オーバーロードにTS転生者を叩き込んでみた 作:連載として再構築
わたしたちが業界で「時代を変えた存在」とまで言われるようになっていた頃、実のところ内心でずっと別の恐怖を抱えていた。
――ここから先は、わたしの知っている要素が混じってくる。
原作にも、公式設定にも、声優が自分で映像を配信してファンと直接つながるなんて概念は存在しない。それでもわたしは知っていた。配信者、ユーチューバー、VTuber、ストリーマー。名前は違えど、「個」がメディアを持ち、世界を動かす時代が来ることを。
そして、配信という概念をこの世界に持ち込んでしまったのは、間違いなくわたしだった。
私達五人は同じユニットで同じ看板を背負っている。だが、配信という場に立った瞬間、全員が等しく「個人」になる。
それぞれの性格、趣味、話し方、空気の読み方、炎上耐性、すべてが露骨に数値化される世界なのだ。
最初の一か月は、まだ『ユニットの企画」として足並みがそろっていた。
いわゆる『声優ユニット』としての企画番組の域を出ないでいたとも言える。
五人でゲームをしたり、台本ありのトーク番組をやったり、歌ってみた動画を上げたり。数字も伸びた。
だが二か月目に入った頃、運営が『個人配信枠』を開放したことで、流れは一気に変わった。
――分岐が始まった。
わたしは、自分でも驚くほど早く伸びた。
理由は、正直なところ分かっていた。
わたしは元・男性だ。中身の感覚は、どうしても男性寄りの部分が抜けない。
それが、「若くて可愛い美少女声優」という外見に宿っている。
そのギャップが、配信ではとんでもない武器になった。
「え、FPSって、リロードのタイミングが一番気持ちいいよね?」
「いや、ホラーゲームの怖さって音響設計と間の勝利だと思うんだよ」
「推理小説? うーんと、乱歩よりエラリー・クイーン派だったかな」
そういう話を、ふわっとした見た目の女の子が、無防備な声で語る。
しかもわたしは転生前はオタクで、ネット文化にどっぷりだった上、モデレータをしていたこともあったので配信の「間」も分かる。
コメントの拾い方、スパチャへの反応、全てを身体で理解していた。
「今の、いいコメントだったから固定して」
「それ切り抜きで使えるやつだね」
そんなことを、平然と言ってのける声優なんて、この世界には存在しなかった。
結果、わたしのチャンネルは開設三か月で登録者が百万を突破した。
◇
風野茶奈も強かった。
彼女は天性の声優で、それでいてトークも安定していて、何より『安心して見られる』。
歌枠、雑談枠、朗読配信。どれも高水準で、炎上しない。
爆発はしないが、堅実に積み上がるタイプだ。
残りの三人も、それぞれの路線で配信を始めた。
年上で料理が趣味の綾瀬は、料理配信と日常系。
乙女ゲーとかのイケメン好きな水越は、乙女ゲーム実況と恋愛トークで。
でも歌が持ち味だった木島は、十八番の歌が思うように伸びずネタを思いつかなかったのか、社会派トークと時事ネタを売りにしていた。
みんな配信の分野は分かれていったが、それなりの分野を開拓して成功した背景には、炎上に気を遣うようにアドバイスしたわたしの存在はあったかもしれない。
◇
そんな日々が過ぎていく中、とある仮想実体感型のオンラインゲームのサービス開始が告知された。
――『ユグドラシル』
これだ。
これこそが、わたしが原作を踏襲する上で、もっとも重要な要素としたファクター。
悟兄さん、風野茶奈ことぶくぶく茶釜、そして風野龍也ことペロロンチーノ、全員をゲームに誘わなければいけない。
そうしなければ、『オーバーロード』という物語は始まらない。
――だからこそ、わたしはこの段階で、どうしても三人を引きずり込む必要があった。
悟兄さん。
風野茶奈。
風野龍也。
この三人がユグドラシルに入らなければ、わたしの知っている“あの未来”は発生しない。
モモンガは生まれず、ぶくぶく茶釜はギルドに現れず、ペロロンチーノも羽ばたかない。
……いや、正確には『プレイヤーとしての彼ら』が揃わなければ意味がないのだ。
わたしはスマホを握りしめたまま、深く息を吐いた。
「……よし」
まずは一番難易度が低い――はずだった相手から行こう。
「悟兄さん、ちょっといい?」
「今、事務所に出す経費の精算まとめてる。五分だけな」
リビングのテーブルに、領収書とノートパソコンを広げている兄の背中は、今日も実務担当マネージャーそのものだった。
わたしの声優活動のスケジュール管理、グッズ収支、配信の広告費、全部を彼が裏で処理している。
……この人、原作では廃ゲーマーだったはずなのに。
「ねえ、ユグドラシルっていうVRMMO、知ってる?」
「……ああ。例のフルダイブのやつだろ。配信案件で亜理紗がやるって言ってたな」
即答だった。さすがにわたしについての情報収集は欠かしていないらしい。
「そう。で、ね。一緒にやらない?」
「やらない」
間髪入れず、しかもきっぱり。
「即答すぎない!?」
「亜理紗の案件だろ。俺は裏方で十分だ。そもそも今は忙しい」
兄は画面から目を離さない。
「事務所との調整、スポンサーとの契約、亜理紗のチャンネルの広告枠……これだけ回してるんだ。ゲームをする余裕なんてない」
それは……正論すぎて反論できない。
でも、ここで引き下がったら終わりだ。
