オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第三章 6 告白

帝城の一室、豪華に設えられた応接間で、わたしはジルクニフと向かい合っていた。

テーブルの上には最高級の茶葉を使った紅茶と、帝国自慢の焼き菓子が品良く並べられている。

 

「……それで、幽霊騒ぎは完全に解決した、と」

 

ジルクニフは長い足を優雅に組み替えながら、蒼い瞳でわたしを射抜くように見つめてくる。

午後の陽光に照らされた金髪が眩しく輝き、その端整な顔立ちは認めたくないが確かに絵画から抜け出たような美しさだ。

 

「ええ、お約束通りに。帝都の平和はお守りしましたわ」

 

わたしはティーカップを優雅に持ち上げ、自信たっぷりに微笑んでみせた。

廃劇場での幽霊騒ぎ、アルシェの事件、そのすべてがわたしの『欠片』に起因するものだった。

回収は完了し、もうこの街に用はない。

 

「フールーダからの報告は聞いている。あの爺が舌を巻くほどの腕前だったそうじゃないか」

「買い被りですわ。わたしはただ歌っていただけです」

「謙遜も過ぎれば嫌味になるぞ、アリサ」

 

ジルクニフはそう言って、薄く笑った。

この場には護衛すらおらず、完全な密室だった。

背後に控えるツアーだけがわたしの味方だが、その存在すら彼は無視しているかのようにわたしだけを見つめている。

 

「さて……本題に入る前に、まず一つ。余からお前に謝罪せねばならないことがある」

 

ジルクニフの表情が、不意に真剣なものへと変わった。

彼は椅子から立ち上がり、わたしの前で深々と頭を下げる。

 

「っ……陛下?」

「ロクシーの件だ。あの女が独断でお前を毒殺しようとした件について、余は心から詫びる」

 

その言葉に、わたしの胸がチクリと痛んだ。

あの時のことは今でも鮮明に覚えている。

八本指との対峙の最中、帝国の暗部から差し向けられた毒。

一歩間違えば、わたしは本当に死んでいた。

 

「部下の監督不行き届き、そして何より……お前を傷つけようとした者を余の陣営に置いていたこと。言い訳のしようもない」

 

ジルクニフが顔を上げる。

その瞳には、皇帝としての威厳と、一人の男としての悔恨が入り混じっていた。

 

「ロクシーは処断した。だが、それでお前の受けた苦しみが消えるわけではないことは分かっている」

「……」

「余に償えることがあるなら言ってくれ。領地でも、金でも、なんでも用意する」

 

頭を下げ続けるジルクニフを見て、わたしは複雑な心境になった。

彼がロクシーを処刑したことは知っている。

山のような謝罪の品と親書が届いたことも。

けれど、こうして面と向かって謝罪されるのは初めてだった。

 

「……顔を上げてください、陛下」

 

わたしは静かに言った。

 

「ロクシーの件は、貴方の指示ではなかったのでしょう?」

「だが、余の配下が犯した罪だ。監督責任は余にある」

「それでも、貴方が謝る必要はありません」

 

わたしはティーカップを置き、ジルクニフを真っ直ぐに見つめた。

 

「わたしは生きています。それで十分です」

「……お前は、余を許すのか?」

「許すも許さないも、恨んでなどいませんよ。あの件があったから、わたしは今こうしてここにいられるのですから」

 

ブリーシンガメンの降臨。

あの瀕死の状態がなければ、わたしはワールドアイテムの力を受け入れることはできなかった。

皮肉なことに、あの毒殺未遂がわたしを強くしたのだ。

 

「……お前は、本当に不思議な女だな」

 

ジルクニフがゆっくりと姿勢を正す。

その表情には、驚きと、そしてさらに深まった何かが宿っていた。

 

「普通ならば恨み言の一つも言うところだ。なのにお前は……」

「過ぎたことを蒸し返しても仕方ないでしょう? わたしは前を向いて生きたいんです」

 

わたしは肩をすくめてみせた。

本当のところを言えば、あの時は死ぬかと思って冷や汗をかいたし、ブリーシンガメンに救われなければ今頃この世にいなかっただろう。

けれど、それを今更責めても何も生まれない。

 

「……分かった。ならば余も、これ以上この件を引きずることはやめよう」

 

