Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第8話 インタビュー

オールマイトが雄英高校教師に就任したという話題は、雷が如き速度で全国に広がり、雄英高校の正門前には、連日マスコミが押し寄せていた。

登校する生徒たちにカメラとマイクを向けてはインタビューを求めている。

 

「教師としてのオールマイトはどんな感じですか?」

 

相手はNHA、日本ヒーローアカウント。静岡県を放送対象とした、ヒーロー特集を得意とするテレビ局だ。

決して大手ではないが、ヤツに……トガヒミコに俺の存在をアピールするには十分なメディアだ。

 

「憧れが目の前にいるので、生徒の士気が上がっている気がします……でも、やっぱり先生としては素人感が目立ちますね」

 

「え!?オールマイトが!?く、詳しいこと教えてください!」

 

「いいですよ」

 

会話をしながら、茶髪の女性インタビュアーはマイクを持つ手とは反対の手でメモを取り出す。

新聞やテレビのインタビューは自分のものではなく、常に俺の言葉を聞いたインタビュアーのものだ。記者たちは常にメディアの性質もとに、意識的、または無意識に言葉を翻訳してしまう。

 

今中心にインタビューをしてるのはヒーローオタクに向けたメディアだから、求められるのはオールマイトの意外な一面だ。

 

ほかのカメラやマイクも俺に向けられる。

きっとこの連中が求めているのは、完全無欠の英雄オールマイトの人間らしい一面だ。生徒の情熱に胸を打たれ、訓練で大怪我をさせてしまった失態も、可愛らしい言葉に書き換えられる。

 

「君の学科は?」

 

「これでもヒーロー科です。もうオールマイトの授業も受けましたよ」

 

まだ1年生ですけど、と付け加えると、記者の目が爛々と輝いた。ヒーロー科の生徒。インタビューの対象には持ってこいの人材だ。

 

「改めて、オールマイトの授業はどのような感じでした?」

 

「オールマイトはまだ新人、授業ではカンペを堂々と読んでましたね」

 

俺が言葉を発すれば、全員がいっせいにメモを取り出す。その様子が面白いからつい喋りすぎてしまいそうになるが、落ち着いて、記者たちが欲しがっている言葉を出そう。

 

「他に感じた印象は?」

 

「まだ初日だったのに、いきなり室内の戦闘訓練だったのは驚きました」

 

実践重視。口にしていない言葉がメモを躍る。

 

「どうして貴方は雄英高校に?」

 

瞬時に気持ちを切り替える。今日の目標が唐突に現れた。

 

「私の親友は心無いヴィランに殺されました。彼との最後の会話も、彼の葬式で泣き崩れる家族の声もまだ覚えています。私は心無いヴィランによって流される涙をなくしたい。みんなに笑顔でいてほしいんです」

 

あえて感情的な語彙を駆使すると、カメラマンやインタビュアーたちは頬を紅潮させてメモを走らせた。

そのまま行け、いやむしろお前の言葉をふんだんに使って感情的に翻訳しろ。

 

メラビアンの法則によれば、人間同士がコミュニケーションによって受け取る情報のうち、視覚情報は55%を占めるのだとか。

なら偶像になるために、俺は悲劇感を演出しよう。

 

複合的な動機なんて必要ない。俺が目立てば、記者たちはこぞって「親友を殺された中学生」「無念を一身に背負うヒーロー候補生」「彼の復讐劇」を書き立てる。

 

目立ち、良きヒーロー像となる。

俺はここにいるぞとアピールする。

俺を殺せ。残酷に殺せばいい。そうすればお前の存在が世間に広がり、世論は激しく動くことになる。

全国民同意のトガヒミコ狩りを、ヴィラン狩りを行える。

 

──キーンコーンカーンコーン……

 

「十分前の予鈴です。もういいですか?」

 

「ええ。ありがとう」

 

適当なお礼を受けて、俺は校舎内へ進む。

すると、玄関手前に、相澤先生がこちらを睨むように立っていた。

 

「……永井」

 

「おはようございます相澤先生。そんなに怖い顔してどうしたんですか?まだ時間には余裕がありますよ」

 

「あまりメディアを煽るな。あることないこと書かれるぞ」

 

「いいじゃないですか。メディアを統制するのも良いヒーローですよ」

 

相澤先生のメディア嫌いはA組じゃもう有名だ。だから俺のメディア対応に怪訝な表情をするのも分かるが、俺と相澤先生じゃ考え方が違う。

 

遅刻になる前に教室に入り、百さんや轟に挨拶していると、さっきぶりの相澤先生が入ってきて朝礼が始まる。

 

「はいおはよう。昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績は見させてもらったぞ」

 

