オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた 作:連載として再構築
エ・ランテルの冒険者ギルドの朝は、相変わらずの熱気に包まれている。
掲示板の前に陣取り、今日受けるべき依頼を吟味するのがここ数日の日課になっていた。
並べられた羊皮紙を眺めながら、私たちは自分たちの力量に見合った、それでいて実入りのいい仕事を探す。
「うーん、今日も魔獣の討伐か、あるいは採取依頼か……。サリア、何か気になるものはある?」
隣でツアーが、少し眠たげな目を擦る真似をしながら私に問いかけてくる。
私は視線を動かしながら、いくつかの依頼書を指でなぞった。
本来の目的である『カルネ村』へ向かうための、ちょうどいい口実となる仕事を探すためだ。
「そうね、あまり遠出にならないものがいいわ。カルネ村に向かう準備も進めたいし」
私が適当なゴブリン討伐の依頼書に手を伸ばしかけた、その時だった。
ギルドの入り口が騒がしくなり、見知った顔ぶれが入ってくるのが見えた。
先日、酒場で意気投合した『漆黒の剣』の面々だ。
「おーい! サリアさんじゃないッスか!」
「おはようございます、サリアさん、ツアーさん」
元気よく手を振るルクルットと、ペテルが駆け寄ってくる。
その後ろには大柄なダインと、もう一人――ローブを目深に被っていない、栗色の髪をした可愛らしい少女の姿があった。
私は一瞬きょとんとしてから、すぐにその正体に気づいて目を丸くした。
「おはよう、みんな。……って、もしかしてそちらの可愛らしいお嬢さんは」
「えへへ……おはようございます、サリアさん」
はにかみながら挨拶をしたのは、魔法詠唱者のニニャだった。
以前会った時のような男装のローブ姿ではなく、年相応のチュニックとスカートに身を包んでいる。
短めに切り揃えられた髪は少し整えられ、女性らしい柔らかさを隠そうともしていなかった。
「ニニャちゃん……よね? すっかり女の子らしくなっちゃって」
「はい……その、もう隠す必要もなくなりましたから」
ニニャは照れくさそうに頬を掻くが、その表情は以前よりもずっと晴れやかだ。
姉であるツアレの生存を知り、男として強さを追い求める必要がなくなったからだろう。
彼女は今、本来の『セリーシア』としての姿を取り戻そうとしているのだ。
「驚いたわ、すごく似合ってる。街ですれ違っても気づかなかったかもしれないわね」
「そ、そうですか? まだちょっと、スカートとかスースーして慣れないんですけど……」
「いやぁ、俺たちも朝からドッキリでしたよ! 部屋から出てきたら美少女がいるんですから!」
ルクルットが大げさに肩をすくめて笑う。
けれど、リーダーのペテルとダインの表情は、どこか少し困ったような、気まずそうな色を帯びていた。
私はその微妙な空気を察し、小首を傾げる。
「どうかしたの? せっかく可愛くなったのに、なんだか歯切れが悪いみたいだけど」
「い、いや、そのですね……嬉しいのは山々なんですが、現実的な問題が発生しまして」
ペテルが声を潜め、チラリとセリーシアの方を見る。
彼女もまた、申し訳なさそうに身を小さくしていた。
「今まで俺たち、ニニャを男だと思って接してきたじゃないですか。だから宿の部屋も一緒だったんですけど……」
「ああ、なるほど。女の子だって分かった以上、同じ部屋で寝泊まりするのはマズいわよね」
冒険者の宿代を節約するために相部屋は基本だが、男女混合となると話は別だ。
特に彼らは年頃の男子だし、セリーシアの事情を知ってしまった以上、今まで通りの距離感ではいられないのだろう。
ペテルたちは真面目だからこそ、その辺りのケジメに頭を悩ませているようだ。
「そうなんッスよ! 俺としては美少女と同じ部屋とか役得以外の何物でもないんッスけど!」
「バカ野郎、お前がいるから一番危ないんだよ」
ダインがルクルットの頭を小突く。
セリーシアは苦笑しながら、小さくため息をついた。
「僕……じゃなくて、私のせいで迷惑かけちゃって。別の部屋を取ろうにも、急な出費になっちゃいますし……」
