1996年、日本。
この世界には人間の他に悪魔という種族がおり、『全ての悪魔は名前を持って産まれ、その名前が恐れられているものほど悪魔自身の力も増す』というのが世界の常識だった。
そんな世界で、頭からチェンソーを生やした小さなオレンジ色の悪魔と共に生きる16歳の
「木を切って月収6万、この間売った腎臓が………120万」
「右目が…30万」
「私の身体…男に使わせる度に何円くれたっけ?大して支払ってくれないことがほとんどだし、身体傷つくからあんまりしたくないなあ…」
少女は手元にある通帳を見る。借金の残額は3804万円と記載されていた。
足元にいる悪魔が少女に対して吠え、少女はそれに応える。
「チェンソー、わかってるって。さっさと殺しちゃおっか!」
「チェンソー」と呼ばれる悪魔の尻尾を引っ張り、頭からチェンソーを伸ばす。
「悪魔を殺せば、だいたい30万」
この世界には悪魔を狩ることを専門とした『デビルハンター』という職業がある。この世界では有名な職業だが、少女もまた、デビルハンターとして生活する1人だった。
「やっぱりデビルハンターが一番儲かるね」
チェンソーを抱え、物陰に隠れながら向こうにいる悪魔を狩ろうとする少女…いや、「マキマ」は、借金返済のために今日も仕事に勤しむのだった———
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「コレはトマトの悪魔ですね。種からまた復活するので焼いておいてください」
無事にチェンソーと共に悪魔を狩り終えたマキマ。ヤクザの
しかしそのまま貰えるわけではなく、借金、利子、仲介手数料などその他諸々を引かれ、貰えたのは7万。
更にそこから今月の水道代と他のところにしてる借金を払うと……
「不思議だなぁ…もう残り1800円になっちゃった……」
何とも世知辛い人生である。マキマは今日のごはんは食パン1枚ということをチェンソーに話す。
一方で、近くの車からマキマ達を見るヤクザ達は彼女のことで少し話し合っていた。
「悪魔を飼ってるヤツにデビルハンターが務まるんですかねえ?」
「ちゃんとしたデビルハンターはねえ…アタシ達ヤクザに悪魔の死体流してくれないよ?」
「それにマキマのいいトコは逆らわねえトコだよ」
マキマとチェンソーは山奥にあるボロ小屋に住んでいる。世間的に見ると、生活水準はかなり下であろう。
「この間聞いたんだけどさ、普通食パンにはジャム塗って食べるみたいだよ」
一切れの食パンを食べながらマキマはチェンソーに話す。
「まあでも、私たちには普通なんて夢の話なんだけどね。死ぬまで借金返し終わる気しないし」
物思いにふけながら、壁に寄り掛かるマキマ。チェンソーを抱えて己の欲望を呟く。
「夢叶うなら、私に優しくしてくれる男に抱かれてから死にたいな……」
外はザーザーと音を立てながら大粒の雨が降っていた。たしかマキマがチェンソーと会った日も雨が降っていたと思い出す。
あれは雨の日。マキマの母親が今月の分の借金も払わないで首を吊ったため、娘であるマキマが借金返済する羽目になり、そんなお金も用意できないので死の瀬戸際に立たされていたときだった。
木の後ろから悪魔がやってきたのだ。
「チェ…チェンソー!?悪魔だ…!」
頭からチェンソーを生やした悪魔。ちょうどいい、どうせ死ぬのだから殺してくれれば……そう覚悟して目を瞑っていたが何も起こらない。おそるおそる目を開けてみると、目の前の悪魔は血を流して横たわっていたからだ。
「ケガ…君も死ぬんだ……」
