ガチレズ少女は百合ハーレムイレブンを作りたい! 作:イナイレスカウトキャラ振興委員会
全体的にシリアス気味。
なので最後におまけを用意してます。
*イナイレアプデのせいで次の投稿が遅れる可能性があります。
「ほらほら、しっかり走りなさいな!」
公園の外周をダマになって走る私たちの後ろで、鬼教官と化した花蓮ちゃん先輩が追い立ててくる。
「ひ〜ん、いつまで走るの花蓮ちゃんせんぱーい?」
「泣き言を言わない!スポーツは結局、一にも二にも体力ですわ!サッカーをやると決めたならしっかり体力はつけますわよ!」
自分にも他人にも厳しい花蓮ちゃん先輩は、教える側に回るとスパルタになる。坐禅をするときもこんな感じだ。
今いるメンバーで体力があるのは、智ちゃんにすーちゃん、続いて瑞菜ちゃん、もみちゃん先輩、私、椎穂ちゃんの順番。トップの智ちゃんはずっとペースを崩さずに走っているが、私や椎穂ちゃんは既にちょっとヘロっている。
「はぁ、はぁ、ぎづい゙……」
「えへ、えへへ……おそろいですね刃奈さん……好き……」
……椎穂ちゃんは余裕があるのか無いのかわからない。ああいや、目がぐるぐるしてるから全然余裕ないわ。余裕ないのに何を宣っているのやら。
「カレンのことですから、あと1周くらいだと思いますよ〜。頑張りましょ〜」
「は、はいぃ〜」
前のもみちゃん先輩がこっそり教えてくれた情報で、椎穂ちゃんは少し気力を取り戻したようだ。しかし、それを咎めるように笛の音が鳴る。
「そこ!私語をしない!もう1周追加が必要かしら!?」
「あら、藪蛇でした〜」
ひーん、泣いちゃう。
ガールズフットボールフロンティアに出ると決めたその日の夜。鈴林凛々さんの言った通り、実際にその大会は少年サッカー協会から発表された。大会の要項も以前聞いていた通り。開催は来年の夏で、司道ちゃんの予想通り。
一応、大会への出場を決めたことと、目標を優勝に設定した(できれば勝ちたいし)ことを凛々──本人に凛々と呼べと言われたので凛々と呼ぶが──に伝えると、大いに喜んで、コーチを務めると言ってくれた。
のだが、なぜか今、今日初めてみんなの前に連れてきた花蓮ちゃん先輩に私たちは扱かれている。
「はい、ランニング終わりですわ。小休憩を取った後、パス練習から始めますわよ」
めちゃくちゃ仕切っている。みんなの前で自己紹介したところによると、どうやら花蓮ちゃん先輩はサッカー経験者なのだとか。何それ知らない、私が連れてきたのに。なんならもみちゃん先輩も経験者だった。それも知らない。
で、コーチを引き受けるとか言っていた当の凛々はベンチでジュースを啜っている。……まって、それ私のじゃない?
「ちょっと凛々!それ刃奈のじゃない!?」
と思っていたら、私より先にすーちゃんの方が指摘してくれた。
「にゃはは〜、硬いこと言わないでほしいにゃ〜。口つけてないし許してにゃ〜」
「くっ……」
まあすーちゃん、いつも私のやつ飲んでるもんね。そう言われると言い返せないよね。
椎穂ちゃんもなんか言いたそうな目で見ているが、息を整えるのに必死で恨みがましい目を向けるばかりだ。
久しぶりのランニングで息の上がった面々の視線をどこ吹く風とばかりに、凛々は口を開く。
「しっかし、こんにゃ所で出会うとは思ってなかったにゃ〜、『仏のカレン』。もう腕は大丈夫なのにゃ?」
「っ、貴女……」
訳知り顔の凛々を、花蓮ちゃん先輩が睨む。なんか睨まれてばっかりだな凛々。
というか、『仏のカレン』?何それかっこいい。
「あれ、知らないにゃ?多聞花蓮はかつて少年サッカーチームで──」
「やめなさい」
遮るように言う花蓮ちゃん先輩の圧に、さしものお調子者も言葉を止める。
「わたくしの事情は、話すべき時にわたくし自身から話しますわ。貴女が首を突っ込むことではなくてよ」
