Nec Plus Ultra,   作:ひがしち

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第9話 USJ襲撃

「一塊になって動くな!13号、生徒を守れ!アレは……ヴィランだ!」

 

レスキュー訓練の実技として訪れた雄英高校訓練場『嘘の事故と災害ルーム(USJ)』での一幕。

 

たしかにずっと違和感はあった。そして昨日の一件。傍から見ればマスコミの暴走に見える。でも流石に日本のマスコミでも、雄英バリアーを突破してまで取材はしない。そんなことをすれば、マスコミの権威の失墜は目に見えている。

陰謀論的に聞こえるが、今日のことを踏まえれば、唆した奴がいたはずだ。

 

その唆したバカが、これから授業が始まるって時に現れた。

 

服装、歩調、個性に統制がない。見るっからに寄せ集め。共通するのは、こちらへ向けられる悪意くらいだろう。

 

俺が撒いた餌に、早くもアイツが引っかかったみたいだ。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

まず、今日起こったことを振り返ろう。

 

朝はいつも通りの登校だった。昨日の一件で取材陣は激減。オールマイトが教師になったことより、マスコミが雄英敷地内に不法侵入したことを取り上げている取材クルーしかいなかった。

まず最初に違和感はここだ。ヒーローたちが校門の前に立っていた。いつもはそんなことはない、校門前にマスコミがごった返していた時だって、先生たちはずっと敷地内にいた。つまり、マスコミ対応なんかではない。

 

そして次の違和感。巡回する警備ロボットの数が異様に多かった。いつもは一体二体くらいなのに、今日は視界の中に十体くらい収められた。邪魔くさいったらしょうがない。

 

トドメの、急遽教員が増員されたこと。新米教師の八木先生の補佐とも思えたが、二人もヒーロー科教師をつけさせるのを、あの合理的な鬼の相澤先生が許すわけがない。

 

なるほど。こう振り返ると、一応襲撃には備えてはいたわけか。ワープ系のヴィランがいるせいで全部台無しだけどな。

 

ちょうど黒瀬先生の大切な話が終わったタイミングで、突如、施設の中心部付近に謎の黒い靄みたいなものが現れ、そこからわらわらと不審者の集団が湧き出してきたのだ。

 

「なんだありゃ?また入試ン時みたいなもう始まってんぞってパターン?」

 

だったら早く動いた方がいい。あれが偽物であれ、本物であれ、な。

 

しかし困ったな。トガヒミコをおびき出すために挑発的なインタビューの受け答えをしたはいいものの、ヤツの動きが想像よりずっと早い。

まさか昨日の今日でこんな犯罪グループを引き連れてくるなんて思ってもいなかった。

 

これで下手に怪我人を出されて、その上犯行声明でも出されれば、世間の一部の目は俺に悪い視線を送る。それはちょっと避けたい。

 

そうこうしているうちに、俺たち生徒を逃がすため、相澤先生は1人で何十人もの敵の中に突っ込み、俺達は黒瀬先生に誘導されて避難を開始。

 

しかし行先を阻むように、ヴィランたちを運んできた、ワープの霧が現れる。

……相澤先生、抜けられてんじゃん。

 

その上、爆豪と切島が無駄に飛び出して、そのせいで13号先生の攻撃射線に被ってしまい、対処が遅れた。

 

「私の仕事はこれ。散らして……嬲り……殺す!」

 

俺を含む、クラスメート達の大半が、黒い靄に包まれ……次の瞬間、ここに転送されていた。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「……で、ここは……」

 

「山岳救助ゾーンだな。USJの割と端の方だ」

 

一緒に散られたのは、百さん、耳郎、上鳴か。

 

周囲は岩肌が顕になった砂っぽい地域。高低差が激しく、それでいて傾斜が高い。所々に渓谷みたいのがあるし、一歩足を踏み外すと、諸々命はないな。

 

並の人間ならこれだけでも割とピンチだろうに……危険はそれだけじゃないと来た。

 

「お、来た来た……」

 

「へへ、しかも女もいるぞ。ケツがデケェ女だ」

 

周囲にゾロゾロ湧いて出てくる数十人のヴィラン。

 

これから何をするつもりなのかがわかりやすいというか……聞く手間が省けた。

嬲り殺す、なんて言うくらいだもんな。こんな場所に送り込んでそれでおしまい、なわけがなかったか。

 

……服装に統一なし、装備個性もバラバラ。組織犯罪グループってわけでも、ヤクザでもなさそうだな。

どうせ、暇を持て余したチンピラだ。

 

「へへっ、殺す前にちょっと遊んでやるのもいいんじゃねえか?」

 

「バカ、時間あんまりねーって言ってただろうが、そんな暇ねーよ……やるんなら攫って帰ってからゆっくりと、だ」

 

「ぎゃははは!お前話わかるじゃねーか!」

 

……学がないとか、育ちが悪いとかそういう話じゃない。

 

トガヒミコを調べる過程で、犯罪と先天的知能の関係性について調べたことがある。

 