母親の首吊り死体が脳裏によぎる。マキマは悪魔に腕を差し出す。
「噛んで…!」
「悪魔は血を飲めばキズ治るって聞いた事がある!死にたくなかったら噛んで!」
悪魔は腕を噛み、血を飲む。
「私の血はタダじゃない…これは契約」
「君を助けてあげるから…私を助けて。やっぱり私も死にたくない…」
その後はチェンソーを使ってマキマがデビルハンターとして雇って欲しいとヤクザに伝え、今も借金返済に勤しんでいるといった具合だ。
そんなことを思い出しながら、マキマはチェンソーに夢について話していた。しかし唐突にマキマは口から血を吐いてしまう。
「ワフッ…!」
「私のお父さんさ…心臓病で血を吐いて死んだんだって……」
そんな状態でも関係なく、デビルハンターの仕事に駆り出されるマキマ。今回悪魔が出たのは廃工場らしかった。
マキマはこの場所に悪魔が出たことを不思議に思い、ヤクザに問いかける。ヤクザの返答はこうだった。
「マキマ…アタシ達ぁアンタに感謝してるんだよ」
「あ…はい…」
「犬みたいに従順だし、犬みたいに安い報酬で働いてくれる」
「はぁ…」
「でもアタシぁ、犬ぁ臭くて嫌いだね」
その直後、後ろからチェンソーごとマキマは他のヤクザに刺される。
「カハッ……」
「アタシ達ヤクザもねぇ、もっと強くなって稼ぎたいからさぁ…アンタみたいに悪魔と契約するコトにしたんだ…」
そうしてヤクザごと操り現れたのは「ゾンビの悪魔」だった。
狂ったようにマキマに話しかけ、悪魔から逃げるマキマ達を己が使役するゾンビを使って攻撃する。
ナイフで幾度となく刺されたマキマ達はゴミ捨て場で息絶えていた。見るも無惨に、呆気なかった。
マキマから流れる血がチェンソーに垂れる。それを飲んだチェンソーはほんの少しだけ戻った命でマキマとのとある会話を思い出していた。
「チェンソー……私は悪魔と戦ってるうちに死ぬかもしれない」
「そうしたらチェンソーだけが心残りなんだ」
「お腹空かして死ぬかもしれないし、他のデビルハンターに殺されちゃうかもしれない」
少し先を見つめながらチェンソーに話す。
「悪魔には…死んだ人の体を乗っ取れるものもいるらしいんだ」
「チェンソーにそれができるんだったら……私の体をチェンソーにあげたい」
マキマから言われたのは、『普通の暮らしをして、普通の死に方をする』ということ。チェンソーに己の夢を叶えて欲しかったのだ。 それを思い出しながらチェンソーは、バラバラになっていたマキマの肉体を繋ぎ合わせていく。
そしてマキマは意識が戻り、目を開ける。目の前にはチェンソーがいて、体を奪えたのか問いかける。すると……
「私は……マキマの夢の話を聞くのが好きだった」
今まで人語を喋らなかったチェンソーとは思えないほど流暢だった。そしてチェンソーは今まで隠していたことを伝える。
「実は私には、マキマと会う前に一緒に暮らしていた人間がいたんだ」
「え……」
「でも突如離れ離れになってしまい、そこから逃げ続けていたときにマキマと出会ったんだ」
そのように語るチェンソーはどこか寂しそうだった。
「マキマ、これは契約だ。私の心臓をやる。かわりに……」
「その人間を見つけるのとマキマの夢を私に見せる、この2つを叶えてくれ」
「チェンソー!」
ゴミ捨て場で突如目覚め、飛び起きるマキマ。傷は治っており、胸からはチェンソーの尻尾が生えていた。
チェンソーはもういない、その事実に涙を流していると、そんなのお構いなしとでも言うようにゾンビの悪魔が一斉に襲ってくる。
(なんでみんなは十分恵まれてるのにもっといい生活を望んだの?)
