ガチレズ少女は百合ハーレムイレブンを作りたい!   作:イナイレスカウトキャラ振興委員会

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第五話 ガチレズ少女は──

 

「パスパース!」

「おりゃー」

「ちょ、どこ蹴ってるのよー」

「あ、私取りに行きますねー」

 

いつもの公園に、いつもの倍の人数でサッカーをしに来る。それがなんと喜ばしいことか。

私たちの拠点となりつつある公園はそんなに広くない。街の片隅にある、ちょっと走れるくらいの広さだ。その中に遊具だって置かれているし、サッカーできそうな場所は非常に限られている。

 

それでも嬉しいのは、ボロっちいし片面だけとはいえサッカーゴールが設置されているところだ。ゴールの前でボールを蹴り合って、ゴールに向かってシュートの1本でも打つだけで、途端にサッカーをやっているっぽくなる。

 

「ふぅ、スポーツっていいもんだね。健康的な汗って感じ」

「ですね。あんまりこういうスポーツってやってこなかったんですけど、私、結構好きかもしれないです」

 

正式に加入してくれることになった椎穂ちゃんは、どうやら自分で持ってきたらしいタオルで私の汗を優しく拭いながら首肯した。

 

「……あの」

「椎穂!水分補給もきっちりしなきゃダメよ!野菜も人も、全ては水分からなんだから!」

「うん、ありがとうお姉ちゃん」

 

こちらも正式加入する運びとなった瑞菜ちゃんは、私の汗を拭う椎穂ちゃんの口元にドリンクのストローを差し出している。

 

「あのー?」

「全然超次元じゃないけど、サッカーって楽しいね。みんなでボール蹴ってるだけでもなんか一体感あるし」

「超次元?」

「ああいやなんでも……あ、すーちゃんも汗かいてるよ。拭いてあげるからおいで〜」

「いやあの、何してるの?」

 

1人だけ困惑気味なすーちゃんの汗を、自分のタオルで拭いてあげる。つまり、すーちゃんの汗を拭いている私の汗を拭いている椎穂ちゃんに瑞菜ちゃんがドリンクを飲ませている、という状態だ。

 

「何してるの本当に。なんで一列になってるの?」

「まあまあ、良いじゃない。すーちゃんもスポドリ飲む?」

「……まあ飲むけど……」

 

私のスポドリを渡すと、半分以上残っていたそれをすーちゃんは躊躇いもなくほとんど飲み干した。

 

「う、うわぁーっ!すーちゃん!?そ、そんなに喉乾いてたの!?私の……私のスポドリが……!」

「あ、ごめん。……ってこれ刃奈のじゃない。自分のだと思ったから飲み干したんだけど」

「じゃあすーちゃんのやつ私がもらうね?」

「飲んでいいよ。中身ファ◯タだけど」

「すーちゃん!?私が炭酸ダメなの知ってるよね!?」

「だって刃奈のやつは私が飲んじゃったし……。これを機会に炭酸克服したら?」

 

澄ました顔で言うすーちゃん。ぐぬぬ。どうしても炭酸はダメだ、好きになれない。

おそらく渋い顔になっているだろうことを理解しつつも、私はすーちゃんのバッグから飲みかけのファ◯タを取り出してちょびっとだけ口に入れた。

 

「〜〜〜っ!」

「刃奈さん、炭酸が苦手なんですか?」

「そうなの。刃奈はちっちゃい時からずっと苦手なのよね、炭酸。美味しいのに」

「しゅわしゅわすりゅ……」

 

舌を襲うしゅわしゅわの感触が痛いやらこそばゆいやらでしんどい。「私のを飲みますか?」と椎穂ちゃんが気を遣ってくれるが、後輩からぶんどるわけにもいかないのでありがたく辞退させていただく。

 

「乙女乃先輩のは飲んだのに……」

「まあすーちゃんとはずっとこんな感じだし。今更かなって」

 

何をするにも一緒だったすーちゃんとは、幼い頃からこんな感じだ。今更相手の水筒の水を飲んだところでお互い気にしない。

不満げに頬を膨らませる椎穂ちゃんは非常にかわよいが、ダメなものはダメです。距離の詰め方を間違えるとどんどん間違った方向に行っちゃうからね。

 

「それにしても、これって本当にサッカーの練習になってるの?」

 

いつの間にかできるようになっていたリフティングをしながら、瑞菜ちゃんが尤もな疑問を口に出してくれた。え、上達早すぎない?