「水臭いこと言うなよ。チームの仲間なんだから、なんとでもするさ」
ペテルが励ますように言うが、金銭的な負担が増えるのは事実だろう。
私は少し考え、ポンと手を打った。
「それなら、いい案があるわ……セリーシアちゃん、私がこの街にいる間、私の部屋に来ない?」
「えっ? サリアさんの部屋に、ですか?」
「ええ。私もツアーとは別部屋を取ってるし、ツインの部屋だからベッドも一つ空いてるの。追加料金もいらないわよ」
私の提案に、セリーシアが驚いて目をパチクリさせる。
ツアーも「それがいい」と頷いてくれた。
「それにね、これからお姉さんに会いに行くんでしょう? 男装を解いたばかりで、女の子としての振る舞いやお化粧とか、忘れちゃってることもあるんじゃない?」
「あ……それは、確かに……」
「私でよければ、いろいろ教えてあげる。お姉さんに会った時、飛びっきり可愛くなった妹を見せてあげたいでしょ?」
私の言葉は、彼女の心に刺さったようだ。
セリーシアは瞳を輝かせ、身を乗り出してきた。
「お、お願いします! 私、化粧の仕方とか全然わからなくて……サリアさんみたいに綺麗になれるなら、ぜひ教えてほしいです!」
「ふふ、任せておいて。私流の『メイク』、伝授してあげるわ」
こうして、宿の問題はあっさりと解決した。
ペテルたちも「サリアさんが見てくれるなら安心だ」と胸をなでおろしている。
ルクルットだけは「ちぇっ、夜這いのチャンスが」とか言っていたが、ツアーの無言の圧力で黙り込んでいた。
「さて、悩み事も解決したところで……みんなは今日、どんな依頼を受けるつもりなの?」
「ああ、それなんですが。……実は、薬草採取の護衛を受けようかと思っていまして」
ペテルが掲示板の一角を指差す。
そこには、地味だが確実な報酬が期待できる採取依頼がいくつか貼られていた。
「薬師の方からの指名依頼に近いんですがね。カルネ村周辺の森で、珍しい薬草を採りたいそうです」
「カルネ村……!」
私が探していた地名が出てきて、心臓がトクンと跳ねる。
なんという偶然、いや、これは原作の流れに沿った必然か。
ンフィーレア・バレアレ。
この街で有名な薬師の孫であり、将来悟兄さんに関わる重要人物の一人だ。
「へぇ、カルネ村に行くのね。……奇遇だわ、私たちもカルネ村方面に行こうかと思ってたの」
「えっ、本当ですか? サリアさんたちも?」
「ええ。ちょっと探し物があってね。でも、あの辺りは土地勘ないし、さすがに少人数だと不安だったのよ」
私は少し困ったような演技をして見せる。
レベル80超えの私は不安を覚えるはずもないが、ここは話を合わせるのが得策だ。
彼らと一緒に行動すれば、自然な形でカルネ村にアプローチできるし、エンリたちとの接点も作りやすい。
「それなら、合同パーティー組みませんか? 俺たちもサリアさんがいてくれると百人力ですし!」
「そうね、それはいいアイデアだわ。依頼主の方にも許可を取る必要があるけど……その薬師さんって、どこにいるの?」
「すぐ近くのバレアレ薬局です。これから挨拶に行くところだったんで、一緒に行きましょう!」
話はトントン拍子に進んだ。
私たちはギルドを出て、エ・ランテルの石畳を歩き出す。
セリーシアは私の隣を歩きながら、嬉しそうに服の袖を摘まんだり、ショーウィンドウに映る自分の姿を確認したりしている。
「ふふ、やっぱり女の子の格好は楽しい?」
「はい……なんだか、背筋が伸びる気がします。ずっと隠してた本当の自分に、やっと戻れたみたいで」
彼女の笑顔は、朝の日差しよりも眩しかった。
この笑顔を守るためにも、今回のカルネ村行きは重要な意味を持つ。
原作では悲劇に見舞われるこの街の運命を、少しでも良い方向へ手繰り寄せるために。
「さあ、行きましょう。新しい冒険の始まりよ」
私たちは賑やかな通りを抜け、薬草の香りが漂う一角にある、古びた看板の掛かった店へと向かった。
◇
『バレアレ薬局』の扉を開けると、そこには独特の香りが充満していた。
乾燥したハーブ、煮詰められた薬品、そして古い紙の匂い。
