早歩きVS全力疾走という不平等極まりない戦いに敗北した俺、そして小柳さんに腕を掴まれ「入学して1ヶ月半誰とも出来なかったアニメトーク、その機会がついに訪れたと思うと感慨深いにゃあ―――時間は1秒たりとも無駄にしないよ!しっかり掴まっててねフーちゃん!!」と勢いよく駆け出した彼女に引っ張られながらファミレスへと向かい始めた。道中も小柳さんの表情はウッキウキとしか表現のしようがないほどで、本当に言葉通り楽しみなのが伝わってくる。羞恥心からか放課後になってすぐに逃げ出してしまった俺だけれど、正直小柳さんがアニメ好きという衝撃の事実を知ってからずっと頭で強く思っていた……俺も彼女と語り合いたい。何故なら抱いていた願望はこちらも一緒なのだ、しかしコミュ障で前世含め女子と趣味について話す事など初めてだから不安も大きいが。
こうして俺と小柳さんはファミレスに到着し、テーブル席に座りタブレットでポテトとドリンクバーを頼んだ。すると彼女はいつもの明るさから一転重々しい雰囲気を漂わせ、両肘をテーブルの上に立て両手を口元で組み息子を初号機に乗せてくるあの人のポーズを取った。俺には分かる―――彼女はこちらを試しているのだ。
ここで何て反応するかで俺のレベルを知りたいのだろう、今でもよくモノマネもされているほどの有名さから別にエヴァを見てなくても知っている人が多いので「あはは、そのポーズアレっしょ?」なんて軽々しい反応をしようものなら不合格に違いない。昼休みに聞いたアニソンの元作品も正直放送中は大して話題になったわけではなく、アニメ好きの間で密かに愛されていた言わば隠れた名作なので小柳さんは割とガチの方なのが分かる。ならば俺も。
「わわ、私を初号機に乗せても意味ないですよ」
「―――ほほう、フーちゃんはどうしてそう考えるのかなあ」
「お、恐らくシンクロの段階で綾波さんみたいに拒絶されてしまうと思うのでパイロットにはなれないからです」
「……シンクロ拒絶の理由は?」
「しょ、初号機のコアの中には主人公シンジさんの母親であるユイさんの魂が入っているからで……あ、ユ、ユイさんと言えばシンエヴァの終盤でシンジさんがネオンジェネシスを行おうとしてガイウスの槍が体に突き刺さろうとした寸前に現れて助ける所で私凄く感動して―――」
前世と違い二度目の人生15年間、趣味に対する熱い想いを抱えたまま誰にも話す事が出来ないでいる。だからかその反動と言わんばかりに内から外へ感情が溢れ出していき、気が付けば俺は数分間に及び息が切れるまでたどたどしくも力の籠った熱弁をし続けていた。
「ハァ……ハァ……」
冷静になった頭に襲い掛かってきたのは深い後悔、皆も一度は経験してるであろうめっちゃ早口で言っちゃうアレを俺はあろう事か陽キャ美少女小柳さんの前でやらかしてしまった。きっと小柳さんに「フーちゃん、何て言うかさ……ウケるね!その必死な感じ(笑)」って言われちゃうんだザコ陰キャオタクでごめんなさい……人生の黒歴史に刻まれ、きっとこの先もフラッシュバックしてはもだえ苦しみ続けるのだと思いながら彼女の反応を恐る恐る伺うと。
「合格―――超合格だよフーちゃん!」
「……え?」
長々と俺の熱弁を聞かされたにも関わらず、小柳さんは不満一つ感じないどころかむしろ共感の嵐だというように何度も頷いていた。そして体を乗り出しこちらに顔を近づけてきて。
「うんうん、よっぽどアニメが好きじゃないと視聴してないであろうあたしのお気に入り作品に反応してたぐらいだもんね。分かってはいたけど想定以上、フーちゃんって今まで本数めっちゃ見てるっしょ?」
そう言われると確かにかなり見ている、まあ過去の名作含めリアタイでも毎1クール10本以上は追ってるかな―――いやそれより!
