オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第一章 5 パワーレベリング

六大神の神殿、その最奥に位置する『真実の間』。

厳粛な空気が漂う石造りの広間に、わたしは一人で立たされていた。

 

周囲を囲むのは、スレイン法国を統べる六人の枢機卿の方々。

彼らの視線は、未知の原石を見定めるような鋭さと一種の期待を含んだ熱を帯びている。

わたしは王女として、そしてかつて社会人だった一人の人間としての理性を総動員し、震える膝を必死に抑えて背筋を伸ばした。

 

ここで取り乱しては王国の、ひいては兄様や父上の顔に泥を塗ることになる。

もしわたしに利用価値がないと判断されれば、外交カードとして冷遇される可能性もあるのだ。

毅然としていなければ。

 

「それではアリサ王女殿下、これよりタレントの鑑定を行わせていただきます」

「はい。よろしくお願いいたします」

 

神官長が合図を送ると、祭壇に安置された透明な水晶が低い駆動音を立て始めた。

頼む、とわたしは内心で祈る。

この世界で生きていくための、いや今回受けた襲撃をせめて自衛できる程度の力は欲しい。

そう願っていたのだが――。

 

「……反応が出ます。まずは一つ目」

 

水晶の中に浮かび上がった光の文字。

鑑定役の神官がそれを読み上げた瞬間、室内の空気が凍りついた。

 

「タレント名……『限界突破』」

 

限界、突破。

その四文字を聞いた瞬間、わたしの背筋に冷たいものが走った。

ゲーム用語でよく聞く言葉だ。だが、ここでその言葉が意味するものは――。

 

「詳細解析……な、なんだこれは……」

神官の声が震え始める。

 

「定義が異常です、『個体に設定されたあらゆる成長限界、容量限界の撤廃』……? 肉体の強度、魔力の総量、スキルの習熟上限……その全ての限界が存在しないと出ています!」

「……なんですって?」

 

思わず、素の声が出そうになった。

限界がない?

それはつまり、どれだけレベルを上げてもキャップにぶつからないということ?

この世界の理において、決して超えられないはずの『種族の壁』を無視できるという意味なのだろうか。

 

「人間種には必ず『器の限界』が決まっているはずだ。それを無視して無限に成長できるというのか……?」

「神域……いや、理論上はそれすらも超えうる……?」

 

枢機卿たちの狼狽が伝わってくる。

わたしはゴクリと喉を鳴らした。

予想外だ。

もっと地味な能力だと思っていたのに、最初から劇薬のようなタレントが出てしまった。

 

「お、お待ちください! 続けて二つ目の反応があります!」

「なんと、複合型か!」

 

思考を整理する間もなく、水晶が今度は眩い虹色の光を放ち始めた。

そのあまりの神々しさにわたしは目を細める。

 

「鑑定結果……出ました! タレント名『万能の器』!」

 

「万能……? 効果は!」

「こ、これも常識外です! 『全職業への適性』ならびに『習得に関する前提条件の無視』……! 戦士、魔法職、生産職……いかなる職業であっても適性を持ち、かつ種族限定や特殊な儀式を必要とするレアジョブであっても、無条件で習得可能であると……!」

 

ガタッ、と誰かが椅子を倒す音が響いた。

わたしも血の気が引くのを感じた。

 

『限界突破』と『万能の器』。

この二つが組み合わさる意味を、ゲーマー知識のあるわたしは瞬時に理解してしまったからだ。

『あらゆる職業に就ける』能力と、『成長の限界がない』能力。

通常はレベルの上限があるため、限られたポイントをどの職業に振るか悩むものだ――いや、そのための試行錯誤こそがゲームとしての醍醐味と言ってもいい。

けれど、わたしにはその制限がない。

その気になれば、戦士系の職業を極めた後に、魔法職を極め、さらに生産職も極める……なんてことが理論上可能になってしまう。

 

(待って、そんなの……『器』どころか『底なし沼』じゃない)

(本来なら絶対になれないはずの、異形種専用のクラスや、特殊な条件が必要な『ワールドチャンピオン』のようなクラスさえも取れるってこと……?)

