オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた 作:連載として再構築
「ん~……」
日ごとに日の長くなってきた初夏の早朝。
わたしは横で両親の眠る布団をもぞもぞと抜け出して身体を伸ばす。
学校までは朝食の準備を差し引いても早すぎる時間ではあるけれど、今からやることを考えるのであればちょうどいい頃合いである。
「父さん母さん。じゃあわたし、朝のランニングに行ってくるね」
「んん……いってらっしゃーい。悟~、亜理紗をよろしくね~」
「わかったよ、父さん母さん」
と母さんの言葉を待っていたように、悟兄さんがランニング用の姿で部屋から出てきた。
個人的には単独の方が気楽だとは思うのだけれども、今の私は当年とって12歳。
朝早くからランニングをするには自分は若干身の危険を感じる見た目ではあるので、転生前に男だった頃の感覚を捨てて兄さんのガードをおとなしく受けることにしたのだ。
「ほっほっ……」
「はぁ……はっ……」
朝日が東から上り始めた光景を横目に、わたしたち兄妹は目標地点まで走り始めた。
身体能力の差からか、軽く走っているわたしと異なり悟兄さんは若干しんどそうではある。
まあ、しょうがないよね。
兄さんは生まれて16年、まっとうな運動をしていなかったわけだし。
「なあ……亜理紗。もう少し、ペース……落とさないか?」
「ダーメ、あんまりペースを落としたらランニングの意味ないもの」
「うへぇ……頑張らないといけないか~」
兄さんの泣き言を聞き流して走り続ける事10分、目標地点に近づくと既に先客が2人居た。
「あ、亜理紗さ……」
「亜理紗ちゃーん! おはよう、今日も可愛いわね!!」
と言うか、わたしに抱き着いてきました。
うーん、この人こんな人だっけと思いつつ、なすがままにされている彼女は風野茶奈。
後の、いわゆるぶくぶく茶釜と言った方が分かりやすいだろう。
「こら! 風野さん、だから妹にはそう気安く抱きつかないでくれ!」
「いやですぅ~、こーんな可愛い女の子に抱きつけるのは同年代の女子の特権だもん♪ 例えお兄さんの命令でも従えません~」
兄さんが彼女に釘をさすが、茶奈さんはどこ吹く風。
事務所とかでもいつもそうだし、もう周囲が言って聞くような間柄ではない――いわばぶくぶく茶釜さんとわたしは現在運命共同体。
「はぁ、仕事上の仲間だからしょうがないか……頼むから、亜理紗に百合とか変なことは教え込まないでくれよ」
「お義兄さん! じゃあ、僕に任せてくれるということですね!!」
「龍也、お前にお義兄さんと呼ばれる筋合いはない」
嬉しそうに割り込む龍也君にピシャリと断言する悟兄さん。
大丈夫だよ、兄さん。
元男のわたし的には龍也君の彼女になるのはNGなんで。
というか、男に組み伏せられる自分をわたしはまだ想像したくありません。
「――」
「そうよー、亜理紗ちゃんみたいな子に龍也じゃ釣り合わないじゃない。もっと頑張って己を磨きなさい弟よ」
「姉ちゃんまで……」
あ、周囲からの集中砲火を受けて龍也君が沈没しそうだ。
しょうがない、ここはわたしが助け舟を出してあげよう。
「大丈夫だよ、風野君。周りが何と言おうと、風野君は『いいお友達』だから!」
「ぐぇー」
あ、龍也君が沈没した。
そんなこんなで、ぶくぶく茶釜/ペロロンチーノ姉弟とすっかり仲良くなってしまった私達。
そうなった理由は単純で、声優になって半年ほど経過した風野茶奈-芸名:風海久美と他の女性声優数人、あと事務所と契約したばかりの私で声優ユニットを組むことになったからである。
うーん、契約前はてっきり見た目を活かしてモデルでもやることになるのかなと思っていたけど、こんな形で原作でも触れられがちな二人と接点ができるとは。
ペロロンチーノ君は兄さんの親友、ぶくぶく茶釜さんに至っては確か二次創作とかで兄さんの恋人役にもあがった事もあった筈なので、相性は悪くなさそう。
実際二人が言い合ってるのは、傍から見ていると若干楽しそうでもあるし。
まあ、今の二人がその気にならない限り、おせっかいを焼く気はありませんが。
当の本人たちを差し置いて周囲が勝手に関係性を決めつけるのは、前世でも今世でもあまり気持ちのいいものじゃない。
わたしはランニングの余韻で少し早まった鼓動を整えながら、目標地点のベンチに腰を下ろした。
「それにしてもさぁ」
隣に腰掛けた茶奈さん――改め、風海久美さんが、身体を伸ばしながら言う。
「ユニット結成、決まるの早すぎじゃない? 普通、もっと下積みさせられるもんでしょ」
「それは……事務所の判断だから」
そう答えつつ、内心では同意していた。
声優としてのキャリアだけを見れば、わたしは完全な新人だ。
にもかかわらず、デビューから間もなくしてユニット参加。
しかも、話を聞く限り――売り出す気満々の。
「まあ、亜理紗は見た目も声も武器だからな」
悟兄さんが、息を整えながらぼそっと言う。
「兄さん」
「いや、悪い意味じゃないぞ? 芸能界なんて、使えるカードは全部切る世界だし」
正論だ。
正論だけど……身内に言われると、どうにも居心地が悪い。
「でもさ、プレッシャーだよね」
今度は龍也君が珍しく真面目な顔で言った。
「期待されるってことは、それだけ失敗した時に叩かれるってことでもあるし」
普段は茶奈さんに振り回されている印象の強い彼だけど、こういう現実的な視点を持っているのは、原作知識込みで知っている。
