Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第4話 入学へ

…こりゃ、ちょっと不味いな。

 

さっき、ヒーローの素養の()()()が試される、なんて言ったが、ちょっと甘かったみたいだ。

 

全部だ。

 

全部一気に求められてる。正直無茶だ。俺たちはまだ中学生だ。訓練なんて受けてないし、良くてジムトレーニングくらいだ。

それなのに、一気に全部求めてくるなんて。想像以上に無茶苦茶な学校だ。

 

遠くに見えるゼロポイントが、その象徴だろう。

 

ビルより高く、道路幅を優に超える横幅。1メートル進むだけで大損害を起こしている。3ポイントとか軽自動車サイズだったのに、いきなり規模大きくし過ぎだ。

 

おじゃま虫と言うより、あれはハッキリとした脅威だ。近くの建造物を薙ぎ倒しながら、周囲へ瓦礫を撒き散らしていく。運が悪ければ、死ぬ人間が出るのではないかと思えてしまう。

現に、その可能性を恐れて、ゼロを目にした途端、一目散に逃げていく受験生たちがほとんどだ。

 

俺も早く避難しないとヤバい。今屋上にいるから、早く逃げないと、奴の歩く災害に巻き込まれる。運が良ければ死ねるが、気絶してその後ポイントゼロなんて冗談じゃない。とりあえずビルから降りる。

 

逃げてる最中にビルが崩されて、生き埋めになるのだけは避けたかった。

俺は永眠はしないが、死にはする。もし俺の死が試験官に発見されると、実戦以下のこの状況で死ぬ実力だと判断しかねない。そんな奴を学校に入れたいかどうかなんて、火を見るより明らかだろう。

 

命あっての物種とはよく言ったもの。死んではヤツへの種すらまけな──

 

「うお!?」

 

巨大ロボが大きな腕を振り上げ、こちらに振り下ろしてくるのが見えた。どうやらターゲットをこちらに絞ったようだ。

だがギリギリのところで瓦礫は俺には落ちず、周りに散らばった。

 

「危なかった……とっとと逃げ」

 

 

 

「──……う」

 

 

……違う。ターゲットは俺たちじゃない。そうだ。なんで気が付かなかった。

 

俺はゼロポイントからの攻撃を避けたんじゃない。ゼロポイントの攻撃の()()を避けたんだ。だから反応できたし、それで避けられる瓦礫しか飛んで来なかった。

 

そして真のターゲットは、攻撃に反応できず、瓦礫に潰されていた。

奇跡的な隙間に、奇跡的に収まっている。その奇跡は、いつ崩れてもおかしくない、絶妙なバランスだ。

 

「──出ろ!」

 

俺の命はひとつじゃない。100の命があるのだとすれば、100回生き返ることができる。マリオで例えれば、残機が100個あるって事だ。概念的な話をすれば、俺という器に100個の魂が乗っているということ。

 

その魂を、俺は同時に2個使うことができる。

 

この黒の幽霊はそういうイメージだ。

 

黒い幽霊は俺なんかより何倍も力が強く、たった一体でも、俺が入れるだけの隙間を作ってくれる。

 

ゼロポイントはデカく、故に遅い。巨体故に重量があるせいで、モーターや中の駆動部が激しく動けないのだろう。

だが重量があるということは、遅くても自重やパワーでビルなんか簡単に崩せるということ。

 

時間はあるようで、ない。

 

「アンタ!動けるか?!」

 

……返答はない。意識がないのか。ということはさっきの呻き声は譫言。詳しい状況は分からなくなった。

 

通常、倒れた人を動かすことは愚行とされている。だが状況が状況だ。一か八かで賭けても、確定で死ぬよりマシだと思って貰いたい。

 

「うおおおおおお!!」

 

瓦礫の下にいたヤツの服を引っ張り、瓦礫から引っ張り出す。

 

「幽霊!コレを担いで走れ!!」

 

ここで俺と幽霊の役割を交代。傷病者の護送を優先する。

 

俺はずっと考えていた。既に他受験生という邪魔な存在がいるのに、どうしておじゃま虫なんてギミックが存在するのか。

俺はさっき、ゼロポイントを見てどう反応をするかを採点していると考えた。それは合ってると思う。じゃあその一歩先、採点基準だ。

 

何が加点され、何が減点なのか。

ちょっと考えれば分かる。ここはヒーロー科。ヒーローは何をする職業だ?人助けだ。人を助ける、助ける姿勢を見せれば、加点は貰えるはずだ。

 

ならもう十分。何もゼロポイントと戦って助ける必要はない。きっと他の受験会場ではこういう奴が何人かいるはずだ。

だがあの巨体だ。ぶっ壊すとどう戦ったって、倒れる時にビルを巻き込むに決まってる。

 

「走れ!」

 

ゼロポイントはすぐ目と鼻の先。今だって、ゼロが薙ぎ払ったビルの瓦礫が飛んできている。

 

傷病者を担いだ幽霊を先行させ、あえて俺があとから走ったのは、ロボットがいちばん近い受験生をターゲットにするというプログラミングをされているからだろう。

そうなると、必然的にターゲットは幽霊ではなく、俺たちということになる。

 

この場面において、命の重さは[傷病者>俺]だ。

 

命は平等?ほざけ。無限にある命とひとつしかない命、どっちの方が価値があるか、赤ん坊でもわかる。

 