相澤先生はプリントの束を片手に教卓の前に立つと、チャイムが鳴り終わるのを見計らったように口を開く。全体に対しては特に言及はなく、爆豪と緑谷にそれぞれ注意と、激励とも取れるような言葉を伝えていた。

 

「……さて、HRの本題だ。急で悪いが今日は君らに……」

 

ビクリとクラスメイトたちの身体が強張るのが、一番後ろの席からだとよくわかった。

 

そして話題は学級委員長を決めることに。

いいね。偶像への第一歩だ。

 

「静粛にしたまえ!」

 

にわかに騒がしくなった教室が、飯田の一言で静まり返った。

 

「〝多〟をけん引する責任重大な仕事だぞ……『やりたい者』がやれるモノではないだろう……!周囲からの信頼あってこそ務まる聖務。民主主義に則り、真のリーダーはみんなで決めるべき。つまりこれは投票で決めるべき議案!!」

 

「その通り、ここは民主主義で決めよう。みんなクラスサイトにログインしてくれ。投票ルームをつくる」

 

……で、結局。

 

「僕3票!?」

 

「……2票か」

 

「あら、私も」

 

緑谷3票の、俺と百さん2票……飯田はゼロ?立候補しといて自分に投票しなかったのか。

このまま行けば緑谷がクラス委員の、俺か百さんが副委員の決選投票……いや。

 

「時間かかるし、副は二人体制でどうですか?」

 

「……別にいいよ。委員長はひとりだが、それをサポートするやつは何人いても大丈夫」

 

というわけで緑谷がクラス委員長、俺と百さんが副委員長となった。

 

ちなみに爆豪が緑谷に入れたのは誰だと言っている反対側で、麗日が下手くそな口笛を吹いているが、多分アイツと飯田だろう。分かりやすい。

じゃあ俺と百さんに入れたのは、轟と……峰田?昨日ぶりだが、なんかやったっけな。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

そうしてお昼になって。

 

「緑谷、飯一緒にどうだ。クラス委員同士、コミニケーション取っとこうぜ」

 

「永井くんに八百万さん。うん。よろしく」

 

惜しくも委員長を逃した俺と百さんは、飯田と麗日とで昼食を取っていた緑谷の隣に座る。

百さんは弁当らしいが、食堂は持ち込みおっけーってことで一緒に来てもらった。ちなみに俺の今日のお昼は竜田揚げ定食。明日は生姜焼き定食にしようと思う。

 

「八百万さん永井くん。改めてよろしくね。僕、人前に立つことあんまなくて……」

 

「そんなもの見ればわかる。だから副委員を2人体制にしたんだ」

 

委員長が正式にきまり、一番前に立った時、緑谷は産まれたての子鹿が如く足を震わせていた。見ていて少し面白かったが、もしかしたら委員長の座は奪えるかもしれないと思えるワンシーンだった。

 

「大丈夫だよー。デクくんならきっと務まるって!雄英試験の時みたいにカッコいい感じで大丈夫だよ」

 

「麗日君の言う通りだよ緑谷君。君なら大丈夫さ。今までの君の行動を観察させてもらって大丈夫だと僕が思ったのだから入れさせてもらった事だしな」

 

「「僕……?」」

 

緑谷と麗日の声が被り、それに俺と百さんも顔を上げた。飯田の一人称は『俺』だったはずだが。

 

それでやばいという顔をしてしまった飯田だったがあとの祭りである。麗日には「もしかして飯田君って坊ちゃん……?」と言われてしまったのだ。

そうか、二人は飯田家を知らないのか。

 

「インゲニウムを知っているかい? 俺の家族なんだ」

 

「うん、知ってるよ! インゲニウムといえば―――……」

 

そこで緑谷のヒーローオタクが炸裂し、 それを聞いた飯田も気を良くしたのか笑みを浮かべていた。人間自分の家族の事を褒められて気をよくしない人なんていないだろう。

 

「坊ちゃんでいえば、お二人さんもそれっぽい雰囲気があるよね!お城とか住んでそう!」

 

「そんなわけないだろ……」

 

「私も、それほど浮世離れな生活は送っていませんわ」

 

いや、百さんの家は十分浮世離れしてると思う。爺さんの付き合いで八百万家に招かれたが、あんなお城、USJのホグワーツ城でしか見たことないぞ。

 

「ん?麗日くん、永井くんと八百万くんの家を知らないのか?」

 

「へ?有名なん?」

 

「2人とも」

 

「いいぞ。俺から話す」

 

飯田は話題を俺たちに移し、話していいか俺にアイコンタクトを送ってきた。

家の事は好きだし、先祖やじいさんには誇りを持っているが、改めて話すと、ちょっと気恥しいな。

 