ジルクニフが再び椅子に腰を下ろす。

その顔には、重荷を一つ下ろしたような、かすかな安堵が浮かんでいた。

 

「さて、本題に入ろうか。……お前はこれからどうするつもりだ?」

「明日の朝には発ちます。次の目的地がありますので」

 

わたしは淀みなく答えた。

すべての用事は終わった。

これ以上帝都に留まる理由はないし、ジルクニフの執着から距離を取りたいというのが本音だ。

けれど、わたしの言葉を聞いたジルクニフの表情が、一瞬だけ強張ったのを見逃さなかった。

彼はすぐに笑みを取り繕ったが、その目には明らかな焦りが滲んでいる。

 

「そうか……随分と慌ただしいな。せっかくの帝都、もう少しゆっくりしていけばいいものを」

「お気遣いありがとうございます。でも、わたしには探さなければならないものがあるので」

「その『探し物』とやらは、帝都にはもうないのか?」

「ええ、おかげさまで」

 

含みのある会話。

彼はわたしが何を探しているのか知りたくて仕方がないのだろうが、教えてやる義理はない。

 

「ならば……別の用事を作ってやろうか? 例えば、帝国宮廷魔術師としての地位。それとも、騎士団の名誉指揮官というのはどうだ?」

 

ジルクニフが身を乗り出し、真剣な表情で条件を並べ始める。

 

「お前の才覚があれば、この国でいくらでも活躍できる。王国の姫君という窮屈な立場から解放されて、自由に力を振るえばいい」

「魅力的なお話ですけど……」

「報酬は望むままだ。領地が欲しければくれてやる。金でも、権力でも、なんでも用意しよう」

 

彼の声に熱がこもっていく。

これは単なる人材スカウトではない。

どうにかしてわたしをこの国に繋ぎ止めようという、必死の交渉だ。

 

「陛下、お気持ちは嬉しいのですが」

「では何が足りない? 言ってみろ。余に叶えられぬ望みなどない」

「いいえ、そういうことではなくて」

 

わたしは困ったように眉を下げ、首を横に振った。

正直なところ、彼の提示する条件はこの世界の基準では破格だ。

領地持ちの貴族以上の待遇を、たかが一介の冒険者に与えようというのだから。

 

けれど、わたしには果たすべき使命がある。

散らばった『欠片』の回収、そしてその先にある……いずれ来るであろうナザリックとの対峙。

帝国に骨を埋めるつもりはないし、何より。

 

(この人の『好意』が重すぎるのよ……!)

 

カッツェ平野での一戦以来、ジルクニフはわたしに執着し続けている。

恋心というよりは所有欲に近い熱量で、何が何でもわたしを手に入れようとしているのだ。

原作では皇帝として国を導く冷静な判断力の持ち主が、わたしに関してだけは理性の箍が外れている。

 

「……陛下。わたしは王国の王女です。貴方の提案を受けることは、祖国を裏切ることになります」

「王国など、あと十年もすれば瓦解する泥舟ではないか」

 

ジルクニフが冷たく言い放つ。

 

「お前の聡明さなら分かっているはずだ。あの国に未来はない。腐敗した貴族どもに食い潰され、やがて内部から崩壊する。そうなってから逃げ出しても遅いぞ?」

「……それでも、わたしにはあの国を見捨てられない理由があります」

 

ラナー、クライム、ガゼフ、ブレイン。

そして何より、かつてわたしを救ってくれた家族たち。

たとえ泥舟であっても、彼らがいる限りわたしは王国を見限れない。

 

「ほう……。家族愛か、愛国心か。どちらにせよ、足枷でしかないな」

「足枷と呼ばれようと構いません。わたしにとっては大切なものですから」

 

わたしは毅然と言い返した。

ジルクニフの眉がピクリと動き、彼は苛立たしげにテーブルを指で叩く。

 

「……頑固な女だ。余がこれほど譲歩しているというのに」

「譲歩?」

「そうだ。本来ならば、力尽くでお前を拘束することもできた。だが余は紳士的に交渉のテーブルについている。これが誠意でなくてなんだ?」

「力尽くができないから交渉しているのでは?」

 

わたしが皮肉を返すと、ジルクニフの目が鋭く光った。

彼は一瞬だけ獰猛な笑みを浮かべ、すぐにそれを消す。

 

「……やはりお前は聡明だな。そう、お前とその護衛を力で抑え込むのは、城の半壊を覚悟しなければならない。だからこそ余は『話し合い』を選んでいる」

「正直でよろしいですわね」

「余は嘘をつかない主義でな。特に、惚れた女の前では」

 

その言葉に、わたしは思わず紅茶を吹き出しそうになった。

今なんて言った?

