オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた   作:連載として再構築

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第三章 終 ブレインの帰還、そして二年後

スレイン法国、神都。

六大神の威光が降り注ぐとされるこの聖域の地下深くに、一般の神官ですら立ち入りを禁じられた領域が存在する。

人類最強の守護者たる特殊部隊『漆黒聖典』、その専用演習場である。

 

冷ややかな石壁に囲まれた空間に、鋭い剣戟の音が反響していた。

神速の踏み込みと、それを受け流す重厚な金属音。

目にも止まらぬ攻防の果てに、青白い斬撃の軌跡が宙を裂き、静寂が舞い戻る。

 

「……そこまで」

 

審判役の神官が声を上げると同時に、二つの影が距離を取った。

片や、巨大な盾を構えた巨漢、『巨盾万壁』。

対するは、装飾の少ない実戦的な鎧に身を包み、刀をだらりと下げた男――ブレイン・アングラウスである。

 

彼は荒い息を整えながら、汗で濡れた前髪を無造作にかき上げた。

その瞳には、かつてのような焦燥や、己の弱さへの怯えはない。

あるのは、ただ純粋に高みを見据える求道者の光と、確かな自信であった。

 

「……見事だ、ブレイン。今の『神閃』、わずかだが私の反応速度を上回っていたぞ」

 

巨盾万壁が盾を下ろし、感心したように息を吐く。

漆黒聖典の席次持ち、すなわち英雄の領域にある彼をして、その一撃は脅威と映ったようだ。

 

「へっ、あんたのその鉄壁を崩すには、まだ一歩足りなかったみたいだがな」

 

ブレインは刀を鞘に納め、皮肉っぽく笑った。

だが、その表情は晴れやかだ。

この二年間、彼は地獄を見た。

人類の限界を超えた化物たちとの連日の模擬戦、致死レベルの魔法が飛び交う実戦任務への同行、そして己の肉体を極限まで苛め抜く修練の日々。

 

普通の人間なら三日で逃げ出すか、あるいは精神が崩壊していただろう。

だが彼は耐え抜いた。

脳裏に焼き付いた『黄金の歌姫』の輝きと、その背中を追うという誓いだけを支えにして。

 

「謙遜するな。ここに来た当初のお前とは練度も剣速も桁が違う……今の貴様なら、あるいは隊長とも数合は打ち合えるかもしれん」

 

観覧席から降りてきたのは、漆黒聖典の隊長であった。

彼はブレインの前に立つと、その精悍になった面構えを満足げに見つめる。

 

「強くなったな、ブレイン・アングラウス」

「ああ……あんたたちのおかげだ」

 

ブレインは短く礼を言い、そして意を決したように隊長の瞳を見据えた。

その視線の意味を、隊長も察したのだろう。

彼はわずかに眉を動かし、先を促すように沈黙した。

 

「隊長、そして法国の皆さんに感謝する。だが……俺はそろそろ、行かなくちゃならない」

「帰国か」

「ああ。約束の時は来た。今の俺がどれだけ通用するか、あいつに……サリアに見てもらいたいんだ」

 

ブレインの言葉に迷いはない。

彼はこの法国での日々で、確かに英雄の領域へと足を踏み入れた。

レベルにして40台半、あるいは50に迫る勢いだろうか。

それは周辺諸国の戦士長クラスを凌駕し、文字通り「人類最強」の一角に名を連ねる実力である。

だが、彼の目指す頂はそこではない。

レベル70を超える規格外、あのアリサ王女の分身に追いつくことだ。

 

「……引き止めても無駄か」

「悪いな。居心地は悪くなかったが、俺の主君はあくまであのお姫様なんでね」

 

ブレインがニカっと笑う。

隊長はふっと息を漏らし、肩をすくめた。

 

「分かった。上層部には私から報告しておこう。貴様は『客将』として十分な働きをした、誰も文句は言わんさ」

「恩に着るぜ」

 

ブレインは背を向け、出口へと歩き出す。

その足取りは軽く、王国の空の下へと思いを馳せているようだった。

 

 

スレイン法国、最高意思決定機関が集う『真実の間』。

六人の枢機卿が円卓を囲み、重苦しい議題について話し合っていた。

議題の中心は、ブレイン・アングラウスの帰国申請と、それに伴う「ある懸案事項」の処理についてである。

 