 

習得速度が速くなるわけではないのが救いだが、時間をかければ『全てを使える完全者』になれてしまう。

 

「あり得ん。どんな色の水でも受け入れ、決して溢れることのない器だと……」

「彼女は……時間をかければ、六大神すべての奇跡を一人で行使することも不可能ではないということか」

 

枢機卿たちの眼差しが変化する。

それは猛獣を見るような畏怖と、そして未加工のダイヤモンドを見るような強烈な渇望。

わたしは、自分の存在が彼らにとってどれほど巨大な意味を持ってしまったかを悟り、恐怖よりも重圧に押し潰されそうになった。

 

「アリサ王女……貴女は、ご自身のこの異常性を理解しておられますか?」

「言葉の意味をそのまま受け取るなら、わたしは……常識外れな存在、ということになりますでしょうか」

 

精一杯の落ち着きを装って答える。

神官長は額の汗を拭おうともせず、ただ呆然と頷いた。

 

「常識外れどころではありません。貴女は――」

 

その言葉は遮られた、水晶が三度目の輝きを放ったからだ。

今度は先ほどまでの激しい光とは違う。

優しく、包み込むような桜色の淡い光。

 

「ま、まだあるのか!?」

「三つ目だと……!? これ以上、一体何を……!」

 

神官が、信じられないものを見る目で最後の名を告げる。

 

「タレント名……『永遠の歌姫』」

 

その響きに、わたしは不思議と胸が温かくなるのを感じた。

歌姫。

それはわたしが前世で目指し、でも結果的に叶わなかった夢の形のような――。

 

「効果は、『聴衆の精神安定』および『援護・弱体効果の拡大・延長』……。

歌声の届く範囲にいる味方の心を癒やし、支援魔法の範囲や効果時間を伸ばす……というもののようです」

「……え?」

 

わたしは拍子抜けして、思わず間の抜けた声を出してしまった。

前の二つがあまりにも規格外だっただけに、随分と可愛らしい能力だ。

精神安定と効果の延長。

戦闘用というよりは、吟遊詩人のようなサポート向けの能力だろうか。

 

「……ふむ。先ほどの二つに比べれば、随分と穏やかな能力だな」

「だが、待て。これはこれで貴重だぞ。戦場で兵士の心を折らせず、支援魔法を維持できる。彼女が歌い続ける限り戦線は崩壊しないということだ」

 

枢機卿たちの表情から、少しだけ険が取れた。

前の二つが『制御不能な破壊の力』を予感させたのに対し、この三つ目のタレントは『癒やしと調和』を象徴しているように見えたからかもしれない。

彼らはわたしを『ただの怪物』ではなく、『心を持った少女』として再認識したようだった。

 

「……神官長様」

 

わたしは顔を上げ、まっすぐに彼を見据えた。

怯えるだけの子供はもう終わりだ。

この力が与えられた意味を、わたしなりに受け止める覚悟を決める。

 

「わたしは……最初の二つの力が、とても恐ろしいものだと理解しています。ですが、最後の力は……とても好きです」

「好き、ですかな?」

「はい。誰かを傷つける力ではなく、誰かの心を支え助ける力ですから……わたしは、この歌の力のように、大切な人たちを守れる存在になりたいです」

 

わたしの言葉に、枢機卿たちが息を呑む気配がした。

彼らは気づいたのだろう、わたしの力が強大であるだけでなくその精神が力に溺れることのない高潔さを備えていることに。

真実は、単にいくらでも上位存在がいるこの世界で舐めプしてる余裕がないだけなのだけれど。

 

「……参りましたな」

 

神官長が、深く、深く頭を下げた。

それは王族への儀礼ではなく、わたしに対する敬意の表れだった。

 

「アリサ殿下。貴女は、我々スレイン法国の……いや、人類の至宝となられるお方だ。我々は全霊を懸けて、貴女のその才を支え守り抜くことを誓います」

「はい……ふつつか者ですが、どうかご指導をお願いいたします」

 

わたしは淑女の礼で応える。

こうして、わたしの想像を遥かに超える結果と共に、タレント検査は幕を閉じた。

平穏な生活はこれで完全に遠のいただろうけど、後悔はない。

 

 

タレント検査から数週間後。

漆黒聖典が管理する地下大演習場でわたしは泥と血に塗れていた。

 

「ほらほらぁ、動きが鈍ってるよぉ殿下ぁ! 死にたいのぉ?」

「っ……くっ!」

 

視界の端で銀色の閃光が奔る。

クレマンティーヌさんの短剣だ。

わたしは泥に足を取られながらも、無様に転がるようにしてそれを回避した。

 

