オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第二章 8 龍王の加入、奇妙なパーティ結成

ライブラリとシーカーが、岩壁に擬態した隠し扉へと手を伸ばそうとした、その時だった。

わたしの肌を、アベリオン丘陵の夜風とは異なる、もっと根源的で強大なプレッシャーが撫でていった。

 

「――待って」

 

わたしは鋭く短い声を上げて二人を制止すると同時に、背後の闇へと振り返った。

『ワールド・アイドル』による索敵能力が、そこに存在する異質な魔力の塊を捉えている。

隠密スキルや魔法による遮断ではない、ただそこに「在る」だけで空間を歪めるような圧倒的な存在感。

 

「アンコール待ちのお客さんにしては、随分と忍ぶのがお上手なのね……そこにいるのは分かっているわ、出てきなさい」

 

わたしの呼びかけに、岩陰の闇が揺らぎ重厚な金属音が静寂を破った。

月明かりの下、ゆっくりと姿を現したのは、鈍い白銀の輝きを放つフルプレートの鎧だった。

中身の肉体を感じさせない、まるで幽霊のように浮遊する無人の鎧。

 

「……へぇ。僕の隠蔽を見破るんだ。その知覚能力は普通の人間じゃないね」

 

鎧から発せられたのは、男とも女とも判別のつかない、しかし威厳に満ちた声だった。

わたしはその姿を見た瞬間、脳内のユグドラシル知識と、この世界で得た情報を高速でリンクさせる。

白銀の鎧、浮遊、そしてこの底知れない魔力――間違いない、『白金の竜王』の操る鎧だ。

 

「アイドルは視線に敏感なのよ。それが熱狂的なファンのものであれ、値踏みするような監視者のものであれね」

 

わたしは努めて明るく振る舞いながらも、背後でライブラリたちが身構えるのを手で制した。

この相手は、彼らが束になっても敵う相手ではない。

かつて『十三英雄』と共に戦ったとされる、この世界の守護者にして管理者の一角。

 

「それで? こんな辺境の地で、空飛ぶ鎧さんが何の御用かしら」

「……とぼけないで。君たちがこの世界に何をもたらすか。僕はよく知っている」

 

鎧が、ガシャリと一歩、宙を踏みしめるように距離を詰めた。

敵意というよりは、冷徹な観察者の眼差しがわたしの全身を射抜いている。

 

「その背後にある『図書館』はこの世界にあってはいけない『力』……穢れと言ってもいい」

「穢れ、ね。随分な言い草だこと」

 

わたしは口元に笑みを浮かべたまま、しかし瞳の光だけは剣呑に尖らせた。

彼にとってプレイヤーは世界を歪める異物なのかもしれない。

けれど、わたしにとって、そしてライブラリたちにとっても、ここは大切な思い出の場所なのだ。

 

「悪いけれど、ここは私のギルド、私の『家』なの。勝手なこと言わないでくれる?」

「家、か……かつて六大神も、八欲王も、自分の拠点をそう呼んだよ。そして彼らが残した遺産は、例外なくこの世界に混沌と破壊を撒き散らしたんだ」

 

鎧の声に、隠しきれない苦渋と怒りの色が混じる。

彼は長い時の中で、プレイヤーが残した強力すぎるアイテム――ワールドアイテムなどが引き起こした悲劇を見続けてきたのだろう。

 

「僕は世界の守護者として、これ以上危険な遺物が拡散することを看過できないんだ。その図書館にあるもの、全て管理させてもらうよ」

「……断る、と言ったら?」

「力ずくでも排除する……と言いたいけれど、君からは無益な殺戮を好む匂いはしない。それに君の歌を見ると、話の通じないってわけでもないようだしね」

 

鎧――ツアーもまた、武器を構えることなく、ただ淡々と対話を求めてきた。

彼も無用な争いは避けたいと考えているようだ。

わたしは一度大きく息を吐き、思考を巡らせる。

 

ここで彼と敵対するのは得策ではない。

わたし一人なら逃げ切れるかもしれないが、ライブラリたちを守りながら戦うのは不可能に近い。

何よりワールドアイテムが流出したという現状、彼のような存在を敵に回すよりは、利用できるなら利用した方がいい。

 

「……分かったわ。話くらいは聞いてあげる」

 

わたしは武装を解除する意思表示として、剣の柄から手を離した。

 

「でも、無条件で引き渡すなんてありえない。これは私たちが積み上げてきた歴史そのものなんだから」

「歴史か……けど、人間である君の命は短いよ。君が死んだ後、その強大な力は誰が管理するの? 主を失った力は、必ず暴走して悪意ある者の手に渡る」

 

ツアーの指摘は、痛いほど正論だった。

今のわたしは人間種だ。 レベルこそ高いが、寿命という絶対的な限界からは逃れられない。

100年後わたしがいなくなった後、この図書館が再び無防備になれば第二第三の泥棒が現れるかもしれない。

 

