オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第一章 6 開戦前夜

スレイン法国での長く過酷な修行を終え、王都へと向かう帰路の途中。

国境付近にある宿場町は、世界を灰色に染めるような冷たい雨に打たれていた。

馬車の窓からぼんやりと外を眺めていたわたしは、泥にまみれた路地の隅に小さな「異物」を見つけて目を細める。

 

「……馬車を止めて」

「殿下? いかがなさいましたか、このような場所で」

「いいから止めて……見過ごせないものを見つけたの」

 

御者の静止も聞かず、わたしは動き出したばかりの馬車を無理やり停止させ、ぬかるんだ地面へと飛び降りた。

高級なドレスの裾が泥水を吸い上げるけれど、そんなことを気にしている場合ではない。

私の強化された五感は、そのボロ切れの山から微かな、今にも消えそうな命の鼓動を捉えていたからだ。

 

「……酷い熱」

 

路地の奥、ゴミと汚泥に紛れるようにして倒れていたのは、一人の少年だった。

痩せこけた体、雨に濡れて張り付いた髪、そして何より、生きることを諦めたような虚ろな瞳。

間違いなく、原作における重要キャラクター――クライムだ。

 

(まだラナーに出会っていないのね……ここで見捨てれば、この子は間違いなく死ぬ)

 

原作ではラナーが拾うはずだったけれど、今の時間は少しずれているのか、あるいはわたしが動いたことによる変化なのかもしれない。

けれど、そんな因果関係なんてどうでもよかった。

目の前で小さな命が消えかけている、その事実だけで私が動く理由は十分だった。

 

「……聞こえる? まだ死ぬには早いわよ」

 

わたしは躊躇なく泥の中に膝をつき、少年を抱き起こした。

その体は氷のように冷たく、けれど燃えるような熱を発している。

わたしは懐から下級の治療薬を取り出すと、震える少年の唇に押し当てて流し込んだ。

 

「飲みなさい……『永遠の歌姫』、発動して」

 

わたしはタレントを発動させ、薬効を高めるための即興のハミングを口ずさむ。

わたしの歌声にはバフ効果の延長と拡大がある。

微弱なポーションの力でもわたしのタレントで底上げすれば、この衰弱した体を繋ぎ止めるくらいはできるはずだ。

 

「……う、あ……?」

 

少年の呼吸が、少しずつ穏やかなものへと変わっていく。

泥だらけの顔にわずかに赤みが戻り虚ろだった瞳が薄っすらと開かれた。

 

「……あ、なたは……?」

「通りすがりの『姫騎士』よ……名前は言える?」

「なまえ……ない、です……ゴミ、って呼ばれてました」

 

その言葉に、胸の奥がチクリと痛む。

原作を知っているからこそ、彼がどれほど過酷な環境で生きてきたか、そしてどれほど愚直なまでに真っ直ぐな精神性を持っているかを知っている。

 

(ここで拾ったのも何かの縁ね……ラナーが拾うはずだったけれど、このまま死なせるよりはマシでしょう)

 

特別な感情があるわけではない。

ただ、彼の『才能を持たざる者の努力』には、元一般人として少しばかり共感を覚えるのも事実だ。

 

「そう。なら、今日からわたしが名前をあげる」

「……え?」

「『クライム』、這い上がる者……どんな泥の中からでも、空を目指して登っていけるように」

 

わたしは彼の手を取り、その冷え切った指先を自分の体温で温める。

少年――クライムの瞳が、驚きと戸惑いで揺れた。

 

「わたしが王都まで連れて行ってあげる。その後は……孤児院を紹介してあげる」

「ぼく、を……?」

「ええ。わたしにはあなたを養う事は出来ないけれど、死にゆく子供を見過ごすほど冷淡でもないの……生きるチャンスくらいはあげる」

 

甘やかすつもりはない。

 

わたしの専属にするつもりもないし、ラナーのように歪んだ愛情を注ぐつもりもない。

ただスタートラインに立たせてあげるだけ、そこからどう生きるかは彼自身の足にかかっている。

 

「この子を連れて帰ります……汚れているけど、席に乗せておいて」

「は、はっ! 殿下がそう仰るなら」

 

護衛たちが慌ただしく動き出し、クライムを抱え上げる。

少年はされるがままになりながらも、その視線をずっとわたしに向けていた。

そこにあるのは、初めて光を見たような、純粋な驚きと感謝の色だった。

 

