オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第三章 5 未練からの解放

屋敷の扉を潜ると、そこはまるで別世界のように歪んだ空気に満たされていた。

外観の荒廃ぶりとは裏腹に、エントランスホールは魔力によって生み出された幻影の明かりで煌々と照らされ、どこか現実味のない華やかさを演出している。

けれどその光は温かみのあるものではなく、古びた写真を無理やり極彩色の絵の具で塗り直したような不気味な違和感を伴っていた。

耳をつんざくようなソプラノの歌声が、ホールの高い天井に反響し、わたしたちの平衡感覚を揺さぶってくる。

 

「くっ……なんだこの歌は! 頭がグラグラしやがる!」

「精神耐性の魔法が効かない……! これは、強制的に感情を流し込まれているのか!?」

 

ヘッケランが顔をしかめて耳を塞ぎ、ロバーデイクが必死に防御魔法の詠唱を維持しようと脂汗を流す。

わたしとツアーは平気だが、フォーサイトの面々にはこの『未練』の波動は劇薬すぎるようだ。

 

「みんな、私の後ろに! 歌に意識を向けないで、あれはただのノイズよ!」

わたしは即座に《鎮静の歌》を口ずさみ、彼らの精神を侵食しようとする波動を中和する防壁を展開した。

わたしの歌が膜となって彼らを覆うと、三人はようやく呼吸を整え、安堵の表情を浮かべる。

イミーナが肩で息をしながら、忌々しげにホールの奥にある両開きの扉を睨みつけた。

 

「助かったわ……なんなのよ、これ。まるで脳みそを直接かき回されてるみたいだった」

「この奥だ。歌声の発生源……そして、あの腐った気配も」

 

ツアーが低い声で告げ、誰もいない虚空に視線を走らせる。

彼には見えているのだろう、この屋敷全体を覆うドス黒い『未練』の蜘蛛の巣が。

 

「行きましょう。アルシェさんを、悪夢から叩き起こしに」

 

わたしはリュートを構え直し、先頭を切って重厚な扉を蹴り開けた。

 

 

扉の向こうに広がっていたのは、かつての栄華を再現しようとして失敗したような悪趣味な舞踏会の光景だった。

広々としたサロンには、高価そうな調度品や宝石類が無造作に積み上げられ床には絹のドレスやタペストリーが散乱している。

そして、そのガラクタの山に囲まれるようにして、二人の男女――アルシェの両親が、恍惚とした表情で虚空を見つめ、ゆらゆらと身体を揺らしていた。

彼らの目は焦点が合っておらず、口元にはだらしない笑みが張り付いている。

 

「ああ……素晴らしい……これぞフルト家の輝き……」

「私たちは選ばれたのです……皇帝陛下など恐るるに足りませんわ……」

 

その姿は、あまりにも滑稽で、そして哀れだった。

現実逃避の果てにアイテムの魔力によって見せられている都合のいい幻覚に浸りきっているのだ。

 

「……クソが。娘が命がけで稼いだ金をなんだと思ってやがる」

 

ヘッケランが吐き捨てるように呟き、剣の柄を握る手に力を込める。

けれど、今の彼らはただの舞台装置に過ぎない。

問題なのはサロンの中央、一段高くなった場所に置かれた椅子に腰掛けている少女だ。

 

「……あら? 招かれざるお客様ね。私の舞踏会に、どこのネズミが迷い込んだのかしら」

 

アルシェ・イーブ・リイル・フルト。

彼女は豪奢だがサイズの合っていない、おそらく母親の古いドレスを身に纏い冷たい瞳でわたしたちを見下ろしていた。

その胸元には、路地裏で拾ったと思われる青い宝石のペンダントが妖しく明滅している。

そこから溢れ出る魔力は、彼女の全身を包み込み背後に巨大な影のようなものを形作っていた。

 

(……間違いない。あれはわたしの『過去への執着』だわ)

 

「あの頃はよかった」「戻りたい」という後ろ向きな感情。

それがアルシェの抱える「没落への嘆き」と共鳴し、最悪の化学反応を起こしている。

 

「アルシェ! 俺だ、ヘッケランだ! 目を覚ませ!」

「アンタ何やってんのよ! そんな格好、アンタらしくないじゃない!」

 

