2人が再び相対する。マキマは腕のチェンソーを起動させるが、ヨシダは指先をマキマに構えて爆弾を放つ。
マキマは爆発に巻き込まれて後方に大きく吹っ飛ばされる。
「た!!ああああ…………!」
爆発によりマキマは右腕を失う。切り口から大量の血がボトボトと垂れる中、ヨシダがマキマの前に降り立つ。
「いい加減面倒だからさっさと死んでくれないか?」
「だったら、初めて会った時にさっさと殺しとくんだったね…!」
ヨシダはその言葉を受けて少し沈黙するが、再び口を開く。
「もう逃げ道はないよ」
「ど〜かな」
「私に泳ぎ方を教えたのは間違いだったね〜」
「え〜泳ぐのか〜?」
2人はしばらく互いに見つめ合う。そしてマキマはチェンソーを、ヨシダは指先を相手に向ける。
マキマはスターターを引く。しかしその瞬間ヨシダの爆弾がマキマの左腕に到達し、マキマは爆発の影響で両腕を失う。
しかしマキマの腕から何かが生えてくる。チェーンだった。
「チェーン?」
幾つものチェーンがヨシダ目掛けて飛んでくる。ヨシダはそれを避けながらもう1回爆弾をマキマに喰らわそうとする。
しかしその瞬間後ろにあるチェーンがヨシダの体に巻き付く。
「なっ!?」
チェーンはヨシダの体を引っ張り、マキマとヨシダの体に巻き付く。
「シケてても爆発できるのオ〜?」
そしてそのままマキマが後方にある海にヨシダごと後ろからダイビングする。
その光景に重なるのは、夜な夜な侵入した学校のプールで2人で遊んだ時のことだった。
ヨシダは水中で爆発を起こす。しかしそれは更に海の中へ落ちていくに過ぎなかった。
2人は海の底で横になりながら着地し、静かで暗い空間に2人取り残されるのであった———
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ヨシダの元に音が届いた。波の音、空中に飛ぶ鳥の音、砂が動く音。意識がはっきりとする。まだ起きたばかりなので朝日が何だか眩しい。
今の自分は武器人間の状態ではなく通常の姿だった。服はマキマが着ていたシャツであった。
体を起こすと隣には体育座りしながらボーッと先を見つめているマキマと、その横でいびきを立てながら気持ちよさそうに寝ているパワーがいた。
ヨシダは何となく状況を理解する。そして横にいるマキマに問いかける。
「信じられない…どうしてオレを蘇らせたんだ……?」
それを聞いたマキマは前を見つめながら話していく。
「…私は素晴らしき日々を送っている」
「何回もボコボコにされて酷い目に合って死んでも、次の日美味しいモノを食べれるならそれで帳消しにできる」
「でも………」
「ここでヨシダ君を捕まえて公安に引き渡したら、なんか…魚の骨がノドに突っかかる気がする」
「素晴らしき日々を送っていても、時々ノドの奥がチクってなれば最悪なんだ」
それを聞いたヨシダは立ち上がる。波の音が響いていた。
「今オレに殺されても同じこと言える?」
ヨシダの問い掛けにマキマはニヤリと笑みを浮かべながらこう答える。
「殺されるなら美人に、っていうのが私の座右の銘」
「…っぷ」
「あはははははははは!!」
マキマの回答に腹を抱えて大笑いするヨシダ。一通り笑ったあと、ヨシダは冷酷な眼差しでマキマのことを見つめる。
「はああ〜!あ〜…」
「もしかして…オレがまだキミを本気で好きだと思っているの?」
「キミに会ってからの表情も頬の赤らめも全部嘘だよ、訓練で身につけたもの」
マキマは困惑した表情でヨシダを見つめる。ヨシダはそんな彼女を見たあと、振り返って歩いていく。
「オレは失敗した…キミと戦うのに時間をかけすぎた」
「じゃあオレは逃げるから」
後ろも見ずに歩みを進めるヨシダ。そんな彼に立ち上がって1つ提案を持ちかける女がいた。
「一緒に逃げない?」
「…へ?」
「私も戦えるから逃げれる確率あがるよ」
ヨシダは少し振り返りながら、唐突に突拍子もない提案をしてきたマキマを信じられないような表情で見つめていた。
「オレはたくさん人を殺したよ?オレを逃がすって事はマキマちゃん、人殺しに加担するって事になるけどわかってる?」