犯罪者の平均知能指数は一般人の平均を下回っており、受刑者の中にはかなりの数の知的障害者や境界知能者が含まれている。

こういう連中も、多分、先天的な知能に問題があるんだろう。

 

先天的な知能の低さは認知能力にも影響する。きっとこういう連中は、自分の罪を理解しない。いや、理解できないのだ。

 

「──!」

 

……コイツらは口を開けば、馬鹿の一つ覚えで『社会』を恨む。自分が苦しんでいる、幸せになれないのは、社会の仕組みのせいだと。

 

「──い!」

 

ふざけるな。真面目に学校に行って勉強して、真面目に進路を考えて、真面目に対策をすれば、安定した収入は得られたはずだ。

一時の快楽に身を滅ぼし、その上で己の境遇を社会のせいにして、その上俺たちを害そうだって?ふざけるな。お前たち社会の底辺が、俺たちの足を引っ張っていいわけないだろ。

 

コイツらが生きやすい社会なんて、あってはならないんだ。

 

「──おい!永井!!死んじまうって!!」

 

……ふと気がつくと、上鳴が俺を抑えつけようとしていた。

俺の胸の中には、三角絞めで、泡吹いているチンピラが一人。さっき百さんのお尻を厭らしく見ていたやつだ。

 

周りを見ても、同じようなチンピラの死体……もとい、死んでいないから……まぁ、なんでもいいか。ともかく、周りにはチンピラが転がっていた。

 

「……悪いな上鳴。ちょっと頭に血が上って」

 

「ミリオタって言われたのがそんなに地雷だったか?まぁ、助かったけどよ」

 

そういうことにしておこう。

 

「永井ってさ、インテリ系でもあって武闘派でもあるんだね」

 

「そーゆーのズリーよな。ヤオモモもそうだけど、こーゆう、お坊ちゃんお嬢ちゃんって、肉体系じゃないのがお約束なのによ」

 

「そう思うなら変わってやろうか?俺が毎日やってる勉強も、トレーニングもハードスケジュールも、全部変わってやれるぜ」

 

「ウゲェ。遠慮しとく。身の丈にあった生活を送るよ」

 

「……そうか」

 

俺も、身の丈にあった生活を送ろうとしてるだけなんだけどなぁ。

 

「とかなんとか、冗談言ってる場合じゃないよね」

 

「散らして嬲り殺すって言ってたよな。俺たちも、永井がいないと危なかったけど、ほかもそうなんかな?」

 

「どうだろうな。こいつら、組織犯罪グループって訳でもない。金かなんかで雇われたチンピラだろ」

 

超常発現以降、世界中の治安悪化と共に、倫理観が欠如しているような人間が爆発的に増えた。

世界中の人間が銃以上の兵器を個人で管理するんだ。頭のネジが外れて、蓋がどっかにぶっ飛んで、その結果がこのチンピラどもだ。

 

「オールマイトを殺すって言ってたよね……」

 

「ハッタリか、そういう算段があっての事か」

 

「おそらく前者ですわ。算段があったとしても、それは計画と言えるようなものか……」

 

「俺も、百さんと同じ考えだ」

 

純粋な戦闘力でオールマイトを殺せるようなやつがいるとは、到底考えられない。彼は年老いた今なお、間違いなく日本のナンバーワンヒーローなのだから。

いるとすれば、相澤先生のような個性で、それでいてグリーンベレーのような屈強な肉体を持っていなければ、ほぼ不可能だろう。

 

そもそも、こんな捨て駒の、ゴミ山の総大将が考える計画なんて、理想を並べただけの妄想と同義だ。

 

……ただ、たしかに思い当たる節はある。

 

仮にあのワープの個性を持った靄。もしアイツが、オールマイトをピンポイントで火災ゾーンの炎の中に放り投げられたら?あの大火災だ。オールマイトでも無事では済まない。

 

純粋な力ではオールマイトに勝てない。しかし勝つ術は──

 

「うわ!?」

 

「喜一さん!?」

 

突如として地面から生えてきた腕に、俺は反応できず引っ張られ、まぁ、簡単に言えば人質に取られた。

……俺を?運が悪いなこいつは。

 

「手ェ上げろ。個性は禁止だ。使えばコイツを殺す」

 

「……やられた。完全に油断してた」

 

「こいつの戦い方はさっき見た。柔道だな。俺をいくら投げてもらっても構わねぇが、感電しちまうぜ?」

 

そう言って、チンピラは見せびらかすように電気を走らせる。上鳴と似てるが、多分威力はこっちの方が上。無線機が使えなかったのはコイツのせいか。

 

「今からそっちに行く。動くんじゃねェぞ」

 

「……上鳴もだけどさ。電気の個性って生まれながらに勝ち組じゃん?」

 

ふと思い立ったかのように、耳郎がチンピラに語りかける。

……コイツの気を逸らさせ、その隙にイヤホンジャックを装備のスピーカーに繋ごうってことか。まぁ理には叶ってる。こっから見てバレバレってことを除けば。

 

「止めろ」

 

やっぱりバレてた。それに伴って、チンピラがまた電気を放出し、俺に当てる。

電撃って痛いんだと、今知った。

 

「ヒーロー候補が人質を軽視すんなよ。自分の命と他人の命をよーーく比べろよ」

 

……自分の命と他人の命?