惚れた女?

 

「……は?」

「聞こえなかったか? 余はお前に惚れていると言ったのだ」

 

ジルクニフが真顔で言い放つ。

その瞳には冗談の色はなく、むしろ開き直ったような清々しさすら感じられた。

 

「カッツェ平野でお前を見た時から、ずっとだ。あの戦場で光輝く銀髪、凛とした佇まい、そして何より――」

「ちょ、ちょっと待ってください陛下」

「待たん。ここまで来たら言わせてもらう」

 

ジルクニフが椅子から立ち上がり、わたしの方へと歩み寄ってくる。

わたしは反射的に立ち上がり、後ずさった。

 

「あの日、お前は圧倒的な敵勢の中で一歩も退かなかった。四騎士を相手取り、ブレイン・アングラウスと共に戦い抜いた。……あれほど美しい戦いを、余は見たことがない」

「い、いやそれは流れでそうなっただけで」

「お前の歌を聴いた時、余は確信した。この女を手に入れなければ、余の人生は不完全なままで終わると」

 

熱っぽい言葉がマシンガンのように飛んでくる。

彼の目には本物の熱情が宿っており、演技ではないことは明らかだった。

 

(うっわ、ガチだこの人……! どうすんのよこれ!)

 

わたしは内心で悲鳴を上げた。

転生する前、最初の人生ではわたしは男だった。

女として三度目の生を受けてもう十七年になるが、こういった形でストレートに好意を向けられると、未だに戸惑いが先に立つ。

 

それに、相手は一国の皇帝だ。

帝国を背負う支配者が、なんの冗談かわたしに愛の告白をしている。

これはまずい、非常にまずい展開だ。

 

「お前が王国の王女であることなど問題ではない」

 

ジルクニフがさらに距離を詰めてくる。

 

「余がお前を妃に迎えれば、それは両国の和平につながる。政治的にも理にかなった縁談だ」

「り、理にかなってる……?」

「そうだ。お前は帝国の皇后となり、余と共にこの大陸を支配する。悪くない話だろう?」

 

彼の声は自信に満ちている。

論理的には確かにそうかもしれない。

王国と帝国の婚姻同盟、それは両国にとって利益のある話だ。

 

けれど。

 

「……陛下」

 

わたしは深く息を吸い込み、彼の目を真っ直ぐに見つめた。

 

「わたしは貴方のことをよく存じ上げません」

「だから知る機会を作ろうと言っているのだ」

「違うんです。わたしが言いたいのは……」

 

言葉を選ぶ。

ここで下手な断り方をすれば、彼のプライドを傷つけ、最悪の場合は国家間の問題に発展しかねない。

 

「わたしには、まだやるべきことがあります。探し物を終えるまで、誰かのものになるつもりはありません」

「ならば探し物を手伝おう。帝国の全リソースをお前に提供してやる」

「そういうことじゃなくて……!」

 

思わず声を荒げてしまい、わたしは慌てて口を押さえた。

ジルクニフが少し驚いたような顔をする。

 

「……失礼しました。でも、本当にそういうことではないんです」

「では何だ。余のどこが不満だ? 顔か? 地位か? それとも年齢か?」

「どれも不満ではありません」

「ならば何故断る!」

 

ジルクニフが声を荒げ、テーブルを拳で叩いた。

ティーカップが跳ね、焼き菓子が皿から転がり落ちる。

 

その姿は、支配者というよりは、欲しいものを手に入れられない子供のようだった。

わたしは少し意外に思いながら、彼を見つめ返す。

 

「……陛下は、わたしのことを何も知らないでしょう?」

「知っている。調べ尽くした」

「表面的なことでしょう。わたしが何を考え、何を恐れ、何に喜びを感じるか。そういったことは、書類には載っていません」

「だから直接聞いている」

「いいえ、聞いてはいません。貴方は最初から『手に入れる』ことしか考えていない」

 

わたしの言葉に、ジルクニフが息を呑む。

彼は数秒間沈黙し、それからゆっくりと拳を開いた。

 

