ガチレズ少女は百合ハーレムイレブンを作りたい!   作:イナイレスカウトキャラ振興委員会

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お昼ご飯回。こういう日常編も挟んでいきたいです




第十一話 ガチレズ少女は美味しく食べたい

 

整えられているとは到底言えないジャリのコート。ぎこちなく動く遊具。瑞々しい緑の木々。

いつも見ている光景も、気分が変わると違って見えるものだ。

 

ジャリのコートは私たちの足跡だらけ。錆びた遊具の音は風に揺れる歓声のよう。木々の緑は私たちの勝利を賞賛してくれているようで──

 

と、ここまでくると流石に妄想の類だ。でもそのくらい気分が良い。それもこれも──

 

「というわけで、初勝利を祝して──」

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

勝利という美酒のおかげだろう。

 

 

 

 

朝から予定を合わせていた私たちは、個サル終わりにお弁当を持ち寄ってみんなで提供し合うことを計画していた。「ワチャワチャお昼ご飯会」である。……名前のセンス?私に付けさせたらこんなもんでしょう。

 

趣旨としては、全員が全員に食べさせる用にお昼ご飯を作ってくるというもの。一つのおせちを家族みんなでつつくみたいなのを人数分やるやつである。

こういう時に作ってくるお弁当には非常に個性が出る。その子がどんな女の子なのかを知る手掛かりにもなるので、私としては色んな意味で楽しみだ。あ、ちなみに飲み物はその辺の自販機で買ったジュースである。

 

「それじゃあ……誰から出していく?」

 

わくわくしながら言うと、椎穂ちゃんと智ちゃんはどうぞどうぞと遠慮するので、私とすーちゃんがじゃんけんで決めることになった。

 

「「じゃんけん、ぽん!」」

「あぁ〜!また負けた!」

「刃奈の出す手なんて全部お見通しよ」

 

ちなみに私はすーちゃんにじゃんけんで勝てない。昔は勝てていた気もするが、いつの間にか一切勝てなくなっていた。幼馴染ってすごい。

 

「じゃあ私から出します……」

「刃奈さんのお弁当、楽しみです!

「まあ、あんまり期待しないでね……」

 

うん、まあその……他の女の子たちにすごい期待をかけておいて非常に申し訳ないのだが、私は私のお弁当に一切の自信がない。

 

「えいっ!」と持ってきたお重を開けると、そこは……白と黒のコントラスト、丸と三角の丘陵地帯が広がっていた。

 

「これは……」

「……おにぎり?」

「はいそうです」

 

真ん中を見てもおにぎり。隅を見てもおにぎり。おにぎりおにぎりおにぎりだ。隅から隅までぎっしりおにぎりである。

 

「実は私、料理はからっきしで……」

「そうなんですか!?刃奈さん、大抵のことはさらっとできちゃうって乙女乃先輩が……」

「そうなんだけど、刃奈は料理だけはどうもね。でも、おにぎりだけは美味しいのよ。普通に」

「へへ、恐縮でごぜーます……普通に?」

「普通に」

 

料理は苦手なのだが、なぜだかおにぎりだけは好評(?)だ。その味はすーちゃんが太鼓判を押す……どころか、「二日に1回は食べたいから」という理由で私とのお弁当作り合いっこをしているほど。自分で食べる分にはそんなに特別な味はしないんだけどねぇ。

 

「刃奈のおにぎり、確かにおいしいよねぇ。普通に」

「智ちゃんも食べたことあったっけ……普通に?」

「うん。前にスピカに1つ貰ったの。普通に」

 

あのすーちゃんがよく他人に分け与えたものだ。すーちゃん、なぜか私のおにぎりに対する執着が凄いのに。

 

「というわけで、私はおにぎりオンリーです!具は鮭、梅、昆布、ツナマヨ、あと私の趣味でツナマヨ昆布」

「ツナマヨ昆布!?」

「美味しいのよこれが。それからわかめ混ぜご飯のやつ、しそ混ぜご飯のやつ。椎穂ちゃんと瑞菜ちゃんは初めてだから、オーソドックスな感じで持ってきたよ」

「ツナマヨ昆布以外はね」

「いや美味しいんだって!あ、海苔を巻いてるやつと巻いてないやつがあるけど、パリパリの海苔で食べたい人は別で味海苔も持ってきてるから言ってね!」

「至れり尽くせりですね……」

 

はい私の番これで終わり!だっておにぎりだけだもん!次行こ次!