(頑張りなさいクライム。この過酷な世界で凡人がどこまで足掻けるか……見せて)

 

わたしは再び馬車に乗り込み、濡れたドレスを払う。

雨脚はまだ強いけれど、馬車は王都へ向けて力強く走り出した。

こうして、わたしとクライムの――原作とは異なる関係が幕を開けたのだった。

 

 

帝都アーウインタル、皇城『地上にある銀河』の一室。

重厚なマホガニーの円卓を囲む空気は、まるで凍てついた湖面のように静まり返り張り詰めた緊張感だけが漂っていた。

俺は頬杖をついたまま、眼下に並べられた羊皮紙の報告書へと冷ややかな視線を落とし不快げに鼻を鳴らす。

 

「……つまり何か? あの腐りきった王国の第三王女がスレイン法国の手厚い保護下にあるというのは事実なのか」

「はっ、間違いございません。我が帝国の諜報員からの確かな情報です」

 

報告を行う書記官の声が、俺の不機嫌さを感じ取ってか微かに震えているのがわかった。

無理もない。

この報告が意味するところは帝国の首脳陣にとって悪夢以外の何物でもないのだから。

 

「襲撃を受けて行方不明と思われていた王女が、まさか法国の奥深くに匿われているとはな」

 

俺は指先で机を一定のリズムで叩きながら、頭の中で瞬時に政治的な損得勘定を弾き出す。

スレイン法国は人類救済を掲げる宗教国家であり、近隣諸国とは一定の距離を保ちつつもその強大な軍事力で睨みを利かせている厄介な隣人だ。

つまり彼らは基本的に他国の王族をそこまで優遇しない、利用価値がない限りは。

 

「陛下、これは由々しき事態かと。法国が王国の王女を『賓客』として扱っている意図……単なる人道的な保護とは思えません」

「わかっているとも。あの宗教狂いたちが何のメリットもなく他国の王女に構うわけがない」

 

俺の言葉に、円卓に座る側近たちが沈痛な面持ちで頷くのが見えた。

王国は腐敗した貴族たちによる派閥争いで内側から腐り落ちつつあるが、まだ大国としての体面は保っている。

俺は時間をかけてその腐敗を進行させ、熟れた果実のように落ちてくるのを待つつもりだったのだが。

 

「だが、ここにきて法国という『劇薬』が投入されたとなれば話は変わる」

 

法国が王女を傀儡として、あるいは神輿として担ぎ上げ、王国への介入を強めればどうなるか。

腐りかけていた王国という巨木に、法国という支柱が添えられることになる。

 

「フールーダ、爺はどう見る? 魔法的な観点、あるいはあちらの神官たちの動きから何か読めないか」

 

俺は傍らに控えていた、帝国最高位の魔法詠唱者にして俺の師でもある老人へと話を振った。

長い白髭を蓄えたフールーダ・パラダインは、細められた瞳の奥に怪しげな光を宿しながら、ゆっくりと口を開く。

 

「ふむ……興味深いですな。諜報によれば王女が保護された直後、六大神の神殿にて大規模な儀式が行われた形跡があるとのこと」

「儀式だと? まさか、死者復活か?」

「いえ、あるいは……もし王女が連中が涎を垂らすような稀有な異能を秘めていたとしたら」

 

フールーダの言葉に俺は眉間の皺をさらに深く刻んだ。

タレント、生まれつきの異能。

もしあのか弱い王女が、法国の国策をも動かすほどの強力なタレントを持っていたとしたら、全ての辻褄が合う。

 

「……厄介だな。実に厄介だ」

 

俺は椅子に深く背中を預け、天井に描かれたフレスコ画を仰ぎ見た。

王女のタレントが何であれ、現状は最悪だ。

法国は王女を手懐け恩を売り、いずれは王国を親法国国家として再編するための楔として利用するだろう。

 

「王国と法国が手を組む、あるいは王国が法国の属国化する……我が帝国にとっては、どちらに転んでも悪夢だ」

「左様ですな。北と南の二つの勢力に挟撃される形となれば帝国の覇道にも陰りが差しましょう」

 

軍務大臣が渋い顔で肯定する。

王国の貴族たちは愚かだが、数だけは多い。

そこに法国の精強な特殊部隊や魔法技術が加われば、我が軍といえど苦戦は免れない。

 