「……ブレイン殿の帰国、承認する他あるまい。無理に引き止めれば、アリサ王女の心証を損ねる」

 

土の神官長が、報告書を指で叩きながら発言した。

彼らにとって、アリサ王女は人類の至宝であり、最優先保護対象だ。

彼女が送り込んだ「友人」であるブレインを拘束することは、外交的にも、そして何よりあのような「規格外の存在」を敵に回すリスクを考えても得策ではない。

 

「うむ。彼もまた英雄の領域を越えるに至った。彼ほどの武力を手放すのは面白くないが、それがアリサ王女の盾となるならば容認できる」

「問題は、王女とのパイプラインだ。ブレイン殿はあくまで王女の『個人的な』配下。我々法国の意向を汲んでくれるとは限らん」

 

火の神官長が懸念を示す。

確かにブレインは法国に恩義を感じてはいるだろうが、その忠誠心は完全にアリサに向いている。

法国としては、王国の内情、特にアリサの周辺情報を常に把握しておきたいのが本音だ。

漆黒聖典による監視も続けてはいるが、あまり露骨な真似は王女の「探知」に引っかかる恐れがある。

 

「そこでだ。彼に『同行者』をつけるというのはどうだろうか」

 

レイモンドが眼鏡の位置を直し、苦々しい表情で、しかし妙案だと言わんばかりに提案した。

 

「同行者? 監視役ということか? だが、中途半端な実力の者を送っても足手まといになるだけだぞ」

「いや、実力は申し分ない。むしろ……強すぎて持て余している」

 

その言葉に、枢機卿たちの顔色が一斉に変わる。

彼らの脳裏に浮かんだのは、ある一人の問題児の顔だった。

 

「まさか……第九席次か?」

「『疾風走破』クレマンティーヌ……彼女をか!?」

 

会議室がどよめく。

クレマンティーヌ。

漆黒聖典第九席次にして、英雄級の実力を持つ暗殺者。

しかしその性格は破綻しており、残虐かつ嗜虐的。

最近は任務での殺戮衝動が抑えきれず、かといって国内で暴れさせるわけにもいかず、上層部の頭痛の種となっていた。

 

「正気か? あのような狂犬を王女の元へ送るなど、何をしでかすか分からんぞ!」

「だからこそだ」

 

レイモンドは声を強め、周囲の動揺を制した。

 

「彼女は最近、退屈を持て余している。このままでは国内で『遊び』を始めかねん。……だが、彼女はアリサ王女には一定の執着と、歪んではいるが敬意を持っている」

「ふむ……確かに、かつて王女の教官を務めた時は、比較的従順だったと聞くが」

「それに、彼女なら王女の『異質さ』を知っている。ブレイン殿と共に王女の側近として配置すれば、最強の護衛となると同時に、我々への連絡役としても機能するだろう」

 

要するに、厄介払いに近い出向命令だ。

国内に置いておけば爆発しかねない爆弾を、唯一その起爆スイッチを制御できそうなアリサの元へ送り込む。

王国にとっては迷惑極まりない話だが、法国としては「最強の援軍」という名目で恩も売れるし、ガス抜きもできる。

一石二鳥ならぬ、一石三鳥の妙案であった。

 

「……王女ならば、彼女の手綱を握れると?」

「『永遠の歌姫』の精神安定効果もある。それに王女は、あの手の曲者を手懐けるのが妙に上手い」

「……よかろう。彼女を『親善大使』ならぬ『駐在武官』として派遣する。名目は……そうだな、王女への剣術指南役の再開、とでもしておこう」

 

こうして、恐るべき人事が決定された。

狂気の英雄クレマンティーヌの、リ・エスティーゼ王国への「出向」。

それは平和になりつつある王国に投下される、劇薬のような人事であった。

 

 

「あはっ! マジで? 行っていいの?」

 

薄暗い執務室で、クレマンティーヌは猫のように目を細め、ケラケラと笑った。

彼女の前には、眉間に皺を寄せたレイモンドがいる。

 

「ああ。正式な命令だ。ブレイン・アングラウスと共に王国へ赴き、アリサ王女の警護、ならびに周辺の不穏分子の排除にあたれ」

「やったぁ! ここ最近、退屈で死にそうだったんだよねぇ。弱い雑魚ばっかで飽きてたしぃ」

 

