限界OL魂の叫びと言わんばかりに陰キャをカミングアウトした甘織さん、その後今までため込んでいたストレスや疲れが一気に押し寄せるように体をフラつかせ倒れかけていたので慌てて俺が肩を貸し彼女を家まで送る事にした。いくら女子同士と言っても自分は甘織さんよりも身長が低く体型も小柄なため、だいぶ苦労したが何とか甘織家前まで無事に辿り着き……普段からは想像も出来ないほど生気が無く、どんよりと俯いてしまっている甘織さんに声をかけると。
「―――あ、あっ甘織の表札ありました、家ってここでいいんですよね……?」
「……はい、ここがわたしド陰キャ女こと甘織れな子の自宅でございます、ごめんね文歌さん、こんな雑魚の為にわざわざ貴重な時間とHP使わせちゃって……」
「とと、友達が倒れそうになってたんですし助けるのは当たり前ですよ、それに……私も同じ陰キャの立場です、だ、だから自分を卑下しないでください」
「あ、あのさ文歌さん?こうやって人を疑うのはよくないって分かってるんだけど、わたしさっきの発言がどうしても信じられなくて……陰キャって本当?」
甘織さんが顔を上げてこちらを見てくる、彼女の瞳には俺という仲間が見つかった事への希望もあるが正直それ以上に猜疑心の方が強く期待して裏切られてしまう恐怖に怯えているように感じた。あんなコミュ障を発揮してるのだから正直内心で陰キャとバレていてもおかしくないと思っていたが、意外と俺は上手く擬態できていたのかもしれな―――いや自惚れすぎだわ。つい最近も急に大声発してやらかしてたじゃん。
……まあその件はとりあえず置いといて、甘織さんに信じてもらうにはどうしたらいいか?普通なら悩む所かもしれないけど伊達に俺は前世と今世で二度陰キャ生活を送っているのだ。方法は簡単で。
「―――ひ、人の視線に対して凄く過敏になってしまって別に相手はこっち何か見てないと分かってるのについ気になってしまいますね」
「!?」
「かっ、過去の出来事なんて振り返る暇もないほど陽キャはイベント豊富で記憶が上書きされていくのに対して、陰キャはそれが無いのでいつまでもフラッシュバックで苦しみ続けてるのです」
「アッ……」
「そ、それに学校の出来事だけでなく外出先でもそうでコンビニはもちろん店員さんと話すだけでしんどいですが極めつけは……」
「き、極めつけは?」
「―――美容院での美容師さんとの会話です、容赦なく学校での事とか聞いてくるのでただ適当な相槌しか打てずいつも内心で早く終ってくれと祈っています」
「これ私の事だ……」
……方法も何もただ正直に自分について話すだけだ、甘織さんに信じてもらう事に成功したはいいが言ってるこっちも精神的ダメージが大きすぎて失うものは多かった。今の以外にも陰キャあるあるなどいくらでもあるけれど、この感じだと全部共感してもらえそうなのが辛さをより加速させる。素直に泣きそう。
こうしてお互いに認識の一致を果たしたにも関わらず、虚無感に襲われその場に立ち尽くす俺と甘織さんの元に現れたのは―――
「お、お姉ちゃん!?えっ、横にいる芸能人みたいに可愛い人誰!?」
「うわビックリした!今日は珍しく部活も友達との約束も無いとかで家にいるんじゃなかったの?」
「いやお姉ちゃんが半泣きで家から出てったのを見て、やっぱりあたしもどこか行きたいなって思ったから軽くコンビニ行ってきただけだし」
「泣いてませんけど!?」
「まあそんな事はどうでもいいとしてさ」
「おい姉を何だと思ってるんだこの妹は!」
どうやら甘織さんの妹さんらしい……姉に似て可愛らしい顔、スタイルも良くすらりとした足とキュッと引き締まった腰回り、そして何よりも雰囲気から伝わってくる圧倒的陽のオーラ。これは俺の予想だが彼女は運動部所属でガチガチの体育会系だろう。
妹さんは甘織さんを軽くあしらい、俺の元へ駆け寄るように近づいてきた。
「あの、お姉ちゃんのお知り合いの方ですか?それかもしくは友達、とか―――いやそれは無いですよね!だってこんなに可愛い人がお姉ちゃんと友達だなんて!」
「あ、甘織さんとはクラスメイトで、それに……大切なお友達ですよ」
「えっホントですか……あのお姉ちゃんが??」
信じられないと言わんばかりに目を大きく開けて唖然とする妹さん、家族から信頼ないのか甘織さん……いや自分も前世で「実はさ……彼女が出来たんだ」って軽い冗談を食卓で言ったら両親からは鼻で笑われ弟からは「エイプリルフールの日付ぐらい覚えとけこの童貞兄が」って罵倒されたから分かるけども。いや冗談ぐらい言ったっていいじゃん!
