オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第三章 8 漆黒の剣、セリーシアの涙

エ・ランテルでの生活は、予想していたよりも遥かに順調に、そして騒がしく幕を開けた。

ギルドでの登録を済ませたその足で、手近な討伐依頼(クエスト)を幾つか受注し、わたしたちは都市近郊の草原へと繰り出した。

狙いは、街道に出没しては行商人を襲うという『ジャイアント・バット』の群れや、森から溢れてきた『ゴブリン』の集団だ。

 

「――響け、戦乙女の凱歌!」

 

わたしの歌声が戦場に響き渡ると、空間そのものが震え、味方のステータスを底上げする光の波紋が広がる。

それはレベル80オーバーの『永遠の歌姫』としての力を、冒険者として不自然にならないギリギリのラインまで絞ったものだ。

 

「ふむ、体が軽いね。これなら鎧の重さを忘れてしまいそうだ」

 

前衛を務めるツアーが、白銀の巨体を軽やかに躍動させる。

彼が操る大剣(クレイモア)が一閃されるたびに、哀れな魔物たちは断末魔を上げる暇もなく空の彼方へと弾き飛ばされていった。

 

「ナイスよツアー! その調子で殲滅しちゃって!」

「了解だ……しかしサリア、君のバフは本当に強力だね。手加減してこれかい?」

「これでも出力10%くらいよ。本気出したら、ゴブリンたちが筋肉ムキムキになって爆散しちゃうもの」

 

冗談めかして言っているが、あながち嘘ではない。

わたしのバフ倍率は異常だ。

もし一般人にフルパワーでかけたら、強化された身体能力に肉体が耐え切れずに自壊する恐れすらある。

 

そんな風にして、わたしたちは数時間ほど汗を流した。

結果として、ギルドが想定していた討伐数を大幅に上回る戦果を挙げ、夕暮れ時には大量のドロップアイテムを抱えて凱旋することになった。

 

「す、凄い……たった半日でこれだけの数を!?」

「『黄金の歌姫』の噂は本当だったんだ……!」

「あの白銀の騎士も只者じゃねぇぞ、ミスリル級……いや、オリハルコン級はあるんじゃないか?」

 

ギルドのカウンターで素材を換金すると、周囲の冒険者たちから畏敬の念がこもった囁き声が聞こえてくる。

帝都での実績に加え、ここでの実力行使。

これでわたしたちの『実力者』としてのポジションは盤石なものとなった。

 

「ありがとうございます。また明日もよろしくお願いしますね」

 

受付嬢にニッコリと微笑みかけ、金貨の詰まった袋を受け取る。

これだけ目立てば、今後何かアクションを起こす際にも動きやすくなるだろう。

兄さんが『モモン』としてやってくる前に、この街の冒険者たちの信頼と注目を集めておく。

それが、将来『魔導国』建国に動かれた際の対応をスムーズに進めるための地ならしになるはずだ。

 

「さて、仕事の後はご飯ね! ツアー、お腹空いたでしょ?」

「僕は鎧だから食事は必要ないんだけどね……まあ、君の健啖ぶりを見るのは楽しいよ」

「失礼ね、成長期なのよ。行きましょう、『黄金の輝き亭』へ!」

 

わたしたちは夕闇に包まれ始めたエ・ランテルの街を歩き、冒険者たちの憩いの場である酒場兼宿屋へと向かった。

 

 

『黄金の輝き亭』の扉を開けると、そこは既に熱気と喧騒の渦中だった。

肉の焼ける香ばしい匂い、エールの甘苦い香り、そして男たちの野太い笑い声。

いかにもファンタジー世界の酒場といった風情に、わたしの冒険者魂(と前世のゲーマー魂)がくすぐられる。

 

「いらっしゃい! おや、あんたは昼間の!」

「こんばんは、親父さん。席、空いてるかしら?」

 

カウンターの中にいた恰幅のいい店主が、わたしを見るなり顔をほころばせた。

昼間にチェックインした際、少しだけリュートを弾いて挨拶したのが効いているらしい。

彼は特等席である中央のテーブルを指差した。

 

