オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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序章 10 生存戦略

ライブの熱狂が指先から抜けきらないまま、わたしは帰宅するなりシャワーだけ浴びてヘッドマウントを被っていた。

本当なら泥のように眠るべき時間だけれど、脳髄が興奮で焼き切れていて、静かな睡眠なんてとても許してくれそうになかったからだ。

 

「……ただいま、ユグドラシルっと。今日は『戦わない』日。ただの事後報告会」

 

配信開始のボタンを押すと、深夜帯にも関わらず待機していた数万の数字が一気に『接続中』へと変わる。

 

「うっわ、同接えぐ。みんな寝てないの? ……あ、私もか。ライブお疲れ様でしたー」

「『最高だった』? ありがとう。でも今日のわたしはライブ直後のアイドルじゃなくて、ギルドマスターだからね」

「『声が枯れてない』って、そりゃプロだもん……ごめん、やっぱり嘘。実はちょっと枯れてるから、今日は小声でいくね」

 

ログインした先は、まだ建設途中である《Voiceless Garden》のギルド拠点、その中庭だった。 外ではPKだの異形種狩りだのが横行しているらしいけれど、この庭の中だけは奇妙なほど静謐な空気が流れている。

メンバーたちは、挨拶チャットを飛ばすよりも先に、黙々とレンガを積み、薬草を分類し、帳簿を更新していた。

 

「みんな、お疲れさまー。進捗はどんな感じかな?」

「お疲れ様です、アリサさん。外壁の第三層は予定より早く終わりました。あと、錬金施設からポーションの試作品が届いてます」

「うそ、早すぎじゃない? ……それにこれ、品質『高』じゃん。普通にマーケットに流せるレベルだね」

「うちの生産職、ガチ勢しか残さなかったからですね。戦闘できない分、製作スキルにリソース全振りしてる人が多いので。あ、でもアリサさんたちのライブは流石に全力でしたよ」

 

副ギルドマスターに任命した生産職のプレイヤーが、誇らしげにウィンドウを開いて在庫リストを見せてくれた。

わたしのギルドは、意図的に『戦闘』の優先順位を下げ、代わりに『情報』と『流通』を武器にする方針を固めつつある。

殴り合いで勝つのではなく、殴ったら損をすると思わせるポジション。

それが、配信者であるわたしがこの世界で生存するために選んだ、独自の立ち位置だった。

 

「コメントで『弱そう』って言われてるけど、否定はしないよ。うちは弱いからね」

「でも覚えておいて。このゲーム、強い装備を作るのも、回復薬を作るのも、全部『弱い生産職』なんだよ?」

「うちのギルドを敵に回すとこのエリアのポーション相場が倍になるかもね。……なんてね、冗談だけど」

 

冗談めかして言ったけれど、コメント欄が『冗談に聞こえない』『経済制裁ギルド』とざわめくのを見て、わたしは口角を上げた。

そう、暴力が支配する世界だからこそ、暴力以外のインフラを握った者は聖域になれる。

悟兄さんがいずれ『アインズ・ウール・ゴウン』で最強の魔王を目指すなら、わたしはここでお店屋さんとしての最強を目指せばいい。

それがわたしの生存戦略。

 

そのとき、拠点の入り口に設置した警報が、鋭い通知音を鳴らした。

敵襲ではない、けれど『招かれざる客』の接近を告げるアラートだ。

モニター越しに見ると、全身を重装備で固めた六人組のプレイヤーが、こちらの敷地へ土足で踏み込もうとしていた。

 

「……アリサさん、どうします? PKクラン『ブラッド・エッジ』の連中です。追い返しますか?」

「ううん、入れてあげて。ただし、武器を抜いたら即座に『撮影』を開始するって伝えて」 「了解。アリサさんは……やっぱり、戦わないんですね」

「戦わないよ。彼らは『お客さん』になるかもしれないんだから」

 

門が開くと、荒っぽい足取りで男たちが入ってきた。

彼らは明らかにここを略奪できる場所か、あるいは脅せる場所かを見定めている目つきをしていた。

けれど、わたしがアバターの姿を現し、その横に『配信中』を示すアイコンが浮いているのを見た瞬間、先頭の男が足を止めた。

 

「ようこそ<<Voiceless Garden>>へ。何の用かな? PK目当てなら、今はおすすめしないよ」

「……お前、あの配信者の」

「そう。今、三万人くらいが見てる。このまま襲ってくれてもいいけど、君たちの名前と所属、全部アーカイブに残るよ?」

「……チッ。つまんねぇ脅し使いやがって」

 

男は舌打ちをしたけれど、剣の柄にかけた指は動かさなかった。

PKを楽しむ連中にとって、自分たちの名前が割れ、掲示板で粘着され、指名手配されるリスクは遊びの範疇を超えている。

配信という『第四の壁』を使った防衛ラインは、下手な防壁よりも彼らの足を止める効果があった。

 

「で、襲わないなら商談だね。回復アイテム、足りてないんじゃない? その装備の耐久値もだいぶ減ってる」

「……ああ? なんで分かんだよ」

「見れば分かるよ。うちは修理も請け負うし、市場価格より安くポーションも卸す。ただし条件がある」

「なんだよ、言ってみろ」

 