 

「じゃあ次は私ね。私は……普通におかずの盛り合わせって感じね」

 

そう言ってすーちゃんが出してきたのは、非常に色とりどりの重箱だった。

 

「おお、これは……!」

 

唐揚げにミニハンバーグ、卵焼きにエビフライ。茶色くなってしまいがちなオードブル的盛り合わせだが、プチトマトやレタスが添えられて彩りへの気遣いが感じられる。

まさに、「小中学生の好きなおかずを集めました弁当」だ。

私はその中に、大きな肉団子のようなものが入っているのを見逃さなかった。

 

「わ!もしかして今日スコッチエッグ入れてくれてる!?」

 

スコッチエッグ。発祥を辿ればイギリス出身だが、これは間違いなく美味しい料理の一つだ。茹でた卵を挽肉でまん丸に包み、パン粉をつけて揚げたもの。

ただし、すーちゃんの作るスコッチエッグはうずらの卵で作られており、パン粉は付けられていない。まん丸なハンバーグの中に小さな卵が入っているような感じだ。

 

「ふふ、正解。ちゃんと作ってきてあるわよ。刃奈、これ大好きだもんね」

「やったー!すーちゃん愛してる!」

 

私はすーちゃんの作るこれが大好きだ。優しい味がするし、ゆで卵とハンバーグなんて合わないわけがない。お弁当には入ってる時と入ってない時があるので、入っていた時の喜びは一入(ひとしお)である。

 

「今日は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から、好きなだけ食べてね」

「わーい!」

「……むっ」

 

……ん?なんか椎穂ちゃんの顔がむっとしている。かわいい。あとなんかすーちゃんの言葉に含みがあったような気もする。2人の間で何かあるのだろうか?

 

「じゃあ、次は私が出してもいい?」

 

と、次は智ちゃんが手を挙げた。ぜひお願いします。と言っても、智ちゃんも私と同じで()()()()やつだろう。

 

「私のは……はい。いつも通りだけど」

 

取り出したのは、お重ではなくピクニックバスケット。竹とかでできてて、ハンドバッグみたいに持ち手があるあれだ。

蓋を開けたその中身は……ぎっしり四角が詰まった平原地帯。

 

「……もしかして」

「サンドイッチ……ですか?」

「はい……」

 

照れくさそうと言うか申し訳なさそうな智ちゃんだが、気持ちは非常にわかる。私とほぼ同じ状況だからだ。

智ちゃんのお弁当は、基本的に全部サンドイッチ。サンドイッチをぎっしりと詰め込んだやつである。

だが、これが美味い。

 

「今日のサンドイッチは?」

「えっと……たまごサンドとスクランブルエッグのやつ」

「「いえーい!」」

 

それを聞いて、思わずすーちゃんとハイタッチしてしまった。智ちゃんが作るスクランブルエッグを挟んだホットサンドは絶品だ。

 

「スクランブルエッグをサンドイッチに……なるほど」

「美味しいから椎穂ちゃんたちも食べてみて!」

「は、はい!ぜひ……!」

 

と、そんなこんなで次が最後。椎穂ちゃんと瑞菜ちゃんは一緒に用意してくるということで、2人で一つのお弁当だ。

 

「じゃあ、最後に私たちのね」

「うぅ……緊張する……」

「大丈夫よ。椎穂のご飯は最高なんだから」

 

瑞菜ちゃんがお重を取り出し、中を見せる。中身は──

 

「えっと……凄い色々入ってるね」

「里芋の煮っ転がし、ほうれん草のお浸し、ピーマンの肉詰め、これは野菜の天ぷら?あとは……」

「……あの、この茶色いのは何?」

「ああ、それは土筆(つくし)の佃煮ですね」

「つくし!?つくしってあの土筆?食べれるの!?」

「傘が閉じてるやつだったらね。美味しいわよ」

「あとさ、これお寿司だよね」

「ええ。握り寿司ね、野菜の。あんまり数はないからみんなで分け合って食べてちょうだい」

「すご……」

 

野菜のオンパレードだった。精進料理か何か?なんか予想はできたけど、見事に全員バラバラに分かれたな。

 