そんな悲しい記憶を思い出している中、甘織さんは妹さんへマウントを取るようにドヤ顔を浮かべていた。
「ンン?信じられないか我が妹よ、だがこれが現実なのだ」
「……ぐぬぬッ、お姉ちゃんのくせに」
まるで漫才のようなやり取りは姉妹としての2人の仲の良さを感じさせ……今や叶わなくなってしまったが、生まれ変わったら可愛い妹に「お兄ちゃん大好き!」と言ってもらうのが夢の一つであった俺としては例え素直じゃない関係性であれ羨ましく。そして。
「あ、あはははっ……!」
―――微笑ましいものである、だからかつい感情が口に出て笑ってしまった。そんな俺を見た2人はお互い顔を見合わせ。
「ふ、文歌さんの笑顔って初めて見たかも……」
「い、陰キャのお姉ちゃんがいつもあんな眩しい笑顔を受けて耐え切れんの?正直あたしでさえ自信ないんだけど……」
まるでりんごのように顔を真っ赤にしながら、何かをボソボソと語り合っていた。
「お、お邪魔します……!」
「せっかく上がってもらったのに……こんな男子中学生みたいな部屋でごめんね」
「いっ、いえ私はいいと思いますよ、こういう部屋にいると安心感すら覚えるほどです」
「ドン引きされると思ってたのに安心感とか言われちゃった……文歌さん!別に無理して褒めなくていいんだよ!?むしろ正直に言っちゃってくれた方が―――いやそれはやっぱり辛いから何かこうお世辞と本音の中間地点でお願いしていいかな!?」
「そ、それは逆に難しいですね??」
甘織さんを家まで送り終えたので俺は帰ろうとした所、妹さん……自己紹介で名前は遥奈さんと分かった。そして彼女から「友達でしかも話を聞けば助けてくれた恩人でもあるんでしょ、そんな人を何もせずにフツーに返すとかマジであり得ないから。そういう所お姉ちゃんはさ―――文歌先輩!せっかくですしウチでゆっくりしていってください!!」と前半よく聞き取れなかったが、誰かに対して若干ピキってるように見える遥奈さんに押されて家へ上がる事になったのだ。
当然初となる女子部屋に緊張感を抱いていたけれど、甘織さんの部屋は本人も言う通り女子女子しておらずシンプルな部屋で……こう言っては失礼かもしれないが前世が男子な俺にとってかなり落ち着く空間だ。しかしほっとしたのも束の間、俺はとある物が視界に入り―――小柳さんがイヤホンで流した曲を聞いて受けたときのような、そんな全身に電流が走る感覚を味わった。何故かと言うと。
「ああ甘織さんっ、これって……!」
ズラリと並ぶゲームソフト、「趣味はファッションと音楽鑑賞です♡」と自己紹介のときに言ってたが実はゲームだったというわけか。しかも並んでいる半分以上が俺も購入済みという好みの共通っぷり、色々言いたい事があるが何よりも俺が先に食いついたのは今流行りで自分もよくプレイしているFPSゲームだ。
ソフトを手に取り目を輝かせる俺に対し、甘織さんも同様に……いやそれ以上にその大きな瞳をキラキラとさせて今日一番の嬉しそうな顔であった。
「ええ!?文歌さんそのゲームやってるの!?」
「は、はい、大好きなゲームでかなりやり込んでます……!」
「わたしもだよ!いや嬉しいなー、ちょうど昨日も日付回るぐらい深夜まで熱中しててさ。だから今ちょっと眠たいぐらいなんだよね」
「こっ、これってあるあるだと思いますが……深夜までやってると寝落ちしかけて死にそうになる事とかありますよねっ」
「分かる!」
口から言葉が止まらない、楽しい。小柳さんのときもそうだが、好きなものを共有できるというのはこんなに素晴らしい事なんだと忘れかけていた感覚を取り戻し改めて痛感する。そして俺は勢いのままにこの話題を広げ―――
「き、昨日それでミスって死にかけたんですが、間一髪の所で私のフレンドであり尊敬する子アラさんが華麗に助けてくれたんですよ。ホント感謝しかありませんね……!」
「子アラさん……えっ今子アラさんって言った!?」
「いい、言いましたが、もしかして甘織さんも子アラさんの事を知ってるんですか?」
長い沈黙の後、甘織さんはゆっくりと人指し指を動かし自分自身に向けて。