「あんたのために空けておいたぜ! 噂の歌姫様が来てくれたんだ、歓迎するよ!」

「嬉しいわ。じゃあ、この店のおすすめを全部持ってきて!」

「あいよ! 喜んで!」

 

わたしとツアーが席に着くと、周囲の視線が一斉に集まる。

好奇心、憧れ、そして少しの値踏み。

けれど、昼間の戦果が既に伝わっているのか、無遠慮に絡んでくるような輩はいなかった。

 

運ばれてきた料理――厚切りのステーキや煮込み料理に舌鼓を打ちながら、わたしは店内の様子を観察する。

まだ『漆黒の剣』の姿はない。

彼らは遠出の依頼に出ていると聞いていたが、そろそろ戻ってくる頃合いのはずだ。

 

(ニニャ……セリーシア・ベイロン、彼女との接触が、今回の旅の大きな目的の一つ)

 

彼女の姉であるツアレは、既にわたしが保護し、王都で侍女として働いている。

だが、ニニャはそのことを知らない。

姉が貴族に連れ去られ、無惨な死を遂げたかもしれないという絶望と、それでも姉を救いたいという微かな希望の狭間で、男装をしてまで力を求めている。

 

原作では、彼女はその希望を抱いたまま、クレマンティーヌという理不尽な暴力によって命を落とした。

姉の安否を知ることもなく、無念の中で。

 

(そんな結末、絶対に認めない)

 

わたしはグラスのエールをグイッと飲み干し、決意を新たにする。

クレマンティーヌがいない今、彼女が殺される未来は回避されているはずだ。

けれど、それだけじゃ足りない。

彼女の心を縛る鎖――姉への想いを、正しい形で解いてあげなければ。

 

「……そろそろ、一曲歌おうかしら」

 

食事が一段落したところで、わたしはリュートを取り出した。

待ってましたとばかりに、店内の空気が変わる。

 

「おっ、歌姫様の生歌か!?」

「昼間聞き逃したんだよなぁ、頼むぜ!」

 

拍手と口笛が鳴り響く中、わたしは椅子の上に立ち上がり、弦を爪弾いた。

今夜の選曲は、この街の活気に似合う、明るく力強いカントリー調の曲だ。

 

「――旅立つ君の背中に風は優しく歌う。明日の希望を乗せて――」

 

わたしの歌声が響き渡ると、騒がしかった酒場が心地よい一体感に包まれる。

手拍子が自然と巻き起こり、強面の冒険者たちが楽しそうに肩を組み始める。

スキルの力で、彼らの疲労回復と士気向上を付与しているのだ。

 

曲がクライマックスに差し掛かった、その時だった。

酒場の扉が勢いよく開かれ、夜風と共に四人の人影が入ってきたのは。

 

「ふぅーっ! やっと着いたぜぇ!」

「おいルクルット、声がでかいよ」

「いいじゃないッスか、生きて帰れたんスから!」

 

金属鎧を着込んだリーダー格の青年、軽装の弓使い、大柄なドルイド、そしてローブを纏った小柄な魔法使い。

『漆黒の剣』の四人だ。

彼らは店内の異様な盛り上がりに驚いたように足を止めたが、すぐに中央で歌うわたしの姿に気づいた。

 

「うおっ!? なんだあの美人は!」

「吟遊詩人……? いや、すごい歌声だ……」

「へぇ、こいつはいい歓迎だねぇ」

 

わたしは彼らに向かってウィンクを一つ飛ばし、最後のフレーズを歌い上げた。

ジャンッ! と弦をかき鳴らしてフィニッシュを決めると、割れんばかりの喝采が降り注ぐ。

 

「ありがとう! エ・ランテルの夜に乾杯!」

 

わたしが席に戻ると、興奮冷めやらぬ様子の四人組が、吸い寄せられるようにこちらのテーブルへと近づいてきた。

特に、茶髪の軽薄そうな弓使い――ルクルットが、目をハートにして突撃してくる。

 

「いやぁ素晴らしい! 天使か女神かと思いましたよ! 俺はルクルット・ボルブ、君の歌声にハートを射抜かれちまいました!」

「こらルクルット! いきなり失礼だろ!」

 