「あはは……お姉ちゃん、みんなに美味しく食べてほしいって朝から張り切っちゃって」

「し、椎穂っ!そんなことないわよ、野菜だって美味しく食べられなくちゃ悲しいでしょう?だから私は野菜への礼儀として……!」

「やだ、瑞菜ちゃんかわいすぎ……!?」

「か、からかわないでっ!」

 

瑞菜ちゃん、相変わらず自分が可愛いことを否定しまくっている。そんなに張り切ってくれてたんだ。椎穂ちゃんもだけど瑞菜ちゃんも相当健気だ。というか、口調は違えどこの姉妹よく似てるな?

 

ともあれ、これで全部出揃ったようだ。お腹も空いているし、早くみんなのお弁当を食べてみたい。

 

「じゃかそろそろ、食べましょうか」

「はーい!じゃあせーのっ」

「「「「「いただきます!」」」」」

 

みんなで合掌。ヒャッハーもう我慢できねぇ!ということで、自分用の取り皿にすーちゃんの卵焼きとスコッチエッグ、智ちゃんのサンドイッチ、あと自分のおにぎりを盛る。

まずはサンドイッチから一口。

 

「相変わらず美味しい……」

「ほんとね……」

 

智ちゃんのスクランブルエッグ入りホットサンドは、濃厚な卵の味と混ぜ込まれたバター、そしてケチャップの甘味とチーズの味わいが一体になっており、何度食べても美味しい。ちょっと濃いめの味付けだが、胡椒の香りが食欲を増幅させるので最初に食べるのに向いている。すーちゃんと一緒に感嘆の息を漏らした。

 

「ふふ、ありがと。2人もよかったら食べてね?」

「あ、ありがとうございます!」

「いただくわ」

 

小学生組もホットサンドを一口齧って、その味に感動しているようだ。

 

「こ、これは……とても美味しいです!」

「卵とチーズの味が普段食べてるものと全く違うわね……それに、水っぽくなりがちなスクランブルエッグの焼き具合も上手い。食材、調理技術、どちらもないとこれは失敗してしまいそうね」

「ありがと。うち、牧場だからさ。卵と乳製品の鮮度には自信があるんだ」

 

智ちゃんの言う通り、共ちゃんが作ってくれるサンドイッチの具材は、卵と乳製品に関して非常に高いレベルを誇る。このスクランブルエッグホットサンドで言えば、卵だけでなくチーズからバターに至るまで、超高鮮度なものが使われているのだ。その上、智ちゃんは料理がとても上手い。まずいわけがない組み合わせというわけだ。

 

「ってことはたまごサンドも……!」

「お、気付いた?」

 

無論、たまごサンドの方も絶品だ。卵、マヨネーズともに鮮度が良い。半熟を少し過ぎたくらいまで茹でられたゆで卵は、綺麗に切られて琥珀色の黄身を見せている。その上で細かく刻まれたゆで卵と自家製マヨネーズを混ぜた具材がこれでもかと挟まれており、食べ応えも抜群だ。

 

「……利根川先輩、たまごサンド、きゅうりは入れてないのね」

「え?うん、そうだね。うちではあんまり入れないかな?」

「…………」

 

たまごサンドを食べた瑞菜ちゃんは何かを考え込むように顎に手を置いていたが、やがて「決めたわ!」と立ち上がると、智ちゃんの手を取った。

 

「利根川先輩!私、絶対にこのたまごサンドに釣り合うきゅうりを作り上げてみせるわ!」

「え、ええ……!?」

「だからできたら入れてみて!お願い!」

「あ、うん……」

 

す、すごい熱量だ。瑞菜ちゃん、ほんとに野菜が好きなんだなぁ。

 

「お、お姉ちゃーん?その辺に……」

「はっ……ごめんなさい椎穂、つい興奮して」

 

椎穂ちゃんに宥められて、やっと着席。落ち着いたようでよかった。

そう思いながら、手元のすーちゃん謹製のおかずをパクパク食べていく。何度食べてもすーちゃんのおかずは美味しい。私の好みドンピシャばかりだ。

 

「乙女乃先輩のは……これは美味しいですね」

「家庭的な味付けね。変にアレンジを加えてない分、安定した味だわ。乙女乃先輩はかなり熟練みたいだし、もっと冒険してみても良い気がするけど」

 

