オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた 作:連載として再構築
かつて世界でわたしだけが持っていた固有職『ワールド・アイドル』。
その真髄は、単なる支援魔法の域を遥かに凌駕する理不尽なまでのステータス補正にある。
わたしは大きく息を吸い込み、戦場の喧騒を切り裂くように高らかに歌声を響かせた。
『――響け、勝利の凱歌! その魂に焼き付けよ、不滅の輝きを!』
喉の奥から迸るのは、魔力そのものを震わせる力ある言葉。
視界の端に表示されるバフアイコンが、とてつもない勢いで点灯していくのが見えた。
《全能力超強化》《痛覚遮断》《恐怖無効》《自動再生》《スキルクールタイム短縮》……。
その効果範囲は、わたしを中心とした半径1キロメートル。
タレント『永遠の歌姫』により強化されたワールドアイドルのバフは、わたしの歌声が届く場所にいる全ての味方に対し、推定でレベルにして20相当のステータス底上げが付与される。
これはもう、バフというよりは一種の「進化」に近い。
「な、なんだこれは!? 身体が……羽のように軽いぞ!」
「力が溢れて止まらない! これなら、あの化け物どもにも負ける気がしない!」
周囲の聖騎士や兵士たちが、自らの手のひらを見つめながら驚愕の声を上げる。
無理もない、一般兵が突如としてミスリル級、あるいはオリハルコン級の冒険者に匹敵する身体能力を手に入れたようなものなのだから。
「ふはははは! 凄いぞ、これが貴様の力か!」
その中でも、最も劇的な反応を見せたのはやはりこの人だった。
レメディオス・カストディオ。
聖王国最強の聖騎士が、わたしのバフを受けて文字通りの「鬼神」と化していた。
「邪魔だ邪魔だぁぁっ! 正義の鉄槌を受けよぉぉっ!」
レメディオスが聖剣を一閃させるだけで、衝撃波が鎌鼬となって亜人の群れを薙ぎ払う。
本来なら数人がかりで抑え込むべきオークの上位種が、彼女の蹴り一発でボールのように彼方へと吹き飛んでいった。
ただでさえ英雄級の彼女がレベル20分の上乗せをされているのだ、それはもう暴力以外の何物でもない。
(うわぁ……あれはもう、人間投石機だね……)
わたしは苦笑しつつ、けれど歌うことを止めない。
ステップを踏み、踊るように戦場を舞う。
手にしたボロボロのブロードソードは、すでに限界を超えて悲鳴を上げているが、強化されたわたしの魔力で強引に形を保たせていた。
「ハッ!」
歌の合間に鋭い呼気を漏らし、飛びかかってきた半獣人を斬り伏せる。
今のわたしは「歌姫」であり「剣士」。
可憐に歌いながら、必殺の剣技を繰り出す戦場のアイドルだ。
「サリア殿! 左翼から増援が来ます!」
「分かってる! レメディオスさん、右は任せましたよ!」
「応よ! 私の背後には一匹たりとも通さん!」
わたしの指示に、レメディオスが獰猛な笑みで応える。
奇襲からこれまでの劣勢が嘘のように、聖王国軍は怒涛の勢いで亜人を押し返し始めていた。
前衛が壁となり、後衛が安心して矢や魔法を放つ。
その先端に、光り輝くわたしがいる。
戦場という舞台装置の上で、わたしは誰よりも目立ち、誰よりも強く輝く希望の星となっていた。 亜人たちの視線が、恐怖と混乱の色を帯びてわたしに集中する。
「アノ女ダ! アノ女ガ歌ウ限リ、人間ドモハ死ナナイ!」
「殺セ! マズハあの歌イ手ヲ殺スンダ!」
指揮官クラスとおぼしき蛇人の亜人が、しわがれた声で叫んだ。
良い判断だ、わたしを止めない限りこの軍勢は不死身なのだから。
だが、判断が遅い。
殺到してくる亜人の群れを前に、わたしは歌のテンポを上げ、さらに激しい旋律を奏でる。
それは攻撃の合図。
『――舞え、紅蓮の華!』
わたしの声に呼応するように、カルカさんたちが放った高位の攻撃魔法が炸裂する。
炎の柱が立ち昇り、わたしを狙った亜人たちを消し炭に変えた。
熱波が髪を揺らす中、わたしはカルカさんと視線を交わし、ウィンクを送る。
「サリアさん、無茶をしますね!」
「あはは、カルカ様こそナイスカバーです!」
戦場の真っ只中とは思えない軽口。
けれど、その余裕こそが兵士たちに勇気を与えるのだ。