仲間の呼びかけに、アルシェは眉一つ動かさず、扇子で口元を隠してクスクスと笑った。

その仕草は優雅だが、どこか糸で操られている人形のような不自然さがある。

 

「ヘッケラン? イミーナ? ……ああ、私が暇つぶしに付き合ってあげていた、下賎な傭兵たちのことね」

「なっ……!?」

「もう用済みよ。私は本来いるべき場所、栄光ある貴族の座に戻ったのですもの。あなたたちのような泥臭い連中と関わっている時間はないの」

 

冷徹な言葉の刃が、フォーサイトの面々を貫く。

けれど、ロバーデイクだけは動じず、悲痛な面持ちで一歩前に出た。

 

「それは本心ではないはずだ、アルシェ。君は誰よりも仲間思いで、責任感の強い女性だった」

「黙りなさい! 私の何が分かるというの!」

 

激昂したアルシェが立ち上がると同時に、胸元の宝石がカッと輝いた。

瞬間、彼女の周囲に展開されていた不可視の魔力が実体化し、無数の光の矢となってわたしたちに降り注ぐ。

 

「危ないッ!」

「《聖なる盾》!」

 

ツアーが前に出て防ごうとするよりも早く、わたしは歌声を響かせた。

 

『――守りの光よ、拒絶の壁となれ!』

 

わたしの歌に呼応して展開された障壁が、光の矢を空中で弾き飛ばす。

衝撃波がサロンを吹き荒れ、積み上げられたガラクタの山が崩れ落ちた。

 

「……ッ、生意気な! ただの吟遊詩人風情が、私の魔法を!」

 

アルシェが憎々しげにわたしを睨みつける。

その瞳の奥にはドス黒いもやがかかり、本来の理知的な光は消え失せていた。

 

「魔法じゃないわ。あれはアイテムが強制的に引き出している魔力の暴走よ」

 

レベル的にはわたしが圧倒的に上だ。

力尽くで制圧することは簡単だが、それでは彼女の心は救えない。

アイテムと精神が深く融合している今、無理に引き剥がせば彼女の精神が崩壊する危険がある。

 

「アルシェさん、聞こえますか! その輝きは偽物です! 貴女が見ているのは過去の幻影に過ぎません!」

「黙れ黙れ黙れ! 偽物なんかじゃない! これが私の、フルト家の本当の姿よ!」

 

彼女は叫び、再び魔力を練り上げる。

その表情は必死で、まるで縋り付くものがそれしかない子供のように脆く見えた。

 

「私は戻りたいの……あの日々に! 父様も母様も優しくて、何一つ不自由のなかった、あの黄金の日々に!」

「だからって、心を売り渡していい理由にはなりません!」

「うるさいッ! 何も知らない部外者が、偉そうな口を利くなぁッ!」

 

彼女の絶叫と共に、強烈な重圧が空間を支配する。

第3位階、いいえ、アイテムの増幅により第5位階に近い出力の魔力波。

 

ヘッケランたちが膝をつき、呼吸を困難にする中、わたしはどう動くべきか思考を巡らせる。

「歌」で精神干渉を相殺しつつ、彼女の心の核に触れる必要がある。

けれど、今の彼女は「過去」という強固な殻に閉じこもっている。

外部からの言葉は、すべて弾かれてしまう。

 

(どうすれば……彼女を今に引き戻せる?)

 

彼女にとっての現実。

守るべきもの。

過去の栄光よりも重い、現在の絆。

 

その時だった。 破壊されたサロンの入り口、その瓦礫の陰から、小さく震える声が聞こえたのは。

 

「……おねえ、さま……?」

 

その場にいた全員の動きが止まった。 アルシェの暴走する魔力が、一瞬だけ揺らぐ。

 

そこに立っていたのは、ナイトガウン姿の二人の幼い少女。

アルシェの妹、クーデリカとウレイリカだった。

騒ぎを聞きつけて起きてきたのか、それとも異様な気配に怯えて姉を探しに来たのか。

二人は手を取り合い、涙目で荒れ果てたサロンと、変わり果てた姉の姿を見つめていた。

 

「クーデリカ……ウレイリカ……」

 

アルシェの声から、先ほどまでの刺々しさが消える。

彼女は呆然と妹たちを見つめ、そして歪んだ笑みを浮かべて手招きをした。

 