いやいや、この普通さがいいんだよすーちゃんのお弁当は。毎日食べても飽きないし、幸せな気持ちになれる。私にとってすーちゃんのお弁当は、日常の象徴だ。

 

「これでいいのよ。あんまり気を(てら)うと、刃奈が……いや、それでも美味しいって言ってくれるけど、結局いつものこういうお弁当の方が刃奈は喜んでくれるからね」

「す、すーちゃん……!」

 

すーちゃんは私の好みに合わせて味を調整してくれていたらしい。苦労をかけていることにちょっと申し訳なくなるが、それよりもすーちゃんがずっと私のことを考えて作ってくれているのがわかってグッと来るものがある。

 

「刃奈の隣に居続けるからには、好みを把握しておくくらい当然だよ。これからも私のご飯、いっぱい食べてね?」

「むぅ……」

 

はぁ……私のことが大好きな幼馴染がいてくれるの幸せすぎる……。

そんなことを思っていると、「刃奈さん!」と椎穂ちゃんの声。

 

「あのっ!私が作ったものもぜひ食べてください!」

「お、うん!食べる食べる!椎穂ちゃんが作ったのどれ?」

「あ、はいっ!野菜のお寿司はお姉ちゃんなので、それ以外は私です!」

 

すごい、この煮物とか天ぷらとか全部椎穂ちゃんが作ったのか。

 

「じゃあお芋から……うん!トロトロなのに食感も残ってて、ちょうど良い煮込み具合!味もいいなぁ、おばあちゃん家のお芋みたい」

「あ、ありがとうございます……で良いんですよね?」

「褒めてるよ!褒めてるから!」

 

そうとしか形容できないほど熟練の腕だったんだから仕方ない。さて、次は……

 

「天ぷら……だけど、これ何の天ぷらなの?」

「はい、これは山菜ですね。緑が見えているのがタラの芽、白いのが若竹です」

「さ、山菜……」

 

野菜はまだわかる。瑞菜ちゃんが作っているやつだろう。しかし、山菜……?山菜は瑞菜ちゃんが育ててるわけじゃないよね?

 

「そうね。山菜の類は椎穂がボランティアで貰ってきたやつよ」

「地域の清掃とかゴミ拾いとか、そういうので関わっている方から色んなものを貰ってしまって……」

 

これはおじいちゃんおばあちゃんに相当可愛がられていると見える。そりゃそうか、こんなにボランティアに精を出す健気な妹系美少女、可愛がらないわけがない。地域のアイドルなんだろう。

 

「私タラの芽って食べたことないんだよね」

「人によって好き嫌いはあるので、無理はしなくても大丈夫ですが……美味しいのでぜひ!」

「うん。じゃあいただきます!」

 

一噛みすると、時間が経って柔らかくなった天ぷらの衣の奥から、独特の味が舌に広がってくる。苦味……でも、甘みのようなものもある。少し感じるえぐみは山菜特有のものだろう。

 

「うーん……私は結構好きかも!食感がいいね!」

「私も。うちでも結構山菜食べるんだよね」

「私はちょっと苦手かな……?その、えぐみがちょっとだけ」

 

私と智ちゃんからは好評。すーちゃんはあんまりらしい。

「山菜は人によりますからね」と椎穂ちゃんは笑う。心の広いことだ。

 

「若竹もおいしいですよ。ぜひどうぞ」

 

促されて、口に入れる。こちらは普段から食べ慣れているタケノコということもあって、普通に……いや、これかなり柔らかい。コリコリとした食感は残りつつ、あの根元近くの歯に感触が残るような硬さは感じない。

そして甘い。これは普段食べているタケノコとは別物だ。

 

「これおいしいね!椎穂ちゃんってばお料理上手ー!」

「えへへ、お世辞でも嬉しいです。……実は私の腕の問題じゃなくて、若いタケノコを使ってるから柔らかいんですよ」

「へ〜。椎穂ちゃんはすごいねぇ」

「そうよ、椎穂は最強ラブリーエンジェルだし、料理も最高なのよ」

 

瑞菜ちゃんからもいつもの修飾語過多で絶賛が飛んでくる。これは確かに、姉妹という贔屓目を抜きにしても美味しい。

 