んで……

 

『終~~~了~~~!!』

 

俺の時計のアラームと一緒に、プレゼント・マイクの終了アナウンスが鳴り響た。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

雄英入試から1週間が経った。

入試前の説明では、試験から1週間で離島等一部を除いて結果が届くらしい。

 

高校の入試で結果が届くってのがよく分からん。どうせなら合格者の受験番号をweb公開とかしてくれた方が手っ取り早いんだけどな。

 

ちなみに筆記は国語98数学100理科97社会92英語97の484点。ちょっと社会が伸びなかったが、こんなもんだろ。

実技は俺の予想が正しければ、間違いなく合格だ。そもそもヴィランロボットの半分くらいは俺が壊したんだ。試験官ポイントがなくても合格圏内だろう。

 

「はーい席つけー。HR始めるぞー」

 

期末テストも終わり、自由登校となった秋白中学だが、週に1度の登校日というものがあり、HRをやって解散。内部進学生は高等部の見学が許されている。

 

「みんな、春休みになっても異常ないようでなにより。外部進学生も、公私共に受験が終わり一段落。束の間の休息だと思って、ゆっくり羽根を伸ばすといい」

 

いつもは聞き流している担任の話も、後数回だと思うと感慨深い。

 

「それと永井くん。雄英から手紙が届いているから、後で取りに来るように」

 

「はい」

 

「それじゃあ、解散。内部進学生は、しっかり高等部の見学を済ませておくこと」

 

遂に来た。

雄英の校章の封蝋がなされた一枚の茶封筒。

 

正直恐ろしい。さっきは高らかに合格圏内だと思ったが、そもそも受験は自分がどれだけできたかではなく、他人の結果に依存するところだ。

試験は受け慣れているが、人生が左右される試験は幼稚園ぶりだ。

 

「永井くん」

 

さていざ茶封筒を開こうとしたところで、クラスメイトが話しかけてきた。

仲は良くないが悪くもない。そんな印象の女子生徒だ。

 

「それ、雄英の結果通知だよね?」

 

「うんそうだよ」

 

「私も一緒に見ていい?」

 

「一緒に?」

 

「うん。私のお兄ちゃんが雄英に通ってて知ってるんだけど、ヒーロー科の合格通知って書面じゃなくて、ホログラムの投影機が送られてくるんだ。その厚み、紙じゃなくて投影機じゃない?」

 

……てことは投影機が送られた時点で確定演出ってわけか?たしかに紙にしては厚さが不均一だと思ったけど。

 

「はい、ペーパーナイフ」

 

「ありがとう」

 

そんなわけで、この時代にペーパーナイフを持っている不思議女子と見ることに。

でも、やっぱりみんな気になるようで、俺も私もいいかと聞かれ、結局担任交え、結果を確認する運びに。

 

「……よし!」

 

俺は一思いに、借りたペーパーナイフで茶封筒に一閃。

そして封筒を斜めにし、出てきたのは……

 

「投影機か……」

 

さっきの話から、これが出てきたってことは俺の合格は確定……なんて話だったが、まだ分からない。

そもそもこれが投影機かどうかも怪しいもんだが、とりあえずなんか押せそうなところを押してから机に置いて、起動を待つ。

 

すると、起動音と共に空中に映像が浮かび上がった。

 

『私が投影された!!!』

 

そこに映し出されたのは、日本を象徴するヒーロー『オールマイト』その人だった。いつもテレビで見るいわゆるゴールデンエイジのコスチュームではなく、黄色のスーツを着ている。

 

「……オールマイトって雄英教師だったか?」

 

「OBって話は有名だけど、教員なんて話し始めて」

 

という疑問を想定していたのだろう。映像のオールマイトは、来年度から雄英ヒーロー科の教員として勤務すると説明があった。

 

『まず君の受験結果だが、筆記は484点。文句なしの合格だよ。流石は秋白だ、いい教育をしている!そして実技!ヴィランポイント45点!この時点で十分合格だが、我々が見ていたのはヴィランポイントのみではない!!』

 

オールマイトが笑顔でリモコンのボタンを押すと、後ろの画面に俺がピックアップされた映像が映る。

 

『表情を見ればわかるさ!己の合格を確信しながらも、どうすれば他の受験者を出し抜けるかとこちらの意図を理解して行動するなんてな!まったく君って奴は本当に賢い!』

 

「……バレてるよ」

 

「理由はどうあれ行動は正しかったはずだ」

 

まさか打算的と取られて減点……なんてことは無いはずだ。

……ないよな?

 

『理由はどうあれ君は正しいことをした!偽善上等!我々が見ていたもう一つのポイントこそ救助ポイントだ!!君の救助ポイントは30ポイント!合計75ポイント!1位まで2ポイント差まで迫ったが、一歩足らなかったな!でも十分合格点!4月に君の入学を待っているよ!!』

 

その言葉を最後に、素敵な笑顔のオールマイトの投影は消えた。

それと同時に、肩の荷がおりたのか、一気に思考がクリアになる。

 

「じゃあ永井くんは進路指導室に行って、進路決定の書類作成お願いね」

 

「はい」

 

進路は決まった。親に連絡に入学準備。

この時期、やることは多い。とっとと全部やって、伊吹に報告に行かないと。

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