わたしは剣を指揮棒のように振りかざし、東門の方角を指し示した。
「さあ、このまま東門まで押し切りますよ!」
「「「おおおおおっ!!」」」
地を揺るがすような鬨の声。
恐怖に支配されていた街は今、熱狂的な興奮に包まれていた。
わたしは歌い、踊り、そして駆ける。
瓦礫を飛び越え、屋根を走り、立体的な機動で戦場を撹乱する。
わたしの動きに合わせて、光の粒子が帯のように軌跡を描いた。
それは見た目にも美しく、そして触れた味方を癒やす回復の光だ。
「どいてどいてっ! ここはアイドルの通り道だよ! お触りは厳禁だからね!!」
「グギャッ!?」
通りの真ん中に立ち塞がったオーガの股下をスライディングで抜けながら、すれ違いざまに腱を断ち切る。
巨体がバランスを崩して倒れ込む隙に、背後から追随した聖騎士たちがトドメを刺す。
完璧な連携。
即席のパーティーとは思えないほど、わたしたちの息は合っていた。
いや、わたしの歌が彼らの思考さえもクリアにし、最適な行動へと導いているのだ。
これこそが『ワールド・アイドル』の真骨頂、戦場そのものをライブ空間と化して支配する。
「東門が見えてきたぞ! 城壁の上に弓兵隊が残っている!」
「援護射撃、来ます!」
頭上から雨のように矢が降り注ぎ、逃げ遅れた亜人たちを射抜いていく。
わたしたちは止まることなく、ついに東門の巨大なアーチの下へと辿り着いた。
そこには破壊された扉の残骸と、侵入を試みようとしていた後続の亜人たちがひしめき合っていた。
「ここが正念場よ! レメディオス、一気に道を開けなさい!」
「無論です! 聖剣技――《聖光断》ッ!!」
カルカ様の激に応じ、レメディオスが必殺の技を放つ。
聖なる光を纏った一撃が、門を塞ぐ亜人の壁を物理的に粉砕した。
肉片と悲鳴が飛び散る中、ぽっかりと開いた穴の向こうに、街の外の景色が広がる。
「出たぞ! 外だ!」
「押し出した! 街を守りきったぞ!」
兵士たちから歓声が上がるが、わたしは表情を引き締めたまま歌を維持する。
そう、まだだ。
まだ、街から追い出しただけ。
門の外、広大な平原に展開している亜人の本隊は、未だ健在なのだ。
数千はいるだろうか。
夕闇が迫る中、無数の松明と、怪しく光る獣の眼光が地平線の彼方まで続いている。
「……ふぅ、やっと第1ステージクリアってところかな」
わたしは最後の一節を歌い終えると、荒い息を吐きながら剣を下ろした。
レベル差があるとはいえ、歌いながらの戦闘はスタミナを消耗する。
額に滲んだ汗を拭い、わたしは隣に並んだレメディオスとカルカ様を見る。
「サリアさん、大丈夫ですか? 魔力の消費も激しいはずじゃ……」
「平気です、カルカ様。これくらいなら、アンコールまで持ちますよ」
強がって見せると、レメディオスがニカっと笑ってわたしの背中をバンと叩いた。
痛い。
バフが残っているとはいえ、ゴリラの膂力で叩かないでほしい。
「いい度胸だ! 気に入ったぞ、サリア! 貴様が歌っている間、私は無敵になれる気がする!」
「それは気のせいじゃないですね。実際に強くなってますから」
「よし! なら、このままあの大軍も蹴散らすぞ! 私が突っ込んで、貴様が歌う! 完璧な作戦だ!」
「レメディオス、少し落ち着きなさい。……でも、今の勢いを止めるべきではないわね」
カルカ様は冷静に戦況を分析しつつも、瞳には強い闘志を宿していた。
一度引いて籠城戦という手もあるが、東門が破壊された今、ここで食い止めなければジリ貧になる。
何より、今の軍の士気は最高潮だ。
「……それに、ここから先なら街への被害を気にせず暴れられますしね」
わたしは壊れかけたブロードソードを投げ捨て、予備の武器を取り出すふりをした。
実際には、ただのインベントリのストレージから取り出しただけだが。
取り出したのは鋼のロングソード。
「アリサ」としての剣ではないが、量産品よりは遥かにマシな業物だ。
わたしはそれを構え、眼前に広がる亜人の大軍を見据える。
ここから先は、市街地戦のような障害物はない。
純粋な力と数のぶつかり合い。
そしてそれは、広範囲のバフを得意とする『ワールド・アイドル』にとって、最高のステージでもあった。
「さあ、レメディオス団長、カルカ様。第2部の開演です」