「まず俺、父は神奈川県武山駐屯地司令兼高等工科学校学校長、母はヒーロー『サジタリウス──

 

「ヒーロー『サジタリウス』!!?あの女性No.3ヒーローの!?あの3キロ先の逃亡ヴィランを仕留めた伝説を持つ!!?本当に!!?」

 

「お、おう……本当だ」

 

食い気味だったな。いま。ズイって、机から乗り出してくるもんだから、一瞬マジで食われるかと思った……

 

「喜一さんのお父様の永井総一郎陸将補のお父様、つまり喜一さんのおじい様は、永井誠一元内閣総理大臣ですわ」

 

「「も、元総理大臣!!!?」」

 

そう。俺の祖父、永井誠一は元内閣総理大臣。永井内閣を組閣した人だ。同一閣僚内閣として、阿部内閣の617日につぐ608日を記録し、超常時代最長記録を更新、今でも破られていない。

御歳92歳、髪の後退は目立つものの、未だ腰は真っ直ぐの元気な爺さんだ。多分あの爺さんは200歳まで生きると思う。

 

「お前たちも知ってるだろう。ヒーロー民営化を進め、欧米諸国とヒーロー条約を結んだ永井誠一だ」

 

「れ、歴史の教科書で見た人や……」

 

「私も何度かパーティーでお会いしましたが、とてもお元気で、お酒を豪快に……」

 

あの爺さんは酔っても飲み続ける。厄介な爺さんだ。

 

「それで、八百万さんの家は?」

 

「私の家は……その、八百万グループを創設した八百万家でして。父は地元愛知でスーパーマーケットの会長と地元大学の名誉教授ですわ。母はバイオリニストで、イタリアで演奏をしていた際に父と出会ったそうです」

 

「……ふふ」

 

「ん?永井くん、どうかしたん?」

 

「いや、百さんのお母様の話を思い出してな」

 

百さんの言う通り、百さんのお母様はバイオリニスト。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のソリストとして招待されたこともある超がつく程の実力者だ。

でも結婚を理由に日本に帰国。そこで社会勉強と称して、一般企業で働いてみたいと、アルバイトを探していたところ、演奏ができると思って音大の清掃員スタッフに申し込んだらしく、結果楽器に触れることなく契約満了で退職したらしい。

なんとも箱入り演奏家らしいエピソードだった。多分百さんも同じミスをすると思う。だって百さんお母様似だから。

 

「ま、俺も飯田も、特別金持ちって訳じゃないし、百さんもそれを鼻にかけるようなことはしないさ」

 

多分だけど、麗日も緑谷も、そこまで裕福な家庭の産まれではないのかもしれない。

でも二人共、良い家庭で育ったことは間違いない。

 

「そうそう緑谷。クラス委員でSignalアプリを入れて欲しくて、今スマホ出せるか?」

 

「うん。シグナルね」

 

Signalアプリとはプライバシーとセキュリティを最重視した無料SNSだ。正直何がどうセキュリティが高いのか分からないが、なんか雰囲気がそれっぽいからクラス連絡網で使うことになった。

 

そんなわけで緑谷の電話番号を控える……その時。

 

 

ウゥ━━━━━!!!

 

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに安全な避難してください。繰り返します。セキュリティ3が――』

 

 

けたたましい大音量の警報と共に、そんなアナウンスが食堂中に、いやおそらく学校中に響き渡った。

 

「な、なになに!?」

 

「セキュリティ3……雄英警備システムの最奥、校内に誰かが侵入してきたってことだな」

 

雄英の警備システムは自衛隊の駐屯地レベルかそれ以上だ。

敷地全体が高い兵に囲まれ、全辺をレーダーが四六時中監視している。まず塀が超えられればセキュリティ1の通達、及び雄英バリアーの起動。

 

続いて雄英バリアーが突破されればセキュリティ2の、警備ロボットの出動。そして校舎内にまで侵入されれば、セキュリティ3。この時点で教員ヒーローや警察に自動連絡が行く。

 

そんなセキュリティシステムで3まで突破……ただ事じゃないことは確かだ。

 

「は、早く避難を──」

 

「待て!無闇矢鱈に動くな!入口を塞いでバリケードを……って無理か!」

 

セキュリティ3が突破された時点で、相手はただの一般人じゃない。個性犯、いわゆるヴィランだろう。

なら安全かどうかも分からない校舎内を逃げ回るより、この食堂をセーフルームにするのが一番だったが……避難が迅速すぎてそれも出来ねぇ。

 

「ど、どうしよう……」

 

「入口はひとつじゃない。なるべく動線が限られる場所をセーフルームにする」

 

「そ、それは……」

 