「ああ、来てくれたのね。ごめんなさい、起こしてしまって。……さあ、いらっしゃい。お姉様と一緒に、この素晴らしい舞踏会を楽しみましょう?」

「……え?」

「見て、このドレス。素敵でしょう? あなたたちにも、新しいドレスを用意したのよ。もう節約なんてしなくていいの。昔みたいに、優雅に暮らせるのよ」

 

アルシェは夢見るような瞳で語りかけ、妹たちに歩み寄ろうとする。

けれど、妹たちは後ずさった。

彼女たちの目に見えているのは、華やかな舞踏会ではない。

ゴミの山と、正気を失った両親、そして見たこともない怖い顔で笑う姉の姿だ。

 

「やだ……」

 

クーデリカが首を振る。

 

「違う……こんなの、お姉様じゃない……」

 

ウレイリカが泣き出しそうな声で呟く。

 

「え……?」

 

アルシェの足が止まる。

 

「ドレスなんていらない……宝石もいらない……!」

「お父様もお母様も、変だよ……怖いよぉ……!」

「元に戻ってよぉ! いつもの優しいお姉様に……うわぁぁぁん!」

 

二人の少女の泣き声が、歪んだ音楽を掻き消して響き渡る。

それは『過去の栄光』を否定し、『現在の姉』を求める、純粋で残酷な真実の叫びだった。

 

アルシェの表情が凍りつく。

妹たちの拒絶は、アイテムが見せる甘美な幻影に入った、致命的な亀裂だった。

 

「あ……ああ……」

 

彼女は震える手で自分の顔に触れ、そして足元に散らばるガラクタへと視線を落とす。

妹たちの目を通すことで、彼女にも一瞬だけ現実が見えたのだ。

自分が身につけているのが、カビ臭い古着であることに。

自分が守ろうとしていた両親が、ただの人形になり果てていることに。

 

「私は……なにを……」

 

動揺するアルシェの胸元で、青い宝石が激しく点滅する。

宿主の支配が解けそうになり、アイテムが焦って強制力を強めようとしているのだ。

 

『――戻ルナ……ココニハ何モナイ……苦シイダケダ……』

『過去コソガ楽園……永遠ニ浸ッテイヨウ……』

 

不気味な声がアルシェの脳内に響き、彼女は頭を抱えて悲鳴を上げた。

 

「いやぁぁぁ! 声が……頭の中でぇっ!」

「今だわ!」

 

わたしはこの隙を見逃さなかった。

妹たちが作った亀裂、そこへわたしの歌をねじ込む。

 

「ツアー、妹さんたちを守って! ヘッケランさんたちはご両親を確保!」

「任せろ!」

「承知した!」

 

わたしは一気に間合いを詰め、アルシェの正面へと躍り出る。

剣は抜かない。

代わりに、リュートを力強く掻き鳴らした。

 

「アルシェさん、聴きなさい! これが貴女の生きる『今』の音よ!」

 

歌うのは、過去を懐かしむバラードではない。

困難な明日を切り開く、力強いアップテンポなロック調の応援歌。

わたしのタレント『永遠の歌姫』が勇気を増幅させ、アルシェの心に直接叩きつける。

 

『――振り返るな、昨日の影を! その手にあるのは、確かな温もり――』

 

わたしの歌声が衝撃波となって、アルシェに纏わりつく黒い靄を吹き飛ばしていく。

彼女の未練、後悔、執着……それらを肯定しつつも、「それでも前へ進め」と鼓舞する。

 

「う、うあぁぁぁっ!」

 

アルシェが背中を反らせ、口から黒い霧のようなものを吐き出す。

アイテムの支配力が、わたしの歌と彼女自身の「妹を守りたい」という意志の挟み撃ちにあって、悲鳴を上げているのだ。

わたしは歌い続けながら、彼女に手を伸ばす。

 

「戻ってきなさい、アルシェ! 妹たちが待ってる! 貴女の帰る場所は、あんな幻の中じゃないでしょう!」

「……クー……ウレ……!」

 

アルシェの瞳に理性の光が戻る。 彼女は自分の胸元のペンダントを、震える手で掴んだ。

 

「出て……行けぇぇぇぇッ!!」

 

彼女の絶叫と共に、自らの手でペンダントを引きちぎった。

銀の鎖が切れ、青い宝石が宙を舞う。

それは床に落ちると同時に乾いた音を立てて砕け散った。

 