「……はーい。怒られちゃったにゃ」
とは言え、既に凛々の口から出たことについてはみんなの耳に入ってしまっているわけで。興味津々な目で見てくるみんなに対し、花蓮ちゃん先輩はコホンと息を吐いた。
「あー、その、あれですわ。仏のカレン、というのはかつてのわたくしのあだ名のようなものでして……。ですが、わたくし自身はあまり好きなあだ名ではありませんの。仏を名乗れるほど傲慢でもなければ、まだ悟りを開いてもおりませんもの」
「さ、練習を再開いたしましょう」と、これ以上話すことは無いと言わんばかりの様子。まあ、本人が話したくないことに首を突っ込むのも野暮というものだ。練習を再開することにする。
「凛々さん。基礎練習はランニング、パス練習、ドリブル練習、シュート練習くらいでよろしいかしら?」
「いいんじゃにゃい?凛々、基礎練はよくわかんにゃいから」
そんなんでよくコーチになろうとか言い始めたなこの人。そう思いながら見ていると、凛々もこちらに気付いた。
「んん〜?そんなんでよくコーチになるとか言い始めたにゃ〜とか思ってる?」
「うん」
「にゃっはっは!正直でよろしいにゃ!……んじゃ、凛々にしか教えられないことを教えてあげる」
そう言うと、凛々はボールを3つ手に取った。そしてそのまま、3つのボールを別々にリフティングし始める。
「よっ、ほっ、にゃっ」
「すご……」
「んじゃ、みんなまとめてかかってこいにゃ」
「え?」
3つのボールを足で、背中で、頭で、自由自在にリフティングしながら、凛々はそんなことを言った。
「凛々がリフティングしてる3つのボール。そのうちの一つでも取れればキミたちの勝ち。全員いっぺんにかかってきて良いよ?ま、
「……」
面白い。3つのボールを同時にリフティングするだけでも凄いのに、そうしながら私たちの全ての攻撃をかわしてみせるということらしい。そんなに挑発されたら──燃えてくるじゃん。
「誰から行く?」
「全員で行けばよくない?」
「そうしよう。最初から全力だ!」
「いつでも良いよ」と言う凛々に、瑞菜ちゃんが先陣を切る。右足で弾かれたボールを狙って横に蹴りに行くが、すぐに左足でボールの軌道を変えられる。
そこを狙ってすーちゃんが落ちてくる別のボールを取ろうと足を伸ばすが、ジャンプしながらのヒールリフトでこれもかわされた。
椎穂ちゃんが背中側の落ち球を狙うと同時、私が頭上でヘディングされているボールを私もヘディングで対抗して取ろうとする。これは……と思われたが、突然ヘディングされていたボールが頭から背中を滑り落ちて左足の裏へ。そのままヒールで弾かれたボールは椎穂ちゃんが狙っていたボールとぶつかり、二つは別方向に飛んでいく。
凛々は残った一つを高めに蹴り上げて逆立ちになると、カポエイラのような動きで弾かれた二つを両足で巻き込む。まるで旋風陣のようだ。
巻き込まれた2つのボールは上に跳ね上げられ……落ちてきた3つのボールは、凛々の頭の上に正確に縦に連なる。串に刺された団子みたいに綺麗に。
「まだやるかにゃ?」
「いや……これは無理だよ」
片足立ちになって両手を広げながらバランスを取る凛々に、流石に私たちは白旗をあげた。
途端、むふー、とドヤ顔になるのが可愛いような腹が立つような。
「にゃっはっは!凛々の凄さ、わかったかにゃー?」
「……私たち、別に曲芸師になりたいわけじゃないんだけど?」
「んなこと知ってるにゃ。でも、凛々は今日本の女子の中で1番ボールコントロールが上手い自信があるにゃ。
つまり、凛々が教えるのはボールコントロール、そしてテクニックにゃ」
「キミたち全員、凛々レベルになるくらいの勢いで教えるにゃ!」と(あんまりない)胸を張る凛々。態度がおどけているからか、すごい人が目の前にいるという実感はあんまりわかないなぁ。まぁでも求められているレベルのことを考えると、心強いような、逆にプレッシャーなような。