「でもさ、ユグドラシルって、ギルド運営とか経済システムがめちゃくちゃ複雑で――」
「だからなおさら、だ」
兄はようやくわたしを見る。
「亜理紗は表に立つ人間だ。俺はそれを支える。役割分担は、もう出来上がっている」
……原作では、現実に何も持っていなかったからゲームに逃げた。
でも今の悟兄さんは、仕事も、責任も、そして『私を支える役割』も持ってしまっている。
この状態で、ユグドラシルに引きずり込むのは至難の業だ。
「……週に三時間だけでも?」
「無理だ。三時間あれば、亜理紗の切り抜き動画を二本は作れる」
ひぃん……この人、わたしのチャンネルをガチで運営してる……。
◇
次に連絡を取ったのは、風野茶奈――ぶくぶく茶釜だ。
「え? ゲーム?」
通話の向こうで、彼女はきょとんとした声を出した。
「最近は歌の練習と朗読の台本で手一杯なんだけど……」
「ちょっとでいいから! ユグドラシル、絶対向いてるから!」
悟兄さんにばっさり切り捨てられたので今の私は少し――いや、かなり必死だ。
「そうかなぁ……」
茶奈は、原作では『生活力が壊滅的』でゲーム廃人だった。
だがこの世界では、超売れっ子声優で、しかもわたしと並ぶ配信者だ。
「ゲーム配信なら、私も普通にやってるし……」
「でもこれは“普通のゲーム”じゃないんだよ。仮想実体感型。五感全部で体験するやつ」
「それって……ちょっと怖くない?」
あ、ダメだ。今の彼女は安全志向だ。
「……悟兄さんも一緒にやるって言ってたよ」
大嘘である。
「え!? あの悟さんが?」
「うん、ギルドの運営とか興味あるって」
「それなら……ちょっと見てみようかな……」
よし、釣れた。
心の中で土下座しながら、わたしは次のターゲットに移る。
◇
風野龍也――ペロロンチーノ。
彼が一番やっかいだ。
「ゲーム? ああ、知ってる知ってる。でもさ」
通話越しでも分かる、ニヤニヤした声。
エロゲーの影響なのか、中学入学式の時の純粋だった龍也君はもういない。
かわいくないよー。
「それって、君がプレイするんだろ? だったら俺、配信見る側でいいや」
「……は?」
「だってさ、リアルタイムで推しのリアクション見れるんだぜ? 最高じゃん」
くそっ、原作ではエロゲー萌えの変態だったのに、この世界ではガチのわたしの追っかけになっている……!
「一緒にやった方が楽しいでしょ!」
「いやいや、俺は『君が遊んでるのを見る』のが楽しいんだって」
このままだと、ペロロンチーノは『配信視聴者』としてしか存在しなくなる。
それでは、ナザリックの守護者を生み出す狂気の創造性が発揮されない。
「……ユグドラシルって、キャラメイクが超自由なんだけど」
「ほう?」
「羽とか、変な目とか、あり得ない体型とか、全部できる」
「……それ、詳しく」
よし、引っかかった。
「しかも、アバターの見た目でスキルが変わるタイプ」
「マジで?」
「マジで」
好機を逃してなるものかとわたしは畳みかける。
「しかもギルド制で、仲間同士で拠点を作れる。城とか、ダンジョンとか」
「……」
沈黙。
これは、彼の琴線に刺さった沈黙だ。
「で? 君もそのギルドに入るんだよな?」
「うん。わたしは開発元からの配信案件だから、確実にやるよ」
「……一緒のギルド、いける?」
「わかった、いけるよ」
「……」
数秒後。
「……仕方ないな。推しと同じギルドなら入ろうかな」
よし、一人確保。
◇
「うーん、どうしたものかなぁ」
問題は……悟兄さんだ。
わたしはスマホを置いて、天井を見上げた。
原作の彼は、現実に何も持たなかった。
だがこの世界の悟兄さんは、わたしの人生を背負ってしまっている。
――それでも。
「……ごめんね、悟兄さん」
わたしは小さく呟く。
「今回は、あなたを『現実』から引き剥がす」
そうしなければ、モモンガは生まれない。
そして、ナザリックも存在しない。
わたしの知っている未来のすべては、ここから始まるのだから。
配信とかそのあたりはもう少し詳細に書くつもりでした。
でもどうも書いてて反応が今一つなので、一気にユグドラシルサービス開始直前まで時間を飛ばして原作キャラともっと絡ませる方向に修正します。
読者皆様のアリサの相手候補の意向確認
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モモンガ
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ペロロンチーノ
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ジルクニフ
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ガゼフ
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ラナー
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クレマンティーヌ
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イビルアイ
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ラキュース