わたしは再び魔力を練り上げ、大きく両手を広げる。
亜人の群れが、わたしたちの姿を認めて咆哮を上げた。
大地を揺るがす殺意の波。
けれど今のわたしには、それがただの観客の歓声にしか聞こえなかった。
◇
東門から打って出たわたしたちの勢いは、まさに破竹と呼ぶにふさわしいものだった。
聖騎士団長レメディオス・カストディオを筆頭に、バフによって強化された兵士たちが狂乱の猛攻を仕掛けていく。
数千の亜人の群れが、まるで薄紙のように引き裂かれていった。
彼我の戦力差は圧倒的だったはずなのに、今の戦場を支配しているのは間違いなくわたしたち聖王国軍だ。
「ははははっ! 軽い、軽いぞ! 斬った感触すらないわ!」
レメディオスが聖剣を振るうたび、扇状に広がった衝撃波が前方の亜人をまとめて吹き飛ばす。
その光景は、もはや戦争というよりは一方的な蹂躙劇に近かった。
わたしは前線のやや後方に位置取りながら、声を張り上げて歌い続ける。
意識するのは、バフの効果時間を切らさないことと、戦場のヘイト管理だ。
(よし、敵の視線はレメディオスと、一番派手に歌っているわたしに向いている)
(これなら一般兵への被害は最小限に抑えられるはず……!)
わたしはステップを踏み、飛来する投石や魔法を紙一重で回避する。
その動きすらもダンスの一部に見えるよう、優雅な所作を心がけながら。
敵陣の動揺は明らかだった。
指揮系統が寸断され、恐怖が伝染し、亜人たちはジリジリと後退を始めている。
その時だった。
喧騒と怒号が渦巻く戦場のド真ん中ではっきりと、その「声」がわたしの耳に届いたのは。
「――そのスキル構成……唯一職『永遠の歌姫』に、固有職『ワールド・アイドル』……」
心臓が、早鐘を打ったように跳ね上がった。
わたしは歌のリズムを崩さないよう必死に堪えながら、視線だけで声の主を探る。
それは、前線から逃げ出そうとする亜人の群れの中に紛れていた。
粗末なローブを目深に被り、種族すら判別できない小さな人影。
指揮官ではない。
ただの雑兵、あるいは従軍していた何らかの専門職だろうか。
けれど、その呟きは決定的な一言を紡いだ。
「まさか、アリサ様? あの方が、なぜこんな場所に……?」
「――っ!?」
呼吸が一瞬、止まりそうになった。
歌詞が喉に詰まりかけ、わたしは強引に旋律を変えて誤魔化す。
(今、なんて言った?)
(アリサ様……? わたしの本体……違うわ! プレイヤーネームを呼んだの?)
この世界に来てから、わたしがその詳細を語ったのはただ一人。
今は、本体と共に王都にいるラナーに対してだけだ。
それ以外にわたしの正体を知る者がいるとすれば、それは『ユグドラシル』のプレイヤーか、あるいは――NPC。
わたしは創造する前に亡くなったが、《Voiceless Garden》の仲間が創造し愛した子たちなら。
「サリアさん? どうしました、顔色が優れませんが」
「い、いえ! なんでもありません、カルカ様!」
隣で魔法を放っていたカルカさんが、心配そうに声をかけてくる。
わたしは作り笑いを張り付け、動揺を悟らせまいと首を振った。
周囲の人間には、あの声は聞こえていないようだ。
戦場の轟音にかき消され、わたしの強化された聴覚だけが拾った小さな独り言。
わたしがその人影を視た瞬間、相手もこちらに気づいたように肩を震わせた。
フードの奥で何かが光り、即座に踵を返す。
『や、やめだ……勝てるわけがない……逃げるぞ!』
その人影があからさまに叫ぶと、それが引き金となって周囲の亜人たちが一斉に背走を始めた。
指揮官クラスではないようだが、その判断の速さは異常だった。
『ワールド・アイドル』の理不尽さを、身をもって理解しているかのような声。
あれは、わたしの力を「知識」として知っている者の動きだ。
「おい、待て! 逃げるな卑怯者どもめ!」
「深追いは無用よ、レメディオス! 今は街の安全確保が最優先です!」
逃げ惑う亜人を追おうとするレメディオスを、カルカさんが鋭い声で制止する。
わたしは遠ざかっていく亜人の背中を見つめながら、背筋に冷たいものが走るのを感じていた。
(あいつは何者? どうしてわたしを知っているの?)