「あはっ! いい顔するようになったじゃん。最初は泣いてばっかだったのにさぁ」

「……お姉さま、ご指導ありがとうございます!」

 

わたしは荒い息を吐きながら、模擬剣を構え直す。

体は悲鳴を上げているが、心の中では冷静に自分のステータスを分析していた。

レベルが……また上がった。

 

今のわたしの育成方針は、極めて単純かつ乱暴なものだ。

通常の人間なら、職業の選択は慎重に行わなければならない。

才能の限界がある以上、無駄な職業に経験値を振ればそれだけ完成度が下がるからだ。

 

だが、今のわたしには『限界突破』がある。

レベルの上限がない。

そして『万能の器』により前提条件を無視してどんな職業にでも就くことができる。

 

つまり――「ビルド」を組む必要がないのだ。

戦士だろうが魔法使いだろうが盗賊だろうが、手当たり次第に経験値を稼ぎ、片っ端から習得していけばいい。

器用貧乏?

いいえ、最終的に全てを極めれば『万能の怪物』になるのだから。

 

「疾風走破、交代だ。次は私が相手をする」

「ちぇー。これから楽しくなるとこだったのにさ」

 

不満げなクレマンティーヌさんと入れ替わりで、巨大な影がわたしを覆う。

『巨盾万壁』。

城壁のごとき大盾を構えた巨漢が、圧殺せんばかりの迫力で迫ってきた。

 

「殿下、参ります。防御だけでは防ぎきれませんよ」

「はい……!」

「『シールド・バッシュ』!」

 

空気が破裂するような轟音と共に、鉄塊のような盾が迫る。

避ける隙間はない。

わたしは即座に思考を切り替え、脳内のスイッチを「回避」から「耐久」へと叩き込んだ。

 

(『不落要塞』起動……さらに『金剛体』を重ねがけ!)

 

ドォォオン!!

 

凄まじい衝撃が腕を駆け上がり、骨がきしむ音がする。

わたしは木の葉のように吹き飛ばされ、背後の壁に激突した。

 

「がはっ……!」

 

肺の中の空気が強制的に排出される。

けれど、意識はある。

腕も折れていない。

数日前なら即死していたはずの一撃を、わたしは耐えきったのだ。

 

「なんと……今の衝撃を受け止めて、立ち上がりますか」

 

巨盾万壁が驚きを含んだ声を漏らす。

本来、『不落要塞』のような上位の防御は、高レベルの重戦士職に就かなければ習得できない。

しかし『万能の器』を持つわたしは、前提条件を無視してスキルを発現させることができる。

 

「はぁ……はぁ……、まだ、いけます!」

 

わたしは膝に手をつきながらも、顔を上げた。

泥だらけのドレス、血の味のする口内。

けれど、体の奥底から湧き上がる力がわたしの背中を押している。

 

強くなっている。

 

漆黒聖典の方々にはまだ指一本触れることもできないけれど、死ぬはずだった攻撃を耐えられるようになっている。

それが何よりの証明だ。

 

「……呆れたタフさだねぇ。器用貧乏になるはずが、全部の職を『つまみ食い』して伸びてるんだから」

 

クレマンティーヌさんがケラケラと笑うが、その目は笑っていない。

漆黒聖典の面々は気づき始めていた。

自分たちが育てているのがただの優秀な王女ではなく、既存の戦術理論を根底から覆す『理外の存在』であることに。

 

「ありがとうございます。皆様のおかげで、少しずつですが前へ進めています」

 

わたしは本心からの感謝を込めて頭を下げた。

王城にいた頃は、結局守られるだけの存在だった。

でも今は、泥水を啜ってでも強さを掴み取れる環境がある、それが嬉しくてたまらないのだ。

 

「……変な子。ま、壊れないおもちゃは嫌いじゃないけどさ」

 

クレマンティーヌさんが短剣をくるくると回す。

その殺気は、まだ収まる気配がない。

 

「休憩終わり! 次は魔法職のスキルを試すんでしょ? 神官長たちが回復魔法の準備して待ってるよぉ」

「はいっ! すぐに行きます!」

 

わたしは痛む体を叱咤して走り出す。

ここでの訓練は地獄だけれども、地獄の先にこそ大切な人たちを守れる未来があると信じて。

人類最強の英雄たちによる「パワーレベリング」は、まだ始まったばかりだった。

 

