『髪結んでみようぜ!』
公安本部6階にあるデンジの仕事部屋。その部屋に1人のデビルハンターが入る。
「失礼します」
「お〜早パイ。お疲れ様ァ」
彼の名前は「早川アキ」。狐の悪魔と契約しており、右目に眼帯をしているのが特徴的なデビルハンターであった。
「××の悪魔の対処についての資料を持ってきたので目に通して頂けると……」
早川から見たデンジの印象としては、内閣官房長官直属のデビルハンターという事への尊敬や畏怖、見た目や言動がチンピラすぎるなど……まとめると、いい人だけど
「なあ早パイ〜ちょっといいか?」
デンジは早川の事を"早パイ"とあだ名で呼ぶ。実際は立場が逆どころか上司と部下の関係だ。
早川は何度か呼び名を改めるように言ったのだが、デンジは「これが1番しっくりくる」と言って聞かなかった。ただ心の隅では嫌とは思っておらず、寧ろ
「はい?何でしょうか」
書類を渡しているとデンジから話を持ち掛けられる。早川は内心何の用だと思いながら対応する。
「早パイさ、髪長えよな」
「え?ああそうですね…」
「じゃあ髪結んでみようぜ!」
「は?」
早川の髪は一般男性に比べると長めに伸ばしてあった。特にこだわりなどはないのだが、バッサリ切るのも少々覚悟が必要なのでそのままであった。
しかしデンジは髪を結んでみないかと提案してきたのだ。早川はデンジの提案に困惑する。
「結ぶって…女じゃないんですから…」
「え〜でも絶対似合うぜ!」
「そもそもデンジさんはなんでそんな提案を…?」
早川が今1番気になっていることをデンジに聞く。するとデンジからの返答は少々突飛なものであった。
「ん〜なんかよォ、早パイ見る度に変な違和感があって…何だろって考えた結果、早パイが髪結んでねえからだって気付いたんだよ!」
「…?」
「一旦結んでみようぜ。ほら髪貸せ!」
「ちょ、ちょっと引っ張らないでくれませんか!?」
早川は抵抗するが、成人男性を引き離すのは簡単ではない。しかも相手は内閣官房長官直属のデビルハンターだ、結局抵抗できずに髪を勝手に弄られる。
数分後、デンジが手鏡を持ってくる。持ってくる際デンジは必死に笑いを堪えていた。
「ッハハ…早パイ〜見ろよコレ!」
手鏡に写っているのは、ヘアゴムで髪を結ばれた早川の姿だった。ただ結ばれた箇所は天に向かって逆立っており、武士のようなちょんまげ姿だった。
「ギャハハハハハ!!アハハハハハ!!」
「ちょっと何ですかコレは…!ふざけてるんですか…!!」
「ヒィ〜!に、似合ってるぜ早パイ…ギャハハハ!!」
早川の心境はこんなふざけた髪型にされた事による怒りに満ちていた。今すぐ解こうとヘアゴムに手を掛ける。
しかしその時、早川の脳内には彼を呼ぶ
「…早パイ?おーい!」
「あ…」
早川はデンジがずっと呼んでいた事に気付く。先程の事で少々ボーッとしていた。
「大丈夫か?なんかボーッとしてたけど…」
「いえ少し考え事してただけです、すいません」
「別にいいけどよォ…それでどうすんだ?結局解いちまうのかぁ…?」
もちろんこんな髪型でいるのは嫌なので解くつもりだ。しかし解くつもりだったのだが、心の隅でそれを嫌だと思う感情が生まれた。
少々悩み、結論を出す。
「仕方ないですね…今日だけはこのままでいます」
「え、ホントか!?」
「1日だけですよ1日!明日になったら今まで通りでいます!」
「まあそれでもいいぜ!じゃあ早パイ、引き続き仕事頑張ってな〜」
デンジは早川に引き続き仕事に励むようにと言い残す。早川は扉から出た後、なぜきっぱり断れなかったのかと後悔する。
しかし心の隅ではこの髪型の方がしっくりきていた。結局、この日以降も早川はこの髪型にするのであった。
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『これは命令です』
マキマは昨日行った二道という名のカフェにまた行こうと炎天下の日差しの中歩みを進めていた。
「暑い…早くカフェに行って涼もう…」
ビームがデンジに預けられている間、今のマキマのバディはパワーである。ただデンジの言う通り、かなり乱暴でかなりの虚言癖持ちであった。
「チェンソー!いくらなんでも暑すぎるぞ!何とかしろ!」
「何とかしろって…というかそんなに叫ばないで…余計に暑くなるから…」
マキマはふと、このままカフェに行ったらパワーも入ってきてしまうのではないかと危惧する。
マキマは昨日会ったばかりなのにすぐ打ち解けて恋愛感情を抱いているヨシダに会いたいのだ。2人の会話にパワーが乱入してきたらマズイ。
「ねえパワーちゃん」
「なんじゃ?」
「今からカフェ行くけど、パワーちゃんは外で大人しくして待っててくれない?」
一旦パワーに自分のお願い事を伝える。これですんなり了承してくれれば楽なのだが……
「は?こんな暑い中外で待てるか!ワシもそのカフェに入れろ!」
非常に面倒臭い性格をしているパワーがすんなり了承してくれる筈が無かった。マキマはパワーが同意してくれないなんてハナからわかっていた事だがそれでも多少のショックはあった。
(どうしよう…人気が少ない場所を通ってはいるけど、あんまりにも叫んだら誰かに気付かれちゃう…何とか納得してもらう方法は…)