(……確かめなきゃ)
歓声が上がる勝利の戦場で、わたし一人だけが、得体の知れない不安に囚われていた。
◇
カリンシャの夜は、かつてないほどの熱狂と歓喜に包まれていた。
広場の中央では巨大な焚き火がいくつも焚かれ、その炎が勝利に酔いしれる人々の笑顔を赤々と照らし出している。
配給された酒と食料は決して豪華とは言えないけれど、生きて明日を迎えられるという事実は、どんな極上のスパイスよりも宴を盛り上げていた。
「サリア様! サリア様万歳!」
「あんたは俺たちの女神だ! 一生ついていきます!」
四方八方から飛んでくる賛辞と感謝の言葉に、わたしは完璧な『アイドル・スマイル』で応え続ける。
手を振り、愛想を振りまき、時には即興の歌をプレゼントして、兵士たちの士気を最高潮まで高めていく。
けれど、わたしの胸の内にあるのは、周囲の喧騒とは裏腹な、氷のように冷たく重いしこりだった。
(……笑っている場合じゃない。本当なら、今すぐにでも飛び出していかなきゃいけないのに)
グラスに注がれた葡萄酒を口に含みながら、わたしの思考は数時間前の戦場へと引き戻されていた。
あの一瞬、轟音渦巻く乱戦の中で確かに聞こえた声。
『永遠の歌姫』、そして『ワールド・アイドル』という、この世界には存在しないはずの単語。
何より、あの亜人はわたしのことを『アリサ』と呼んだ。
サリアではない。
(妹であるラナー以外に、わたしの真実を知る人間はこの世界にはいないはず)
もしも相手がプレイヤーなら、友好的な相手とは限らない。
あるいはNPCだとしても、亜人の軍勢に加担している以上、放置すれば聖王国にとって致命的な脅威となる。
あの亜人はアベリオン丘陵の方角へ逃げた。
何が起きているのかを突き止めるためにも、追跡は一刻を争う。
「……決まり、だね」
わたしは空になったグラスを近くのテーブルに置くと、喧騒を抜け出すように広場の隅へと移動した。
誰もが勝利の余韻に浸っている今なら、誰にも気づかれずに街を出ることができるはずだ。
書き置きはすでに宿の部屋に残してある。
『歌の修行の旅に出ます』という、いささか古典的でふざけた内容だけれど、嘘をつくよりはマシだろう。
わたしは賑やかな光の輪に背を向け、闇の濃くなる城門の方角へと足を速めた。
背後から聞こえる笑い声が、少しだけ胸を締め付ける。
けれどこの笑顔を守り続けるためにも、今は行かなければいけないんだ。
通用口のある裏門周辺は、表通りの騒ぎが嘘のように静まり返っていた。
警備の兵士も勝利の宴に気を取られているのか、あるいは交代要員が不足しているのか、人の気配はほとんどない。
わたしは足音を忍ばせ夜闇に紛れるように、門を飛び越えようと手すりに手を掛けようとした。
「……夜風に当たるにしては、随分と大荷物ですな」
その時不意に背後からかけられた声に、心臓が跳ね上がる。
反射的に振り返ると、そこには見知った顔が二つ、影の中から浮かび上がっていた。
「サリアの嬢ちゃん。宴はこれからだってのに、主役がバックレるなんて水臭いじゃねえか」
腕組みをして仁王立ちする、鋭い眼光の偉丈夫、パベル・バラハ。
そして壁に背を預け、手元の短剣を弄びながらニヤニヤと笑う軽薄そうな男、オルランド・カンパーノ。
聖王国軍の中でも『九色』を抱く手練れが、通せんぼをするようにわたしの前に立ちはだかっていた。
「……二人とも、どうしてここに? 宴会には参加しないの?」
「俺たちは下戸でね。それに、なんとなく嫌な予感がしたのさ。大事なもんが、ひょいっと何処かへ消えちまうような予感がな」
オルランドが肩をすくめ、視線をわたしの足元に向けた。
そこにあるのは、旅装を整えたブーツと、戦闘で汚れたままの装備。
言い逃れができる状況ではないことは、誰の目にも明らかだった。
「サリア殿。貴女が何を考え、どこへ行こうとしているのか、我々には分かりませんが」
パベルが一歩踏み出し、その真剣な瞳でわたしを射抜く。
彼はふざけた態度を取るオルランドとは対照的に、常に物事の本質を見極めようとする男だ。
「ですが、貴女が一人で何かを背負い込もうとしていることだけは分かります……我々では、力不足ですか?」
「っ、そんなことは……!」
「なら、話してください。なぜ、勝利の夜に黙って去ろうとするのですか。我々は仲間ではなかったのですか」
パベルの言葉は、痛いほど真っ直ぐで、誠実だった。
言うべきなのだろうか。
わたしは異世界から来たプレイヤーで、あの丘の向こうに同じ故郷を持つ誰かがいるかもしれないのだと。
けれど、それはあまりにも荒唐無稽で、彼らの理解を超える話だ。
もしもわたしの推測が正しくて、向こうに強大な敵が待ち構えていたとしたら。
彼らを巻き込むわけにはいかない、これはわたし自身の過去との決着なのだから。