 

退屈。

本当に、世界は退屈でできている。

 

私は地下演習場の観覧席――その一番高い手すりに腰掛け、眼下で繰り広げられている『お遊戯』を見下ろしていた。手の中でカチカチと音を立てるルービックキューブを弄りながら、大きな欠伸を一つ噛み殺す。

 

「……弱いなぁ」

 

泥だらけになって転がっているのは、最近連れてこられた王国の王女サマだ。クレマンティーヌの、あの人を舐め腐ったような短剣捌きに翻弄され、無様に地面を這いずっている。動きは素人、魔力も平凡。あんなの、私なら指先一つで挽き肉にできる。

 

だが、私の視線はその少女から離れなかった。あの子からは『匂い』がするからだ。今はまだ微弱だけど、決して無視できない異質な何かの匂いが。

 

「あはっ! いい顔するようになったじゃん。最初は泣いてばっかだったのにさぁ」

「……お姉さま、ご指導ありがとうございます!」

 

ボロボロになっても立ち上がる。ふうん、根性はあるみたい。でも、それだけじゃ私の興味は引けない。私が探しているのは、私を敗北させてくれる『強者』だけだから。

 

「疾風走破、交代だ。次は私が相手をする」

 

巨盾万壁が出てきた。あーあ、あの図体で本気出したら、あんな華奢な子なんて潰れちゃうんじゃない? 私は少しだけ、ルービックキューブを回す手を止めた。

 

「『シールド・バッシュ』!」

 

轟音。単純な質量攻撃。あれをまともに喰らえば、普通の人間なら内臓が破裂して終わりだ。土煙が舞い上がり、少女の体が壁まで吹き飛ばされるのが見えた。

 

「……死んだ?」

 

つまんない。結局、その程度のおもちゃだったってことか。そう思って視線を外そうとした、その時だった。

 

「がはっ……! はぁ……はぁ……まだ、いけます!」

 

土煙の中から少女がフラフラと立ち上がったのだ。私は思わず目を丸くした。生きてる。腕も折れてないし内臓も無事っぽい。直撃の瞬間、あの子の魔力の波長がカチリと切り替わったのを私は感じ取っていた。

 

(あれは重戦士の……『不落要塞』? それに『金剛体』?)

 

おかしい。あの子はさっきまで、剣士の動きをしていたはずだ。それなのに、なんで重戦士専用の防御が使えるの? それに直後のあの魔力障壁……あれは魔法職の『魔力盾』だ。

 

「……なるほど。あれがおじいちゃんたちの言ってたタレントか」

 

『限界突破』と『万能の器』。なんでも覚えられるし、どこまでも強くなれる。矛盾した才能を無理やり詰め込んだ、歩く反則技。

 

「……呆れたタフさだねぇ。器用貧乏になるはずが、全部の職を『つまみ食い』して伸びてるんだから」

 

クレマンティーヌの声には、隠しきれない焦燥と歪んだ喜びが混じっている。あいつも気づいたんだ。自分の手元にあるのが、いずれ自分を喰らい尽くすかもしれない化け物の卵だってことに。

 

「……へえ」

 

私の中で何かが少しだけ疼いた。限界がない、ということは。もしかしたらあの子はいつか『私』よりも強くなるかもしれないってこと?

 

人類最強の私を。神人の血を引く私を。あの泥だらけの少女が追い抜いていく?

 

「……ふふ」

 

口元が勝手に緩む。想像したらゾクゾクした。私を負かしてくれる相手が、あんなところに転がっているなんて。

 

「名前……アリサ、だっけ」

 

今はまだ、踏めば潰れる虫けらだ。でも待ってあげる。漆黒聖典を喰らって、もっともっと大きくなりなさい。

 

「早く育ってね……キミが熟れるまで、私は待っててあげるから」

 

私は完成したルービックキューブを放り投げると楽しげに足をぶらつかせた。退屈だった世界に少しだけ面白い色がついた気がした。




古い人間なので、泥臭い強化や訓練の場面は大好きです。
覚醒や奥の手を残していた的なバトルも、もちろん好きですけど。

なお、アリサの現時点での強さは帝国4騎士以上ガゼフ以下を想定しています
これで、これからの展開読まれそうですがw

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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