「こ、小柳さんっ、今の私に……引かなかったんですか」
「え?引く所なんて1ミリもないじゃん、てかむしろ最高だったね」
「さ、最高って、冗談ですよね?」
「ううん、ガチのマジでそう思ってる。だって―――あたしの大好きなものをフーちゃんも同じくらい好きっていうのが分かったんだよ!まあ最初は邪魔しちゃ悪いかなと思って、黙って聞いてたけど途中から参加したくてウズウズしてたね。まだまだ時間もある事だしさ……エヴァはもちろん他のアニメについても色々語り合お?お互いの愛の共有タイムってやつ!」
そう言って太陽のように明るく笑う小柳さん、黒歴史になると確信していたのに否定どころかあろう事か最高とまで肯定されてしまった。まだ思考が追いつかないのだが、それでも自然と返すべき言葉は思いついていて……
「は、話しましょう、沢山、それはもう日が暮れて夜になるまで沢山……!」
「よっしゃー!」
「た、ただフライドポテトとドリンクバーだけじゃあ店員さんの目が怖いので色々注文しないとですねっ」
「いくぞフーちゃん―――金の貯蔵は十分か」
前世を含め女子と趣味の話をするなど小柳さんが初めてで、しかもコミュ力つよつよ陽キャ美少女なのもあって俺が抱いていた不安は杞憂に終わった。もう変な心配は必要なく、この場にいるのはお互いに好きなものが共通している者達というだけ……まだ偽りの仮面を完全に外す事は出来ないが少しでも自分に戻れる。
何だかそれがたまらなく嬉しくて……思わず笑みがこぼれた。
「……今のやっば、破壊力高すぎじゃん」
「えっと、は、破壊力って何の事ですか?」
「―――な、何でもないよ!?」
目の前に座る小柳さんが何かに見惚れるかの如く、ピタッと固まっていたように思えるのは気のせいだろうか。
「ここ、小柳さんと好きなアニメがこれほど一緒などころかお気に入りのキャラやCPまで同じとは思いませんでした、そっ、それに一番驚いたのは―――小柳さんがコスプレイヤーだった事ですね。なぎぽ@JKレイヤーさん……!」
「どやあ……ってしたい所だけど、別にプロってわけじゃないしあくまで個人の趣味程度だから全然自慢出来るものじゃあないにゃあ。いや完成度はともかく大好きって気持ちでは誰にも負ける気ないけどね!」
「い、いや自慢していいと思いますよ、だだ、だってクオリティや原作再現度もしっかり高くて衣装やウィッグに小道具等全て自前で準備してるの凄いです。それに何より―――自分の姿を誰かに見てもらうのって凄く勇気が必要な事じゃないですか」
「……うん、まあそれはそうだね」
「私は絶対やれる気がしません……」
「フーちゃん超可愛いんだから絶対人気出ると思うよ、てかあたしと一緒に撮影会やってみるやろうよ決まりねー!」
「あ、あまりに強引すぎませんか??」
小柳さんは明らかに俺にコスプレさせたがってるように思える、いや絶対無理ですって……とまあそんな感じで彼女との会話は盛り上がり、もはや両者時間の概念を忘れ去るほどで気づけば外が暗くなっていた。15年間溜まりに溜まった欲求、それが口から発するたび解消されていく感覚は言葉じゃ言い表せない。
小柳さんも同様に話している最中ずっと楽しそうなご様子で、俺なんかとのやり取りでそんな風に思ってくれる事が本当に嬉しく思える。でも俺は会話の最中に……彼女がふと悲しげな表情を浮かべながら、ボソッと呟いた一言が印象に残っていた。
「まだ―――あの子は好きなのかな」
恐らく無意識に口から出たものだろうから自分自身でも気づいていないはず、俺にはそこに触れる勇気などもちろん無いし例えあったとしてもやらなかった。何故なら誰かが簡単に踏み込んではいけないものだと思ったからである、きっと小柳さんにとってとても重要な事なのだろう。だから俺に出来るのは彼女のその問題が解決してくれるのを願うだけだ。
「―――ちゃん、おーいフーちゃん」
「あっ、ご、ごめんなさい、ちょっと考え事してて」
「どしたん?話聞こうか?」
「お、お持ち帰り狙いの女子はもうお腹いっぱいです、怖い……」
「いやマジで何があったんだよ」
前世では綺麗なお姉さんに逆ナンからのお持ち帰りコースを夢見ていた俺だが、超美少女に生まれ変わり時々危ない目つきをこちらに向けてくる一部の同年代の女子や年上のお姉さん達によって恐怖を刻まれたしまい、その夢は見事崩れ去ってしまったのである。見知らぬ人からの度を超えた好意って意外と怖いんだよ?現実は残酷だね。
「―――えっへへ、フーちゃんとこうして二人きりで話した事って今まで無かったけど本当に楽しかったな!」
「わ、私も小柳さんと色々語り合えて本当によかったです……」
「まだ終わらせたくないならさ、よければだけど……ウチく「コ、コスプレさせたいだけですよね」ちぇっ、バレたか」
ファミレスの会計を済ませ外に出ると辺りは中から見た通り薄暗く、家が逆方向の為ここで別れる事に。宣言通り日が暮れて夜になるまで続いたが、廊下で襲撃されたときは想像も出来ないほどに充実し楽しい時間を過ごせたと思う……ただ一つだけ。
「コッ、コスプレだけは私やらないですよ!」
マジでこれだけは勘弁してほしいのだ、俺はゴブリンやオーク共に抵抗する女騎士のように小柳さんを力強く見つめると彼女は笑いながら。
「―――いやそれめっちゃ完堕ちフラグじゃん!」
「に、二次元ではそうかもしれませんが現実では違います、わ、私は絶対屈したりしませんから……!」
何か余計にそれっぽくなってるな??
……兎にも角にも、こうして小柳さんとの放課後イベントは無事終了したのだった。
「マイマイと並ぶ芦ヶ谷二大美少女のフーちゃんだよ、ならマイマイみたいにモデルとか何かに活かさなきゃ勿体ないと思うんだよねえ。しかも本人が大のアニメ好きと来たじゃん?ならばコスプレ一択!うんうん、間違いない!絶対いつかコスプレさせてあげるからね―――フーちゃん♡」