「では、基礎練はわたくしが、個別のテクニックやコントロールは凛々さんが。分担してコーチングしていくことにしますわ」
「よろしくにゃー。あ、でも凛々は別にキミたちのチームでプレイするつもりはにゃいから、メンバーの人数には入れないようにお願いにゃー」
……どうやら、ちゃんと部活みたいになってくるらしい。
私もいつまでもお遊び気分じゃいられないんだろうなぁ。
「この中で必殺技使える人ー?」
花蓮ちゃん先輩のしごきでバテバテな私たちに向けられた凛々からの質問。満身創痍になりながら手を挙げたのは4人だ。
私、すーちゃん、花蓮ちゃん先輩、もみちゃん先輩。
「ふーむ、7人中4人。豊作だにゃー」
「……そういえば司道ちゃんも言ってたけど、女子で必殺技使える人ってそんなに少ないの?」
そう問うと、凛々は深刻そうな顔で頷いた。
「そうにゃ。日本の中学生〜プロまでの統計によると、女子サッカー選手で必殺技を使えるのはたったの5%。しかもその内7割強がプロ選手にゃ」
「じゃあマジで少ないんだ……」
「んにゃ。凛々たちはこれを深刻な問題だと思ってるにゃ」
何がどう深刻なのかはこの後語ってくれるだろうが……凛々「たち」?まるで凛々の他にも何人もいるような言い方だ。
あとこんなパッと統計データ持ってこれるあたり、凛々ってやっぱり只者じゃなさそう。
「男子サッカーに比べて、女子サッカーはあまりにも必殺技が少ないにゃ。それがどういう結果を生むかと言うと……うーん、そうだにゃぁ。じゃあ刃奈!」
「私?」
「刃奈はなんでサッカーやろうと思ったにゃ?」
そう問われれば、回答はたった一つだ。
「必殺技がかっこいいから!」
「…………」
私の回答に、凛々は少しの間ぽかーんと口を開けていたが……突然、声をあげて笑い始めた。
「にゃっはっはっは!!いやー、ここまでベストな答えが返ってくると思ってなかったにゃ!ありがとにゃー」
「え、なに?何なの?」
「まあ刃奈はある意味でベストすぎて極端な例にゃんだけども。サッカーに限らず、子供がスポーツをやりたくなる理由って大抵は『憧れ』からなんだにゃー」
憧れかぁ、なるほど?
「憧れの基準はいくつもあるから絞りきれない時もあるんにゃけど、大きい理由は『かっこいい』ことだと思うにゃん。プロ選手の活躍を見たりとか、派手な技術を見るとかで憧れる。大抵の場合は途中で別の道に進んだりするんにゃけど、スポーツに触れる『きっかけ』が憧れってことにゃね」
「まあそれはわかる気がする」
「でしょ?んで、じゃあサッカーはどうかっていうと、その憧れの極地と言える競技なわけよ。派手でかっこいい必殺技のオンパレードにゃ。これは他のどのスポーツにもないサッカー独自の強みで……だからこそ、サッカーは今日本で、いや世界で最も人気なスポーツとして君臨してるにゃん」
はえー、そうなんだ。というかやっぱりこの世界で1番人気なスポーツってサッカーなんだ。
そりゃそうか。他のスポーツにあんな必殺技とかないし、やるならやっぱり必殺技打ちたいし。サッカーへの憧れは凄そうだなぁ。事実、私もここがイナイレの世界ってわかった途端にやりたくなったわけだし。
「まあもちろん、憧れっていうの複合的な要素で、必殺技だけで作られるものでもないにゃ。選手のプレイや選手自身の魅力も大いに貢献してると思うにゃんよ?ただ……」
「ただ?」
「必殺技の使用率が低い女子サッカーは、一応カリスマ的な選手がいるにも関わらず、男子サッカーと比べて優位な差が出るほど普及率が低いにゃ。だからこそ、少年サッカー協会は男女混合でのフットボールフロンティアの開催に舵を切ったわけだけど……結果的に、やっぱり女子のサッカー普及率に変化はなかった。