 

今私たちがやっていることは、ただボールを蹴っているだけだ。正直なところ練習になっているとは私も思っていない。

 

「でもさ、とりあえずは楽しむところからじゃない?楽しくないと続かないし、みんなでボール蹴って遊ぶの楽しいなーくらいから始めるのでいいと思うんだよね」

「まあ、そもそも私たちの中にサッカーに詳しい人とかいないしね。次に勧誘するなら、サッカーの知識がある人か経験者かな?」

 

すーちゃんはそう言うが、私としてはまだもうちょっとこのぬるま湯に浸かっていてもいい気がしている。確かに超次元な必殺技には憧れるが……今のメンバーで楽しく好きなようにボールを追いかけているだけのこの時間も、きっと貴重な一時なのだろう。

 

「よし、すーちゃん!必殺シュートの練習しよ!」

「ふふっ。そうしよっか」

「椎穂、私たちも挑戦してみましょう!」

「うん、お姉ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、交換?」

「そ。いいでしょ?」

 

翌日の放課後。昨日と同じく集まった4人でサッカーをしようと思っていた矢先、すーちゃんがそんなことを言い始めた。

曰く、「いつも私と刃奈、椎穂さんと瑞菜さんで練習しているから、たまには相手を変えてやってみよう」とのこと。

まあ確かに、必殺技の練習ではそういう分け方をしていたが、あればそもそも私の目標がすーちゃんとの合体シュートだからだ。

 

「うーん……何で急に?」

「このチームももう私たち2人だけじゃないでしょ?メンバーが増えたからには、それぞれで仲を深めるのも大事だと思うの。そこから必殺技のきっかけが見つかるかもしれないし」

 

言っていることは一理ある。同じチームになったとはいえ、まだ私たちはお互いのことをあまりにも知らない。

 

「椎穂ちゃんたちはどう思う?」

「いいと思いますよ!」

「椎穂と一緒じゃないのは寂しいけど、私も賛成だわ」

 

2人もそう言うならいいか。ということで、今日は趣向を変えて2人ずつに分かれて練習することになった。

メンバーは私と瑞菜ちゃん、すーちゃんと椎穂ちゃんである。この分け方はすーちゃんが決めた。

 

「じゃあ、1時間後にまた集まりましょう!」

「「「はーい!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乙女乃スピカは離れたところで練習を始めた幼馴染と瑞菜を見送って、椎穂に向き直った。

 

「じゃあ、私たちも練習しましょうか」

「はい!お願いします、乙女乃先輩!」

 

少し距離をとって、ボールを蹴り合う。椎穂の蹴るボールはスピカの足元に綺麗に収まる速さとコントロールで、相手に対する気遣いを感次ずにはいられない。

 

「……あっ、ごめんなさい!」

「いえ、大丈夫ですよ!」

 

一方のスピカのボールは、どこか集中を欠いていた。ただのパス練習で後輩に気を遣わせてしまう自分に、スピカは頭を振る。

今は集中しないと。自分が提案した練習なのだから、と。

 

「……あの」

 

そんなスピカの様子に気付いたのか、椎穂は駆け寄ってきた。その顔には、心配の色が浮かんでいる。

 

「乙女乃先輩、大丈夫ですか?」

「ええ…………いや、そうね。正直、少しだけ調子が悪いかも」

「えっ!?だったらお休みしましょう!私、刃奈さんに言って──」

「待って!」

 