リーダーのペテルが慌ててルクルットの襟首を掴んで引き戻す。

そのやり取りが漫才のようで、わたしは思わず吹き出してしまった。

 

「ふふっ、面白い人たちですね。……よかったら、ご一緒しませんか? ちょうど飲み直そうと思っていたところなんです」

「えっ、いいんですか!?」

 

ルクルットが食い気味に反応し、ペテルは恐縮しきりだ。

 

「い、いや、俺たちは遠征帰りで汚れてますし、それにそちらのお連れ様も……」

 

ペテルがツアーの方を見る。

白銀の全身鎧から発せられる無言の圧力に、彼らは本能的な畏怖を感じているようだ。

ツアーは兜の中で苦笑し、少しだけ威圧感を緩めた。

 

「構わないよ。サリアが気に入ったようだ。それに、君たちからは良い気配を感じる」

「相棒のツアーもこう言ってますし。さあ、座って座って! 店員さん、彼らにエールと食事を!」

 

わたしの強引な誘いに、彼らは顔を見合わせ、やがて嬉しそうに席に着いた。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて……俺はリーダーのペテルです」

「ドルイドのダインだ。よろしく頼む」

「魔法詠唱者のニニャです。……綺麗な歌声でした、お姉さん」

 

最後に挨拶したニニャ。

フードの下から覗く中性的な顔立ちは、確かにツアレの面影を色濃く残している。

今は『男』として振る舞っている彼女だが、その瞳の奥には隠しきれない脆さと、強い意志が同居していた。

 

「初めまして。私はサリア。しがない冒険者よ」

 

こうして、候補のまま終わった未来の英雄候補たちとの宴が始まった。

 

 

エールが何杯か空き、テーブルの上には空いた皿が積み重なっていく。

旅の話やモンスターの話で盛り上がる中、ルクルットのナンパは相変わらず絶好調だった。

 

「でさでさ、サリアちゃん! 俺と運命の出会いを感じない? 今夜あたり、月を見ながらデュエットなんてどう?」

「あら残念。私の相棒が嫉妬深いから、夜遊びすると彼に斬られちゃうかもよ?」

 

わたしが冗談めかしてツアーを指差すと、ツアーは無言で大剣の柄に手を置いた。

カチャン、という金属音が妙にリアルに響く。

 

「ヒェッ……冗談ッス、冗談!」

 

ルクルットが青ざめて縮み上がるのを見て、みんながドッと笑う。

そんな和やかな空気の中、わたしは隣に座っていたニニャに水を向けた。

 

「ニニャ君は、魔法使いなのよね? まだ若いのに、しっかりしてるわね」

「いえ、そんな……まだ駆け出しです。仲間に助けられてばかりで」

 

ニニャが照れくさそうに頭を掻く。

 

「でも、才能はあるわよ。タレント持ちなんでしょう?」

「えっ……どうしてそれを?」

「私の勘よ。……『魔法の習得が早い』とか、そういう類のものじゃないかしら?」

 

わたしがカマをかけると、ニニャは驚いたように目を見開いた。

図星だ。

彼女のタレントは、魔法の習得速度を早めるという、地味だが強力なものだ。

 

「す、すごいです……一目で見抜くなんて。サリアさんは占い師もできるんですか?」

「ふふ、まあね。……でも、そんなに急いで強くなろうとするのはどうして? 男の子なら強さに憧れるものだけど、君からは少し『焦り』のようなものを感じるわ」

 

わたしの言葉に、ニニャの表情が曇った。

場の空気が少しだけ沈む。

ペテルたちが心配そうにニニャを見るが、彼女は小さく深呼吸をして、顔を上げた。

 

「……僕には、探している人がいるんです」

「探している人?」

「はい。……姉です。数年前、悪い貴族に連れ去られてしまって……」

 

ニニャの声が震える。

彼女にとって、それは決して癒えることのない傷だ。

 

「僕は無力で、何もできなかった。だから、強くなって……いつか姉さんを迎えに行きたいんです。もし、もう生きていなかったとしても……せめて、その最期だけでも知りたい」

 

悲痛な決意。

それを聞いたルクルットやダインも、真剣な表情で頷いている。

本当に、いいチームだ。

 

