ガチレズ少女は百合ハーレムイレブンを作りたい! 作:イナイレスカウトキャラ振興委員会
前回に引き続き劇薬な話。
ちょっとセンシティブな描写があるかも。
家のインターホンが鳴った。刃奈だろうな、と直感的に思った。
それから何となく、今は会いたくないな、とも。
こんなことを思うのは初めてだった。刃奈とはずっと一緒にいた。幼い日の約束をずっと守って、一緒にいてくれた。……いや、刃奈はいつも何かをやらかすからと言い訳をして、自分自身も刃奈といることを選んでいた気がする。
一緒にいればいるだけ、刃奈が女の子を口説く姿を見て心の奥のモヤモヤが増えていくのを感じていたのに。それに蓋をしてまで、私は刃奈のそばにいたのだ。
「スピカー?刃奈ちゃん来てるけど」
「…………」
母の声が聞こえる。やっぱり刃奈だった。どう答えようか迷ったが、そもそも私はあの公園に椎穂さんを置いてきてしまったことを思い出した。
「謝らなきゃ……」
それは、私の気持ちに嘘をついて刃奈と会うことに最適な言い訳だった。
「…………いらっしゃい」
「うん……その、入るね?」
これまで何度も来たことのある、幼馴染の部屋。しかし電気の消えたその部屋は、勝手知ったるそれとは別物のように見えた。
自分を迎え入れてくれたスピカの顔は、今まで見たことがないものだった。能面のようにシンプルなようで、でも無表情というには感情が篭りすぎている気がした。
「…………」
「…………あの」
少し続いた沈黙のあと、口火を切ったのはベッドに座ったスピカだった。
「ごめんね。椎穂ちゃんほったらかして、先に帰っちゃって」
「……ううん。椎穂ちゃん、気にしてないって」
「……そう」
再度の沈黙。スピカの方は、自分が言いたいことは言い終わった、とでも言うように口を閉ざしてしまった。
「……あのさ」
「うん?」
「椎穂ちゃんと、何話したの?」
「…………それ、は」
そう問いかけたものの、椎穂から訊かれた、刃奈とスピカの関係。その質問で、刃奈はなんとなく、椎穂とスピカがどういう話をしたのか察しがついていた。
でも、いやだからこそ──今こそが瑞菜の言う通り、自分とスピカの関係に決着をつける時なのだろうと。
「……なんでもないわよ」
「嘘。だったらそんな顔しないよ」
「なんでもないったら」
「……私とすーちゃんの関係?」
ぴくり、とスピカは肩を震わせた。俯いた顔が強張る。やはり推測通りだったらしい、と刃奈は言葉を続けようとする。
「すーちゃん、あのさ」
「関係ないでしょ」
「──え?」
しかし、そんな刃奈に向けられたのは、明らかに棘を含んだ声色だった。
「刃奈には関係ないでしょ、私と椎穂さんが何話してても」
「……すーちゃ、」
「ごめん、今日はあんまり……話してたく、ないかも」
それは、初めて聞く拒絶の言葉だった。動悸が激しくなる。刃奈の頭の中に、嫌な想像がいくつも過る。同性愛者である刃奈のことが嫌になった?……今更?それともずっとそういう感情を押し込めていた?
いや、と
「聞いて、すーちゃん。私ね、その……」
「……?」
「あの……えっと、ね?」
言わなければならないことがある。それを伝えるだけ。それだけ。なのに、それがなんと恐ろしいことか。
きっと、今から伝える言葉は今までの関係を大きく変えてしまうだろう。ここで伝えずにいれば、きっとスピカがいつか理想の相手と出会うその時までは、一緒にいられる。そして、スピカ自身の幸せを守れるのかもしれない。
(──いや、ダメだ。私はすーちゃんが好きなんだ。諦めきれない。諦めたく、ない)
一つ大きく深呼吸して、刃奈は口を開いた。
「私……すーちゃんのこと、好きなの」
「────は?」
幼馴染が、よくわからないことを言い始めた。
私のことが好き?なんで?今更?今の今まで、そんなこと一言も言わなかったのに?