瞬間、屋敷全体を覆っていた重苦しい空気が、霧散するように消え去っていく。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

アルシェはその場に崩れ落ちそうになり、わたしは慌てて彼女の身体を支えた。

 

「大丈夫ですか、アルシェさん」

「サリア……さん……? 私……」

 

彼女は呆然と周囲を見渡し、そして隅で身を寄せ合っている妹たちの姿を認めると、涙を溢れさせて駆け寄った。

 

「クーデリカ! ウレイリカ! ごめんなさい、怖かったわよね……ごめんなさい……!」

「お姉様ぁぁぁ!」

「うわぁぁぁん!」

 

三人は抱き合い、わんわんと泣きじゃくる。

 

「ごめんね……ごめんね……お姉様、変になっちゃってたね……」

「もう変なお姉様はやだよぅ……」

「ずっと、いつものお姉様でいてね……約束……」

 

クーデリカが泣きながら小指を差し出す。

アルシェは涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、自分の小指を絡めた。

 

「約束する……もう、二度と」

「あ……あれ? 私は、何を……?」

 

サロンの隅では、正気に戻った両親がへたり込んでいた。

父親は自分の手のひらを呆然と見つめ、母親は散乱した宝石類とドレスを見て青ざめている。

彼らの目からは、あの狂気じみた恍惚の色は消え失せていた。

 

「ああ……なんてことだ……私は、娘に……」

「アルシェ……あなたにどんな酷いことを……」

 

二人は娘たちの方へ這うように近づき、その場に土下座するように頭を下げた。

 

「許してくれ……私たちは、いつの間にか、大切なものを見失っていた……」

「貴族の体面、栄光……そんなものに縋って、本当に大切なものを……」

 

アルシェは目を丸くし、そして静かに首を振った。

 

「……顔を上げてください、お父様、お母様」

 

その声には、もはや恨みや怒りはなかった。

ただ、長い悪夢からようやく覚めたような、穏やかな疲労感だけが滲んでいる。

 

「私も、同じでした。過去に縋って、現実から逃げようとして……妹たちを、こんなに怖がらせてしまった」

 

彼女は妹たちを抱きしめたまま、両親を見上げる。

 

「これからは……一緒に、やり直しましょう。昔のような贅沢はできないかもしれない。でも、家族でいることはできる」

 

父親が、顔を歪めて嗚咽を漏らした。

 

「すまなかった……本当に、すまなかった……!」

「アルシェ……私たちの、大切な娘……」

 

母親も涙を流し、壊れそうな声で娘の名を呼ぶ。

クーデリカとウレイリカは、姉にしがみついたまま、恐る恐る両親の方を見た。

 

「……お父様も、お母様も、元に戻ったの?」

「もう、変なお買い物しない……?」

 

幼い問いかけに、両親は何度も頷いた。

 

「ああ……もうしない。二度としない……お前たちのためだけに、生きる」

「ごめんなさいね……怖い思いをさせて……」

 

ウレイリカが姉の腕の中からそろそろと出てきて、おずおずと母親の方へ歩み寄った。

そして、そっとその手を握る。

 

「……おかあさま」

「ウレイリカ……!」

 

母親が娘を抱きしめ、堰を切ったように泣き出した。

クーデリカも父親の方へ駆け寄り、その膝にしがみつく。

 

「おとうさま……もう、どこにも行かないよね?」

「ああ……どこにも行かない。お前たちのそばにいる」

「……やれやれ。一時はどうなることかと思ったぜ」

 

ヘッケランが額の汗を拭いながら、疲れ切った声で言う。

イミーナも肩の力を抜き、ロバーデイクは静かに神への祈りを捧げていた。

 

「家族の絆ってやつか……なかなかどうして、いいもんだな」

「そうね。あの子たちの『お姉様に戻って』って叫び声、心に刺さったわ」

「神のご加護がありますように……この家庭に、穏やかな明日が訪れますように」

 

わたしは小さく笑い、ツアーに目配せを送った。

彼もまた、兜の中で微かに頷いている気配がした。

 

「さて、お邪魔虫は退散しましょうか。あとは家族水入らずで」

 

わたしは静かに踵を返し、出口へと向かう。

 

「待って、サリアさん」

 