 

こいつは何を言っている。そんなの比べるまでもないだろう。

 

「他人の命だろ」

 

ここは山岳救助ゾーンだ。高低差が激しく、傾斜がきつい。揉み合って落ちたら、ひとたまりのないだろうな。

それこそすぐそこの崖なんて、落ちたら死んでしまうだろう。

 

()()()()だ。

 

「……な、なんだコイツ──」

 

「突き飛ばせ」

 

次の瞬間、俺とチンピラは、車に跳ねられたような衝撃に襲われ、横に大きく吹っ飛び、重力のままに崖を転がり落ちた。

 

「ウオオオオオオオ!!!?」

 

チンピラは最後の抵抗で、空中で一斉に放電するが、どうやっても落下は止まらない。

ああ。ちょうどよく死ねる。

 

 

 

──グシャ……

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「ぁあ……痛ってぇ……!!」

 

突き落とされた先。電撃ヴィランは高所からの落下により、複数箇所を骨折したものの、痛いと唸る程度で、少なくとも命に別状はないようだ。

 

「クッソ!あのガキやりやがった!」

 

ヴィランは悪態をつきながら硬い地面を這いつくばって動いた。

これでもこのヴィランは、今日の襲撃犯の中でも上位に位置し、オールマイト殺害において価値があると、ある人物に評価されていた。

ここにいては自分の個性の真価が発揮できない。黒霧に連絡して、地上に戻して貰わなければ。

 

「……」

 

ふと、自分と一緒に落ちてきた子供……永井を見た。

 

頭が陥没し、脳漿が辺りに散らばっている。

 

自分の下敷きに、クッション材になったのだと悟った。罪悪なんてわかなかった。コイツが突き落としてきたんだ。自業自得だ。

だがまだ息があった。もうすぐ死ぬだろうが、とりあえず、電撃をくわらせ、確実に殺しておく。

 

「ッケ。ヒーロー気取りで自爆か。情けねぇ──」

 

ヴィランは目を見開いた。先ほど間違いなく殺したはずの子供から、黒い何かが湧き出ているのだ。死んでもなお発動する個性など、聞いたことがない。

 

だというのに、目の前の子供の身体は、みるみるうちに傷が治り、滅茶苦茶な方向に折れていたはずの腕が身体を支えている。

見えるところの傷が数秒とかからず全て治ると、二度と開かないはずの目が開く。それを皮切りに、ググッと全身に力が込められ、上体が起き上がる。そしてついには立ち上がった。

 

「殺してくれなくても、すぐにリセットできたんだけどな」

 

そんなことを呟くと、永井は這い蹲るばかりのヴィランに近づいて胸ぐらを荒々しく掴んだ。

骨折したところが焼けるように痛むが、そんなこと、永井にとってお構い無しだった。

 

「おい。トガヒミコはどこにいる」

 

「……は?」

 

「トガヒミコだトガヒミコ。金髪の女だ。中央と山岳エリアにいないのは分かってる。どこに配置されてる」

 

「い、いや、そんなやつ知らな」

 

「しらばっくれてんじゃねェぞ。今お前を殺しても、山岳救助エリアからの転落死ってことで処理できるんだぞ」

 

ヴィランには永井が何を言っているのか理解できなかった。

 

「そ、そんな奴は知らない!本当だ!」

 

「……叫ぶな」

 

永井が眉を顰めると、後ろから口を塞がれた。尋常ではないくらいに力が強く、その上頸動脈の位置に何か鋭いものが当てられていて身動きが取れない。

 

「そいつは黒い幽霊。怪力の怪物だ。もう一度言うが、お前を落下死に見せかけることくらい、幽霊を使えば簡単だ。誰か分からないくらいの死体にされたくなければ、本当のことを言え」

 

知らないことをいくら聞かれても、ヴィランは知らないと言うことしか出来なかった。

 

それよりも、目の前の子供が恐ろしい。地中から見ていた時は、ただの柔道が得意な子どもだと思っていたのに、今では怪物としか思えない。

 

人間じゃない。

 

「……その様子、本当に知らないのか?」

 

「さ、さっきからそう言ってるだろ!」

 

永井がそう判断したのは、幽霊の長い爪を男の口の中に突っ込んでからだった。

 

永井は少し思考を巡らせる。

この男に、即席のグループの秘密をなんとしてでも守ろうという忠誠心があるようには思えない。力で脅されているとすれば、捨て駒に手間をかけすぎだ。

自分なら、余計なことを知った、探ったやつは殺す。

 

……なら、本当に知らないのか。

 

「グア!?」

 

とりあえずヴィランは気絶させて、永井は上を見上げた。

 

ここを登るのは、骨が折れそうだ。

 

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