わたしは一歩前に進み、彼らの顔を順番に見渡してから、にっこりと笑った。

この笑顔は配信用のものだけれど、目の奥だけは計算高い商人の色を乗せておく。

 

「この周辺でのPKは禁止。特に、うちのロゴが入った装備をしてる生産職には手を出さないことだね。破ったら、今後一切取引しないし、他の生産ギルドにも手を回す。……どうかな、悪い話じゃないと思うけど」

 

男たちは顔を見合わせ、数秒の沈黙の後、リーダー格がため息交じりに肩の力を抜いた。

彼らにとって、安定した補給線を得ることは、その辺の初心者を狩るよりも遥かにメリットがある。

こうして『契約』が成立すれば、彼らはわたしたちを襲う敵から、わたしたちを守る用心棒へと変わるのだ。

 

「……分かったよ。ただし、品質が悪かったら即座に潰すからな」

「品質は保証するよ、うちは『信用』で商売してるからね。では――お買い上げ、ありがとうございます~♪」

「ふふっ、いい性格してるな、お前……アリサだったか、覚えておくよ」

 

ちょっと道化じみた演技を込めると、相手の空気が柔らかいものになった。

よし、交渉成立である。

 

「ちょっとコメント、『あくどい』って言わないでよー。これは外交。平和維持活動だよ」

 

でも、配信のコメントは納得できない。

こんな美少女を捕まえて、って自分で言ってたらしょうがないか。

 

ポーションの箱を抱えて去っていく彼らの背中を見ながら、わたしは小さく息を吐いた。

緊張していなかったと言えば嘘になるけれど、これで一つの実績ができた。

PKクランだって、利害が一致すれば顧客にできる。

この事実は、今後わたしのギルドがユグドラシルで生き残るための、強力な名刺代わりになるはずだ。

 

「アリサさんすごいですね。あの連中、大人しく帰りましたよ」

「うん。でも、次はもっと上手くやるよ。……あ、兄さんには内緒ね。心配するから」

「了解です。でも今の交渉術、お兄さん譲りなんじゃないですか?」

 

数少ないウチの戦闘職の言葉に、わたしは一瞬きょとんとして、それから苦笑した。

確かにそうだ。

根回しをして、相手のメリットを提示して、平和的に解決するやり方は、現実の兄さんが仕事でやっていることそのまま。

場所は違えどやっぱり兄妹なのかなぁ、そのことがなんだかおかしくて、わたしはちょっと吹き出してしまった。

それから、一息つくとわたしは画面の向こうの視聴者に向かって、本日一番の自然な笑顔を見せた。

 

「さて、ウチの平和も守られたことだし次は内装をいじろうかな。……ねえみんな、壁紙の色、どっちがいいと思う?」

 

今日はまだ眠ることはできなさそうだ。

 

 

 

実際には悟兄さんの「いつまで起きているんだ」の説教とセットで眠ることになったけど。

 

 

【YGGDRASIL】アリサのまったりユグドラシル開拓日記 Part4【ライブお疲れ】

 

152 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:30:11.20 ID:L1vEM0t

今日のライブ、マジで伝説だったわ……

アンコールの熱気がまだ冷めないんだが、お前ら生きてる?

まだ脳内でアリサの歌声がループしてる

 

165 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:30:45.55 ID:G7uYt1R

>>152

魂は会場に置いてきた、今は抜け殻だ

最後のMCで「仲間」って言われた瞬間、ガチ泣きしたわ

明日から仕事とか信じたくない

 

178 :ちゃがま:2126/04/XX(日) 23:32:12.33 ID:K9aZe1no

おつかれー。

裏で見てたけど、熱量すごかったよ

みんな出し切った顔してた……あ、私? 私はただの通りすがりの美少女粘土です

 

182 :ペロロンチーノ:2126/04/XX(日) 23:34:38.61 ID:P3rO0n0

>>178

おま、そのコテハンでその口調は……いや、深くは突っ込まないでおく

俺は喉が死んだ

だが悔いはない

アリサちゃんが「いくよ!」って言った瞬間の輝き、あれは女神

 

205 :さとるん:2126/04/XX(日) 23:35:05.17 ID:S2tO0kI

>>152

良いライブだった

構成も演出も良かったが、何より本人が楽しそうだったのが一番だな

今日はゆっくり休んでほしいところだが

 

210 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:36:44.22 ID:H4eR1sA

さとるん保護者目線すぎて草

でも同意、明日はオフだといいんだが

 

233 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:37:10.09 ID:WlYgGd9

【速報】通知来た

タイトル:『ただいま、ユグドラシル。昨日の報告会』

 

234 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:37:25.88 ID:L1vEM0t

は?

 

241 :ペロロンチーノ:2126/04/XX(日) 23:38:38.41 ID:P3rO0n0

ファッ!?

今ライブ終わって帰宅したばっかだろ!?

寝ろよ!

俺は見るけど!!