(…私も同じか。チェンソーがいればそれでよかったのに、もっといい生活を夢に見たんだ)
(そっか、みんな夢見ちゃうんだなぁ…じゃあ悪い事じゃないか。悪い事じゃないけど……)
そのように考えながら、マキマは胸のスターターに手をかけ……
「私達の邪魔をするなら死んで!」
スターターを引っ張ると頭や腕からチェンソーが生え、勢いに乗ってマキマは暴れながらゾンビ達を狩っていく。
「そっか!アナタ達全員殺せばさぁ!借金はパアなんだ!」
狂ったように笑い散らかし、襲いかかってくるゾンビ達を狩っていくマキマ。
気付いたときにはもうゾンビは全員マキマの手によって殺され、辺りは腐った血の匂いが漂っていた。
そんな廃工場に黒服の男2人を連れた男がやってくる。
「あー先越されたな」
マキマは目の前にいる男に気づき、前を向く。
「生きてるのがいますね」
男がマキマに近づく。
「ふうん……」
「お前変わった匂いがすんなァ…人でも悪魔でもねェ匂い」
「お前がこれやったのか?」
「だ…抱いてください……」
疲労から倒れるマキマ。そんな彼女を男はギュッと抱きしめる。
チェンソーが生えた状態から人間の状態に戻っていく。
「人だな…」
「悪魔による乗っ取りの可能性は?」
「ねえよ。乗っ取りは顔みりゃわかるだろ」
男はマキマを抱えながら自己紹介をする。
「俺はゾンビの悪魔を殺しに来た公安最強のデビルハンター」
「お前の選択肢は二つ、悪魔として俺に殺されるか、人として俺に飼われるか」
「飼うならちゃ〜んと餌はあげるぜ〜?」
「餌って………朝ご飯はどんなのですか?」
マキマの問いかけに少し悩みながらも男はこう答える。
「う〜ん……食パンにバターといちごジャム、梅ジャム、オレンジジャムにぃ……蜂蜜とシナモン塗った最強のパン!!」
返答を聞き、マキマは……
「最高じゃあないですか……」
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マキマの腹から「ぐ〜」と音が鳴る。
ここは男達が廃工場に来る際に使った車の中。まともに食事をしてないせいか、マキマは腹が減って仕方がなかった。
「俺達も朝メシまだだったな。パーキングエリアでたらふく食べようぜ!」
「すみません……私お金ないんですけど…」
しかしマキマの心配事に男はこう返してくれる。
「好きなのいっていいぜ。俺がカネ出すからよ」
「え!?」
「あと上が裸だと目立つしこれ着な?お前可愛いから危ねェぜ?」
そう言いながら着ていたコートを着せてくれる。
(汚い臭いと言われて、性行為の時くらいしか近寄られもしなかったこの私が…はじめて優しくされた…それも顔のいい男に…)
ツラのいい男、背格好も自分より高くて、公安のデビルハンターだからなのかシャツ越しからでも伝わる筋肉……そんな人に優しくされた、そんなマキマの心境を現すのはたった2文字の———
(好き……)
それしか無いだろう。というかそれ以外にあるのだろうか。
パーキングエリアに着き、男の横で好きなように食べたいもの注文するマキマ。
しかしそんな2人の元に頭を怪我した中年の男が慌ててやってくる。聞くと悪魔がその男の娘をさらって森の方に行ってしまったらしい。
「カレーうどんと蕎麦と豚骨ラーメンのお客様〜」
「あ、俺のか……」
男は少し考えマキマに聞く。
「お前名前は?」
「マキマです…」
「マキマちゃん…うどんと蕎麦とラーメン伸びちまうからお前だけで悪魔殺しにいってくんね?」
「えええ…?私もうどんなんですけど……」
そんな異議も虚しく、マキマがこの問題を対処することは決まってしまった。
渋るマキマに男はこう伝える。
「忘れたか?お前は俺に飼われてんだよ。返事は「はい」か「ワン」だけ」
「いいえなんて言う犬はいらねえ」
「い…いらないって……」
「鑑識課の知り合いから聞いたんだけどよォ…使えない
マキマがその言葉に困惑しているとさっきの圧が消えたかのように男はマキマに話しかける。
「さ!うどん伸びちまうからさっさと行けよ」
「返事は?」
「はい」
森に駆けていくマキマ。これが公安としての初仕事となるが、さっきの発言に苛立ちを隠せなかった。
(優しい人だと思ったのに、ちょっと好きになったのに、あんな恐い男だったなんて!)