刃奈のところへ一言伝えに行こうとする椎穂を、スピカは制した。らしからぬ大声が出て、スピカ自身も困惑する。

それでも、その原因が自分の心の中にあるモヤモヤであることは、明らかだった。

 

「待って椎穂さん。……少し、お話しましょ?」

「え……はい」

 

スピカと椎穂は連れ立って、公園内のベンチに腰掛けた。少しばかりの距離感が、スピカの心のもやの厚さを示しているようだった。

 

「あの……お話というのは?」

 

なかなか切り出さないスピカに、椎穂は首を傾げた。椎穂自身、今日の急な提案が自分と話をするためだと言うことを薄々勘付いていた。

 

「……あのさ、椎穂さん」

「はい」

「あの時……刃奈に、キス、したでしょ?」

 

「あの時」という言葉に、椎穂はすぐに思い当たった。姉を連れて再度刃奈たちに会いに行った時、正式に加入が決まった時のことだと。

 

真正面から「キス」と言われて、椎穂の顔がほんのりと赤くなる。

 

「あ……はい。そうです、ね」

「なんで、キスしたの?」

 

ついに訊いてしまった、とスピカは顔を伏せた。所詮小学生がしたことだ。別に深い意図なんてないだろうに、そんなことを気にして、まるで行動を咎めるような真似を。

 

自己嫌悪で顔が歪むのがわかる。顔を伏せていたおかげで、椎穂に見られることはないのは不幸中の幸いだろうか。

 

「なんで……というと、難しいんですけど」

 

椎穂はスピカの様子を気にしながらも、誠実に答えようと言葉を探しているようだった。真面目で誠実な声色が、スピカの心のもやに棘となって刺さるような気がした。

 

「そうですね……私がそうしたかったから、でしょうか」

「……それは、その。椎穂さんは刃奈のことが好き、ってこと?」

 

おずおずとされた質問に、椎穂は再度考え込む。椎穂は賢い娘だ、その相手に対し「どう答えるべきか」を思考することができる。しかし、こと今回の件においては、「正直に、誠実に」答えなければならないと、椎穂の中の何かが告げていた。

 

「……好きか嫌いかで言うと、好き、だと思います。刃奈さんのこと」

「……っ!それは」

「仰りたいことはわかります。『好き』にも種類があって、これはどういう意味の好きなのか……。私も考えたんですけど、私が感じている刃奈さんへのこの思いがどういう種類のものなのか、私自身にもよくわかってないんです」

「……そう」

 

両親や姉に感じているような家族愛、親愛。友達に感じているような友愛。刃奈に対する想いは、椎穂の中の既知のそれらとは違う。わかるのはそれだけだ。

 

「乙女乃先輩は、少女漫画とか読みますか?」

「まあ、うん。そこそこ読むけど」

「よかったです。……私の感じているこの思い、これが少女漫画で見るような恋とか情愛とか、そういう想いなのかは……わからない、です。ただ、決定的だったのは、アレでした」

「アレ?」

「刃奈さんが、私のことを欲しいって言ってくれた時。あの時私は──刃奈さんが私に何かを求めてくれるなら、その全てに応えたいって、そう思ったんです。……これで、答えになりますか?」

「……」

 

それは、スピカから言わせればほとんど答えだった。でも別にそれに答えをくれてやる必要もない。このまま気付かないでいてくれるなら、ライバルが1人減るのだから──

 

「あの……乙女乃先輩は刃奈さんのこと、好きなんですか?」

「──え?」

 

今、私は何を考えた?

『ライバル』?椎穂のことを、自分は『ライバル』だと思ったのか?