凛々は、もっと女の子にサッカーやってほしいと思ってるにゃん。だから深刻だと思ってるってわけ」
凛々が今のサッカーを憂いているのはわかった。だけど、まだ疑問はある。
「なんでそんなに『女子の』サッカー人気を推し進めようとしてるの?」
智ちゃんがそう訊くと、凛々はあっけらかんと笑って言った。
「だって、可愛い女の子達が派手な必殺技ぶっ放してる華やかなサッカー、見てみたくない?」
その一言に……私は思わず、凛々の両手を取った。
「思う!!!」
「だよね!やっぱり刃奈とは分かり合えると思ってたにゃん!」
そりゃそうだ。可愛い女の子がかっこいい必殺技どかーんばこーんしてる派手派手サッカーなんて見たいに決まっている。イケメン女子がかっこいい必殺技を撃つのも良いし、可愛い女の子が可愛い必殺技を撃ってるのも見たい。
「でもそれは女子サッカーが発展しないと叶わないにゃん。せいぜいが男子に混じって1人2人くらいのもの……」
「そんなのあんまりだ!女子11人vs女子11人でキャッキャウフフドッカンドッカンしてるの見たい!!」
「でしょ〜?」
私は凛々と手を取って踊る。「なんか始まった……」と言わんばかりのみんなの視線が突き刺さる。
「だから〜、凛々たちと一緒に日本の女子サッカーを盛り上げるのに協力して欲しいにゃん!」
「その『凛々たち』の『たち』って、誰?」
凛々と私とのダンスがぴたりと止まる。いや、凛々が動きを止めたのだ。まるで石像みたいに。
「……あー、『凛々と』を言い間違えたってことに」
「できないにゃあ。さっきも言ってたし」
「やっぱりぃ〜?そこをなんとかダメにゃ〜?」
「ダメにゃ〜」
「そっかぁ」
問い詰めると、凛々はバツの悪そうな顔で頭をかいた。
「あー、これ本当は言っちゃダメにゃんよ?秘密にしてくれる?」
「……まあしょうがない。秘密にしてあげる」
「あと……笑わないでくれる?」
「笑うような内容なの?」
「とにかく笑わないって約束するにゃん!」
みんなが頷いたのを見て、凛々は重たそうに口を開いた。
「その〜……凛々たちはぁ、少年サッカー協会から『日本の女子サッカーを変える』っていう使命を与えられた……エージェント、にゃんね……」
「エージェント……」
「そ、そうにゃん。エージェントにゃん。なんか文句あるのかにゃ?」
「いや、うん。良いと思うよ?続けて?」
「続けて欲しいならその『あ〜、そういうお年頃もあるよネ!』みたいな生暖かい目をやめるにゃん!」
あ、顔に出てた?だってあまりにも発言が中学2年生なんだもん。
「後ろの奴らもやめるにゃ!」
みんなしてこの顔してたんだ。おもしろ。
「はぁ、はぁ……だから言いたくなかったにゃん……業務上これ以上に適切な呼び方はにゃいのに……」
「でも約束通り笑ってないよ?」
「笑ってなけりゃ良いって問題でもないにゃん!何なのにゃその思春期の息子を見る包容力の高い母親みたいな顔!」
ごめんて。ちゃんと本題を聞こう、ね?みんなもね?その顔一旦やめよっか。
「それで、そのエ ー ジ ェ ン トさんがなんだって?」
「顔引っ掻き回してやろうかにゃ?」
やめて!この国宝級美少女フェイスがボロボロになっちゃうでしょ!
「コホン……凛々たちはさっきも言った通り、日本の女子サッカーを盛り上げる役目を仰せつかってるんだけど」
「あ、ツッコまないんだ」
「もう疲れたにゃん……で、凛々はこうやって他のめぼしいチームとかに声かけてるんにゃけど……こういう活動してるのは凛々だけにゃんだよね」
「どういうこと?他の人たちは?」
「
要は『自分たちがもっともっと強くなってカリスマになれば良い』って考えてるんだにゃー、あの子たちは」
ほほう、それはそれは。つまり今トップレベルに強い人たちが集められ、その人たちはさらに強くなろうとしてると。それはそれで良いんじゃないの?