所狭しと並べられた棚には多種多様なポーションや素材が詰め込まれており、いかにも魔法世界のお薬屋さんといった風情だ。
「ごめんください、冒険者のペテルです! 依頼の件で伺いました!」
「おやおや、いらっしゃい。待っていたよ」
奥の調合室から現れたのは、白髪の老婆だった。
リイジー・バレアレ。
この街でも屈指の薬師であり、ンフィーレアの祖母だ。
彼女は鋭い眼光で私たちを一通り見渡すと、視線を私とツアーのところで止めた。
「……ふむ。見かけない顔がいるね。そっちの派手な嬢ちゃんと、デカい鎧は?」
「あ、紹介します! こちら、最近この街に来た冒険者のサリアさんと、相棒のツアーさんです。今回の依頼、合同で受けられないかと連れてきまして」
ペテルの紹介に、私は一歩前に出て優雅に一礼する。
「初めまして、サリアと申します。薬草の知識には自信がありますし、歌による支援も可能です。お孫さんの護衛、ぜひ協力させていただけませんか?」
「ほぅ……『黄金の歌姫』ってのは、あんたのことかい? 噂は聞いてるよ」
リイジーは興味深そうに目を細め、フンと鼻を鳴らした。
「腕は立つらしいが……報酬は山分けになるよ? それでもいいのかい?」
「ええ、構いません。私はカルネ村に行ければ、それで十分ですから」
「変わった嬢ちゃんだねぇ。……まぁいい。ンフィーレア! 準備はできてるかい!」
リイジーが奥に向かって声を張り上げると、ドタバタという足音と共に、金髪でおかっぱ頭の少年が顔を出した。
彼が今回の護衛対象、ンフィーレア・バレアレだ。
まだあどけなさの残る顔立ちだが、その瞳には薬師としての知性が宿っている。
「は、はい! 準備できてますお祖母ちゃん! あ、漆黒の剣の皆さんも、おはようございます!」
「よう、ンフィーレア! 今日は大所帯だぜ!」
ルクルットが気安く肩を叩くと、ンフィーレアは私の方を見て、一瞬で顔を真っ赤にした。
まあ、今の私は意図的に魅力を振りまいているから、思春期の少年には刺激が強すぎるかもしれない。
「は、はひっ! よ、よろしくお願いします、きれいなお姉さん……!」
「ふふ、よろしくねンフィーレア君。道中、仲良くしましょうね」
私が微笑みかけると、彼は湯気を出しそうな勢いで直立不動になった。
後ろでリイジーが「やれやれ」と呆れているのが見える。
「それじゃあ、出発としようか。目的地はカルネ村周辺の森林地帯。希少な薬草の採取と、村へのポーションの納品だ」
「了解ッス! 馬車は裏に?」
「ああ、用意してある。荷物を積んだらすぐに出るよ」
こうして、私たちは二台の馬車に分乗し、エ・ランテルの城門を目指すことになった。
一台は漆黒の剣とンフィーレアが、もう一台には私とツアー、そしてセリーシアが乗ることになった。
道中での女子トーク(化粧講座)を楽しみにしているセリーシアの希望だ。
「サリアさん、サリアさん! この肌のお手入れって、どうすればいいんですか?」
「まずは保湿が基本よ。安い化粧水でもいいから、たっぷりと使うの」
「へぇー、メモしとかなきゃ!」
馬車に揺られながら、キャッキャと盛り上がる私たち。
御者台のツアーは、風に吹かれながら「平和だねぇ」と呟いていることだろう。
けれど、私の頭の片隅には常に警戒心があった。
カルネ村。
そこは、アインズ・ウール・ゴウンが最初にその力を世界に示す場所。
今はまだ平和なその村に、もし私の『欠片』が何らかの影響を及ぼしていたら。
あるいは、原作とは違う何かが待ち受けていたら。
(……大丈夫。何が起きても、私が守る)
笑顔で化粧の仕方を教えながら、私は密かに決意を固める。
ニニャ改めセリーシアの未来も、ンフィーレアの恋も、そしてカルネ村の平穏も。
全てを守り抜いて、最高のハッピーエンドの舞台を整えるのだ。
「あ、見てくださいサリアさん! 城門が見えてきましたよ!」
「ええ、いよいよ出発ね」
私たちはエ・ランテルの堅牢な門をくぐり、広大な草原へと続く街道へと踏み出した。
目指すは北東、カルネ村。
