チェンソーウーマン   作:やまなお

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寝るの大好き!


妥協/触る

 

深い微睡みの中から光が差してくる。意識が段々と戻っていき、マキマは目を開ける。

そこは病院のベッドの上だった。顔を横に向けるとりんごの皮をナイフで切っている最中の姫野がいた。

たしかヒルの悪魔に倒されそうになり、そこを姫野達が助けてくれたのは覚えている。

 

「アンタの腕…拾っておいたよ」

 

「輸血したらくっついたらしい。本当に悪魔みたいだね〜」

 

 

「アナタだって悪魔と仲良く話してたでしょ、私見てたよ」

 

 

「……本当に何も知らないんだね」

 

呆れたように姫野が呟き、続けて大事なことをマキマに説明する。

 

「デビルハンターは悪魔と契約して悪魔と戦う」

 

「私は『幽霊の悪魔』と契約してるの。力を借りる代わりに体の一部を幽霊に食わせる契約。今回は皮膚を食わせたの」

 

 

「へえ〜……痛そう」

 

そう言いながらりんごが乗った皿を取ろうとするが、姫野がその皿を遠ざける。

 

「悪魔は常に人の死を望む。それは魔人も同じ」

 

 

「……ビーム君はいい子だと思うけど」

 

姫野は冷たい眼差しでマキマを見つめる。そしてぽつりぽつりと呟き始める。

 

「監視カメラに巡回エリア外に行くアンタ達が確認されている。それにコウモリの悪魔が潜んでいたと思われる家にはアンタの血が大量に落ちていた」

 

「理由はわからないけど、アンタはまだ悪魔に肩入れしてるんだね」

 

 

「さあ…どうだったですかね…」

 

知らんぷりをするマキマ。姫野はマキマに助けてもらった人々の言葉を思い出す。

 

「先日は娘を助けてもらいありがとうございました……娘がマキマという方に服を借りていたみたいでそれをお返しに…」

 

 

「悪魔に会社で食べちゃうぞって言われて逃げたんですけど…よく見れば公安の服を着ていたので…お礼を言いたくて…」

 

「女の命なんて知るかって…!悪魔が私ごと車を投げたの!チェンソーが頭に刺さっている悪魔で…」

 

決して全員が安全に助けられたとは言えないがそこは目を瞑ろう。マキマはりんごを食べようと必死に手を伸ばしていた。

 

「私がもっと詳しく調べて上に報告すればサメの魔人も、それを庇ったアンタも処分される」

 

「だけど今回は死者もでなかったし、アンタが一つだけ条件を飲むなら今回は見逃してあげる」

 

姫野がマキマの方に皿を滑らせる。

 

「私の言う事は素直に聞く事!」

 

「アンタは多少知恵はあるけどまだ子供だし道徳が足りない。私はアンタより先輩だし社会正義も持ってるつもり。私の言う事を聞いていればアンタは今の生活を守れるよ」

 

「どう?わかったら返事!」

 

マキマはりんごの甘い匂いを少し嗅ぎ、口に入れながら返事をする。

 

「うん、頭に入れておく」

 

「安心してよ。アナタ達みたいな立派な目標はないし、小さな夢しかないけどさ…」

 

そしてりんごを飲み込んでからマキマはこう言い放った。

 

「アナタと同じくらい私ちゃんとやれるからさ、ド〜ンと期待しててよね!」

 

それを聞いた姫野は席を立ち、病室から去っていく。

 

「とりあえず先輩には敬語ね〜」

 

 

「まあそれも考えておこっかな…」

 

マキマがいる病室の扉が閉まる。そして目の前には手錠で拘束されたビームと、後ろの手すりに体を乗っける早川がいた。

 

「うぅ…ごめんなさい…だから、外して…」

 

 

「本当にいいのか?この魔人がいつか人を殺した時は見逃した姫野の責任だぞ?」

 

姫野はビームに近付き手錠を外す。

 

「私たちはデビルハンターです。悪魔でも魔人でも使えるモンは何でも使うべきだと思いますけどね〜」

 

「でも敵は敵…利用するだけです」

 

「馴れ合うつもりはないですよ」

 

そんなこんなでしばらくした後、姫野のマンションでマキマと姫野が各々自由に過ごしていると何か外から音が聞こえてくる。

何だと思っているいると、自宅の床から例の魔人がやってくる。

 

「キャキャ!新居だ〜!!」

 

困惑した顔でビームの事を見つめる2人。それから少し後、姫野とデンジが電話でこの事を話していた。

 

「姫野ん家の部屋一つさ、ビームに貸してくんねえか?お前ならマキマちゃんとビームのいい首輪になれると俺思うからさ!」

 

 

「…なんで私の家にヤバい奴ばかり集めるんですか…!」

 

 

「俺が姫野を一番に信じてるからだけど?」

 

 

「…あ…ハイ」

 

頬を赤らめて返事する姫野。意外とチョロい。

 

「ずっとこっちで住まわせんのも変だしな〜」

 