「ならば、結論は一つしかあるまい」

 

俺は身体を起こし、円卓に座る全員を見渡した。

その瞳に宿る光を鮮血帝と呼ばれるに相応しい冷徹な意志で塗り替える。

 

「手遅れになる前に、切り取るぞ」

「……陛下、それは」

「王国が法国の本格的な支援を受けて立ち直る前だ。貴族派と王党派がいがみ合っている今この時をおいて他にない」

 

俺は卓上の地図、リ・エスティーゼ王国の領土を指先でなぞった。

本来ならばもう少し国力を蓄え内部工作を進めてから動くつもりだったが、不確定要素が現れた以上プランを前倒しにする必要がある。

 

「我々はこれより、王国に対して正式な軍事行動を開始する」

「……ついに、やられますか」

「ああ。小競り合いではない国家間の戦争だ。奴らに安寧な時間など与えてはやらん」

 

会議室にどよめきが走るが、誰一人として反対する者はいない。

俺の決定は絶対であり、そして彼らもまたこのまま座して待つことの愚を理解しているからだ。

 

「狙いはカッツェ平野付近。大軍を動かし、王国の貴族どもを疲弊させる」

「消耗戦……ですな。農民を徴兵する王国にとっては、毎年のように収穫期に攻め込まれるのが最も痛手となりましょう」

「その通りだ。奴らの国力を削ぎ落とし、法国が介入する余地すらないほどに疲弊させる」

 

俺は拳を握りしめ、見えざる敵――遠く離れた地にいる王女とその背後にいる法国を見据えた。

この戦争は単なる領土拡大のためではない。

将来の禍根を断つための、先制攻撃だ。

 

「王女アリサ……彼女がどのような『力』を持っているにせよ、それが育ちきる前に叩き潰す。宣戦布告の準備を進めよ。今年の秋、最初の『麦刈り』を行うぞ」

「はっ! 御意のままに!」

 

一斉に頭を下げる部下たちを見ながら、俺は胸の内に湧き上がる焦燥を必死に抑え込んでいた。

なぜだか嫌な予感がするのだ。

遠く離れた地で、俺の想定を遥かに超える怪物が産声を上げているような、そんな肌寒さを感じてならなかった。

 

(急がねばならん。あの王女が育ち、我々の喉元に牙を突き立てるその前に――)

 

俺は無意識のうちに自身の首筋をさすっていた。

歴史の歯車が、俺の号令によって大きくそして血生臭く回り始めた音が聞こえた気がした。

 

 

王都リ・エスティーゼ、王城内にある軍議の間。

重苦しい空気が澱んだように漂うこの部屋で、わたしは広げられた地図を前にして小さく溜息を呑み込んだ。

 

「……早すぎるわ、いくらなんでも」

 

誰にも聞こえないほどの小声で、思わず本音が漏れてしまう。

スレイン法国での地獄のような――けれど確かな実りを得た修行を終えて、ようやく懐かしい王都の空気に馴染んできたと思った矢先のこと。

帝国からの宣戦布告という凶報は、あまりにも唐突にわたしの日常を叩き壊しに来たのだ。

 

(ジルクニフ……『鮮血帝』。原作の知識が確かなら、彼が恒例行事として戦争を仕掛けてくるのは、もう少し後の時代のはずよね)

 

今の彼はまだ若く、即位してから国内の貴族粛清に時間を割いている時期だから、対外戦争に打って出る余裕なんてないと思っていたのに。

やっぱり、わたしの存在が――『限界突破』と『万能の器』を持つ王女が法国に保護されたという事実が、彼の警戒心を過剰に刺激してしまったのかしら。

 

「陛下、今回の帝国の動きは不可解です。収穫期に合わせた侵攻……これは明らかに我々の国力を削ぐことを目的としています」

「うむ……だが、迎え撃たねばならん。民を蹂躙させるわけにはいかぬ」

 

父上、ランポッサ三世が苦渋の表情で頷くのを見て、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。 周囲を取り囲む大臣や貴族たちの顔色は真っ青で、見ているこっちまで不安が伝染してきそうだ。

それも当然ね、帝国軍の精強さは知れ渡っているし、何より今の王国には決定的な『欠落』があるのだから。

 

(ガゼフさんが、いない)

 