デンジに連絡して言う事を聞いてもらうという手もあるがマキマはデンジに迷惑はかけたくなかった。
自分で何とかするしかない、ひとまずマキマも駄々をこねる。
「でもそうしてくれないと困るもん…私の命令聞いてよ!」
「嫌じゃ嫌じゃ!ワシは早く涼みたいんじゃ!」
自分に付いてきてくれるのに敬いの欠片も見られない言動に内心イライラするマキマ。もうこのまま置いていこうかと思ったがそれで騒ぎを起こしたら結局自分に帰ってきてしまう。
(うーん…あ)
1つ方法を思い付く。先程の駄々のこね方の表現をもっと違うやり方でやってみるという事だ。
正直言ってダメ元だがこれに賭けるしかない。マキマはデンジが醸し出す雰囲気に自分なりの表現方法を取り入れてやってみる。
「…パワーちゃん」
「なんじゃ?」
息を吸うと、いつもとは雰囲気をガラッと変えた酷く落ち着いた声でパワーに伝える。
「これは命令だよ。私の言う事を聞く、と言って」
「ヒギャ!?」
まさかの効果てきめんであった。内心驚きつつもマキマは続ける。
「私がカフェに行く時は勝手に入ってこないでね?約束、できる?」
「でっ、できるっ…!約束、するっ…!」
「よし」
なぜ中々言う事を聞かないパワーがこの対応には従ったのかは不明だが、これ以降カフェに行く際は毎回パワーにこの対応を取って言う事を聞かせるマキマなのであった。
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『ヨシダンス』
※謎時空
「ヨシダ君ってさ、ダンスってできるの?」
唐突にマキマからそのような質問されるヨシダ。今日も今日とてカフェ二道にマキマは昼食を食べに来てヨシダと談笑していたのだが、マキマがふと思いついたように先程の質問を行ってきたのだ。
「ダンス?そりゃあまた唐突に…」
「うーんなんかヨシダ君、ダンスしてる姿が似合いそうだったから」
「なんだよそれ…一応振り付けさえあればダンスはできるかも?」
ヨシダは
「マキマちゃんオレにダンス踊って欲しいのか?」
「そんな感じかな。ほら、ダンス動画ってよくあるじゃん?ヨシダ君が踊ったらいい感じになりそう〜って」
世の中には曲に合わせて公式が生み出している振り付けや、自作の振り付けに沿ってダンスする人気コンテンツがある。今流行りの音楽がダンスによく使われがちである。
「いい感じになりますかね…まあでも試しにやってみるか?」
「やろやろ!振り付けは私が頑張って考えてみるから!」
「じゃあやっちゃいますか…あ、マスター!ダンスの撮影してくれない?」
「いやアンタ店員でしょ」
この店の店員だというのに仕事放棄してダンスの練習をするという状況に文句を言われてしまうヨシダ。なおマスターの言葉はどう考えても正論である。
「いいじゃないですか〜この時間帯なのにマキマちゃん以外、客なんて1人もいねえんだし…」
「もお〜…」
マスターは愚痴を零しながらも、ダンスの撮影に協力してくれるようだった。
その後は2人で何の曲にするか決め、マキマが必死に振り付けを考え、決まった振り付けを覚えてダンスの練習をする。マスターが撮影してくれていたので自分で修正点を決めてダンスの質を向上させる。
幸い、ヨシダの上達スピードが異常に早かったので今日中に本番へ行けそうだった。そして本番の時間となる。
「マスター、準備できた?」
「できてるよ。えっとこのボタン押せばいいんだよね?」
「そうそう…じゃあマキマちゃん、いくぜ」
「うん」
本番の撮影が始まる。1分にも満たないたった数十秒の動画だが、今まで練習した分をヨシダは出し切る。
マスターが撮影を止めて、無事にダンスの撮影は幕を閉じる。
「ふう…なんとかいけたか?」
「バッチリだと思う!後は後ろで音楽流してネットにアップするね」
「マスターも撮影に手伝ってくれてありがとな」
「まあたまにはね。でも職務放棄してるからその分は給料から引いとくよ」
「ケチケチケチケチ」
マキマがヨシダのダンス動画を編集してネットにアップする事で目的は無事達成された。
「これ伸びたりするのか?」
「どうだろ…まあでもヨシダ君が踊ってるんだし意外と伸びるんじゃない?」
「どうですかねえ…」
そのように気楽に考えていた2人。しかし数日後、ヨシダのダンスはとんでもないバズを叩き出していた。
マキマが考えた振り付けを真似して踊る人が沢山現れ、単純にヨシダの容姿に惚れる人も続出した。
「こ、こんなに注目されてる…やったねヨシダ君!」
「え?ああうん…」
内心ヨシダは自分の顔が全世界に広まってる事に対して、
(まあでも…楽しかったしいいよな)
どう考えてもよくないのだがもうこの際仕方ないと思いヨシダは割り切る。なお某国の政府側はブチ切れていたが、それはまた別の話である。
「ちなみにそれほど有名になったという事は、背景に写ってるこのカフェが繁盛するっていう事かな…?」
カウンターの向こうからマスターが期待の声で2人に聞いてくる。しかしマキマはこう返す。
「あ、背景は加工して真っ白にしてあるから…」
「え、そ、そんなあ…」
「アハハ!マスターどんまいだな!」
結局いつも通りの閑古鳥の状態が続くカフェ二道なのであった。
こばなしまとめ(4323字)