「……そうか」

「陛下?」

「余は……焦っていたようだ」

 

彼がぽつりと呟く。

その声には、先ほどまでの強引さは消え、どこか虚ろな響きがあった。

 

「お前を見た時、余は生まれて初めて『欲しい』と思った。それまで余にとって女とは、政略の道具でしかなかった」

「……」

「だがお前は違った。手の届かない星のように輝いていて、それでいて血の通った人間だった……余は、どうしてもお前を手に入れたかった」

 

ジルクニフが天井を仰ぐ。

その横顔には、若き皇帝としての重責と、一人の男としての孤独が入り混じっていた。

 

「帝位についてから数年。余は常に駒を動かし、敵を排除し、国を強くすることだけを考えてきた。その過程で、『本当に欲しいもの』がなんなのか、分からなくなっていた」

「それは……」

「お前を見て、思い出したんだ。余も一人の人間だということを」

 

彼がわたしに向き直る。

その瞳には、皇帝としての仮面を外した、一人の青年の素顔があった。

 

「……だから、体面もプライドもかなぐり捨てて言わせてもらう」

 

ジルクニフが、跪いた。

帝国を支配する若き君主が、異国の王女の前に膝をつく。

 

「先ほどロクシーの件で謝罪したが、あれだけでは足りないことは分かっている。余の配下がお前を殺そうとした。それは余の罪だ」

「陛下……」

「だが余は、その罪を償いたいと思っている。お前を傷つけた分、お前を守りたい。お前を苦しめた分、お前を幸せにしたい」

 

彼の声が震えている。

これは演技ではない。

計算でもない。

 

「アリサ。余はお前に惚れている。心から、本気で。……だから、余と共に歩んでくれないか」

 

その姿に、わたしは目を見開いた。

一人の男が、恋した女に全身全霊で告白している。

毒殺未遂への謝罪と、純粋な愛の告白が、ないまぜになって胸に迫ってきた。

 

背後でツアーが息を呑む気配がした。

わたしの心臓が早鐘のように鳴っている。

 

(ど、どうしよう……! こんな真剣に言われると、断りづらい……!)

 

前世の記憶が邪魔をする。

元々男だったわたしは、同性からこのような熱情を向けられることへの忌避感がまだ完全には消えていない。

けれど同時に、ジルクニフという人間が見せた真摯さに、心が揺らぐのも事実だった。

 

彼は暴君ではない。

独裁者だが、民を思い国を富ませる名君でもある。

 

「……陛下」

 

わたしは震える声で呼びかけた。

 

「お気持ちは、嬉しく思います。……謝罪も、告白も」

「だが、断るのだな」

「……はい」

 

ジルクニフが静かに立ち上がる。

その顔には、予想していたという諦念と、それでも消えない執着が入り混じっていた。

 

「理由を聞いてもいいか」

「わたしには……背負っているものがあります。それを下ろすまで、誰かのものにはなれません」

「下ろしたら、戻ってくるのか?」

 

その問いかけに、わたしは答えを持っていなかった。

2年後に現れるナザリックへの準備、『欠片』の回収、世界の行方。

それらが終わった時、わたしがどこにいるのか、まったく想像がつかない。

 

「……分かりません。でも、今の答えは『いいえ』です」

「そうか」

 

ジルクニフが静かに頷く。

そして、かすかに笑った。

 

「……お前は変わらないな、アリサ。余の知る限り、最も正直で、最も頑固な女だ」

「褒め言葉と受け取っておきます」

「ああ、褒めているさ……だから余は、諦めないぞ」

 

彼の瞳に、再び炎が宿る。

 

「今日は退く。だが、次に会った時は覚悟しておけ。余は何度でもお前に告白する。お前が『はい』と言うまで、何度でもだ」

「……陛下」

「ロクシーの件で負い目があるからではない。純粋にお前が欲しいからだ。帝国の皇帝を振った女だ。他の男に渡すつもりはない。……いつか必ず、お前を余の妃にしてみせる」

 

その言葉には、脅しではなく、純粋な決意が込められていた。

わたしは苦笑しながら、肩の力を抜いた。

 

「しつこい男は嫌われますよ」

「知っているさ。だが、余は皇帝だ。しつこさも武器にしてみせよう」

 