次いでほうれん草のおひたしもいただいて、これもおいしかった。本当におばあちゃんの家で出てくるみたいな味だ。出汁の味の深みがすごい。

あと土筆の佃煮。これがやたらとご飯が進む味だ。醤油と砂糖、味醂で甘辛く味付けされた山菜らしい食感の土筆は、おにぎりに非常によく合う。

 

……さーて。じゃあまた私はすーちゃんのおかずに戻ろうかな〜

 

「あの、刃奈さん?これまだ食べてないですよね?」

「いやー?全部食べなかったっけ?」

「食べてもらってないですよ、ピーマンの肉詰め!」

 

……ダメか。ダメですか現実逃避作戦。

えー……食べなきゃダメ?

 

「……刃奈さん、もしかして」

「ご明察。この子ピーマン苦手なのよね」

「刃奈ちゃん子供舌だもんねぇ」

 

ぐっ、可愛い後輩に子供みたいなところがバレてしまった。ちょっと恥ずかしい。

 

このピーマン嫌いに関しては、私が子供だからとかではなく、転生前からの好き嫌いだ。パプリカはいける。多分苦いのがダメなんだと思う。

 

「でも仕方ないじゃん。ピーマン苦いし、あの噛んだときに出る汁がじゅわってするのが……」

「えぇ……?美味しいですよ、ピーマン。特にこれは、お姉ちゃんが育てたやつですし。私も腕によりをかけた自信作なのに……」

 

ぐぬっ……椎穂ちゃんに悲しい顔をさせてしまっている。そんな顔は見たくない……いやそれはそれで可愛いから写真とか撮っておいて後で見返したいけど……し、その上瑞菜ちゃんがすごい顔でこっちを見ている。瑞菜ちゃん目怖っ。多分あれは「私の育てた野菜を使ってマイスイートラブリーエンジェル椎穂が作った料理を食べられないだとォ?おぉん?」の顔だ。ダブルで地雷を踏んでいる。

 

……むぅ……た、食べるしかあるまいか……。そう思って箸で1つ摘み上げるが、なかなか口に運ぶ勇気がない。

 

「刃奈、無理はしなくても……」

「……刃奈さん……わかりました。じゃあ、これならどうでしょうか」

 

そう言って、椎穂ちゃんは自分の箸で肉詰めを1つ取り上げ、私に差し出した。

 

「はい、あーん♡おくちあーんですよ、刃奈さん♡」

「ぐはっ!?」

 

な、なんて威力だ椎穂ちゃん。まるで園児を扱うお姉さんのように……!こんなの食べるしかない。あと幼児退行するしかない。

 

「あ、あーん」

「なっ……どんな食べさせ方をしようとしてもピーマンに対して口を開こうとしなかった刃奈が……!?」

 

すーちゃんがなんか言っているが、今は無視。だって私は幼稚園児。椎穂お姉ちゃんにお世話される幼児なのだから。

 

「はい、噛んでくださいね〜」

「あむ……むぐむぐ」

 

とはいえそれは好き嫌いとは別の話。私は口の中を襲うであろうあの苦味の汁を覚悟していた……のだが。

 

「あれ……あんまり苦くない?」

 

思わず幼児退行が剥がれるほどの衝撃。

美味い。私がピーマンに対して凡そ浮かぶはずのない感想が、私の脳を満たす。

 

「美味い……めちゃくちゃおいしい!」

「は、刃奈がピーマンを……ピーマンを食べた……!」

「しかも美味しいって……!」

 

まずもって、ピーマン自体が甘い。さっきから野菜に対して甘い甘い言っているが、本当なのだから仕方ない。良い野菜は甘くなる、ということなのだろうか。

そして、噛んだときに襲ってくるはずの苦味の汁。それが詰められたミンチから溢れる肉汁と混ざり合うと、化学反応を起こして途端に旨みに変わる。ノイズになる青臭さも全く感じない。

 

「当たり前でしょう?私が作ったピーマンなんだから、美味しくないはずないわ」

「それから、普通のハンバーグよりもパン粉と玉ねぎを多めに入れているんです。お肉が減って家計に優しいのはもちろんなんですが……こうすると玉ねぎの旨みも加わって、ジュワッとしてくれるんですよね。家族にも好評ですよ」