「……痛いところを突くわね。確かに、永遠に私が持ち続けることはできない」

「なら――」

「だから、条件を出すわ」

 

わたしはビシッと人差し指を立て、ツアーの虚ろな兜の目の奥を睨みつけた。

 

「私が生きている間は私が責任を持って管理する。ギルドマスターとして不始末は私の手でつけるわ」

「信用しろ、ってこと?」

「ええ。その代わり……私が寿命で、あるいは戦いで死んだ後はこの図書館とその中身の管理権、あなたに譲渡してもいいわよ」

 

背後でライブラリが「なっ、アリサ様!?」と声を上げるが、わたしはそれを片手で制する。

これは、わたしができる最大限の譲歩であり、未来への保険だ。

この世界を誰よりも守ろうとしている彼になら、最悪の事態は防げるはずだ。

 

「……私が死んだ後のことよ。それまでは絶対に渡さない。これは私たちの『宝物』だから」

 

ツアーは沈黙し、推し量るようにわたしを見つめ続けた。

長い沈黙の後、彼は小さく嘆息したような気配を見せた。

 

「……わかった。でも君が『汚染源』となるか、あるいは『抑制力』となるか。見極める時間が欲しい」

「交渉成立ってことでいいのかしら?」

「ああ、だから条件がある……君がその力を正しく管理できているか、僕が監視させてもらうよ」

「監視?」

「一緒に行動し、君の本質を見極めさせてもらう。そして、もし君が世界に仇なすと判断すれば、その時は躊躇なく斬り捨てさせてもらう……それでも構わない?」

「ふふっ、望むところよ! 私の魅力を一番近くで堪能できる特等席、特別に用意してあげる」

 

わたしはウィンクをして、ツアーへと手を差し出した。

ツアーは呆れたように肩をすくめるような動作をし、しかしその提案を拒絶はしなかった。

 

「……変わった女の子だね君は。けど、いいよ。契約は成立だね、歌姫」

 

こうして、王国の王女兼歌姫、ギルドのNPCたち、そしてドラゴンロードという、あまりにも奇妙なパーティが結成されたのだった。

 

 

「どうぞお入りください、アリサ様。……少々散らかっておりますが」

 

ライブラリが解除コードを詠唱し、岩肌が幻影のように揺らめいて消えると、その奥に重厚な鋼鉄の扉が現れた。

軋んだ音と共に扉が開くと、そこには懐かしい、インクと古紙の匂いが満ちていた。

 

「うわぁ……! 全然変わってない!」

 

一歩足を踏み入れた瞬間、視界いっぱいに広がったのは、天井まで届く巨大な本棚の迷宮だった。

螺旋階段が幾重にも重なり、宙に浮く魔導書がほのかな明かりとなって通路を照らしている。

『Voiceless Garden』の知識の心臓部、大図書館。

 

「懐かしい……あそこの机、よく生産職のみんなで徹夜してレシピ開発した場所だわ」

「はい。あの時の資料も、すべてそのまま保管してあります」

 

わたしは思い出に浸りながら、中央の管理端末へと向かった。

今回の目的は、ここから何が盗まれたのかを特定することだ。

ツアーも無言のまま、物珍しそうに周囲の蔵書を眺めつつ、わたしの後ろについてくる。

 

「さてと……インベントリ・チェック」

 

わたしが空中にコンソールを展開し、管理者権限でアクセスする。

ホログラムのリストが滝のように流れ、収蔵アイテムのステータスが表示されていく。

素材、装備、消費アイテム……その膨大なリストの中に、一つだけ赤く点滅する項目があった。

 

「……あった。『不明』になってる」

「やはり、盗まれていたんだ」

 

ツアーが低い声で唸る。

わたしはその項目をタップし、詳細情報を呼び出した。

表示されたアイテム名を見て、わたしの心臓がドクンと嫌な音を立てた。

 

「『ミューズの涙』……!」

「……なんだそれは? そんなに危険なものなのか?」

「ええ、最悪の部類よ……ワールドアイテムの一つでね」

 

わたしは息を呑み、その効果を思い出しながら説明する。

かつて、わたしたちのギルドが偶然入手したのはいいけれども、ユグドラシル内では流石に使いずらい性能ゆえに笑い飛ばして封印していたアイテムだ。

けれども、その効果はこの世界では危険極まりないものとなる。

 

「効果は『超広範囲精神支配』……ただの魅了魔法じゃないわ、対象の『愛』という感情を書き換えて、使用者に対して狂信的な憧憬や崇拝を抱かせる」

「……なんということ」

「しかも、効果範囲は都市一つを丸ごと包み込むほど広大で……まさに、国一つを傾けるようなアイテムよ」

「……冗談だよね、そんなものが何者かの手に渡ったというの」

 