彼女はくるくると短剣を回し、舌なめずりをする。

その脳裏に浮かぶのは、かつて泥だらけになりながら自分に向かってきた少女の瞳だ。

あれから数年。

風の噂、そして報告書によれば、あの少女はとんでもない化け物に成長しているという。

 

「あの子……アリサちゃん、どれくらい強くなってるかなぁ。壊れないおもちゃ、育ってるかなぁ」

「釘を刺しておくが、王女に危害を加えることは許さん。あくまで護衛だ」

「分かってるってぇ。大事な『お気に入り』だもん、簡単には壊さないよぉ」

 

クレマンティーヌの笑顔は、純粋な悪意と、子供のような無邪気さが混ざり合った異様なものだった。

だが、少なくとも法国にいる時よりはずっと楽しそうだ。

 

「それに、あの堅物のブレイン君と一緒なんでしょ? 道中も退屈しなさそうでいいじゃん」

「……彼を殺すなよ?」

「善処するぅ☆」

 

こうして、最凶の二人組が結成された。

求道者ブレインと、狂人クレマンティーヌ。

彼らは旅装を整え、王女の待つリ・エスティーゼ王国へと向かう馬車に乗り込んだのである。

 

 

カルネ村での一件を無事に終え、サリアたちはエ・ランテルに帰還していた。

「薬草採取の護衛」という名目での小旅行だったけれど、終わってみればンフィーレア君とエンリちゃんの仲を取り持ち、ついでに私の『欠片』の影響がないことも確認できた。

まさに満点の結果だ。

 

王城の自室で、わたし――アリサはふかふかのソファに身を沈めていた。

窓の外には平和な王都の風景が広がっている。

隣ではラナーが紅茶を淹れてくれており、その香りに包まれながら私は大きく伸びをした。

 

「……ふぅ、やっぱり我が家が一番ね」

「お疲れ様でした、お姉様。カルネ村での『サリア』の活躍、冒険者ギルドを通じても噂になっていますわよ」

「えっ、もう? 情報の伝播速度が速すぎない?」

「『漆黒の剣』の方々が、酒場で嬉しそうに語り広めているみたいです。『黄金の歌姫は俺たちの女神だ』なんて」

 

ラナーがクスクスと笑う。

まあ、悪い噂じゃないならいいか。

セリーシア(ニニャ)ちゃんも、女の子としての自信をつけてくれたみたいだし。

 

そんな穏やかな午後。

部屋の扉がノックされ、侍女のツアレが恭しく入室してきた。

 

「アリサ様、ラナー様……お客様がお見えです」

「客? 誰かしら、予定は入っていないはずだけど」

「はっ。それが……スレイン法国からの使者だという方が、お忍びで」

「法国?」

 

私はラナーと顔を見合わせた。

公式の外交ルートを通さず、お忍びで来る使者。

嫌な予感と、期待が半々で胸がざわつく。

 

「通して」

 

しばらくして、扉が開かれた。

そこに入ってきた人物を見て、私は思わず立ち上がりそうになった。

使い込まれた外套に、背負った刀。

そして何より、その精悍になった面構え。

 

「……よう、姫様。ただいま戻ったぜ」

 

ブレイン・アングラウス。

かつて私が送り出し、法国で修行を積んでいた彼が、そこに立っていた。

その全身から放たれる気配は、以前とは比べ物にならないほど鋭く、研ぎ澄まされている。

 

「ブレイン! 帰ってきたのね!」

「ああ。約束通り、強くなってな」

 

彼はニッと笑い、以前よりもずっと自信に満ちた足取りで歩み寄ってくる。

レベル……鑑定スキルを使わなくても分かる。

彼は『壁』を超えた。

今の彼は完全に英雄級以上の領域に至っている。

 

「おかえりなさい、ブレイン。見違えたわ……本当に、すごいわ」

「へっ、あんたに褒められると悪い気はしねえな。だが、土産話はまだ早いぜ」

 

ブレインは意味ありげに視線を入り口の方へと向け、苦笑いを浮かべた。

 

「俺一人で帰ってきたかったんだがな……どうも法国の連中は、過保護すぎるらしい」

「え?」

 