理解できない。理解したくない。それ以上の言葉を、頭に入れたくない。
「すーちゃん!聞いて、私は──」
「やめて!」
「っ、すーちゃん!」
「なにそれ、私のことからかってる?意味わかんない。私に知られたらまずいことでもしたの?私のこと懐柔しようとしてる?それとも一緒にどこかに謝って欲しいの?別にいいよ、そんなこと言わなくてもそれくらいやってあげる」
「すーちゃん……」
私とあなたの仲じゃない。友達で、幼馴染で、親友で。でもそれ以上の関係には進まない。そんな関係だったはずでしょ?
だから、そんなこと言わないで。緊張して今にも張り裂けてしまいそうな、真面目な顔なんて見たくない。寂しくて切なそうな声なんて聞きたくない。全部、全部本気なんだって、演技じゃないんだって……そんなこと、わかりたくない。
だってそうじゃないと、わからなくなる。今まで刃奈に好きだって言われなかった理由も。私が今まで、刃奈が他の女の子を口説いてる時に止めなかった意味も。
「……やだ」
「えっ?」
「やだ!言うから!私はすーちゃんが好き!大大大好き!!愛してる!!すーちゃんじゃないとダメなの!!」
一番欲しかった言葉だった。きっとそれを受け入れれば、私の心のモヤを全部吹き飛ばしてくれるであろう劇物。
……でも、心がそれを受け入れることを拒絶する。
「……やめてよ」
「やめないもん!……ねぇすーちゃん、急にこんなこと言ったのは謝るよ。でもさ、私すーちゃんが好きなの。嫌いなら嫌いって、フってくれていいから。だから……だから、答えを聞かせてくれない?」
なんでそんな寂しそうな顔をするの?まるで私が断ること前提みたいな、被害者みたいな顔して。私の思いなんて知らないくせに。私がどんな気持ちを押し込めて過ごしてきたかも知らないくせに!
「じゃあ、じゃあなんで!なんで一度も私のこと、好きだって言ってくれなかったの!?私が一番最初に刃奈のこと好きだったのに!!」
「えっ……」
刃奈が目を見開くのがわかった。……ああ、言ってしまった。口に出してしまった。これで、自分の気持ちを受け入れざるを得なくなる。
「刃奈はさ、誰にでも好きだって言うじゃない。可愛い子を見つけたらすぐに声かけるじゃない!私は、刃奈の好みじゃなかったんでしょ!?そう思ったから、だから私は……」
だから、覆い隠してきた。この恋心を誰にも、自分自身にも見られないように。
私はどこまでも、刃奈にとってはただの幼馴染でしかないかもしれないけれど。ただの幼馴染でもいいから、
――ああ。だから私、刃奈が女の子を口説く時も止めなかったんだ。
下手に止めて、拒絶される……だけならまだいい。いや、それもとても嫌なことだけれど。
それだけじゃない。刃奈を止めることで、私の押し殺した思いが漏れ出てしまえば……これまで通りの幼馴染の関係ではいられなくなる。
いつ好きになったのか。なぜ好きになったのか。そんなのわからない。いつの間にかずっと一緒にいるのが当たり前になって、いつの間にかあなたのそばが一番安心するようになった。
今まで殺してきたはずの思いが膨れ上がって、瞼から溢れ出してくる。鼻の先がじんと熱くなって苦しい。
「……散々すーちゃんの前で女の子に声かけてきた私のことなんて、信用できないかもしれないけど。この世界で私が一番最初に好きになったのは……すーちゃんなんだよ」
視界は涙でぐちゃぐちゃになって見えない。けれど、刃奈が私の近くに来てくれたことはわかった。
頬に刃奈の手が触れる。あったかい。このまま、刃奈の手に全てを預けてしまいたい。
でも、まだそれは許されないと私の心の奥底が叫んでいた。
「……じゃあ、教えてよ。なんで私に言ってくれなかったの?好きだって……言ってくれたら、私……」
「…………だって」
絞り出すような声が聞こえた。「だって、だって」と繰り返す声には、涙の色が滲む。
……苦しんでいるのだろうか?あなたを思う私と同じように、私を思って苦しんでくれているんだろうか。
「だって──すーちゃんは男の人が好きなんでしょ!?」
「──────はい?」
思考が、真っ白になった。それまで感じていた苦しさも、悔しさも、怒りも、悲しみも、わずかな期待も。その瞬間、全てが吹き飛んだ。
