オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第三章 7 エ・ランテルへの布石

帝都での『幽霊騒ぎ』と、皇帝陛下からの熱烈すぎるプロポーズ劇から数日後。

 

わたしの意識は、遠く離れた帝国の街道を行く『サリア』から、王都リ・エスティーゼの自室でまどろむ『アリサ』へと切り替わっていた。

豪奢な天蓋付きのベッドで目を開けると、窓から差し込む柔らかな日差しが絨毯の上に光の模様を描いているのが見えた。

朝の空気は帝都のそれとは違う、何よりも落ち着く「我が家」の匂いがした。

 

「……おはようございます、アリサ様」

 

控えめなノックと共に部屋に入ってきたのは、金髪をシニョンにまとめたメイド――ツアレだった。

彼女はワゴンを音もなく押し進め、湯気の立つティーカップをベッドサイドに置く。

その動作は洗練されており、かつて彼女が『八本指』に囚われ地獄のような境遇にいたことなど、微塵も感じさせない。

 

「おはよう、ツアレ……ふふ、今朝もいい香りね」

「はい。本日はアリサ様お気に入りの、柑橘系のハーブをブレンドしてみました。お目覚めがすっきりされるかと」

 

ツアレが少しだけ頬を赤らめて微笑む。

彼女は、この三年間でわたしたちが繰り広げた『八本指』との暗闘の中で、わたしが直接救出した被害者の一人だ。

原作ではセバス・チャンに拾われる運命だった彼女だが、ナザリックがまだ転移していないこの世界では、わたしがその役割を担うことになった。

セバスという執事はいなくとも、彼女は持ち前の芯の強さと、王家の筆頭メイドたちによるスパルタ教育……もとい、丁寧な指導によって、今ではわたし専属の立派な侍女へと成長していた。

 

「ありがとう。……ラナーは? 朝から姿が見えないけれど」

「ラナー様でしたら、先ほどまで執務室でクライム様と書類の整理をされておりました。今はアリサ様への定時報告のため、こちらに向かわれているかと」

 

ツアレの言葉が終わるか終わらないかのタイミングで、コンコン、と軽やかな、しかしどこか早鐘を打つようなノック音が響いた。

 

「お姉様、入ってもよろしいですか?」

「ええ、いいわよ。入って」

 

許可を出すと、扉が開き、いつも通りの天使のような笑顔――の裏に、隠しきれない黒いオーラを纏ったラナーが入ってきた。

手には分厚いファイルを抱えているが、そのファイルを握る指先が少し白くなっている気がする。

 

「おはようございます、お姉様。……昨夜はよく眠れましたか? 帝国の『害虫』のせいで、悪夢などご覧になりませんでした?」

「お、おはようラナー。おかげさまでぐっすりよ」

 

わたしは苦笑しながらベッドから身を起こし、ツアレが差し出してくれたガウンを羽織る。

ラナーはツアレに目配せをして下がらせると、鍵をかけ、防音の魔法結界を入念に展開してから、わたしの隣に腰掛けた。

その瞳の奥には、冷ややかな氷の炎が燃えている。

 

「帝都での報告書、読ませていただきましたわ。……あの『鮮血帝』、お姉様に求婚したそうですわね」

「え、ええ。まあ、断ったけれど」

「当たり前ですわ! 身の程知らずにも程があります!」

 

ラナーがファイルをバシッと膝の上で叩いた。

普段の猫被りモードが完全に剥がれ落ち、彼女の本質である冷徹な知性が、激しい嫌悪感と共に露わになっている。

 

「あのような小賢しい男、お姉様の伴侶に相応しいはずがありません。王国の国力を削ぐために戦争を仕掛け、あまつさえお姉様を毒殺しようとした部下を飼っていた男ですのよ? どの面下げて愛を囁くのかしら……反吐が出ますわ」

「ラ、ラナーさん? 顔が怖いわよ?」

「あら、ごめんなさい。……でも、許せませんの」

 

ラナーはふぅ、と息を吐き、氷のような微笑みを浮かべた。

 

「私、あの方のことは以前から生理的に受け付けないと思っていましたけれど、今回ではっきりしましたわ。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス……彼は私の『天敵』です」

「て、天敵……」

「ええ。私の大切な宝物を、汚い手で掠め取ろうとする泥棒猫……いいえ、泥棒皇帝ですもの。次に会ったら、毒を盛るだけでは済ませませんわ」

 

(うわぁ……ガチで嫌ってる)

 

原作では、ラナーとジルクニフは互いに「理解できない異物」として警戒し合う関係だったが、この世界では「アリサ」という共通の執着点ができたことで、ラナー側からの敵対心がカンストしてしまっているようだ。

ジルクニフの胃痛の原因がまた一つ増えたことに、わたしは心の中で合掌した。

 