「仕方なくないけど仕方ないね、まだ私は好きだし」
「全部嘘だって言うけど、私に泳ぎ方教えてくれたのはホントでしょ?」
波の音が響く中、ヨシダはマキマに駆け寄り、マキマのことを抱きしめる。そしてマキマの顔を手を添えながら、自分の顔を近付けていく———と思われたが、マキマは呻き声を上げてその場に崩れ落ちる。
それもそのはず、キスに見せかけてヨシダはマキマの首の骨を折ったからである。
「っ…ねえ!」
「もう少し賢くなったほうがいいぜ」
そう吐き捨てるとヨシダはマキマの方を振り返らずに歩いていく。そんな彼にマキマは地面に突っ伏しながらも声を張り上げて伝える。
「…ヨシダ君!!ねえっ、ヨシダ君!!」
「今日の昼に…!あのカフェで待ってるから!!」
「絶対……!」
波がマキマを襲う。言おうとした言葉は波の音に掻き消される。砂浜にはヨシダが歩いた時にできた足跡が幾つもあった。
マキマは何とか体を動かしながら横で寝ているパワーを起こそうとする。
「起きてパワーちゃん!!」
「んじゃ…うぇ…う〜ん……?」
「手が動かない!私のエンジン吹かして!!」
それから数時間後、マキマは自宅で家を出る準備を整えていた。自分とニャーコ以外誰もいない自宅は何だか新鮮に思えた。
封筒に稼いだ分のお金を入れ、ヨシダとの逃避行に必要なものをリュックに詰める。
近くでニャーコが見守っており、名残惜しい気持ちから少し撫でる。
「にゃー」
撫で終わったあと、マキマは廊下を歩いていく。この家でお世話になった気持ちを少し噛み締めながら、マキマは家を出るのだった———
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東京は朝から慌ただしかった。何せ昨夜はマキマとヨシダのバトルが勃発し、台風の悪魔による被害も尋常ではなかった。
姫野も朝から駆り出され、仕事をこなしていた。隣で師匠であるクァンシが酒を飲みながら姫野に1つ話し始める。
「ソ連の母親が子供を叱る時にするおとぎ話がある」
「軍の弾薬庫には秘密の部屋があって、その部屋は親のいない子供達でぎゅうぎゅうにあふれている」
「そこに居る子供たちに自由はなく、外にも出られない。物のように扱われ、死ぬまで体を実験に使われる」
「ただのおとぎ話のハズだったが……その秘密の部屋は本当にあったと新聞に載ったんだよ」
「アメリカのジャーナリストが突き止めて一時期話題になったよ。そこにいた子供の写真も当時公開されていたが、すぐに聞かなくなったな」
ヨシダは東京の人混みを掻き分けて進んでいく。帽子を深く被りながら、無表情で進んでいく。
「マキマが引っ掛かったのはその部屋の一人だよ」
「ソ連が国家に尽くす為に作った戦士…」
ヨシダは台風の悪魔被害に関する募金をやっている団体を見つける。向こうから警察もやって来ていたのでそれも合わせてヨシダは団体に近付き、募金をする。
募金してくれたお礼にヨシダは赤いガーベラを貰う。そしてヨシダは上野駅に到着し、新幹線が到着したホームで赤いガーベラを回しながらそこに立っていた。
一方でクァンシは吸っていたタバコを口から離し、煙を吐く。その後にこう呟く。
「モルモットと呼ばれる連中だよ」
ホームでは新幹線がまもなくで発着するアナウンスがされていた。ヨシダは新幹線になる為に足を進める。
列車は加速していき、上野駅を後にする。しかしヨシダはそれに乗らなかった。
自分でも内心それを不思議に思いながら、ヨシダは駅を後にする。マキマと出会った電話ボックスがある道を通り過ぎ、角を曲がり、階段を上る。
青い自販機がある道を通り過ぎ、路地裏へ入る。
カフェ二道に近付くにつれて歩きから小走りになっていくヨシダ。カフェの窓にマキマがいると分かるとそれは尚更だった。
しかしもうすぐで着く頃、後ろから大量のネズミがやって来る。ヨシダはそれに戸惑っていると、大量のネズミはヨシダの前で大きな塊となる。
ヨシダは首のピンに手を掛けて警戒態勢を取る。すると塊の中から声がする。
「俺ァ…」
ネズミ達が散らばっていく。中から現れたのは内閣官房長官直属のデビルハンター、デンジであった。ヨシダにとってもかなり危険な存在である。