運命の歯車が、また一つ大きく回り始めようとしていた。
◇
エ・ランテルからカルネ村への道程は、馬車で数日かかる距離だ。
整備された街道とはいえ、街を離れればそこはモンスターの領域。
ゴブリンやオーガといった亜人種が徘徊し、油断すれば命を落とす危険地帯となる。
しかし、今回の旅路は驚くほど平穏だった。
それもそのはず、私の《探知》スキルが周囲の敵影をいち早く察知し、ツアーや漆黒の剣が接近する前に排除してしまうからだ。
「すごい……サリアさんの指示通りに動くと、敵に囲まれる前に先制攻撃ができるッス!」
「魔法による支援も的確だ。これなら、俺たちの消耗も最小限で済むな」
ルクルットとペテルが感心したように言う。
私はあくまで「勘が鋭い」ということで通しているが、レベル差がありすぎるため、どうしても指揮官のような立ち位置になってしまう。
「みんなの動きがいいからよ。私は後ろで歌ってるだけだもの」
「いやいや、その歌がすごいのだよ。疲れが吹き飛ぶっていうか、力が湧いてくるっていうかな」
ダインが力こぶを作って見せる。
通常のバフ魔法よりも効果が高い私の歌は、彼らにとって強力なドーピングになっているようだ。
夜になると、私たちは街道沿いの開けた場所で野営を張った。
焚き火を囲み、温かいスープと硬いパンで食事をとる。
冒険者らしい、質素だが味わい深い時間だ。
「へぇ、ンフィーレア君は幼馴染の女の子が好きなんだ?」
「ぶふっ! な、なんでそれを!?」
恋バナに花を咲かせるのも、野営の醍醐味だ。
ルクルットに冷やかされ、ンフィーレアが顔を真っ赤にしてスープを吹き出す。
その様子を、リジーお婆ちゃんがニヤニヤと眺めている。
「エンリちゃんって言うんだろ? 村に行ったら告白しちゃえよ!」
「む、無理ですよぉ! 僕なんてただの薬師だし、向こうは僕のことなんて……」
「男がウジウジしない! 当たって砕けろってね!」
セリーシアも一緒になって囃し立てる。
男装を解いた彼女は、以前よりも表情が豊かになり、年下のンフィーレアを弟のように可愛がっている。
ツアレに会えない寂しさを、彼に重ねて埋めているのかもしれない。
「でも、エンリさんってしっかり者のいい子なんでしょう? きっとンフィーレア君の頑張り、見ててくれてると思うわよ」
「そ、そうですかね……サリアさんにそう言われると、なんだか勇気が出てきます」
ンフィーレアが照れくさそうに笑う。
その純粋な恋心を、利用しようとする輩がいなければいいのだが。
原作ではクレマンティーヌに誘拐され、叡者の額冠を使用させられるという悲惨な目に遭う彼。
だが、今のところその兆候はない。
(カジットの動向も気になるわね……エ・ランテルの墓地で何か企んでいるはずだけど)
ズーラーノーンの幹部、カジット・デイル・バダンテール。
死の螺旋を目論む彼は、今のところ沈黙を守っている。
クレマンティーヌがいない分、計画の実行部隊が足りず、動き出せないでいるのかもしれない。
「……サリア、どうしたんだい? 難しい顔をして」
ツアーが小声で話しかけてくる。
彼は食事をとらないので、少し離れた場所で周囲を警戒していた。
「ん、ちょっとね……この平和が、ずっと続けばいいなって思って」
「君がそう望むなら、僕も力を貸すよ。……それに、君の『欠片』の反応もない。今のところは順調だ」
ツアーの言葉に、私は頷く。
今回のカルネ村行きは、あくまで偵察と下準備。
大きな事件が起きないに越したことはない。
「そうね……明日の昼にはカルネ村に着くわ。気を引き締めていきましょう」
焚き火の爆ぜる音を聞きながら、私は星空を見上げる。
かつて兄さんと一緒に見上げたユグドラシルの星空とは違う、本物の星々。
この世界で、私たちはどんな物語を紡いでいくことになるのだろうか。
「サリアさん、そろそろ寝ましょうか。テントの中、温めておきましたよ!」
「ありがとう、セリーシアちゃん。今行くわ」
セリーシアの呼ぶ声に、私は思考を中断する。
今は目の前の仲間たちとの時間を大切にしよう。
私は立ち上がり、温かいテントの中へと潜り込んだ。