ジルクニフがニヤリと笑う。

その顔は、支配者というよりは悪ガキのような輝きを放っていた。

 

「……はぁ。好きにしてください」

 

わたしは盛大にため息をつき、空になったティーカップを置いた。

 

「では、わたしはこれで失礼します。陛下のご健勝をお祈りしております」

「ああ、良い旅を。……次に会う時を楽しみにしているぞ、アリサ」

 

ジルクニフがわたしに背を向け、窓辺へと歩いていく。

その背中は、告白を断られた男のものとは思えないほど、堂々としていた。

 

わたしはツアーに目配せをし、応接間を後にする。

廊下に出た瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。

 

「……はぁぁぁ。なんなのよあれ……」

「大変だったね、サリア」

 

ツアーが労わるような声で言う。

 

「彼は本気だったね。謝罪も、告白も。あの眼は、嘘をついていなかった」

「分かってる……分かってるわよ」

 

だからこそ困るのだ。

本気だからこそ、簡単に拒絶できない。

かといって、受け入れることもできない。

 

「毒殺の件で頭を下げられた時は、正直驚いたわ。あの皇帝が本気で謝罪してくるなんて」

「彼なりの誠意だったんだろうね。罪を認めた上で、改めて告白する……なかなかの覚悟だと思うよ」

「……だから余計に断りづらかったのよ」

 

わたしは額を押さえ、深いため息をついた。

 

「でも、今日はこれで帝都から出られる。当分は顔を合わせなくて済むわ」

「次に会った時は大変そうだけどね」

「その時はその時よ」

 

わたしは自分に言い聞かせるように呟き、帝城の長い廊下を歩いていく。

窓から差し込む午後の日差しが、わたしの影を長く伸ばしていた。

 

 

翌日の早朝、わたしとツアーは帝都の城門をくぐった。

見送りの人影はなく、それがむしろありがたかった。

 

「……これで帝国はひとまず終了ね」

 

街道を歩きながら、わたしは振り返る。

帝都の尖塔が、朝もやの中で遠ざかっていく。

 

「色々あったけど……まあ、悪くなかったかしら」

 

フォーサイトとの出会い、アルシェの救出。

原作では悲劇に終わるはずだった人々が、少しだけ違う道を歩み始めている。

それだけでも、わたしがここに来た意味はあったのだろう。

 

「次はどこへ向かうんだい?」

 

ツアーが尋ねる。

 

「そうね……法国か、それとも亜人の領域か。残っている『欠片』はいくつあるかわからないから」

「のんびり旅といきたいところだけど、そうも言っていられないか」

「ええ。いずれ来る嵐に備えないと」

 

ナザリックの転移、その日は確実に近づいている。

それまでにできる限りの準備をしておかなければならない。

 

「……それにしても」

 

わたしはふと空を見上げた。

どこまでも澄み渡った青空が広がっている。

 

「まさか皇帝陛下から、謝罪とプロポーズを同時にされるとは思わなかったわ」

「モテる女は大変だね」

「茶化さないでよ。本当に冷や汗ものだったんだから」

 

元男としてのアイデンティティは、二度の転生を合わせ三十年経っても完全には消えていない。

美少女として生きれば生きるほど自分との齟齬に戸惑うことがある。

 

「でも、悪い気分ではなかったでしょ?」

「……まあ、自分の罪を認めた上で、惚れた女に全力で告白する姿は、ちょっとだけ格好良かったかもしれないわね」

「素直じゃないな」

「うるさいわね」

 

わたしはツアーの肩を軽く叩き、歩調を速めた。

次なる目的地へ。

次なる『欠片』へ。

そして、いつか訪れる運命の対峙へ。

 

「さあ、行きましょうツアー。まだまだ旅は終わらないわ」

「了解……でも、またあの皇帝に追いかけられるんだろうね」

「考えないようにしてるんだから、言わないでよ……!」

 

ジルクニフの執念が、いつかまたわたしの行く手を阻むことになるのは、きっと避けられない未来なのだろう。

その時までに、心の準備だけはしておかないと。

わたしは小さくため息をつき、昇りゆく太陽に向かって歩き出した。




帝国編の反応が悪めなので、ジルとかのプロットを一つ分短縮してすっ飛ばしますw
他の国の状況を描いて、お待ちかねのナザリックです

余談:恋愛もの書くの苦手かも

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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