わたしは静かにグラスを置き、ニニャの瞳を真っ直ぐに見つめた。

 

「……そのお姉さんの名前、聞いてもいいかしら?」

「え……ツアレ、といいます。」

 

その名前が出た瞬間、わたしはわざとらしく驚いた表情を作ってみせた。

 

「ツアレ……? 金髪で、目の色は君と同じ碧眼の?」

「ッ!? し、知っているんですか!?」

 

ニニャが椅子を蹴倒す勢いで立ち上がる。

ペテルたちも驚愕の表情でわたしを凝視した。

 

「ええ、知っているわ。というか……とてもよく知っている女性にそっくりだもの」

「そ、それじゃあ姉さんは……! 姉さんは生きているんですか!?」

 

ニニャがわたしの手に縋り付いてくる。

その手は小さく、震えていた。

わたしは彼女の手を優しく握り返し、ゆっくりと頷いた。

 

「落ち着いて聞いて、ニニャ君。……貴方のお姉さんは、生きています」

「あ……!」

「今は王都にいるわ。ある高貴な方の屋敷で、メイドとして働いているの」

「王都……メイド……」

 

ニニャの目から、大粒の涙が溢れ出した。

信じられない、という思いと、信じたいという願いが入り混じった表情。

 

「本当、なんですか……? 嘘じゃ、ないですよね……?」

「嘘なんてつかないわ。彼女、とても優秀なのよ。料理も上手だし、主人の世話も完璧。……ただ、昔のことで少し辛い思いをしたから、今はその主人に守られて静かに暮らしているわ」

 

わたしはツアレの現状を、できるだけ柔らかい表現で伝えた。

八本指に囚われていた過去は、今のニニャに伝えるには重すぎる。

今はただ、「安全な場所にいる」という事実だけで十分だ。

 

「よかった……本当によかった……っ!」

 

ニニャはその場に崩れ落ち、子供のように泣きじゃくった。

長年抱え続けてきた重荷が、ようやく下ろされたのだ。

ペテルがニニャの肩を抱き、ダインが目頭を押さえ、ルクルットまでもがもらい泣きをしている。

 

「ありがとう……ありがとうございます、サリアさん……!」

「お礼なんていいのよ。……そうだ、もしよかったら手紙を書く?」

 

わたしはインベントリから羊皮紙とペンを取り出した。

 

「私は近いうちに王都の知り合いに連絡を取る予定があるの。その時に、君の手紙も届けてあげる」

「い、いいんですか?」

「もちろん。お姉さんも、きっと喜ぶわ」

 

ニニャは震える手でペンを受け取り、何度も何度も頷いた。

 

「書きます……! すぐに、書きます!」

 

涙を拭いながら、必死に言葉を紡ごうとするニニャの姿を見守りながら、わたしは心の中で安堵のため息をついた。

 

(これで、一つ目のフラグは折れたわね)

 

姉の生存を知り、連絡手段を得たニニャは、もう無謀な焦りに駆られることはないだろう。

『漆黒の剣』の運命は、ここから大きく変わっていくはずだ。

 

「……サリア、君は本当にお節介焼きだね」

 

ツアーが誰にも聞こえない声で囁く。

わたしは彼に向かって、笑ってみせた。

 

「言ったでしょう? 私はハッピーエンドが好きなのよ」

 

酒場の喧騒の中、ニニャが書き始めた手紙には、きっとこれまでの苦しみと、あふれんばかりの愛が綴られることだろう。

そしてその手紙は、王都で待つツアレにとっても、明日を生きるための光になるはずだ。

 

わたしは満ち足りた気分で、再びエールを口に含んだ。

 

エ・ランテルでの夜は更け、喧騒も心地よい余韻へと変わっていく。

ニニャは涙とインクで手を汚しながらも、何枚もの羊皮紙に想いを書き綴っていた。

それを見守るペテルたちの表情も、どこか憑き物が落ちたように穏やかだ。

 

「しかし、驚いたな。サリアさんが王都の貴族と繋がりがあるなんて」

 

ペテルが感心したように呟く。

 

「ま、伊達に『黄金の歌姫』なんて呼ばれてないってことよ。いろんな所でお世話になってるの」

 