 

245 :さとるん:2126/04/XX(日) 23:38:50.12 ID:S2tO0kI

……はぁ(クソデカため息)

やっぱりやるのか、興奮して寝られないパターンだなこれは

 

256 :ちゃがま:2126/04/XX(日) 23:39:12.77 ID:K9aZe1no

あー、やっぱり?

体力オバケかよあの娘

 

289 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:40:05.15 ID:Kp0mM0n

配信始まった!

「ただいま、ユグドラシルっと。今日は『戦わない』日」だって

声が……ちょっとだけハスキーで、これはこれで破壊力が高い

 

312 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:42:45.33 ID:VtNn0WZ

アリサ「実はちょっと枯れてるから、今日は小声でいくね」

俺「ありがとうございます(即死)」

小声のウィスパーボイスが耳元で鳴るとか、これ何のASMR配信だよ

 

340 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:44:20.90 ID:0b0m0m0

拠点、めっちゃ発展してね?

メンバーが黙々とレンガ積んでるし、生産職ガチ勢多いってマジか

副ギルマス「ポーションの品質『高』です」 早すぎワロタ

 

355 :さとるん:2126/04/XX(日) 23:45:45.50 ID:S2tO0kI

生産特化ギルドか

「戦わない」と言いつつ、流通を握る気満々だな

「うちを敵に回すとポーション相場が倍になるかも」って、冗談に聞こえないんだが

 

368 :ペロロンチーノ:2126/04/XX(日) 23:47:10.11 ID:P3rO0n0

アリサちゃん「うちは弱いからね~(ニッコリ)」

俺ら「嘘つけ!!」

経済的な意味での最強を目指してるだろこれ

 

402 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:50:20.66 ID:H4eR1sA

おい待て、警報鳴ったぞ!

敵襲か?

『ブラッド・エッジ』じゃねーか! 有名なPKクランだぞ!

 

415 :ちゃがま:2126/04/XX(日) 23:52:12.33 ID:K9aZe1no

うわ、ガラの悪そうなのが六人も

土足で庭に入ってくるとかマナー悪いなぁ

アリサ、大丈夫かな……

 

422 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:54:40.55 ID:L1vEM0t

アリサ「入れてあげて」

は?

正気か?

「武器を抜いたら即座に録画を開始する」って、配信を盾にする気かよ。

 

438 :ペロロンチーノ:2126/04/XX(日) 23:55:05.41 ID:P3rO0n0

PK相手に「ようこそ」って笑顔で言える度胸よ

「今、三万人が見てる。名前と所属、アーカイブに残るよ?」って脅し文句がスマートすぎるw

 

450 :さとるん:2126/04/XX(日) 23:57:45.80 ID:S2tO0kI

……なるほど

相手の「PKとしてのリスク(身バレ)」を突いて動きを封じた上で、「装備の耐久減ってるでしょ?」って商談に持ち込んだか

飴と鞭の使い方が手慣れてるな

 

465 :名無しの冒険者:2126/04/XX(日) 23:58:00.99 ID:G7uYt1R

条件提示がエグい

「周辺でのPK禁止」「生産職に手を出さない」

「破ったら他の生産ギルドにも手を回してブラックリスト入り」

これ、実質的にPKギルドを用心棒として雇ったのと同じじゃん

 

472 :ちゃがま:2126/04/XX(日) 23:59:35.21 ID:K9aZe1no

あー……うん

あの子、こういう所あるよね

「平和維持活動だよ」って笑ってるけど、やってることはマフィアの交渉術なんだよなぁ

 

489 :名無しの冒険者:2126/04/XY(月) 00:02:10.05 ID:Kp0mM0n

PKたち、普通にポーション買って帰りやがったw

でも「いい性格してるな」って、待て、普通にいい雰囲気作るな

 

510 :さとるん:2126/04/XY(月) 00:03:50.60 ID:S2tO0kI

「根回しをして、相手のメリットを提示して、平和的に解決する」

……どっかで見た仕事のやり方だな

まあ、無事に済んでよかったよ、ヒヤヒヤさせやがって

 

535 :ペロロンチーノ:2126/04/XY(月) 00:05:22.18 ID:P3rO0n0

アリサちゃん「次はもっと上手くやるよ。兄さんには内緒ね」

俺ら「「了解です!!!」」

でもコメント欄の「あくどい」に対して「外交だよ」って返す笑顔が最高に黒くて好き

だが、PKよ。アリサちゃんにこれ以上近づくのは許さん

 

558 :名無しの冒険者:2126/04/XY(月) 00:10:00.77 ID:YgGdR4S

ライブ直後のテンションでPK手玉に取った後、「さて、壁紙の色どっちがいい?」って通常運転に戻るの強すぎるだろ

このギルド、間違いなくユグドラシルの台風の目になるわ

 

580 :さとるん:2126/04/XY(月) 00:15:45.30 ID:S2tO0kI

もう遅い、これ以上は体に毒だ

コメントで寝るように言ってこないとな

 

592 :名無しの冒険者:2126/04/XY(月) 00:17:10.99 ID:H4eR1sA

>>580

お前が一番の古参ファンみたいになってるぞw

でも同意だ、アリサちゃん、おやすみ

今日の配信、短かったけど神回だった

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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