「……ごめんなさい。詳しくは話せない」
わたしは視線を落とし、唇を噛みしめながら言葉を絞り出した。
「でも、どうしても行かなきゃいけない場所があるの。この街を、この国を本当に守るために、確かめなきゃいけないことがあるのよ……だから、通して」
沈黙が落ちる。
夜風が吹き抜け、遠くの祝宴の音が微かに響く。
わたしは拒絶されることを覚悟して、身を硬くした。
その時、不意に第三者の足音が、石畳を叩く音が聞こえてきた。
「……『守るため』、ですか。貴女らしい、とても貴女らしい理由ですね」
その凛とした声に、わたしは弾かれたように顔を上げた。
パベルとオルランドが、恭しく左右に道を開ける。
その奥から現れたのは、質素なローブを羽織りフードを目深に被った女性。
けれど、その高貴な佇まいは隠しようもなかった。
「カ、カルカ様……!? どうして、こんな所に……」
聖王女カルカ・ベサーレス。
この国の最高権力者が、お忍びで、しかもこんな夜更けに現れるなんて。
「レメディオスが酔いつぶれて寝てしまったので、少し抜け出してきたのです。……というのは建前で、私も予感がしたのですよ。大切な友人が、さよならも言わずに去ってしまうのではないかと」
カルカさんは悪戯っぽく微笑むと、わたしのすぐ目の前まで歩み寄ってきた。
その瞳には、責めるような色は一切なく、ただ深い信頼と慈愛だけが湛えられている。
彼女はそっとわたしの手を取り、その温もりで包み込んだ。
「サリアさん。貴女には貴女の、語れぬ事情があるのでしょう。貴女が時折見せる、どこか遠い世界を見ているような瞳……それに気づかないほど、私は鈍くはありません」
「カルカ様……」
「止めはしません。貴女が『守るため』と言うのなら、それは間違いなく、私たちにとって最善の道なのでしょうから……ですが、これだけは約束してください」
カルカさんの表情が王女としての凛としたものから、一人の友人としての切実なものへと変わる。
握られた手に、ぎゅっと力がこもる。
「必ず、帰ってくると……『サリア』、貴女の帰る場所は、ここに、聖王国にあるのだと」
その言葉が、強張っていたわたしの心を解きほぐしていく。
視界が滲み、わたしは慌てて瞬きをして涙を堪えた。
アイドルが泣き顔を見せるなんて、三流のすることだ。
だからわたしは、精一杯の強がりと、心からの感謝を込めて、最高の笑顔を作った。
「……はい! 約束します! 用事を済ませたら、すぐに戻ってきますから! その時は、特大のアンコール・ライブを開催させてくださいね!」
「ええ、楽しみにしていますよ。……パベル、オルランド。門を開けなさい」
「ハッ! ……サリア殿、どうかご武運を」
「へっ、湿っぽいのは柄じゃねえな。ほらよサリア、これを持っていきな。俺の予備だが、切れ味は保証するぜ」
パベルが敬礼し、オルランドが腰の短剣を放り投げてよこす。
それを受け取ったわたしは、三人に深く一礼すると、開かれた扉の向こうへと駆け出した。
振り返ることはしない。
背中に感じる温かな視線が、何よりの加護となってわたしの背中を押してくれている。
目指すはアベリオン丘陵。
謎を解き明かし、そして必ず、この場所へ帰ってくるために。
「待っててね、みんな。……行ってきます!」
月明かりの下、わたしは『ワールド・アイドル』のバフを自身に掛け、風のように荒野を疾走し始めた。
レベル20分のバフは流石にやりすぎな気もするので修正するかもしれません。
でも15だとなんか中途半端な感じがしてしまうのよね
読者皆様のアリサの相手候補の意向確認
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モモンガ
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ペロロンチーノ
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ジルクニフ
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ガゼフ
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ラナー
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クレマンティーヌ
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イビルアイ
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ラキュース