呼び止められ振り返ると、涙を拭ったアルシェが真っ直ぐにわたしを見つめていた。

その瞳は赤く腫れていたが、そこには先ほどのような冷たい光ではなく、強い意志と感謝の色が宿っていた。

 

「ありがとう……貴女のおかげで、私は大切なものを失わずに済みました」

「お礼なら、妹さんたちに言ってあげてください。彼女たちが貴女を呼び戻したんですから」

「ええ……でも、貴女の歌が勇気をくれました。あの歌、とても……温かかった」

 

アルシェは破顔し、深々と頭を下げた。

 

「借金のことは……まだ残ってますけど」

 

彼女が顔を上げると、そこにはもう悲壮感はなかった。

 

「でも、なんとかなる気がするんです。一人じゃないって、分かったから」

 

ヘッケランがニカッと笑って彼女の肩を叩いた。

 

「当たり前だろ。俺たちがついてるんだからよ」

「今度また、みんなで仕事しましょう。稼ぎ頭が抜けてたせいで、こっちも火の車なのよ」

 

イミーナの軽口に、アルシェがくすりと笑う。

 

「……うん。また、よろしくね」

 

その時、クーデリカがアルシェの袖を引っ張った。

 

「ねえお姉様、あのお姉さんたちは?」

「ん? ああ、お姉様のお友達よ。みんなでお姉様を助けに来てくれたの」

「ふぅん……」

 

クーデリカはわたしをじっと見つめ、そしてぺこりと頭を下げた。

 

「お姉様を助けてくれて、ありがとうございました」

「……あのね、お歌、とってもきれいだった」

 

ウレイリカも恥ずかしそうにもじもじしながら言う。

 

わたしは膝を折って二人の目線に合わせ、にっこりと微笑んだ。

 

「どういたしまして。貴女たちこそ、とても勇敢だったわ。あんな怖い中、お姉様のところに来れたんだもの」

「……えへへ」

「わたしたち、すごい?」

「すごいわよ。お姉様を呼び戻せたのは、貴女たちの声のおかげなんだから」

 

二人の少女は照れくさそうに顔を見合わせ、そして嬉しそうに笑った。

その笑顔に、アルシェの目に再び涙が滲む。

 

「……ほんとに、この子たちがいてくれてよかった」

 

彼女は妹たちの頭を優しく撫で、そしてわたしに向き直った。

 

「サリアさん。……いつか、貴女の歌をまた聴かせてもらえますか? 今度は、こんな騒ぎじゃなくて」

「ええ、もちろん。帝都で『黄金の歌姫』の名を聞いたら、聴きに来てね」

 

わたしはウィンクを飛ばし、フォーサイトの面々を促して屋敷を後にした。

外に出ると、東の空がうっすらと白み始めていた。

長い夜が終わり、新しい朝が訪れようとしている。

 

「……で、あのアイテムの正体は結局なんだったんだ?」

 

ヘッケランが欠伸混じりに尋ねる。

 

「さあ、誰かが落とした呪いの宝石じゃないかしら。これ以上詮索しない方がいいわよ」

「了解。触らぬ神に祟りなしってやつだな」

 

彼らは深く追求せず、わたしの答えを受け入れてくれた。

さすがはワーカー、余計な詮索はしないのが流儀らしい。

 

「じゃあな、サリアさん。今度酒場で会ったら、一杯奢らせてくれ」

「楽しみにしてるわ」

 

フォーサイトの三人が手を振りながら去っていく。

その背中を見送りながら、わたしは小さく息をついた。

 

「……また一つ、回収できたわね」

「ああ。これで帝都の騒動も収まるだろう」

 

ツアーが静かに頷く。

 

わたしの胸の奥で、新たに吸収した『未練』の欠片がゆっくりと馴染んでいくのを感じる。

もう二度と暴走しないよう、わたし自身の中で眠らせておこう。

朝焼けに染まる帝都の街並みを歩きながら、わたしはフルト家の屋敷を振り返った。

 

崩れかけた塀の向こうで、窓に明かりが灯るのが見えた。

きっと今頃、家族四人で朝食の準備でもしているのだろう。

質素なパンとスープかもしれないが、笑顔で囲む食卓はどんな豪華な晩餐会よりも温かいはずだ。




昨日は二日酔いで死んでいましたw

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
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