彼の背後から、もう一つの影が現れる。

その姿を見た瞬間、私の思考は一瞬停止し、それから全力で「なんで!?」と叫び声を上げたくなった。

 

「やっほ〜☆ 久しぶりだねぇ、アリサちゃん!」

 

豹柄のような奇抜な衣装、左右非対称の髪型。

そして人を小馬鹿にしたような、ネチャリとした笑顔。

スレイン法国最強の漆黒聖典、その第九席次。

 

「ク、クレマンティーヌ……!?」

「あはっ! 覚えててくれたんだぁ? 嬉しいなぁ、お姉さん感激ぃ」

 

彼女はブレインの横からひょっこりと顔を出し、まるで遊びに来た親戚のような気軽さで手を振った。

 

「ど、どうしてあなたがここに? 法国の任務は?」

「ん〜? これがお仕事なんだよねぇ。上のお偉いさんたちがさぁ、『ブレイン君一人じゃ寂しいだろうから、お守りしてあげなさい』って」

 

クレマンティーヌはケラケラと笑いながら、私の目の前まで歩み寄ってくる。

その瞳の奥には、獲物を見定めるような危険な光が宿っていた。

 

「要はアレよ、厄介払い兼、監視役ってとこ? ま、あたしとしてはアリサちゃんと遊べるなら何でもいいんだけどぉ」

「……監視役って、あなたみたいな爆弾を送ってくる法国の神経を疑うわ」

 

私は思わず額を押さえた。

ブレインが強くなって帰ってきたのは嬉しい誤算だが、まさかのおまけ付き。

しかもよりによって、原作でカジットと組んでエ・ランテルを恐怖に陥れた張本人だ。

いや、今の彼女はこの世界線では私との交流を経て、多少マイルドに……なってないな、この笑顔を見る限り。

 

「ラナー様、これはどういうことでしょう?」

「……想定外ですわね。ですが、戦力としては申し分ありませんわ」

 

ラナーも少し驚いているようだが、すぐに計算高い瞳に戻っている。

彼女にとってクレマンティーヌは「使える駒」として認識されたようだ。

 

「……はぁ。まあいいわ」

 

私はため息をつきつつも、改めて二人に向き直った。

最強の剣士へと成長したブレイン。

そして、制御不能だが最強の暗殺者クレマンティーヌ。

この二人が揃えば、王国の武力は一気に跳ね上がる。

八本指の残党狩りどころか、周辺諸国への抑止力としても十分すぎる戦力だ。

 

「よく帰ってきてくれたわ、二人とも。……歓迎するわ」

「おう。俺の剣は、今日からまたあんたのものだ」

「あたしはぁ、飽きるまで居座らせてもらうよぉ? ねえねえ、後で手合わせしようよぉ。どれくらい強くなったか、体で教えてあげるからさぁ」

 

クレマンティーヌが舌なめずりをする。

私はやれやれと首を振りつつも、心のどこかで安堵していた。

役者は揃った。

私の、そして王国の頼もしい「剣」と「牙」が。

 

「ええ、お手柔らかに頼むわね……二人とも、これからの王国は少し騒がしくなるわよ?」

 

私の言葉に、ブレインは不敵に、クレマンティーヌは愉悦に満ちた笑みで応えた。

窓の外から吹き込む風が、新しい時代の到来を告げるように、私たちの髪を揺らした。

 

(さて、これでガゼフ、ブレイン、クレマンティーヌ……『最強チーム』の結成ね)

 

私は心の中でガッツポーズを決め、これからの展開に思いを馳せた。

ナザリックが来る前に、やるべきことはまだ山積みだ。

でも、このメンバーならきっと大丈夫。

 

「まずは……歓迎の宴でもしましょうか。積もる話もあることだし」

「賛成ですわ! お姉様、とびきりのケーキを用意させます!」

 

こうして、王城の一室で奇妙な再会劇は幕を閉じた。

 

 

 

そして二年後、その時は訪れる。

読者皆様のアリサの相手候補の意向確認

  • モモンガ
  • ペロロンチーノ
  • ジルクニフ
  • ガゼフ
  • ラナー
  • クレマンティーヌ
  • イビルアイ
  • ラキュース
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