「別に間違ってはないけど、それだけじゃダメだと凛々は思ってるにゃ。凛々達だけ強くなったって、
言いたいことは私にもわかった。要は、競技として見た時の話だ。
一方が圧倒的に強い、という状況は、選手一人一人の魅力として見れば印象は強いかもしれないが、観客が見る『競技』として見た時、あまりにも面白くない。観客というのは結局、良い勝負が見たいのだ。
「あの子達だけじゃなく、日本全体の女子サッカーのレベルが上がらないと、これからの女子サッカーは廃れるにゃ。だから、こうして色々声かけてるんだにゃ」
「それで、協力しろって?」
「……凛々たちエージェントは、エージェント同士でチームを作ってるにゃ。名前は『十二天星』。キミたちにお願いしたい協力っていうのは……凛々たちのチーム、『十二天星』を、ぶっ倒して欲しいんだ」
さっきまでの惚けた顔はどこへやら、凛々は必死さが滲み出た顔で頭を下げた。……この人は、こんな顔をできるんだ。サッカーのために、私たちに頭を下げてまで。
「そのための特訓は
この人は、サッカーに本気なんだ。本気でサッカーが好きで、本気で未来の女子サッカーのことを憂いている。
だったら私たちも、本音で、本気で答えなきゃ。
「……言いたいことはわかった。でも、やっぱり私にはちょっと話が大きすぎるや。日本の女子サッカーの未来とかどうとかはさ」
「……そっか」
「でもさ」
閉じていた目を開ける。目の前には、私が集めたみんながいる。みんな、別にサッカーが上手いから集めたわけじゃない。私がみんなのことを好きだから、一緒にいるのだ。
このチームの繋がりに利益なんてない。あるのは愛だ。100%愛でできたチームが、1番上に立てるとしたら──もし1番上に立てたとしたら、どれだけ気持ち良いだろう。
「私たちが
凛々、私やりたい。やってみたい。最強を倒して──」
「ダメよ」
天辺に立ってみたい。そう言おうとした私のセリフを遮る声。その声は普段聞く声からはあまりにもかけ離れた必死さと怒り、焦りが滲み出ていて。
それが花蓮ちゃん先輩の声だとわかるのに、私にはしばらく時間が必要だった。
「花蓮ちゃん、先輩……?」
「ダメですわよ、刃奈。大会に出るくらいなら別に良い、大会で当たる程度なら運が悪いと思って諦められると思っていましたわ。だから黙って聞いておりましたが、しかし……
今まで見たことがないほど厳しい顔。坐禅で怒られる時だって、こんな顔をしていたことはなかった。
「鈴林凛々。貴女、大事なところを隠していますわね?」
「…………」
「大事なところ?」
すーちゃんが聞き返すと、花蓮ちゃん先輩の凛々を見る目がさらに鋭くなった。
「いるんでしょう?
「もう1人の……カレン?」
カレン……花蓮ちゃん先輩の名前も『カレン』だが、もう1人のカレン、というのは一体……?
「……それ、言う必要あるかにゃ?無駄に士気を下げるだけだと思うけど」
「あるに決まっているでしょう!?あの子に挑むことの危険性を理解してないわけではありませんわよね!?」
「カレン……少し落ち着きましょう?」
「落ち着いてなんていられませんわ!紅絹乃、今日この子達と一緒に特訓してわかったでしょう!?この子達は楽しくサッカーしたいだけですわ!もちろん戦えば勝ちたいだろうけれど、サッカーを楽しくプレイしたいだけ!普通に戦術を考えて、普通に必殺技を習得して、普通に……仲良くサッカーしていたいだけですのよ」
わからない。花蓮ちゃん先輩が何を言っているのか、何を怒っているのかわからない。
……でも、私たちのために怒ってくれているのは、なんとなくわかった気がする。
思い詰めた表情の花蓮ちゃん先輩は、置いてけぼりの私たちをさらに置いてけぼりにするように、俯かせた顔を上げて凛々を睨みつけた。
「あの子に……『修羅のカレン』に挑ませるのはわたくしが許しませんわ。お引き取り願います」
「…………」
しかし凛々もまた、睨みつける花蓮ちゃん先輩を睨み返す。2人とも、きっとサッカーに対して強い思いがあるんだ。……今の私たちには、まだ2人の中にある思いを全部理解して、答えてあげることはできないのだろう。