「ま、まあ落ち着いて。ちゃんと断ったし、当分会うこともないわよ」

「だとよろしいのですが……あの男のことです、諦めずに何か仕掛けてくるに違いありません。監視レベルを最大に引き上げておきます」

 

ラナーは殺気立った気配をスッと消し、事務的な表情へと切り替えた。

この切り替えの早さが、彼女の恐ろしさであり頼もしさでもある。

 

「それで、帝国の『欠片』回収は完了ということでよろしいですね?」

「ええ。フールーダの様子を見る限り、他に異常な反応はなかったわ」

「分かりました……となると、現状で判明している『欠片』の情報は、これで打ち止めになります」

 

ラナーがファイルを閉じ、真剣な眼差しをこちらに向けた。

王国内、聖王国、帝国……主要な場所での回収は順調だ。

その他の地域に関しても監視の目を光らせているが、『災厄』レベルの反応はない。

 

「ひとまず、凪の時期ってことね」

「はい。ですが、本当の『嵐』はこれからです」

「……ええ、そうね。あと二年」

 

わたしはカップをソーサーに戻し、窓の外を見上げた。

ナザリック地下大墳墓の転移。

その時が刻一刻と迫っている。

 

「悟兄さんが……アインズ・ウール・ゴウンが来る。その時に備えて、もっと具体的な布石を打っておきたいの」

「それが、次の目的地ですね?」

「そう。エ・ランテル、そしてカルネ村」

 

ラナーが頷く。

彼女は既に、わたしの意図を汲み取っているようだ。

 

「ナザリックが最初に接触する場所……特にカルネ村は、エンリ・エモットという少女を通じてサトルさまと繋がりを持つ重要な拠点になります。あらかじめサリアとして接触し、彼らが村を守る動機づけを補強するか、あるいは村人たちの意識を誘導しておくか」

「そこまでは考えてないんだけど……でも、エ・ランテルは将来の『魔導国』の首都になる可能性のある場所。サリアの名前を売っておいて損はないわ」

「お姉様の『アバター・プロジェクション』なら、移動の手間もありませんしね……サリアの方の準備は?」

「万端よ。ツアーと一緒に、のんびり馬車で向かっているところ」

 

わたしは悪戯っぽく笑う。

本体はここでラナーと茶を飲みながら、意識の大部分は既に街道を行くサリアの方へと飛んでいた。

 

「いってらっしゃいませ、お姉様。……くれぐれも、変な虫がつかないように気をつけてくださいね? 特に漆黒の剣とか、そういう輩には」

「はいはい、善処するわ」

 

ラナーの過保護な忠告を背に、わたしの意識は王都を離れ、北への旅路へと戻っていった。

 

 

「……くしゅんっ!」

 

王国の北部、なだらかな丘陵地帯を行く馬車の御者台で、わたし――サリアは可愛らしくくしゃみをした。

隣で手綱を握る白銀の鎧――ツアーが、心配そうにこちらを向く。

 

「おや、風邪かい? 高レベルの君でも体調を崩すことがあるんだね」

「ううん、違うわ……たぶん、王都の方ですごく重い愛と殺気を感じただけ」

「……君の妹君かな。彼女、僕のこともあまり快く思っていない節があるからね」

 

ツアーが苦笑交じりに言う。

彼の直感は鋭い。

ラナーにとってツアーは「お姉様の隣を独占している不届き者」であり、ジルクニフほどではないにせよ、常に警戒と嫉妬の対象になっている。

 

「まあ、彼女なりの愛情表現よ。……それより、見えてきたわね」

 

わたしは話題を変え、街道の先を指差した。

目の前には、堅牢な城壁に囲まれた都市のシルエットが浮かび上がっていた。

 

城塞都市エ・ランテル。

リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国が隣接する要衝であり、多くの冒険者たちが集う最前線の街。

そして近い将来、兄さんが『モモン』として名を上げ、やがては支配者として君臨する場所だ。

 

「……見えてきたね。あれがエ・ランテルか」

「ええ。ずいぶんと物々しい雰囲気ね」

 

わたしは目を細めて都市を見つめる。

三層の城壁、行き交う武装した人々。

ここには、帝都のような洗練された空気はない。

あるのは、生きるための泥臭い熱気と、戦いの予感だけだ。

 

(ここで、兄さんは英雄になる。……そして、運命の歯車が回り始める)

 

「サリア? どうしたんだい、怖い顔をして」

「えっ、嘘? わたし怖い顔してた?」

「いや、怖いというよりは……決意に満ちた顔、かな。まるでこれから戦場に赴くような」

 

ツアーの言葉に、わたしは苦笑して誤魔化す。

戦場、か。あながち間違いではない。

ここでのわたしの振る舞いが、二年後の未来を左右するかもしれないのだから。

 