「厨房だな。あそこはタイル張りで壁の耐久性も高いし、厨房の設備はいいシールドになる上に、あそこにはランチラッシュがいる」

 

超常発現以降、世界各国では犯罪発生率が跳ね上がった。日本もご多分に漏れず、100人に1人の割合で何らかの犯罪被害に遭遇している。

それに伴い、超常発現前からある雄英高校も防犯防御に力を入れた。それこそ、前時代のアメリカの学校のような要塞化が可能になったのだ。

 

本当は食堂の入口も、亜鉛メッキ鋼の扉を閉じることができることになってるんだが……みんな忘れてるみたいだな。

雄英の生徒手帳に書いてあることだぞ偏差値70オーバーなら覚えとけ。

 

「……いや、それじゃあ僕たちだけ逃げることになるじゃないか」

 

「その通りだ。厨房には入れる人数も限られる。可能な限りの人と一緒に避難するんだ」

 

「それじゃあダメだ!」

 

飯田は俺に提案に、何か思い立ったように立ち上がる。

 

「俺たちはヒーロー科だ。このパニックになった群衆を落ち着かせ、日常を取り戻さなくては!」

 

「ヴィランに立ち向かうってか?高校入学一週間以内で何言ってるんだ」

 

「……いや、アレを見るんだ!」

 

飯田に指さされた方、それは屋外に続くガラス扉だ。その奥には手当り次第の生徒教員にマイクとカメラを向ける報道陣。その先頭には、今朝俺をインタビューしたNHAの人。

……出る番組間違えたな。

 

じゃなくて。

 

「……飯田、考えあるか?」

 

「……兄さんは迷子の手を引くばかりか、進んで人々の前に立ち、目標になってきた。俺も、そのようになりたい」

 

何か考えがあるようだ。

 

「八百万くん、拡声器を作ってくれ!」

 

「は、はい!」

 

「麗日くん、俺を浮かしてくれ!」

 

「永井くん、黒い幽霊を使って俺を出口の方、EXITの上くらいに俺を投げてくれ」

 

「任せろ」

 

なるほど。考えが読めてきたぞ。非常口のピクトさんになろうってか。

いいね、乗った。

 

「いいのか飯田。俺の幽霊は常に火事場の馬鹿力を発揮し続けてる。力の調整は難しいぞ」

 

「関係ない!全力で投げてくれ!」

 

「よっしゃあ!出ろ!幽霊!!」

 

ジワっ……と俺から黒い物質が溢れ出て、人の形を作り出す。

 

「……!なるほど、これが黒い幽霊!」

 

「行くぞ飯田!麗日!浮かせろ!」

 

「了解!」

 

飯田が麗日の手を触れるのと同時に、飯田の身体がふわりと浮かぶ。ゼログラビティ……入試の時も思ったが、やっぱりいい個性じゃないか。

 

「上手く飛べよ飯田ァ!!」

 

幽霊は飯田の足を掴むと、大きく振りかぶる。すると飯田はペットボトルロケットのような勢いで飛んで行った。

……やべ、やっぱ強く投げすぎたか。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「ふ、2人とも……ちょっといいかな?」

 

終礼間際。俺と百さんと緑谷は、終礼でほかの委員会を決めるように言われ、その打ち合わせをしていた時、珍しく緑谷から会話が切り出された。

 

「どうした緑谷」

 

「ぼ、僕……クラス委員長を辞退して、新たに飯田くんを推薦しようと思うんだ」

 

……ほお。

 

「意図を聞こう」

 

「お昼の警報騒動を見て思ったんだ。飯田くんはあれだけのパニックを収める方法を思いついて実行した……僕はただ黙って見ていることしかできなかった。そんな僕より、飯田くんの方がクラスをまとめる委員長として相応しいんじゃないかって」

 

「……なるほどな。それで副委員長である俺たちに話をしたってわけか」

 

俺と百さんは少し顔を見合せて、無言のアイコンタクトで答えを出した。

 

「いいんじゃないか」

 

「ええ。私も同意ですわ」

 

確かに緑谷の言う通り、飯田はリーダーに向いている。

頭でっかちで頑固者と言えばそこまでだが、規律を厳守し、秩序を保つと言え、その上で大衆を統制する能力に長けている。

 

こう言っちゃアレだが、ひとりで背負って自爆する緑谷よりずっとリーダーに向いているかもしれない。

 

別に俺も、リーダーに固執する理由もない。多少人間らしさを見せた方が親近感が湧いて偶像に近づける。

 

百さんも、自分の向き不向きを知って、飯田に譲ったみたいだし、ちょうどいい。

 

そういうわけで、A組クラス委員長は、緑谷出久改め飯田天哉で決定した。

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