そう、この時代の王国にはまだ、あの頼れる戦士長ガゼフ・ストロノーフが存在していない。

原作であれば、彼が陣頭指揮を執り帝国の猛攻をその武勇で食い止めてくれるはずの場面だというのに。

今の王国軍には彼に代わって兵士たちを鼓舞し戦線を支えられる英雄が一人もいないのだ。

 

「兵の動員はどうなっている?」

「はっ。貴族連合からの徴発は進んでおりますが……士気は高くありません。農繁期の徴兵に反発も強く……」

 

軍務大臣の報告を聞い更に小さくなったように見えた父上の背中に、わたしは唇を噛み締めた。

寄せ集めの農民兵と、派閥争いしか頭にない貴族たちの指揮じゃ、結果なんて火を見るより明らかだ。

一方的な虐殺になって、大切な民たちが無意味に命を散らすことになる。

 

「……父上。わたしが出ます」

 

沈黙を破り、わたしは静かにけれど迷いのない声でそう告げた。

その場にいた全員の視線が、一斉にわたしへと集中するのが肌に刺さる。

 

「なっ……! 何を言うのだアリサ! お前は帰ってきたばかりではないか!」

「そうですぞアリサ殿下! 王女が戦場など、前代未聞です!」

 

父上の悲痛な叫びに続いて、貴族たちが口々に反対の声を上げて騒ぎ立てる。

彼らの言い分はもっとも。

常識的に考えれば、王位継承権を持つ王女を最前線に送るなんて狂気の沙汰でしょうね。

でも今のわたしにとって、彼らの剣幕なんて少しも怖くはなかった。

 

(漆黒聖典のあの人たちが放っていた、肌を焼き焦がすような殺気に比べれば……あなたたちの威圧なんてそよ風みたいなものよ)

 

「今の王国軍には帝国の騎士団に対抗できる『個』がいません。わたしは法国で力をつけてきました。それを今、国のために使わずしていつ使うのですか」

 

わたしは父上の目をまっすぐに見つめて、精一杯の想いを込めた。

そこにあるのは娘を案じる親としての温かな情愛だけで、それが痛いほど分かるからこそ、わたしは引くわけにはいかない。

 

「……アリサ。お前を失うわけにはいかぬのだ」

「失わせません。必ず生きて戻ります……約束します」

 

わたしは父上の手を取り、ぎゅっと強く握りしめた

その震える手から王としての重責と父としての恐怖が伝わってきて、わたしは自分の決意を新たにする。

 

「……わかった。許可しよう」

「陛下!?」

「ただし、決して無理はするな。危なくなったらすぐに退くのだぞ」

「はい。ありがとうございます、父上」

 

          ◇

 

軍議の間を出て、ほっと息をついた瞬間だった。

待ち構えていたかのように、廊下の影から二つの人影が駆け寄ってくる。

 

「アリサ! 正気か!? 自分から戦場に出るだなんて!」

 

血相を変えて詰め寄ってきたのは、第一王子のバルブロ兄様だった。

その厳つい顔をくしゃくしゃに歪め、怒鳴り声とは裏腹にわたしの肩を掴む手は心配そうに震えている。

その横では、第二王子のザナック兄様も珍しく顔色を悪くして立っていた。

 

「バルブロ兄様の言う通りだ。いくら法国で強くなったと言っても、戦争は個人の武勇だけでどうにかなるものじゃない……死ぬ気か?」

「二人とも……心配してくれてありがとうございます。でも、誰かが行かなければ負けてしまいます」

 

わたしが穏やかに諭すように言うと、バルブロ兄様は悔しそうに拳を壁に叩きつけた。

 

「くそっ……! 情けない! 本来なら長兄である俺が陣頭指揮を執るべきなのに! 妹一人を危険な場所に送り出すなど、兄として……男として、耐え難い恥辱だ!」

「兄上、今は悔やんでいる場合ではありませんよ……アリサ、父上の許可は?」

「はい、頂きました。必ず生きて戻ると約束して」

 

わたしの答えに、ザナック兄様は深くため息をつき、それから何かを諦めたように苦笑した。

 

「はぁ……昔からお前は、一度言い出したら聞かないからな。分かった、俺たちにできる後方支援は惜しまない。物資の手配でも何でも言ってくれ」

「俺もだ! 近衛の中から腕利きの護衛を選抜してつけてやる! いいか、絶対に無理はするなよ! 危なくなったらすぐに逃げろ!」

「ふふ、ありがとうございます。バルブロ兄様、ザナック兄様」

 