それは、まるで自分が刃奈のことを好きであるかのようで。

 

「っ……ごめんなさい」

「あっ……」

 

スピカは、居た堪れないような恐ろしいような、もしくは苦しいような、心臓が締め付けられるような。そんな想いに苛まれて、走り出さずにはいられなかった。

 

『百合ハーレムイレブン作りたいんだよね!』

(関係ない)

 

走る。

 

『私ね、椎穂ちゃんのことどうしても欲しくなっちゃったんだ』

(関係ない)

 

走る。

 

(関係ない、関係ない。刃奈が誰を好きになろうと、誰に好かれようと。知ったこっちゃない。私には関係ない)

 

だって、だとしたら馬鹿みたいじゃないか。今まで刃奈が何人もの女の子を口説くのを見てきた。一番そばで。何人もの女の子に好かれるのを見てきた。一番近くで。

なのに、止めなかった。いつでも止められたのに、自分には関係ないって。

 

だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

もし本当に私がアイツのことを好きなんだとしたら……本当に、馬鹿みたいな話だ。

 

(……でも、だったらこの気持ちは。消えてくれないモヤモヤは、一体何なの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──え、すーちゃん帰っちゃったの?」

「はい。……すみません、私が失礼なことを言ってしまったからかもしれません」

 

沈んだ面持ちの椎穂に、「そんなことないよ」と刃奈は肩を優しく叩いた。どんなことを話したのかは椎穂は語らなかったが、椎穂は相手のことを気遣える性格だ、スピカを怒らせるようなことを言うとは思えなかった。

そもそも、今回のチーム分けはスピカ自身からの提案だった。そのスピカが──いつも面倒見の良い彼女が、後輩を1人放って抜け出してしまうなんて、考えられないことだった。

 

「……わかった。すーちゃんは私が探すよ。今日は解散にしよっか。

ごめんね椎穂ちゃん。せっかく来てくれたのに」

「いえ、私は大丈夫です。……あの、一つ聞いても良いですか?」

「うん?大丈夫だよ」

 

スピカを探しに行こうとする刃奈の裾を、椎穂は掴む。スピカ本人とのやり取りの中で、どうしても聞きたいことがあった。

 

「刃奈さんと乙女乃先輩は長い付き合いなんですよね?」

「そうだね。物心ついた時から一緒にいたし」

「……それで、刃奈さんは女の子が……その、好きなんですよね?」

 

「恋愛的な意味で」と付け加える椎穂に、刃奈は一瞬ギョッとした顔をしたが、頷いた。

 

「そうだね。……気持ち悪くなった?」

「いえ!全然、そういうわけでは!……でも」

「?」

「だとしたら、乙女乃先輩は……刃奈さんにとって、そういう対象じゃないんでしょうか?」

 

椎穂が疑問だったのは、大の女の子好きである刃奈と、椎穂から見ても間違いなく美少女なスピカの関係だった。

以前の様子──例えば飲み物を回し飲みしたり──を見ていて、2人は気を許しているような仲菜乃葉わかっている。そこまで距離が近いのに、2人にはそういう雰囲気がなかった。

 

「…………あー」

 

その時に見せた刃奈の表情は、付き合いの短い椎穂でもわかるくらい、珍しい顔だった。複雑で、寂しそうで、見ないようにしていた心の奥の古傷に触られた時のような……そんな、切ない顔。

 

「あっ……!す、すみません!答えにくいなら、全然!」

「いいよ、大丈夫。……うん、大丈夫。ちゃんと話すから」

「でも……!」

「いいって。……私がこの世界で、最初に失恋した時の話なだけだから」

 

 

 

 

 

 

転生者・片梨刃奈というガチレズ少女が転生してきた時、初めて出会った美少女。それが乙女乃スピカだった。

当然、出会った時はまだ幼児だ。そこまでストライクゾーンが広いわけでもない。それでも、彼女が将来確実に美少女になるであろうことは明らかだった。

 

スピカと一緒にいた日々に、下心がないと言えば嘘だった。ずっと一緒にいることで、理解のされにくい同性愛という垣根を取っ払って、あわよくば自分のことを好きになってほしい。そんな狙いもあった。