「―――こんにちは、わたしが子アラさんです。そういうあなたはもしや……ふみフミ(ユーザー名)さんですか?」
「……は、はい、私がふみフミです……」
若干英語の教科書みたいなぎこちない会話、まあそれほどまでに俺も甘織さんも驚いているのだ。そしてまた長い沈黙が続いた後、こちらから黙って手を差し出すと向こうも同じように手を出していた。
「文歌さん、いや―――ふみフミさんっ!!」
「子アラさんっ……!!」
「……いや手スベッスベすぎじゃん、全人類滑らかお肌選手権のナンバーワンか……?」
「子、子アラさん?」
「なな、何でもないからね!?」
これぞ魂の握手、陰キャという記号的な共通点だけでなく俺達にはそれを超えた繋がりがあるのだ。甘織さんの頬が赤いのは外側に現れるほどに心が熱く燃え盛っている証拠だろう、嬉しいなあ……この後甘織さんとFPSゲームで盛り上がりまくり午前中にショッピングモールで会ったときのたどたどしさはもはや見る影もなかった。
「―――きょ、今日は本当に楽しかったです」
「うん、わたしもだよ!つい本心をぶちまけちゃったときはマジで人生終了かと思ったけど、まさか文歌さんも同類……しかも趣味まで一緒だなんて驚いちゃった」
「わ、私も色々と驚きだらけで、でも結果的に甘織さんと距離がグンと縮まった気がして凄く嬉しいですよ」
日が暮れて辺りも暗くなったので帰る事に、いくらでもゲームで盛り上がっていたいが仕方ない。だが後で改めて家からふみフミと子アラさんでプレイする、そう約束してるので寂しさは感じないのだ。改めて今日の出来事についてお互い振り返るが、少しでも分かり合えない所があれば距離を置かれてたかもしれない所を……こうして合致する点が多かったから救われた。本当に良かったと感じる。
向こうも同じだったら嬉しい、そんな風に思っていると。
「さっきショッピングモールで男の人にナンパされたときは助けてくれてありがとね、わたし……あのとき本当に頭が真っ白になっちゃったんだ」
「れ、礼を言うような事ではありませんよ、あの状況なら助けるのは当たり前です」
甘織さんは少々気まずそうに目を逸らしながら、まるで俺に己の醜態を晒すような口ぶりで言ってきた。年上の男性に絡まれたら怖いのは当然である、彼女に悪い点など1ミリも無い。ただそれは前提として……明らかに甘織さんの反応は変であった、きっと何か事情を抱えているのは理解できる。
俺の考察を知ってか知らずか、甘織さんは確認するように聞いてくる。
「―――文歌さんはさ、わたしを情けないって思わなかった?」
理由を聞けば答えてくれるかもしれない、だが俺は人の核心に迫る秘密にズケズケと踏み込むような真似はしたくなかった。何故なら人は誰しも秘密を抱えているものなのだ、彼女も、そして自分も。
だからここで言えるのは一つ、俺は甘織さんに近づきその手を優しく握って不安そうにする彼女に大丈夫だと安心させるように優しく見つめ……
「いいえ―――友達を情けないだなんて思うわけないじゃないですか」
「……文歌さん」
伝えるべきことを伝えた。
(他人の目が怖くて、人の誘いを断るのが極端に怖くなって、でも流石にナンパという危機的状況に陥ったときにはこんなわたしでも断ろうと頑張るだろうなーってどこかで思ってた。本当に馬鹿だ、一度失敗して不登校になった身なのに自分の弱点を甘くみるだなんて……頭が真っ白になってもうダメだって思ったそのとき)
「や、やめてください……!!」
(めちゃくちゃ可愛くて自分なんかとは別世界の人間だと思ってた彼女が助けに来てくれて、本当に嬉しかった。でも何よりわたしはこう思ったんだ―――カッコいいって、それだけでも心臓がバクバクしてしょうがなかったのに)
「―――友達を情けないだなんて思う訳ないじゃないですか」
(胸の高鳴りが止まらない、この気持ちってまさか……)
「―――いやいや!絶対、絶対違うからっ!!」
わたしが文歌さんを恋愛対象として好きなわけないじゃん!
れな子クンは素直になりましょうね。