「も、もう一個食べてみてもいい?」

「もちろんです!もう一度あーんしましょうか?」

「ぜひ!」

 

すごい、まさかピーマンを食べられる日が来るとは思わなかった。食べられるどころか、美味しいと感じ、さらに年下お姉ちゃんに甘えられる特典付きとは。至福の極みである。

 

「はい、あーん♡……ふふ。刃奈さんったら、なんだか小さい子みたいでかわいいです♡」

「うう、椎穂お姉ちゃんすき……」

「よかった……刃奈がピーマンを……ピーマンを食べられるように……」

「よかったねぇ、よかったねぇ」

 

横ではすーちゃんと智ちゃんが涙を拭っている。……そんなに心配されてたの?あと2人は私の親か何か?ピーマンが食べられない程度で別に前世では困らなかったけどなぁ。

 

「椎穂さん、あとでそのレシピを教えて!」

「いいですよ。ですが、乙女乃先輩のレシピも教えてくださいね?」

「……ふふ。やっぱり仲良くできそうね、私たち」

「はい♡」

 

ガシッと手を取り合う2人。なんかフットボールフロンティア優勝した時の円堂と豪炎寺みたいな団結の仕方をしているが、こんなに美味しいピーマンならいつでもウェルカムである。

 

「……三文芝居は終わった?」

「さんも……相変わらず毒舌だね瑞菜ちゃん」

「ふんっ、椎穂にあーんしてもらうなんて……うらやまけしからうらやましすぎるわ!」

「なんて?」

 

とにかく羨ましいと言いたかったらしい。大概シスコンである。

 

「椎穂にあーんしてもらった記憶を持っているだけでも罪深いわ!今すぐ消しなさい!この野菜寿司を食べて!」

「そんな効果あるのそれ!?怖すぎるわ!」

 

ともあれ、野菜寿司はまだ食べていなかったので味は気になるところである。

一旦、そんな効果はないと信じて食べるしかないだろう。……無いよね?

 

「と、とりあえずこの赤くて綺麗なやつを……これ何?」

「パプリカよ。特に肉厚で美味しいやつを選んでるわ」

 

おお、パプリカってお刺身みたいに切ってシャリの上に乗せるとこんなマグロみたいな見た目になるんだ。一口齧ると、トロッとした食感で歯触りが良い。ついで酢飯の味。後からやってくるパプリカの味がなければ、そのまま普通にお寿司と誤認してしまうところだった。

 

「これ美味しいね……瑞菜ちゃんが握ったの?」

「……まあね。ほ、ほんとに美味しい?お世辞とかじゃなくて?」

「めっちゃ美味しいよ!ね、すーちゃん!」

「うん。茄子は素揚げかしら?隠し包丁も丁寧だし、美味しいよ」

 

感想を伝えると、瑞菜ちゃんはホッと安心したような表情だった。

 

「そ、そう。実は家族以外に食べさせるのは初めてだったけれど……父さんも母さんも椎穂も、いつも「美味しい」しか言わないから、よそ様に出すのは不安だったの。美味しいなら……よかったわ」

 

あらー、顔を赤くしちゃって。かわいいんだからもう。

「かわいい」と言うと怒るので、みんなで温かい目で瑞菜ちゃんを見ていると、「何よその目は!」と怒られてしまった。言っても言わなくても怒られるらしい。

 

「……で、刃奈さんのおにぎりだけど」

 

ここまで誰も言及しないから興味は持たれていないんだろうと思っていた私のおにぎりが、瑞菜ちゃんの話題逸らしに使われて議題に上がる。いや別にいいんだよ私のおにぎりのことなんて。普通だもん。

……あれ、いつの間にかあと数個しか残ってない。

 

「まあ、確かに普通ね。特別に美味しすぎる!とか、そういうのはないわ」

「だよねぇ」

「いや、でもそうじゃなくてね……」

 

言葉を選ぶように瑞菜ちゃんは考え込んでいた。いや、普通であることに考え込む要素なくない?