 

ある日、刃奈は自分のことを打ち明けた。女の子が好きなこと。いわゆる同性愛者であると。それを聞いても、スピカは優しかった。刃奈のことを知っても拒絶せずいてくれて、そのまま一緒に過ごしてくれた。

嬉しかった。いつかその時が来たら、結果がどうあれスピカに告白しようと、そう思っていた。

 

そんな恋が失恋に変わったのは──何気ないある日のことだった。

 

学校の休み時間。少しばかり刃奈が席を外した間に、スピカは他の友達にあるものを見せられていた。

少女漫画の雑誌だった。スピカは初めて見たそれに、目を輝かせていた。

 

『何を、読んでるの?』

 

嫌な予感がして、震える声でそう訊ねた刃奈に、スピカは頬を上気させ、興奮した様子でその少女漫画雑誌を見せた。

 

『刃奈!見てこれ、この人めっちゃイケメンだよね!主人公の女の子がこの人に迫られててね、それで──』

 

スピカは読んでいた漫画を嬉々として説明していたが、刃奈の耳にはまるで入ってこなかった。入ってきたのは、締めくくりの一言だけ。

 

『はぁ……素敵だなぁ、こんな恋!』

 

愕然とした。それと同時に、どこかに暗鬱とした諦めの気持ちがあった。

前世で自分の性癖に散々苦しめられてきた。周りから距離を取られた。同性の友達なんてできなかった。

きっと、わかってくれる人と出会えなかっただけだ。自分だけじゃない。そう自分を慰めようとしたが、それはただの空元気だった。だって、実際に自分を理解してくれる人は最後の最後まで現れなかったのだから。

 

だから、きっと高望みだったのだろう。自分が同性愛者であることを理解して、それでも一緒にいてくれた。それだけで万々歳。私のことを愛してほしいだなんて──分不相応の願いだったのだ、と。

 

 

それでも結局、刃奈はスピカのそばにいることを選択した。幼い頃の約束……『ずっと一緒にいる』という約束。あんなもの、きっと言い訳なのだろう。まだ乙女乃スピカという少女を諦めきれない自分の、最後の抵抗。失恋した相手となんて一緒に居続けるだけでつらいはずなのに、それでも一緒に居たかった。……好きだった。

 

後からわかったことだが、このイナイレ世界は前世の世界よりも同性愛に比較的寛容だった。ただ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それだけ。この世界にだって普通に異性愛者はいるし、それが大多数なのだから、スピカがその一人だったという、ただそれだけのこと。

 

……この世界について、何もかも知るのが遅かった。イナイレ世界であることがもっと早くわかっていれば、幼い頃からサッカーをする選択肢があったかもしれない。同性愛に寛容であることがもっと早くわかっていれば、スピカのことでここまで大きな傷を心に負わなかったかもしれない。

 

それでも、現実は遅かったのだ。もう片梨刃奈という少女は、自分のことを受け入れてくれた乙女乃スピカという少女に、心を奪われてしまっていた。

 

 

それからは、女の子に近付きまくった。隣にいるスピカに見せつけるように、当てつけのように。自分のことながら酷い人間だと思う。それでも、スピカは「サイテー」と言いながら、刃奈の行いを止めるようなことはなかった。それが悔しくて、また女の子に声をかけた。

 

ずっとそばにいるのだって、もしかしたらスピカが男を作らないか無意識に監視しようとしているのかもしれない。自分のことを疑い始めたらキリがなかった。

でも、それもいつか限界が来て。きっとスピカにはスピカに相応しい人が現れて、そして幸せになるんだろうと。その時になったら──親友の幸せを、妨害するようなことはあってはならないのだと、そう思っている。

 

