでも正義だ。

法治国家の名のもとに、法律司法の正義の元に、ヤツを徹底的にぶちのめす。最悪殺す。

 

ヒーローにだって正当防衛は適応される。警察の拳銃みたいなもんだ。もちろん、ヴィランを殺してしまったら、当分後ろ指さされるだろうし、その後の仕事にも影響を及ぼす。

 

だが俺は、トガヒミコを殺せるのなら、喜んで茨の道を進もう。

 

それならきっと、伊吹も喜んでくれるだろう。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

そうして時は流れ、気がつけば2月26日。静岡県は全域にわたって見事な快晴で気温も心地よく、受験生を応援しているかのようだった。

 

静岡駅から出る直通のバスの中は受験生で溢れかえっており、単語帳を開いて最後の追い込みか、音楽を聴いて集中力を高めたり、あるいは緊張をほぐすため、できたばかりの友人と雑談をしていた。

 

この年に限らず、ここ雄英高校で行われる入試試験は、それは大規模なものだ。

受験者数は実に数千。地元静岡を筆頭に、関東近郊、首都圏、北は北海道に南は沖縄。さらには帰国子女であろうか、諸外国からの受験生も見られる。

そんなわけで、駅から出るバスはシャトルバスは大型で、一度に大勢を輸送して、五分に一度のペースでバスが次々と到着した。

 

バスが目的地に到着したとき、車内の緊張感は一気に高まった。

受験生たちは、少しでも学校側からの印象を良くしようと、謎に譲り合ったりしているが、そんなこと無意味。むしろスムーズに降りる方がいいと分からないものか。

 

バス停で降りてすぐ、受験の受付を済ませ、校門をくぐって校舎へ向かう。

 

目と鼻の先には、見上げれば首が痛くなるほどの高層の校舎。見えている部分だけで既に普通の高校がいくつも入りそうなものだが、これがほんの一部だと言うのだから驚きだ。

 

「……ん?」

 

高層の校舎に見とれていると、何やら前方が騒がしい。というか下品だ。

 

見れば何やら険悪な雰囲気のふたりの受験生。制服が同じだから、おそらく同じ中学らしいが、一方の生徒から「殺すぞ」なんて口汚く罵られている。

仲が悪いのは勝手だが、せめて他所でやれ。

 

それに罵られた方、足の震えが酷いな。産まれたての子鹿の方がまだ上手く立てる。あんなんじゃすぐに転ぶ──って言わんこっちゃ……

 

「……ん?」

 

「へ?」

 

「え?」

 

思わず掴んで支えようとしたが、どうも軽い。軽すぎる。異常な程に。

 

「あ、ご、ごめんね?私の“個性”勝手に使っちゃって。でも、転んじゃったら縁起悪いもんね」

 

「いい個性だな」

 

「あ、ありがとう……」

 

なるほど、女子生徒の個性か。さしずめ、触ったものの重量か質量をどうにかする個性だろう。いい個性だ。

 

「緊張するよねぇ。お互い、頑張ろう」

 

「ああ。幸運を祈るぜ」

 

「え、……あ…………えと」

 

そう言うと女子生徒は校舎の方へ歩き出す。丁寧にこちらに手を振ってくれたが、助けられた奴は固まったままで、

 

「女子と喋っちゃった!」

 

「喋れてはなかったぞ」

 

とんでもなく不細工だった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

『今日は俺のライブへようこそー!エヴィバディセイヘイ!!』

 

ここ……受験会場、だよな?

入試実技試験の説明会場って聞いてたから、合ってると思うが……それで合ってるのなら、あの説明役の配置は不適切だと思う。

 

たしかに受験生向けパンフレットには自由な校風が売りで、教師陣においては服装の規定はなく、生徒においてもアクセサリー類の着用も認められてる……けど、限度ってもんがあると思う。

 

こんなふうに規定を無くすと、パッション重視で無駄が多くなるから。

 

んで、その無駄な説明を掻い摘んで纏めると、市街地を模した試験場で、仮想ヴィランを相手にした実戦形式の試験か。

 

その撃破によって手に入る『ポイント』を競う。つまり、いっぱい倒せばいいって。

 

よしいいぞ。

雄英みたいに分かりやすくThe戦闘系ヒーローの育成学校は実技試験の予想が立てやすくていい。これが士傑みたいなオールマイティ、幅広い分野のヒーローを排出している学校なら予想に手こずっただろうが、雄英は良くも悪くも、どちらかといえば悪くもの割合多めで単純だ。

 

ここまでは予想通り。どうせなんかぶっ壊す系だと思ったよ。

 