「さあ、行きましょう。まずは挨拶代わりに一曲歌って、この街に『歌姫』の到着を知らせてあげましょうか」

「門番が驚くよ」

「それが狙いよ。目立ってなんぼの冒険者稼業だもの」

 

馬車は石畳の街道を音を立てて進み、巨大な城門へと近づいていく。

門の前には検問待ちの列ができており、殺伐とした空気が漂っていた。

 

「止まれ! 身分証の提示を願う!」

 

衛兵の太い声が響く。

わたしはフードを少しだけ上げ、自信たっぷりの笑顔を浮かべた。

 

「冒険者のサリアよ。こっちは相棒のツアー。……通行許可、いただけるかしら?」

 

わたしの顔を見た衛兵が、一瞬で石像のように固まる。

帝都や王都での噂は、この辺境の都市にも届いているようだ。

 

「お、おい……あの金髪……!」

「まさか、『黄金の歌姫』か!?」

「本物だ! すげぇ美人だ……!」

 

どよめきが広がる中、わたしは悠然と検問を通過する。

エ・ランテル。

この街には、まだ『漆黒の剣』も結成されていないかもしれないし、ンフィーレアもただの薬師の少年として暮らしているはずだ。

 

ふと、一つの懸念が脳裏をよぎる。

クレマンティーヌ。

ズーラーノーンの幹部となり、この街で非道な殺戮を行うことになる彼女。

彼女は今、どこにいるのだろうか。

 

(……まだ、ここにはいないはずね)

 

わたしは記憶にある情報を整理する。

原作のこの時期、クレマンティーヌはまだスレイン法国の特殊部隊『漆黒聖典』に所属しているはずだ。

彼女が『叡者の額冠』を強奪して逃亡するのは、ナザリック転移の少し前。

ましてやこの世界では、彼女はブレインという「良い遊び相手」を見つけ、法国で彼をいじり倒しながら修行の日々を送っているという情報もある。

 

(よかった。彼女がまだ『向こう側』にいてくれて)

 

もし今の時期に彼女がエ・ランテルで暴れていたら、サリアとして「処分」しなければならないところだった。

ブレインとの奇妙な友情?が続いている限り、彼女の暴走フラグは折れていると思いたい。

 

「サリア、宿はどうする? 『黄金の輝き亭』あたりが有名だけど」

「そうね。顔を売るならそこが一番かしら」

 

ツアーの声で我に返り、わたしは思考を切り替える。

クレマンティーヌの心配は後回しだ。

今はまず、この街での拠点を確保し、カルネ村へのルートを確認することが先決だ。

 

「行きましょう、ツアー。まずは腹ごしらえよ。この街の名物料理、楽しみにしてたの」

「君は本当にたくましいね」

 

わたしたちを乗せた馬車は、冒険者たちの喧騒が渦巻くエ・ランテルの市街へと消えていった。

こうして、わたしたちは喧騒と熱狂に出迎えられながら、運命の交差点――エ・ランテルへと足を踏み入れた。

 

 

 

エ・ランテルの市街は、外から見た重厚な雰囲気とは裏腹に、活気に満ち溢れていた。

メインストリートには露店が並び、武具を担いだ冒険者たちが肩で風を切って歩いている。

帝都の整然とした美しさとは違う、雑多で泥臭い、けれど力強い生命力がここにはあった。

 

「まずはギルドね。活動拠点の変更届を出しておかないと」

「ああ。『黄金の歌姫』が来たとなれば、ギルドマスターも飛んでくるんじゃないかい?」

 

わたしは馬車をギルド方面へと向かわせる。

木造の古びた、しかし手入れの行き届いた建物。

その扉をくぐると、ムッとするような熱気と、酒と汗の匂いが押し寄せてきた。

 

「依頼書貼り出しだ! 早い者勝ちだぞ!」

「おい、そいつは俺たちが目を付けてたんだ!」

 

怒号と笑い声が飛び交うロビー。

わたしが足を踏み入れると、入り口近くにいた数人がこちらに気づき、口をあんぐりと開けた。

 

「……おい」

「嘘だろ……」

 

ざわめきが波紋のように広がり、数秒後にはロビー全体が静まり返った。

数百の視線が、一点に集中する。

 

「……あら、静かになっちゃった」

 

わたしはフードを外し、金髪をふわりと広げた。

そして、受付の女性に向かって優雅に歩み寄る。

 

「こんにちは。帝都から流れてきた冒険者のサリアです。……こちらのギルドで、活動許可をいただけますか?」

 

受付嬢が、持っていた羽ペンを取り落とした。

 

「は、はひっ! も、もちろんです! サリア様……!? ようこそエ・ランテルへ!」

 

その日、エ・ランテルの冒険者組合は、かつてないほどの大騒ぎになったという。




ちょっと、いろいろ展開圧縮する際に後回しにしてしまったエ・ランテル絡みの描写を

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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