 

「違うんです刃奈さん。なんというか……普通に美味しすぎる?というか、美味しさが普通すぎる?というか」

「わかるわ椎穂ちゃん。刃奈のおにぎりって、『こういうおにぎりが食べたい』『こんな味がするんだろうな』っていうニーズのど真ん中を撃ち抜いてくるのよね」

「そう!そんな感じです!まさに求めていたおにぎりの味そのものを持ってこられるというか」

「うんうん。食べる前に思い浮かべる味とあまりにも違いが無さすぎてびっくりするよねぇ」

 

なんか私のおにぎりの話で私以外が盛り上がっている。え、なに?どういう状況?

 

「他人が作る料理って、美味しい美味しくないの方向性に関わらず、家庭の味や匂いとかで『想像してたのとちょっと違うな』みたいな細かなストレスが発生することがあるんだよね。刃奈のおにぎりにはそれが一切ないのよ」

「刃奈さんは家庭の香りがしない人……?」

「危なげな表現にするのはやめなさい」

「そういう意味では、刃奈さんのおにぎりは理想の極地ね。想像の範囲を絶対に出ないけれど、想像すれば想像通りのものが出る。これは安心感があるわ。ある種の成功体験ね」

「そうそう。スピカはそれにハマっちゃって、2日に1回は刃奈のおにぎりを食べないと禁断症状が出るようになっちゃったんだよね」

「前から思ってたけど私のおにぎりにそんな中毒作用があるの!?」

「みんなも何回か食べてればわかるわ。あまりにも安心感がありすぎて、逆に他の全てのおにぎり、挙句には白飯にまで違和感を感じるようになってくるから。最近は飲み物みたいに思えるようになってきたの」

「怖い!怖いよ私のおにぎり!カレーが飲み物は聞いたことあるけどおにぎりが飲み物は聞いたことないよ!」

 

どういうことなんだそれは。褒められてないでしょ絶対。いじけちゃうぞ。

 

「いやいや褒めてるよ!刃奈のおにぎりは最高だよ!」

「じゃあ味の感想を聞かせてよ!」

「「「「普通に美味しい」」」」

「普通に……普通にかぁ」

 

その「普通に」、いつか無くしてやるからな……!覚えとけよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、そんなこんなで楽しいお昼ご飯は終わりを告げた。

結構な数あったお重もバスケットも、中身はすっからかん。女子とはいえ育ち盛りのスポーツ少女、食い意地は凄まじい。かくいう私も、転生する前からは考えられないくらいよく食べるようになっていた。

わいわいと話しながら食べたものだから、少し太陽も傾いている。素晴らしいひと時だった。

 

「あー、食べた食べた。全部美味しかった〜」

「いいですね、こういうの。私、いままでやったことなかったです」

「うーん、大満足」

「でも凛々はまだ食べられるにゃ〜」

「マジ?すごいね、あんなに食べたのに」

「いやいや、凛々はおにぎり1つしかありつけにゃかったし」

「はっはっは、そりゃ来るタイミングが遅かったねぇ…………………誰ぇ!?!?

「にゃっはっは!今気付いたんにゃ!?おもしろ〜!」

 

お腹が膨れたことと楽しい時間を過ごしたことで幸福感でいっぱいだったからだろうか。私たちはその人物が自然に輪の中にいることに全く気付かなかった。

緑と白の髪。猫みたいに好奇心旺盛な瞳。私はこの子を知っている。

 

「個サルの……!」

「ぴんぽーん!にゃはは、ずーっとこっち見てたもんねぇ?」

 

猫のような少女は、呆気に取られる私たちを前にしてご機嫌そうに跳ねた後、サッと私に近づいて腕を組んできた。

 

「あなたは……」

「あ、自己紹介まだだっけ?凛々は鈴林凛々(すずばやし・りんりん)。ただのサッカー好きにゃ!」

「……一体、何のご用です?」

 

心なしか椎穂ちゃんの声が張り詰めている。警戒しているのだろうか。誰にでも優しい椎穂ちゃんには不釣り合いな声だ。

そんな様子を察してか、凛々さんは鋭く目を細め、挑発的な笑みを浮かべた。

 

「そんにゃ警戒しにゃいでよー。凛々はキミたちに興味が出たんだにゃー」

「興味?」

「そうそう。……ねぇキミたち──

 

 

 

 

女子サッカーで最強に、なりたくない?」

 

「いや別に……」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

……猫っぽい人が、宇宙猫になっちゃった。

 

 





椎穂ちゃん、ご褒美お預け。
ちゃんとご褒美あげるからね……。

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