対象はロボットみたいだが、受験生は中学生。どうせ大した強度はない。

 

説明の最中、なんだか真面目そうなメガネの奴がプリントの内容について質問したり、そのついででさっきの不細工がディスられる場面があったが……気にするほどのことでもないので、あんまり聞いてなかったし覚えてない。

 

ただ、その後に説明された内容は聞いていた。倒しても加点されない、ゼロポイントのお邪魔虫がいると。

 

……どう考えたってなんかある。

 

おじゃま虫だと?既に受験生同士で邪魔し合うようなシステムで、またおじゃま虫を放つ意味なんてない。

どうせゼロポイントを前にどう動くかを見てるに決まってる。こんな試験形式を取ってるんだ。どこかにカメラが仕込まれてて、それを採点官が見張ってるんだろ。

 

その後に聞かされた、この学校の校訓『Plus Ultra』。スペインにおけるラテン語のモットー『さらなる前進』を意味する言葉だ。

……今の説明の仕方だとナポレオンが言ったみたいになってるけど、本当はカルロス一世だ。

 

まぁそれは置いておいて。

 

俺もジャージに着替えて会場に行くか。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

『はいスタート』

 

気の抜けた声が、何の前触れもなく試験場に響き渡った。

 

『どうした!?実戦にカウントダウンなんざねえんだよ!走れ走れ、賽は投げられてんぞ!』

 

受験のとき、受ける高校がどういう生徒を欲しているかと考えるのは、俺だけじゃない。

雄英が求めるヒーロー候補生の姿。

 

市民を、ひいては国を守るという強い意思と、任務に対する献身的な姿勢、つまり『使命感』

自分の行動や任務の結果に対して、最後まで責任を負う覚悟。『責任感』

厳しい訓練や任務に耐えうる強靭な心身『体力・気力』

そして、有事の際直ちに任務につくことができるよう常に物心両面の準備を整えること。つまり『即応性』

 

さらに、試験形式から、どこにヴィランがいるか状況をいち早く整理するための『情報力』

どのような状況でも冷静で居られるための『判断力』

直ぐに現場に駆けつけるための『機動力』

凶悪な敵に敗北せぬための純然な『戦闘力』

 

俺はこれらが、少なくともどれかひとつは、雄英の受験で試されると予想していた。んで、結果として即応性が試されたってわけだ。

そんな予想をしていたおかげで、俺は他の受験生よりもずっとずっと早く動き出せた。

 

他の受験生とポイントを奪い合う形式なんだ。先行スタートは合格の必須条件だ。

 

そんなわけで、仮想敵はすぐに見つかった。走り始めてすぐに、曲がり角を曲がって何体もこっちに向かって走ってくる。

タゲは全部俺。ちょうどいい。全部ぶっ壊してやる。

 

『標的発見……ブッ殺ス!』

 

「口が悪りぃぞ」

 

それと遅すぎる。1ポイントだからか、動きが荒くて雑だ。粗雑な素材で、単純なプログラムしかされてないんだろう。

格好の的だ。

 

「ふんッッ!」

 

そしてやはり、見かけに対して軽すぎる。動きに必要な部品、モーターもかなり粗雑なものと見た。

その程度のモーターなら、神奈川大会で組み合った奴の方がずっと手強い。

 

俺に一本背負いで投げられたヴィランロボットは、当然受け身なんて取れるわけがなく頭から地面に突き刺さるように落ちる。

頭部は完全に粉砕され、そこに重要な機関が集中していたのだろう。ロボットは動かなくなった。なるほど、弱点は人間と一緒か。

 

派手に音を立てたのがよかったんだろうか。今度は3体まとめて寄ってきた。しかも、全部2と3ポイント。

 

ちょっと骨が折れそうな数だが……関係ない。

 

「てめぇらを潰してまとめて、鉄くず業者に出しやすくしてやるよ」

 

1ポイントの残骸を持ち上げる。1ポイントの装甲は1ポイントらしく軽くて薄いから、持ち運びは容易だ。

 

2、3ポイントのロボットは1ポイントに比べてかなり大型になる。これじゃ流石の俺でも投げられない。

でも攻略は簡単だ。大型な分、関節も大きい。関節はどう頑張っても装甲を張れない。ガンダムしかり、戦隊ロボしかり。関節には何もない。

そこが弱点だ。

 

「ハッッ!」

 

思った通り、蛇腹の関節部分はプラスチック。1ポイントの装甲で簡単に切り裂けて、中の銅線をちぎることができた。装甲は……ちょっと持ち運びには不便そうだ。俺はこのまま1ポイントで乗り切るか。

 

「……ゼロはいつ出てくるんだ?」

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