オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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序章 5 変わる物語、「配信」のはじまり

――成功、という言葉は、後から振り返った人間がようやく使えるものなのだと思う。

 

ユニット結成から半年。

 

その半年は、わたしの体感では三年分くらいの密度があった。

初めてのレコーディングで喉を潰しかけ、ライブ前夜に緊張で一睡もできず、ネットの掲示板やSNSで飛び交う無責任な言葉に胸をえぐられ、それでも翌朝には笑顔でステージに立つ。

 

そんな日々の積み重ねが、いつの間にか「結果」と呼ばれるものに姿を変えていた。

 

デビューシングルは、想定以上に売れた。

アニメの主題歌に抜擢され、イベントは即日完売。

雑誌の表紙に名前が載り、インタビューでは「次世代の本命ユニット」などと持ち上げられる。

……正直、実感はなかった。

楽屋の片隅で台本を読み込み、発声練習をし、メイクを整える。

やっていること自体は、売れる前と何も変わっていない。

変わったのは、周囲の視線と、世界の反応だけだ。

 

「亜理紗、次はこっちのカメラ!」

「はい」

 

条件反射のように返事をして、わたしは指示された位置へ移動する。

フラッシュが焚かれ、歓声が上がる。

……ああ、これが成功した後の景色なんだ。

頭では理解しているのに、心が少し遅れてついてきている感覚があった。

 

「すごいよね、ほんと」

 

控室で隣に座った茶奈さん――風海久美が、ペットボトルの水を飲みながら言う。

 

「半年前は、こんな景色想像もしてなかった」

「……うん」

 

相槌を打ちながら、わたしは鏡越しに自分の顔を見る。

ステージ用のメイクが施された少女。

昔より少し大人びて見えるけれど、中身は何も変わっていない。

それなのに、世界だけが勝手に先へ進んでしまったような気がした。

 

「どうしたの? 元気ない?」

「元気はあるよ。ただ……」

 

言葉を探して、少し黙る。

 

「思ってた未来と、だいぶ違うなって」

 

その瞬間、茶奈さんは一瞬だけ目を見開き、すぐに苦笑した。

 

「あー……なるほどね」

「分かる?」

「分かる分かる。あたしもね、売れる前はさ」

 

彼女は指で空をなぞる。

 

「成功したら、全部が報われるって思ってた。苦労も、不安も、全部ね」

「そうだね、私も両親が楽になればとしか思ってなかったよ……でも、実際は?」

「成功した分、選択肢が減った」

 

その言葉は、思った以上に重かった。

 

「やれることが増える代わりにやめられることが減るの。期待って、そういうものだから」

 

まさに、その通りだった。

原作で知っていた未来。

少なくとも「失敗するはずだった風海久美の」未来。

それが、目の前では完全に書き換えられている。

風海久美はネタにされる存在ではなく、現在評価される人気声優になっている。

 

ユニットは解散どころか、次の全国ツアーの話まで出ている。

――未来が、激変している。

わたしが知っていた物語から、完全に逸脱してしまった。

 

「……怖いんだ」

 

ぽつりと、正直な気持ちが口をついた。

 

「この先、何が起きるか分からないのが」

 

原作知識という保険は、もうほとんど役に立たない。

これから先は、完全な未知だ。

 

「亜理紗」

 

茶奈さんが、真剣な声でわたしを呼ぶ。

 

「逃げたい?」

「……ううん」

 

自分でびっくりするくらい即答だった。

 

「怖いけど、後悔はしたくない」

 

そう。

原作通りに進めば安全、なんて保証はどこにもなかった。

だったら、自分で選んだ未来を生きるしかない。

 

その夜帰宅すると、リビングで両親と兄さんが待っていた。

両親は最近疲労が抜け始めて、栄養の取れた穏やかな顔をするようになっていた。

そう売れに売れた私の影響で、私たち一家は下層民から中層民へと変わったのだ。

 

もう両親が疲労や栄養失調で死ぬ未来は、なくなったといっても過言ではない。

 

「お疲れ」

「ただいま、兄さん」

 

テレビでは、わたしたちのユニットの特集が流れている。

いやだな、少し気恥ずかしい。

 

「遠い世界に行っちゃったな」

 

冗談めかして言う兄さんに、わたしは首を振った。

 

「そんなことないよ」

「でもさ」

 

兄さんは真剣な目をしている。

 

「無理はするな。お前が壊れたら意味がない」

「そうよ、亜理紗。無茶はしないでね」

 

両親が言葉を続ける。

その言葉に、胸の奥が少し締め付けられた。

 

「……うん」

 

この世界は、もうわたしが知っている未来とは違う。

でも。

両親は健在で、兄さんは笑っていて、仲間は隣にいる。

それだけは、間違いなく現実だ。

 

 

成功したその『後』にこそ、想定していなかった問題が噴き出す。

それをわたしが実感したのは、事務所の会議室でホワイトボードを前にして立ち尽くしていた、あの日のことだった。

 

「……つまり」

 