(人を犬みたいに扱うなんてさぁ…!)
そう思っているとチェンソーが「ワン!」と愛くるしい姿で鳴く声を思い出し、その場でうずくまってしまう。
すると少女の笑い声が聞こえてくる。声がする方を見ると、悪魔と楽しく戯れている光景が目に映る。
聞けば少女の父親は嫌なことがあるとすぐに少女を殴るらしく、駐車場で殴られていたところをこの悪魔が助けてくれたとのこと。
殺さないでと少女が命乞いするので、先程の男の言葉が脳裏に過ぎるがマキマはこう答える。
「じゃあ…みんなで逃げちゃわない?」
自身の経験談を少女に語り、一緒に逃げようと話すマキマ。少女はマキマの手を掴み笑い出す。
マキマも釣られて笑い出すが、少女の笑い声が段々とおかしくなっていく。なんだと思っていると先程いた悪魔が本性を現す。
「な、なにコレ!?」
この悪魔の名は「筋肉の悪魔」。触れている筋肉は自由自在に操れるとの事。
「オマエ意外と可愛いからよお、このメスガキと一緒に楽しいコトしてやるよ」
そう言って近付いてくる筋肉の悪魔。狂ったように笑い出す少女の声聞こえる中、マキマは口を使って胸のスターターを引く。
そして人生2回目のチェンソー状態になったマキマはチェンソーをこの悪魔相手にぶん回す。
「よかった、アナタみたいなクズなら殺しても心は痛まない」
そして公安のデビルハンターとして悪魔を狩る初仕事はハプニングも発生したが成功した。
パーキングエリアで男が美味しそうに朝食を取っていると、少女を抱えたマキマが戻ってくる。
「おー使える犬みてえだな」
「ワン…………」
少女は救急車で無事に運ばれる。マキマは疲れから男の元に倒れ込む。
「っと…」
(いい匂い……)
「お前大丈夫?」
「すみません…チェンソーで自分の体も切れちゃって…血が出すぎて貧血状態になるみたいです……」
「どうやってそんな体になったんだ?」
男の問いかけに正直に答えていくマキマ。
「飼っていた悪魔が私の心臓になったんです。信じられないですよね?」
「…私も信じたくないですよ。私の為にチェンソーが死んぢゃうなんて…」
悲しみに暮れるマキマに男はこう答える。
「お前の状態は歴史的に見てもな、同じような状態になったヤツはとっても少ねェよ。名前もまだついてねえからな」
「その話信じるぜ」
「俺は特別に鼻が利くんだぜ〜?だからわかるんだよ」
「お前の親友はお前の中で生きてる」
「浪漫的な意味じゃなくてよ〜体から人と悪魔二つの匂いがするからよォ」
その言葉にマキマはハッとさせられ、そして喜びを露わにする。
「そっか……」
「すごい……だったらすご〜くよかった……!」
喜んでいるとマキマの腹からまた「ぐ〜」と鳴る。
「うどん食べます……」
「フラフラだな。一人で食べれるか?」
「食べれ…食べれません」
その結果、俗に言う「あーん」されながらうどんを食べることになった。マキマはそれを望んでいたのでとても嬉しそうだった。
「ハイアーん!」
「アーん…」
「うまいか?」
「ワン!」
男は少し嬉しそうにマキマを見つめる。
「こんな伸びてるうどんをおいしいだなんてよぉ…お前は健気だな。本当に犬みてェだ」
マキマはあーんされた嬉しさに浸りつつも、男に聞きたかったことを聞いてみる。
「あのっ、アナタのお名前は……?」
「デンジ」
男の名前は「デンジ」と言うらしい。マキマは続けて質問する。
「デンジさん…すっ、好きな女のタイプとかありますか?」
「え?う〜ん……」
少し悩んだ後、少し笑みを浮かべてデンジはマキマにこう返した。
「マキマちゃんみたいなヤツは、結構タイプだぜ?」
「マキマちゃん……?」
「私じゃん……」
陽の光に照らされながら、マキマはその言葉を胸に強く刻むのだった———
デンジ大好き!