「おう…そっか。心配しなくてもビームいい子にできるって言ってたからよぉ、大丈夫だぜ!」

 

ビームも揃った初めての食事。しかしいただきますをした瞬間すぐに平らげてしまう。

 

「おかわり!おかわり!」

 

 

「え!?」

 

 

「はやっ!?」

 

「もうちょっとゆっくり食べてよ〜!」

 

 

「そんな急いで食べたら、食品作ってくれた人達に失礼だよ?もったいない!」

 

風呂場では……

 

「風呂はキモチワルイから入らない!」

 

 

「入って!」

 

 

「不潔!!」

 

はたまたタンスに収納された服を見て……

 

「服?キモチワルイから着ない!」

 

 

「着て!」

 

 

「破廉恥!!」

 

 

「だって…ニャーコ、人間怖い…!」

 

どうやって躾ればいいのか悩む2人。苛立ちが募っていく。

夜中、マキマは散らかった机を拭いていた。ビームが好き勝手食べるから机がこの有様なのだ。

 

「もっと綺麗に食べてよ!これじゃあ食べ物すぐに無くなっちゃう…!」

 

 

「マキマ!」

 

ぶつくさと文句を言いながら机をゴシゴシと吹いているとビームがやってくる。マキマや姫野が手を焼いているとも知らずに能天気なヤツである。

 

「ねえビーム君!もうちょっと綺麗に食べてくれない!?私も姫野さんも後処理大変なの!」

 

 

「ギャッ…ごめんなさい…」

 

最初会った頃と違って謝れる分だけまだマシではある。するとビームはマキマに伝えたかったことを伝える。

 

「あ、思い出した!筋肉、触っていいぞ!」

 

 

「え……」

 

マキマは口をあんぐり開けてビームを見る。そしてマキマは姫野に見られないように万が一を考えてトイレで触ることにした。

トイレの扉を閉めてビームが便座に座る。未だにこれが現実なのか疑うマキマがいた。

 

「マキマ、どうした?筋肉触れ!嬉しい?」

 

夢では無い。これはまさしく現実。ならばビームの対応にマキマが思うことといえば一つ……

 

(天使…)

 

喜びやその他諸々のいかがわしい心で赤くなった顔に手を当ててマキマは心の中でそう呟くのであった———

 

 

 

—————————————————

 

 

 

早速触ろうとおそるおそる手を伸ばしていくマキマ。

 

「えっと…ホントに触っていいんだよね…?」

 

 

「?いいぞ!マキマが触りたいなら何回でも!」

 

これは流石にマキマにとっては神対応と言わざるえない。手を伸ばして筋肉に触れていく。

 

「ヒャッ!?」

 

 

「わあ…」

 

ついに触れたことに感無量のマキマ。まだ足りないので触る場所を変える為に手を動かしていく。

 

「キャッ…ギャッ!?」

 

 

「ああ…すごい…」

 

なんかビームの様子がおかしいような気がしたが気の所為かと思い触り続けるマキマ。しかしこの辺で止めておくべきだったのだ、なぜなら……

 

「じゃ、じゃあ次はこっちを…!」

 

 

「ギャッ、ギャッ…ギャワアアアア!!」

 

突如ビームが暴れだし、サメの鋭い歯でマキマに噛みつく。

 

「イったああああアアアア!?」

 

 

「ワ、ワアアアア!?マキマ、ごめん!ごめん!」

 

家中にマキマの絶叫が響き渡り、その声で起きた姫野が慌てて駆け付けてくる。

 

「な、何!?何が起きたの!?」

 

目の前には血を流しながら痛みに悶え苦しむマキマとそれに慌てるビームという何とも混沌とした光景だった。

 

「ひ、ヒメノ!マキマ、噛みついちゃった!!」

 

 

「ええ!?どうなったらそうなるの…!」

 

 

「痛い…助けて……」

 

流石にこの場で悪魔になるのはマズイので一旦姫野がマキマに手当てをしてベッドに運んだ。

 

「…つまりビーム君の身体触ってたら急に暴れだして噛みつかれたと?」

 

 

「そ、そういうこと、かな…」

 

それを聞いた姫野がマキマに対して思ったことは……

 

「アンタ馬鹿?」

 

翌日、マキマが起きるとビームが即座に謝ってきた。

 

「ごめんマキマ…次からは気をつける…」

 

 

「ああ〜…別にいいよ、もう」

 

 

「次筋肉触られてもいいように鍛える!」

 

 

「いや、もう大丈夫だから…別に鍛えなくてもいいから…」

 

無事にマキマとビームは仲直りすることができた。そしていつも通りの日常が流れる。

 

「キャキャ!おかわりおかわり!」

 

 

「ちょっとビーム君もっとゆっくり食べて!」

 

騒がしい朝食の中、マキマは魂が抜けたようにボーッとしていた。ビームが誤ってマキマの味噌汁を倒してしまい、姫野がそれに注意してる光景もマキマはボーッとしていて気付かなかった。

 

(いろいろ言いたかった事はある気がするけど…あれ…?こんなモン……?)