「俺ァ都会のネズミの方がいいなァ〜……」
右手の甲に乗ったネズミを見つめながらデンジはヨシダに語る。
「だって田舎はな〜んもなくてつまんねえだろ?都会はウマイ店たくさんあンし、娯楽がたくさんある」
「食パンに好きなだけジャム塗れるし、なんなら分厚いステーキだって食える。ふかふかの布団にも寝れるんだぜェ〜?」
「あとはそうだなァ…面が良くて胸デケェ女と一緒にゲームしたり、一緒に寝たり……」
「……そんな毎日送ってた方が、ぜってえ人生楽しいよな」
デンジは手の甲に乗ったネズミを地面に降ろす。
ヨシダは首のピンを引こうとした。しかし引こうとした腕が上から降ってきた槍によって切断される。血がボトボトと垂れる。
「だから都会のネズミが好きだ」
ヨシダはもう片方の腕で隠し持っていたナイフを取り出し、即座にデンジの後ろを取り、ナイフで刺そうとする。
しかしまたもや上から槍が降ってきて、ヨシダの胸を貫く。上から槍を投げていたのは天使の悪魔だった。
ヨシダは震える手でピンを抜こうとする。しかしその手はデンジによって遮られ、デンジはヨシダの手だけ掴んで立った状態になる。そのせいかヨシダは地面に叩きつけられる。
ヨシダは鼻や口からも血を流しながら、横向きに倒れた状態で考え始める。
(なんで…初めて出会った時に殺さなかったんだろう)
(マキマちゃん、ホントはな)
(オレも学校いった事なかったんだ)
カフェの窓に映るマキマを見つめながら、ヨシダは意識を失うのだった。
血溜まりの中でピクリと動くこともなかった。
デンジは片手で先程ヨシダの胸を貫いた槍を持ちながら立っていた。
「でも…俺ァ
そんなデンジの呟きは誰にも届くことはなかった。デンジはすぐに切り替え、建物の上にいる天使の悪魔に話し始める。
「姫野と一緒に来いっていったのに」
「姫野に男を殺させたくなかったんだな、優しいな」
「…まあ、天使ですから」
天使の悪魔は振り返り、建物の縁に立つ。縁の上には一匹のネズミがいた。
そのネズミを見ると天使の悪魔は一つ問いかける。
「ねえ…」
「都会はいいトコかい?」
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マキマはカフェで窓際の席に座りながら項垂れていた。近くにあった花屋で購入した花束を抱えながら。机の上にあったヨシダに渡した白のガーベラは枯れていた。
「マキマちゃん、もう店閉めるよ?」
カフェのマスターはマキマに端的に伝える。マキマはボーッとしながら話を聞いていた。
そんな彼女にマスターはこう話す。
「……あの子はカッコよすぎた、住む世界が違ったんだ。いつかマキマちゃんにはピッタリな男の子が現れるよ」
項垂れながらマキマはマスターの話を聞く。その直後、ドアが開く音がする。
ヨシダが来たと思い期待の眼差しでドアの方を見つめる。しかし……
「ビビビビーム!!」
「ビ…!」
「オレ復活!マキマの匂い辿ってきたけど…この店、なんか小さい!!」
来店してきたのはヨシダではなくビームだった。無事に飯抜きが完了したのでビームの角は元通りになっていた。
久しぶりに見たので少々驚いたが、ヨシダではなかったのでガッカリしながらマキマは項垂れる。
するとビームはマキマが花束を持っていることに気付く。
「なんだその花!?カラフルでウマそう…!オレにくれ!!」
花の上からビームがこちらを見つめてくる。マキマはビームを一瞥し、次に花束を見つめる。
マキマは花束をビームには差し出さず、1つ花を口にしていく。
「あ!食べるな!オレの!!返せ!!」
騒がしくなった店内。既に夜中になった路地裏は酷く不気味で何かが出そうな雰囲気があった。
しかし地面には何もない。血や人間なんてあるわけがなかった。
マキマの恋は花を食べることで終わりを迎えるのだった———
JANE DOE大好き!
(ちなみにチェンソーウーマンが生み出された世界だとヨシダ篇のエンディングはJOHN DOEになると思います。米津さんと宇多田さんが歌うパートも入れ替わってそう)