わたしは悪戯っぽく微笑み、指を唇に当てた。

 

「このことは内緒ね? 高貴な方のプライバシーに関わるから」

「もちろんッス! 俺たち、口の堅さには自信があるんで!」

 

ルクルットが自分の口をチャックする仕草をして見せる。

その軽さが、今は頼もしく感じられた。

 

やがて、ニニャが最後の一枚を書き終え、震える手で封をした。

それは分厚く、彼女の長年の想いが詰まった重みのある手紙だった。

 

「……書けました。サリアさん、お願いします」

 

ニニャが両手で手紙を差し出す。

わたしはそれを恭しく受け取り、大切な宝物を扱うようにインベントリへと収納した。

 

「確かに預かったわ。私の名にかけて、必ずお姉さんに届ける」

「はい……! 本当に、ありがとうございます……!」

 

ニニャが再び深々と頭を下げる。

その顔には、先ほどまでの悲壮感は消え、未来への希望に満ちた明るさが宿っていた。

 

「よかったな、ニニャ。これでお前も、前を向いて歩けるな」

 

ダインが豪快にニニャの背中を叩く。

 

「痛っ、ダインさん力強いですよぉ」

「ははは! 嬉しいんだよ、俺もさ!」

 

四人が笑い合う姿を見て、わたしも自然と笑みがこぼれる。

これで彼らは、クレマンティーヌという死神に魅入られる隙を失ったはずだ。

姉を探すという焦りが消えれば、無謀な依頼や怪しい人物との接触も避けるようになるだろう。

 

「さて、そろそろお開きにしましょうか。明日も早いでしょ?」

 

わたしが促すと、ペテルがハッとしたように時計を見た。

 

「うわ、もうこんな時間か! 明日も依頼があるんだった」

「俺たちもそろそろ部屋に戻るッス。……サリアさん、ツアーさん、今日は本当にありがとうございました」

「またどこかで会ったら、今度は俺たちが奢りますよ!」

 

彼らは何度も礼を言いながら、千鳥足で二階の客室へと上がっていった。

その背中を見送りながら、わたしは小さく息をつく。

 

「……いい事をした後の酒は美味いな」

 

ツアーが珍しく、自分から酒瓶に手を伸ばした。

といっても、兜の隙間から器用に流し込むだけだが。

 

「あら、珍しい。ツアーも飲むの?」

「たまにはね。君の行動力には、いつも驚かされるよ……王都への手紙、どうやって届けるつもりだい?」

「ん? そんなの簡単よ」

 

わたしはニヤリと笑い、テーブルの上に指で小さな魔法陣を描く真似をした。

 

「アリサに『緊急・超重要・至急』って書いて転送魔法で送るわ。本体なら、ツアレに渡すついでに、うまいことツアレからの返事も書かせて送り返してくれるはずよ」

「……本体のお姫様をパシリに使うのは、世界でも君くらいだろうね」

 

ツアーが呆れたように肩をすくめる。

 

「人聞きが悪いわね。本体と分身の連携プレーと言ってちょうだい」

 

わたしは上機嫌で立ち上がり、勘定を済ませるためにカウンターへと向かった。

店主の親父さんは、わたしの歌のおかげで酒が飛ぶように売れたと大喜びで、お代はいらないと言ってくれたが、そこはきっちりと払わせてもらった。

 

部屋に戻ると、窓からはエ・ランテルの街並みが見渡せた。

街灯の光が揺れる静かな夜。

この街のどこかに、いずれクレマンティーヌやカジットが現れるかもしれない。

でも今は、確かな平穏がここにある。

 

「……さて、次はカルネ村ね」

 

わたしは窓枠に肘をつき、北の空を見上げる。

エンリ・エモット。

将来、ゴブリン将軍として名を馳せることになる普通の村娘。

彼女と、そして彼女の村を守るための布石を打っておかなければならない。

今の国家間の事情的に実際に襲撃が起きるかは分からないが、手を打つに越したことはないだろう。

 

「忙しくなるわよ、ツアー。覚悟はいい?」

「望むところだ。君の行く道なら、どこまでもお供するよ」

 

頼もしい相棒の言葉に、わたしは満足げに頷いた。

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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