 

(こんなモン…なの…?)

 

ビームと一緒に行動したりして時間が過ぎていく。

東京本部にてマキマはデンジからの指示でコウモリの悪魔を退治したことの始末書を書かされていた。

 

「これが建物壊したやつの始末書で……これが…悪魔の死体使った事の確認…」

 

「あと…これは国土交通省…だったか?多分そう!でこれはこことここにハンコだな」

 

言われた通りポンポンとハンコを押していく。

 

「めんどくせえ紙ばっかで嫌だよなあ…コウモリの悪魔倒したっつーのに、悪い事したみてえだよな!」

 

魂が抜けたようにボーッと動きを止めているマキマ。そんなマキマを心配そうに見るデンジ。

 

「マキマちゃんどうしたんだ?何か悩みとか?」

 

 

デンジに心配されてしまったので、ハンコを押しながらぽつりぽつりとマキマは話し始める。

 

「私は…私は、ずっと追いかけていたモノをやっと掴んだんです」

 

「でもいざ掴んでみるとそんなモノは…呆気ないというか、逆に酷い目にあったというか…思ってたものと違って……」

 

「もしかしたら…これから私がまた何か違うモノを追いかけて掴んだ時もっ、追いかけていた頃のほうが幸せだったって思うんじゃないのかなって…」

 

ハンコを掴む手が震える。

 

「そんなの…あんまりじゃないですか…」

 

デンジは黙ってマキマの話を聞く。そして聞いた後マキマに問う。

 

「マキマちゃんはなんの話してんだ?」

 

 

「初めて筋肉触ってみたら酷い目にあったっていう話です…」

 

 

「ふーん………」

 

こんな話をデンジにしても仕方ないかと反省するマキマ。するとデンジがマキマの手を掴み、近付く。

 

「マキマちゃん、エッチな事はな〜相手の事を理解すればするほど気持ちよくなるんだぜ〜?」

 

「相手の心を理解すんのはムズいからな、最初は手をよ〜く観察してみたり……指の長さはどれくらいだ……?手のひらは冷てえか?温けえか?」

 

「耳の形はどうだ?」

 

「指ィ噛まれた事あるか?」

 

マキマの爪先を噛むデンジ。

 

「かまっ…」

 

 

「覚えろ」

 

「マキマちゃんの目が見えなくなってもよぉ、俺の噛む力で俺だってわかるくらいには覚えろ」

 

そしてゆっくりとマキマの指を噛むデンジ。ギザギザした歯が指を刺激して痛いが、特徴的な噛み方だった。

 

「覚え、ました……」

 

するとデンジはシャツのボタンを外していき素肌を露わにする。

 

「へあっ!?」

 

 

「マキマちゃんが触りたいんだったら…いくらでも触っていいぜ?マキマちゃんみたいなカワイイ女なら…何回でも」

 

マキマの目に映るデンジは凄く魅力的だった。マキマはおそるおそる手を伸ばしてデンジの筋肉を触る。ゴツゴツしていて、とっても雄を感じる。

 

「あア!?アっ!!」

 

デンジの筋肉を触れたという事が衝撃的で慌てふためくマキマ。椅子から転げ落ちて後ろに倒れ込む。

 

「ああ…あ…ああ…あああ………あ…」

 

デンジは外していたシャツのボタンを戻していく。デンジもマキマに身体を触られた事に少々頬を赤らめている。嬉しいのだろうか。

そして服を整えると未だ衝撃で立てないマキマに顔を近付け呟く。

 

「なあ」

 

「マキマちゃんに頼みたいことがあンだけど…いいか?」

 

 

「ハイ」

 

即答だった。デンジは先程マキマが座っていた椅子を立てて、そこに座る。

そしてこの先のマキマの人生を大きく変える事になる言葉を放つ。

 

「銃の悪魔を倒してくんねーか?」

 

 

「銃の悪魔…?」

 

聞いた事の無い悪魔だった。デンジは続けて話す。

 

「13年前だったかなあ…アメリカにいきなり現れて今もどこにいンのかわかんねえ…デビルハンター全員が殺したがってるちょ〜ヤベぇ悪魔!」

 

大雑把に伝えられたが大体理解したマキマ。

 

「俺な、マキマちゃんなら殺せんじゃねえかと思う。お前は他のデビルハンターの誰よりも特別だからな」

 

そして左足を右足の上に乗っけて、肘で顔を支えた状態で、デンジは頬を赤らめてこちらを見つめるマキマを眺める。

そして一つ、提案をする。

 

「もしもマキマちゃんが銃の悪魔を殺せたらよぉ、俺がお前のしたいことなんでも一つ叶えてやるよ」

 

マキマは信じられないような表情をしており、耳奥でその言葉が反響していた。

デンジの支配者のような雰囲気と、犬のように飼い主(デンジ)の言葉を待つマキマの2人が、この歪で不思議な空間を作り出していた———

 




食べるの大好き!
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