マネージャーの佐倉さんが、ペンをくるりと回しながら言う。

 

「次のユニットの展開として、“映像コンテンツ”を強化したいんです」

「映像?」

 

もう失われることはないであろう芸名:風海久美――茶奈さんが首を傾げる。

 

「ライブ映像とか、メイキング?」

「それも含みますが、もっと継続的なものです。ファンが“日常的に触れられる”コンテンツ」

 

わたしの背中に、じわりと嫌な汗が滲んだ。

それってつまり――

 

「定期的な、動画……もしかして配信ですか?」

 

思わずそう口にしてしまう。

佐倉さんが、少し驚いた顔でわたしを見る。

 

「ええ、近いですね。もっと気軽なものを想定しています」

 

……やっぱり。

 

「動画を配信して、ファンと交流する、とか?」

 

わたしが続けると、今度は他のメンバーも一斉にこちらを向いた。

 

「配信?」

「交流?」

「……それって何?」

 

ああ、そうだ。

この世界には――『それ』がない。

YouTuberも、Vtuberも、配信文化そのものが存在していない。

 

「えっと……」

 

言葉を選びながら、わたしは説明を試みる。

 

「映像を撮って、それを……ネットみたいなもので、不特定多数の人に見せるの。リアルタイムで」

「リアルタイム?」

「じゃあ、テレビと何が違うの?」

 

他のメンバーが口々に疑問を投げる。

わたしは、軽く頭を抱えたくなった。

前世では当たり前だった“配信”という概念を、ゼロから説明しなければならない。

 

「テレビは、放送局があって、番組があって、編成があって……」

 

わたしはホワイトボードを借りて、簡単な図を描く。

 

「でも配信は、もっと個人に近い。カメラとマイクがあれば、自分たちで番組を始められる」

「……そんなこと、できるの?」

 

茶奈さんが半信半疑で言う。

 

「技術的には、もうできると思う。動画のアップロードとか、双方向通信の実験は、研究所レベルではあるし」

 

佐倉さんが頷く。

 

「実は、そのあたりのインフラは、提携企業が準備しています。問題は何をやるかです」

 

他のメンバーは、どこか不安そうに顔を見合わせている。

 

「それって……危なくないですか?」

「だって、前例がないですよね?」

 

そう、前例がない。

この世界には、配信者という“職業”がないのだから。

でも、わたしだけは知っている。

それが、どれほど強力な武器になるかを。

 

「……危ない、と思う」

 

正直に言った。

 

「でも、それ以上に……可能性がある」

 

全員の視線が、わたしに集まる。

 

「ファンと、直接つながれる。テレビや雑誌を通さずに。そうなったら、人気の作り方そのものが変わる」

 

それは、原作においては考慮されていない分野の話だった。

配信者という文化が生まれていないがゆえに見落とされた――本来なら、もっとずっと後に生まれるはずの文化。

 

「わたし、ちょっと……怖いんです」

 

別のメンバーが小さく言った。

 

「そんな未知のこと、やっていいのかなって」

 

わたしも、怖い。

知っているからこそ、怖い。

だって――

成功も、炎上も、依存も、搾取も。

配信文化が生む光と闇を、わたしは知っている。

 

「……でも」

 

わたしは、ゆっくりと言葉を続けた。

 

「もう、わたしたちは“安全な場所”にはいない」

 

売れた、ということは。

常に見られ、評価され、消費される側に回ったということだ。

 

「どうせ未知に踏み込むなら、自分たちで選んだ方がいい」

 

沈黙が落ちる。

佐倉さんが、深く息を吸った。

 

「……では、試験的にやってみましょう」

 

その一言で、決まってしまった。

 

こうして。

 

この世界には本来存在しないはずの“配信”が、わたしたちの手で生まれようとしていた。

スタジオの一角に、急ごしらえの撮影スペースが組まれる。

 

カメラ。

 

照明。

 

マイク。

 

「これ、向き合って話すと緊張するわね……」

 

茶奈さんが、カメラの前でぎこちなく笑う。

 

「テレビと違って、台本ないんでしょ?」

「一応、流れは決めるけど……基本フリートーク」

「無理!」

 

他のメンバーが悲鳴を上げる。

 

……ああ、分かる。

 

わたしは、いや、今は私だけが、配信の怖さを知っている。

編集がない。

失言は、そのまま残る。

 

「だからこそ……」

 

わたしは、カメラを見つめた。

 

「リアルなんだ」

 

誰にも、まだ分からない。

この選択が、ユニットをどこへ連れていくのか。

でも。

成功した『その先』の道は、誰も知らない。

だからこそ――

 

「行こう」

 

わたしは、メンバーのみんなに小さく笑った。

 

「わたしたちで、未来を作ろう」

 

その瞬間、佐倉さんが今から配信を始める合図を掲げた。

この世界で最初の『配信』が、始まった。




絶対やりたかった小ネタ
オーバーロードの世界には近未来とはいえ大規模にはなかったであろう『配信者』概念の持ち込みですw
ここまでは一気にやりたかったので連続投稿しました

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
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