「……あんたは、『仏のカレン』はリベンジしたいとは思わないの?あいつに」
「……そんなこと、どうでもいいですわ」
「どうでもいい!?本気で言ってるの!?あの日からカレンがどんな──!」
「しつこいですわね。……今日のところはお引き取りを。刃奈、今日は解散しますわよ」
「花蓮ちゃん先輩……」
困惑したままの私の手を、花蓮ちゃん先輩は優しく握る。大切に、大切に、大事なビードロ細工を扱うように。
「大丈夫。大丈夫よ、刃奈。貴女はわたくしが守りますわ」
「え、あ……」
こんな……こんな優しい花蓮ちゃん先輩の顔、初めて見た。慈しむような、子を思う母のような。真剣で、真摯で、優しくて。全てを任せて甘えたくなってしまう、そんな顔。
「……ちょっと、勝手に決めないで欲しいにゃあ。結局キミらのチームがどうするかは刃奈が決めることでしょう?もちろん、チーム全員の意見をまとめるのでも良いけどさ。刃奈が作ったチームなんだし、新人メンバーのカレンちゃんが決めることではないんじゃにゃいかな?」
「……」
凛々の言葉を聞くと、花蓮ちゃん先輩は私に再度向き直って、口を開いた。
「いいですわね、刃奈?ちゃんとよく考えなさい。この先もただ楽しくサッカーをしていたいのであれば、無茶や無謀は犯すべきではありませんわ」
「無茶でも無謀でもない。刃奈の作るチームならあいつのサッカーだって、楽しいサッカーに変えられる!だから……刃奈にはよく考えて、結論を出して欲しいにゃ」
花蓮ちゃん先輩と凛々。2人の話はやっぱり要領を得なくて、よくわからない。しかしどうやら、私の決断に全てが託されてしまったようだ。
「すーちゃん……」
「はいはい、大丈夫よ刃奈。私も……みんなだって、一緒に悩んであげるから」
「うん……ありがとね」
すーちゃんも、椎穂ちゃんも、瑞菜ちゃんも、智ちゃんも、そしてもみちゃん先輩も。みんなが頷いてくれた。
そのことに安心して、その後で……私はどうやら、不安になっていたらしいことを自覚した。
「花蓮ちゃん先輩。凛々。2人とも本気なことはよくわかった。だから、ちょっと時間をください」
「……」
「私、ちゃんと悩んで結論を出します」
自分の判断がチームの運命を決める。こんな経験は初めてだ。でも……私のチームは愛でできている。このチームだったら、このチームだからこそ、きっとどんな結論を出しても、みんなで乗り越えていけるはすだ。
だから今は悩もう。悩んで悩んで悩み抜いて……出した結論を正解にする。
今の私に必要なのは、きっとその覚悟なのだろう。
〈イチャイチャ成分が足りなかったので番外編〉
朝ごはん
「すーちゃんのグラノーラの方が美味しそう……食べさせて……」
「また意味不明なことを……はい、あーん」
「あーん……」
「刃奈、ほんとに朝弱いわよね……」
「ん……いつものスプーンじゃない……?」
「忘れたの?昨日の夕飯の時にスプーン折れちゃったじゃない。だから1本しかないの。ほら、刃奈が食べないと私が食べられないから早く食べて」
「んー……」
昼ごはん
「すーちゃんの卵焼きうま〜〜〜」
「そう?よかった……あっ!?」
「あ、卵焼き落としちゃったの?これ貰っていい?」
「え、いいわよ落ちたのなんて食べなくても。っていうか普通に食べかけだし」
「いいじゃん、汚れ落とせば食べられるって。うん、うま〜」
練習中
「すーちゃーん、水無くなっちゃったー」
「私のバッグのやつ飲んでいいよ〜」
「飲めるやつある〜?」
「あー……スポドリあると思う」
「んー。……あ、ペットボトルのやつか。まあいいや」
夕ごはん
「すーちゃん、シチューいい感じだったから盛り付けた〜」
「……刃奈、ごめん」
「ん?なに?」
「スプーン買い忘れた」
「マジ?じゃあ今日の夜も……」
「スプーン1つで交代で食べるしかないわね」
就寝前
(すーちゃん、間接キスとか気にしないんだろうなぁ。幼馴染だから仕方ないのかな……私ばっかり意識してバカみたいじゃん……)
(今日めっちゃ刃奈と間接キスしたなぁ。今日のおかずはこれでいいや)