ツアーの声に明確な焦りと殺気が混じる。

当然だ。

そんなものが悪用されれば、一国の王や軍隊を意のままに操ることなど造作もない。

戦争を起こすことも、国を内部から崩壊させることも自由自在だ。

ユグドラシル終了時にこれだけアイテムが譲られるとは思ってなかったし、そのアイテムが狙われるのは想定外だ。

 

「犯人の狙いは何だろう? 世界征服かな?」

「分からない。でも、これだけの効果を持つアイテムを持ち出したなら、必ずどこかで『使う』はずよ」

 

わたしはコンソールを閉じ、決意を固めた表情で三人を見回した。

 

「ライブラリ。あなたはここに残って」

「なっ! 私もお供します! 不始末の責任は――」

「いいえ。犯人がまた戻ってくる可能性もあるわ。ここにはまだ、他にも危険な知識やアイテムが眠っているでしょう?」

 

わたしは本棚の一角を指差した。

そこには、ユグドラシルの技術書や、高位のスクロールも山のようにある。

これらが流出すれば、ワールドアイテムほどではなくとも、この世界のバランスを崩しかねない。

更に餞別に贈られたアイテムもある、これ以上の流出は避けなければいけない。

 

「ここを守れるのは、管理者であるあなただけなの……お願いできる?」

 

わたしの言葉に、ライブラリは悔しげに唇を噛み締め、やがて深く頭を下げた。

 

「……承知いたしました。我が主の命とあらば、この身に代えてもこの場所を死守いたします」

「ありがとう。シーカー、あなたは私と一緒に来て。その鼻で、犯人の痕跡を追ってほしいの」

「御意! 地の果てまで追いかけましょう!」

 

シーカーが嬉しそうに尻尾を振る。

これで役割分担は決まった。

わたしが踵を返そうとした時、ふと、部屋の隅にあるガラスケースが微かな光を放っているのに気づいた。

 

「……あれは?」

 

わたしは何かに引かれるように、そのケースへと近づいた。

それはアイテムではなく、砕け散ったクリスタルのような、不規則に明滅する光の欠片。

ツアーが警戒して前に出ようとするが、わたしはそれを手で制する。

 

「大丈夫……危険なものじゃない。これは、懐かしい匂いがする」

 

わたしがそっと手を伸ばし、ガラスケースに触れた瞬間。

光の欠片が生き物のように脈動し、ケースをすり抜けてわたしの胸へと飛び込んできた。

 

「っ!?」

「おいっ、何をしたの!」

 

ツアーが叫ぶが、衝撃も痛みもなかった。

代わりに、わたしの内側で、温かく、そして少しだけ切ない情報の奔流が弾けた。

 

『……承知した。アインズ・ウール・ゴウンの名において、妹の遺志とこの髪飾りは、我々が責任を持って管理する』

『遅れたな、ナザリックのご同輩。雑魚掃除に手間取ったぜ』

『アリサちゃんを愚弄した罪、そのアカウントをもって償わせる!』

 

(これ、は……)

 

脳裏にフラッシュバックする、アバターが見ていた記憶。

わたしのアバターを受け取る悟兄さん、取引をしていたギルドの救援、そして自らの消失を厭わず戦ったファンの雄叫び。

 

これはアイテムではない。

 

14年前にこの場所へ転移してきた時に剥がれ落ちた、わたしのアバターデータの一部。

『永遠の歌姫』としての記憶と力の残滓だ。

 

「……アリサ様?」

 

シーカーが心配そうに覗き込んでくる。

光は完全にわたしの身体に吸い込まれ、肌の内側で馴染んでいくのが分かった。

わたしはゆっくりと目を開け、自分の手のひらを見つめる。

 

「……戻ってきた」

 

ステータス画面を確認せずとも分かる。

失われていたスキルの一部、そして何より、あの頃の「歌」への情熱が、より鮮明に魂に焼き付いた感覚。

 

「ただの欠損データよ。でも、私にとっては大事な……忘れ物」

 

わたしは力強く拳を握りしめ、ツアーの方を振り返った。

 

「行きましょう。犯人を捕まえて、アイテムを取り戻す……私の大切な思い出を汚した落とし前をつけさせるわ」

「……フン。足手まといにならぬよう気を付けてね」

 

ツアーは素っ気なく答えたが、その声には先ほどまでの疑念の色は少しだけ薄れていた。

こうして、奪われたワールドアイテムを取り戻すためのわたしたちの追跡劇が幕を開けた。




うーん、もう少しひねった展開の方がよかったかなぁ。
ちなみにブリーシンガメンはアリサのアバターと共にナザリックにありましたので、
図書館でのカウント対象ではありません。

いや、面白いならアリサがツアーにDOGEZAする展開でもよかったんですけどねw

1/26 昼:指摘に伴いツアーの口調を少し修正しました
     ブリーシンガメンについての表記が分かりにくいので修正しました

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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