◇
翌日の昼過ぎ。
私たちは鬱蒼とした森を抜け、開けた丘の上に立った。
眼下には、のどかな田園風景と、木の柵で囲まれた小さな村が広がっている。
「あれがカルネ村ッスか。いやぁ、静かだねぇ」
「ああ。モンスターの襲撃もなさそうだ」
ルクルットとペテルが安堵の声を漏らす。
村からは煙突の煙が立ち上り、畑で働く人々の姿が豆粒のように見える。
平和そのものの光景だ。
「よし、一気に村まで降りるよ! 日が暮れる前に納品を済ませたいからね」
リイジーの号令で、馬車が動き出す。
私たちは坂道を下り、村の入り口へと向かった。
門番の村人が私たちに気づき、手を振ってくる。
「おーい! 薬師の先生かー!」
「ああ、今年も来たよ! 村長はいるかい?」
村の中に入ると、素朴な村人たちが集まってきた。
彼らにとって、薬師の来訪は一年に一度の重要イベントであり、同時に外の世界の情報を知る貴重な機会でもある。
そして何より、護衛として連れてきた「派手な冒険者たち」に興味津々のようだ。
「うわぁ、きれいな女の人……」
「あの鎧、ピカピカだぞ」
「すげぇ、強そうだなぁ」
子供たちが目を輝かせて馬車を取り囲む。
私は馬車から降り、子供たちに向かって手を振った。
「こんにちは、みんな。元気?」
「「「元気ー!」」」
子供たちの元気な返事に、私も自然と笑顔になる。
その中に、一人の少女が駆け寄ってきた。
おさげ髪の、素朴だが意志の強そうな瞳をした少女。
エンリ・エモットだ。
「ンフィー! 来てくれたんだね!」
「エ、エンリ……! う、うん、久しぶり……!」
ンフィーレアが馬車から飛び降り、顔を真っ赤にしてモジモジしている。
その様子を見て、セリーシアが私をつついてニヤニヤした。
「見てくださいサリアさん、あの二人。もう雰囲気できてるじゃないですか」
「ふふ、青春ねぇ……私たちはお邪魔虫にならないようにしなきゃ」
リイジーが村長と話している間、私たちは村の広場で待機することになった。
村人たちが温かいお茶や軽食を振る舞ってくれる。
平和で、温かい時間。
原作で虐殺が行われた場所とは思えないほど、穏やかな空気が流れている。
(……この村を、兄さんは救うことになる)
今のところ、スレイン法国の部隊が動いている気配はない。
私が以前、法国と接触し、彼らの動きを牽制した影響もあるのかもしれない。
あるいは、まだ「その時」ではないのか。
「サリアさん、あの子たちにもお化粧教えてあげてもいいですか?」
セリーシアが、興味津々でこちらを見ている村の少女たちを指差す。
彼女はすっかり「お姉さん」の顔になっている。
「ええ、もちろん……今日はここでのんびりしましょうか」
私はリュートを取り出し、軽く爪弾く。
村の広場に、優しい音楽が流れ出す。
労働の疲れを癒やすような、穏やかな旋律。
村人たちが聞き入り、子供たちが曲に合わせて踊りだす。
ンフィーレアとエンリも、少し離れた場所で楽しそうに話している。
漆黒の剣の面々も、村の男たちと力自慢をしたりして打ち解けている。
(……完璧なハッピーエンドの前日譚ね)
私は心の中で満足げに頷く。
この平穏が、いつか来る激動の時代への緩衝材になる。
私がここに『サリア』として痕跡を残すことで、未来の『魔導王』がこの村を受け入れやすくなる土壌を作るのだ。
「いい歌だね、嬢ちゃん」
村長がリイジーとの話を終え、ニコニコと近づいてきた。
「ありがとうございます……この村、とてもいい所ですね」
「ああ、何もない田舎だが、みんな仲良く暮らしてるよ。……あんたたちみたいな強い人が来てくれて、みんな安心してる」
「ええ……何かあったら、いつでも呼んでください。私たちは、この村の味方ですから」
それは単なる社交辞令ではない。
私からの、そして未来のナザリックからの約束だ。
こうして私たちのカルネ村への旅は何事もなく、穏やかな笑顔の中で幕を下ろそうとしていた。
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