スピカにはスピカの幸せがある。諦めきれない気持ちは、押し殺さなければならない。自分を理解してくれた一番の親友には……ちゃんと、幸せになってほしい。自分の身勝手な思いのせいで人生を狂わされてほしくない。

 

「……だからね、すーちゃんはダメなんだよ。私がどれだけすーちゃんのこと好きでも、ダメ。大切だから。大好きだから。だから──」

 

「──バカじゃないの?あなた」

 

刃奈の話を最後まで聞いて、それらを全てバッサリ切り捨てたのは──これまで静かに話を聞いていた、瑞菜だった。

 

「な──」

「バカね。大バカよ。ばーかばーか」

「ちょ、お姉ちゃん!」

 

椎穂が止めようとするが、瑞菜の口は止まらない。自分の思いを否定された刃奈は、眉を顰めて聞き返す。

 

「……なにが、バカだと思ったの?」

「だってそうじゃない。あなた、()()()()()()()()()()()()って泣き言言ってるんでしょう?」

「──ッ!」

「あわ、あわわ……」

 

刃奈の顔が険しくなる。怒り、という感情を刃奈が見せたのは、椎穂の目から見て初めてだった。

 

「だから、私が告白すること自体がすーちゃんの人生を狂わせるんだって」

「そんなのやってみないとわからないじゃない。というか、さっきの話を聞く限り、そもそもあなたが椎穂に声をかけたのは()()()()()()()()()が欲しかったからなんでしょ?」

「っ!?そんなこと!」

「お姉ちゃん!それ以上は……!」

 

そんなことはない、と否定したかった。いや、できたはずだ。椎穂には椎穂の魅力があって、スピカにはスピカの魅力があって。椎穂のことを欲しいと言ったのは、決して幼馴染の代替品が欲しかったからと言うわけではない。

でも……例え今それを否定したとしても、今の状況では口先だけでしかない。そのことも同時に理解していた。

 

「わかった?今の話を私たちにした、その時点であなたにとって椎穂は乙女乃先輩の代替品でしかないんじゃないかって疑惑が出てくる。あなたが()()()()()()()()()()()()()()()()()は、ね」

「……」

 

否定の言葉は、思い浮かばなかった。

その様子を見て、瑞菜は「ふぅ」と一つ息を吐いた。

 

「諦めきれないんでしょう?今でも好きなんでしょう?だったら『自分が他の誰よりも幸せにする』くらいのこと、伝えてきなさいよ」

「……瑞菜、ちゃん」

「きっちり決着つけてきなさい。その結果が成就でも、玉砕でもね。その後で、まだ椎穂のことを欲しいと心からほざけるなら……その時こそ、ちゃんと仲間になれるはずよ」

 

それはきっと、執行猶予だった。彼女の愛する妹を代替品として扱ったという罪状を、そうではないのだと証明する。そのために、スピカとの関係に決着をつけろ、と。

 

「……お姉ちゃんの言う通りです。行ってあげてください、刃奈さん。私、刃奈さんのこと信じてますから」

「椎穂ちゃん……」

「ふふ……行ってらっしゃいのちゅーは、要りますか?」

 

いたずらっぽく訊く椎穂に、刃奈は笑って、首を横に振った。

 

「ありがと。普段だったらもらうんだけど……今は、いいかな」

「……はい。じゃあ、いってらっしゃい」

 

走っていく刃奈を、椎穂は笑顔で見送った。やがて刃奈が見えなくなった後、椎穂は自分の足元に、一粒の水滴が落ちるのがわかった。続いて、温かいものが目から頬を伝わって下に落ちていき、やがて目の前が歪んでいく。

 

「……椎穂」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。大丈夫。

……乙女乃先輩。わかりました、私の気持ちの答え。

この涙が──その答えなんですね」

 

私、絶対負けませんから。その呟きは、今にも泣き出しそうな曇天に溶けていった。

 

 

 






あ、椎穂ちゃんたちには転生者云々のところは省いて話してます。

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