「大丈夫よ」
茶奈さんが、わたしの肩をぽんと叩く。
「亜理紗ちゃんは、ちゃんと努力できる子だもの。そうでしょ?」
「……まあ、否定はしないかな」
「それにね」
茶奈さんは、少し声を落として続けた。
「このユニット、ただの寄せ集めじゃないと思うの」
「どういう意味?」
「事務所の大人たち、あたしたちを“使い捨て”にする気なら、もっと雑に扱うわ。今は……育てる気がある」
その言葉に、わたしは一瞬だけ考え込む。
確かに、レッスン内容は厳しいが理にかなっているし、マネージャーも異様なほど細かくスケジュール管理をしてくる。
それは消耗品に対する扱いではない。
「つまり」
わたしは小さく息を吸って、結論を口にした。
「逃げ場はない、ってことだね」
「そうそう♪」
明るく笑う茶奈さん。
……この人、本当に肝が据わっている。
立ち上がった兄さんが、わたしの頭に手を置く。
「亜理紗がやるって決めたなら、俺は応援するだけだ。家族としてな」
「ありがとう、兄さん」
その言葉に、少しだけ胸の奥が温かくなった。
前世でも顧みることができなかった家族の縁、今世ではちゃんと大事にしよう。
「よーし!」
茶奈さんが勢いよく立ち上がる。
「じゃあ今日は顔合わせミーティング! 亜理紗ちゃん、覚悟しときなさいよ? 今日からあたしたち――」
「“声優ユニット”としての運命共同体、だね」
わたしはそう言って、小さく笑った。
わたしは立ち上がり、軽く膝についた砂を払った。
運命共同体、か。
口にすると大げさだけれど、実際この世界ではそれくらいの重みを持つ言葉だ。
ユニットというのは、個人の集合体であると同時に、一つの“看板”になる。
良くも悪くも、誰か一人の評価が全員に波及する。
――逃げ場は、確かにない。
「まあ、なるようになるよ」
自分に言い聞かせるように呟くと、朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
少し湿った土と草の匂い。スタジオの無機質な空気とは正反対で、頭が冷える。
「亜理紗ちゃん、今ちょっと“覚悟決めた顔”してた」
茶奈さんが横から覗き込んでくる。
「そんな顔してた?」
「うん。売れる前の子がする顔じゃないわね」
……褒められているのか、値踏みされているのか。
どちらにせよ、この人の勘は当たるから侮れない。
「売れるかどうかは、正直わからないよ」
わたしは率直に言った。
いや、むしろ失敗に終わる可能性の方が高い。
だってぶくぶく茶釜の、風海久美としての彼女の声優活動は失敗しているから。
それは原作知識を知っているわたしだからこそ知っている事。
だからと言って――
「やる以上中途半端は嫌。ユニットだからって、誰かに寄りかかるつもりもないよ」
「おお、言うじゃん亜理紗さん」
龍也君が感心したように声を上げる。
「それ聞いて安心したよ。正直、顔以外で足引っ張られたらどうしようって思ってたし」
「ひどっ!」
茶奈さんが即座にツッコミを入れる。
「でも、正直でいいと思う」
「お互い様でしょ? ユニットって、そういうものだし」
一瞬、沈黙。
「……ほんと、年下とは思えないよね」
茶奈さんが肩をすくめる。
転生のことを話すつもりはないし、話したところで信じてもらえるとも思っていない。
でも、“覚悟”だけは誤魔化さない。
「じゃあ決まりね」
茶奈さんが両手を叩く。
「今日からは仲良しこよし半分、ライバル半分。遠慮なしでいきましょ」
その言葉に、わたしは小さくうなずいた。
静かな朝とは裏腹に、これから先に待っているのは、競争と評価と数字の世界だ。
歌、演技、トーク、立ち居振る舞い。
全部が点数を付けられ、比較され、消費される。
――それでも。
「……面白そう」
自分でも意外なほど、声は落ち着いていた。
男として生きた前世ではどうあろうと踏みこめなかった場所。
経緯はどうあれ今世では機会が訪れた、そうなった以上逃げずに立ってみたい。
声優ユニット結成。
それはきっとわたしにとって最初の一歩だ。
朝日に背中を押されながら、
わたしは静かに、その一歩を踏み出した。
人間関係とか脱線しますw
彼女たちの未来は如何に?
読者皆様のアリサの相手候補の意向確認
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モモンガ
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ペロロンチーノ
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ジルクニフ
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ガゼフ
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ラナー
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クレマンティーヌ
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イビルアイ
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ラキュース