二人の不器用な優しさが胸に染みる。

原作では何かと冷遇されていたりする兄たちだけれど、本当は家族思いの良き兄たちなのだ。

わたしが転生してからずっと、彼らはわたしを可愛がってくれた。

だからこそ、彼らを守るためにもわたしは負けられない。

 

「あらあら、兄様たちったら。そんなに大声を出されたら、アリサお姉様が困ってしまいますわ」

 

鈴を転がすような、甘く愛らしい声が廊下に響いた。

その場の空気が、一瞬にして春の日差しのように柔らかなものに変わる。

黄金の髪をなびかせ、天使のような微笑みを浮かべて駆け寄ってきたのは、末の妹――ラナーだった。

 

「ラナー……」

「お姉様! ご無事で帰還されたと思ったら今度は戦場だなんて……わたし、心配で胸が張り裂けそうですわ」

 

ラナーはわたしの胸に飛び込むと、顔を埋めてぎゅっと抱きついてくる。

甘えるような仕草は昔と変わらない、わたしの可愛い妹。

バルブロ兄様などは、その愛らしさに少し毒気を抜かれたようで、バツが悪そうに視線を逸らしている。

 

「ごめんね、ラナー。でも、すぐに行って帰ってくるから」

「……ええ、信じております。だってお姉様は、わたしの自慢の『お姉様』ですもの」

 

ラナーが顔を上げ、わたしをまっすぐに見つめる。

その透き通るような瞳の奥には、常人には理解できない叡智の光――『怪物』としての片鱗が見え隠れしているけれど、わたしに向けられる感情だけは純粋な敬愛に満ちていた。

 

「これを持っていってくださいませ。帝国の行軍ルートの予測図と、現地の地理情報をまとめておきましたの。きっとお役に立ちますわ」

「もう用意してくれたの? ありがとう、助かるわ」

 

渡された羊皮紙の束を見て、わたしは舌を巻いた。

まだ宣戦布告から数時間しか経っていないのに、この情報の精度と早さ。

さすがは『黄金の姫』、彼女が味方でいてくれることがどれほど心強いか。

 

「ふふ、お姉様のためですもの。私にできることはこれくらいしかありませんけれど……」

「ううん、十分よ。あなたがこの城で無事でいてくれれば、わたしは安心して戦えるから」

 

わたしはラナーの頭を優しく撫でる。

彼女は嬉しそうに目を細め、それからふと真剣な表情になってわたしの耳元で囁いた。

 

「お姉様……邪魔な敵は遠慮なく薙ぎ払ってくださいね? お姉様を傷つけようとする愚か者は、この世にいなくていい存在ですから」

「……ええ。善処するわ」

 

その過激な愛情表現に苦笑しつつも、わたしは三人の家族に見送られ、力強く歩き出した。

背中に感じる温かな視線が、戦場へ向かう足取りを軽くしてくれる。

この大切な家族の団欒を、帝国なんかに壊させはしない。

 

数日後、わたしは王家の紋章が入った白銀の鎧に身を包み、馬上の人となっていた。

背中には法国から譲り受けた業物(わざもの)の剣、腰には魔法のワンドという、物語の勇者様みたいな――まさに『姫騎士』と言っていい出立ちだ。

 

「アリサ様、ご武運を」

「ええ。行ってきますね」

 

見送りの侍女に努めて明るく微笑みかけて、わたしは手綱を握りしめた。

目指すはカッツェ平野、原作よりも早く訪れてしまった因縁の地。

不安がないと言えば嘘になるけれど、それでも守りたい人たちが後ろにいると思うと不思議と足がすくむことはなかった。

 

(待っていなさい、ジルクニフ。あなたの計算を全部ひっくり返してあげるから)

 

わたしは馬腹を蹴り、軍列の先頭へと躍り出る。

かつて画面の向こうで見ていた残酷な世界が、今は現実として目の前に迫ってきている。

でも震えはない、あるのは泥水をすすっても掴み取った力で未来を切り開いてみせるという静かな高揚感だけだった。




少ない要素からのバタフライエフェクトでどんどん世界が変わっていく。
書くの楽しい!w(ひどい)

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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