TS娘が百合の間に挟まれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)   作:孔子

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人との話し方?ああ、あいつはいいヤツだったよ。ほんと惜しいヤツを亡くした。今更また会いたいだなんてムリな話だ。

 

 今私はずっと憧れていた芦ケ谷高校の校門の前で、ある一つの絶望的な可能性について思い至り、恐れ慄いていた。

 

 即ち、"あれ? 今まで当然のように主人公たちと同じ学年であると勝手に思い込んでいたけど、本当に同い年? "ということだ。

 

 最悪、"今はまだ原作開始20年前で主人公たちはまだ産まれていません。"なんてこともあるかもしれないんだ。

 

 そんなことを考えながら、校門で絶望に打ちひしがれていると……

 

「あの、大丈夫?」

 

 突然耳が溶け落ちるようなゆるふわとろとろボイスが、聞こえてきて飛び上がってしまった。

 

 すぐさま声の聞こえた方に振り返ると……

 

「あっ、ごめんね。驚かせちゃった? なんだか顔色が悪そうだったから、大丈夫かなぁって思って、声掛けちゃったの。」

 

 天使がいた。

 

 女神だなんだと色々言ってきたが、まさしくそう形容するのがぴったりの天使の化身みたいな人がいた。

 

 私がその世界に転生してきて一番会いたかった人の1人、後の女神たちの共演ことクインテットのメンバーの1柱で、方々から大天使の呼び声高い、瀬名(せな)紫陽花(あじさい)神その人であった。

 

 あまりの神々しさに思わず膝をついて祈りを捧げる。なぜか涙が止まらない。

 

「えっ!? あ、あれ? うそっ……大丈夫? どうしたの……? な、泣いてる……?」

 

 あぁ! なんと言うことだ。私のせいで天使が慌てている! 

 何をしている!! 今すぐ泣きやめ!! すぐ泣きやめ!! そして姿勢を正せ!! 気合だ!! 根性だ!! 

 

 まるで映画の逆再生のように、涙を引っ込めて姿勢を正す。

 

「あれ? え、えぇ〜……」

 

 目の前で起きた突然の出来事に天使が戸惑っているようだが、私は大丈夫と言葉を返(・)そ(・)う(・)と(・)し(・)た(・)。

 

 あれ? 人との会話ってどうやってやるんだっけ? 

 

 15年間家族(母のみ)以外と話したことが無かった弊害で、普通の会話の仕方というものを忘れてしまった。

 

 と、とにかくッ! な、何か返さないと……ああッ、ダメだっ! き、緊張してきたッ! 

 

「だいじょうぶですすみませんごめんなさいありがとうございましたぁああああ────!!!!」

 

 一呼吸でそれだけ言い切り、全速力で校舎へ逃げてしまった。

 

 推しに会えて話が出来た(出来てない)のは嬉しいけど、こんな突然だと正しい対応なんてムリィい〜〜〜!!! 

 

 

 

 

 

 ──────────ー

 

 

 

 

 

 ひとまず教室の自分の席に避難し、考えをまとめることにした。

 

 あ、因みに組はA組で、席は最後列の一番左窓際の席……の隣だ。……つまりッ! 甘織(あまおり)れな子神の隣で、先程出会って話をした(してません)大天使瀬名(せな)紫陽花(あじさい)神が左前にいるってことだ! 

 なんて最高の席を組も一緒だったし神様ありがとう……

 

 そんなことより! 脳内緊急会議だッ!! 

 

 15年間家族(ほぼ母のみ。妹とは昨日初めて話した。父とは何だかんだまだ一言も話していない。のになぜ家族と話したと言い張るのか……)以外とまともに会話してこなかった弊害で、人との話し方を忘却の彼方へと送ってしまった件についてだ。

 

 このままでは日常会話すら成り立たず、先程のようにクインテットの皆様方にも迷惑を掛けてしまうかもしれない。

 

 あれっ? でもいっか。

 

 先程の一件でいくら大天使ミカエルの生まれ変わりと名高い紫陽花様もドン引きして話しかけてこないだろうし(号泣)。

 

 そもそも元々、女神の皆様方を遠く(50万kmぐらい)から見守れるだけでこの上ない幸せなんだから、むしろ、私が挟まるせいで原作で見られた尊いポイント(貯まるとどんな状態からでも即座に無条件で幸せになる)が失われることになるかもしれないんだから、これで良かったんだ! 

 

 そろそろ最初のホームルームも始まるみたいだし、最高に幸せな左側の光景でも眺めて心を落ち着かせよう! 

 

「え、何?」

 

 ……は? だれぇ? 

 

 私の愛してやまないわたなれの主人公甘織れな子神は? 大天使紫陽花様もいない……

 

 慌てて教室を見渡すと左列の前の方の席にれな子神がいらっしゃった。右隣の列の前から2番目の席に大天使様が降臨されている。

 

 ……原作で見た時から思った瀬(・)名紫陽花様の後ろの席が甘(・)織れな子神なのか、普通高校の入学時の席は出席番号順、つまり苗字・名前のあ(・)い(・)う(・)え(・)お(・)順(・)で決まっている。

 原作開始時は入学から2ヶ月後、主人公甘織れな子が陽キャ同士の絡みに限界を迎え、屋上に逃げ出すところから始まる。

 

 つ・ま・り、2ヶ月もあれば席(・)替(・)え(・)とかも当然あるよね! だから君は主人公の隣の席ではないし、左前の席に大天使様もいないよ! ドンマイ! 

 

 心の中のイマジナリーフレンドが、励ましてくれた。

 

 あ、れな子神の2つ後ろの席に王(・)塚真唯神が君臨されているし、私のいる列の一番前の席には琴(・)紗月神が佇んでいらっしゃるし、その後ろの席には小(・)柳香穂神が眠っておられるではないか。

 

 わーい、クインテット勢揃いだ。授業中でも全員を常に視界に収められるね! 

 最高の席じゃん……

 

 主人公の甘織れな子神と隣の席になれなかったことと左前の席に大天使様がいないことなんて悲しくなんてない(震)! 全然、これっぽっちも、悲しくなんてない(号泣)! 

 

 別に関係ないが、私はある一つの真理に辿り着くことが出来た。

 

 

 

 神は死んだ!!!

 

 

 

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