あまりにも。あまりにも予想外の言葉が出てきてしまった。
「なんて?」
「すーちゃんは男の人が好きなんでしょ!?私じゃ……女の子じゃダメなんでしょ!?」
「…………????」
本当に何を言っているんだろうかこいつは。意味不明すぎて涙がひっこんでしまった。
「あの、なんでそういう結論になったの?」
「だって、だっでぇ……」
涙と鼻水でぐっちゃぐちゃになっている幼馴染に気付いて、ティッシュを差し出す。ちーんと刃奈を噛んだ後も、刃奈はまだえずきながら言葉を続けた。
「……すーちゃん、昔少女漫画読んでたじゃん?」
「うん、まあ今でも読んでるけど」
「……イケメンが好きって言ってたじゃん?私に漫画見せて」
「いや……あー、うん?なんのことだっけ」
必死に記憶を呼び起こす。私の少女漫画歴は割と長いが、刃奈は全くそういうのに興味がないので、少女漫画について刃奈と話した覚えは──
いや、そうか。刃奈がそういうのに興味がないって知った、最初の最初。私が小学校低学年の時、クラスメイトに初めて見せられた時のあれか。
「あー……言ったような、言ってないような」
「言ったもん!!こういう恋が素敵だなーって言ってたもん!!」
顔を真っ赤にして頬を膨らませながら主張する刃奈。かわいい。膨らんだ頬を指で潰すと、ぷすーっと口から空気が漏れた。
「だから、私じゃすーちゃんのこと幸せにしてあげられないんだって……」
「…………」
しょもしょもと落ち込む幼馴染。今すぐ抱きしめてあげたい衝動に駆られながらも、私は幼馴染の言うことも一理ある、と思った。
確かに、私には少女漫画的な恋愛への憧れはある。でも実際に好きになってしまったのは、少女漫画に出てくるイケメンたちとは掠りもしない、目の前のしょもしょも残念幼馴染だ。この差は何だろう。
……いや、深く考える必要はない。そんなもの決まっている。
少女漫画への憧れは、「女の子の夢」としての憧れ。
この幼馴染への恋は、「乙女乃スピカ」としての想い。それだけだ。
どちらかというと、私は少女漫画のシチュエーションとか「素敵な恋」という概念そのものに憧れている気がする。少女漫画のイケメン達はたくさん見てきたが、別にあの人たちの彼女になりたいとか思ったことはないし。
「ぷっ」
……なんだ。こんな簡単なことだったんだ。思わず吹き出してしまった。
私は刃奈のことが好きで、でも刃奈が好きって言ってくれないから隠してた。
刃奈は私のことが好きで、でも私が男が好きだと思っていたから隠してた。
バカみたい。刃奈も、私も。
「ふふっ」
「す、すーちゃん……?」
「ふふふ……ほんと、バカだよね」
いつもよりも小さく見える幼馴染を、ぎゅっと抱きしめる。腕の中があったかい。ずっと、こうしていたい。
「私も好きだよ、刃奈。男とか女とか、そんなの関係ない。刃奈のこと、大好き」
「……うん。うん!」
刃奈の腕が、私の身体を抱きしめた。最初は弱々しく。けど、だんだん強く。最後には、もう離さないと言わんばかりに。
ちょっと苦しい。でも、その苦しさが嬉しかった。さっきまでの苦しさとは全然違う。
「……ああ、でも」
「?」
「私の恋が叶うなら、少女漫画みたいな恋への憧れもこれで終わりかぁ」
それは、少しだけ寂しい気がした。女の子としての憧れは、それはそれでやっぱり私の中の大切な一部分だったのだろう。
「……あ、じゃあこうしよう」
「ほぇ?」
良いことを思いついた。刃奈から離れて、再びベッドの淵に座る。
顔がにやけるのを感じる。この幼馴染は、どう答えてくれるのだろう。
「今まで散々女の子を口説いてきたでしょ?」
「は、はい」
「私のことが一番最初に好きだったのに」
「……はい」
「だからさ……告白、やり直してよ。少女漫画みたいに、今までで一番ロマンチックな告白して?それで、私が刃奈にとって一番なんだって、ちゃんと教えて欲しいなぁ」
今の私は、さぞ愉悦に歪んだ顔をしているだろう。いきなりの無茶振りに困惑している幼馴染に対する愉悦。幼馴染の口から出てくるであろう言葉への愉しみ。……そして、僅かばかりの期待。
何かを期待するように私を見上げてくる刃奈。わかってるよね?私は刃奈の今までの口説き文句を全部見てきてるんだから、生半可な言葉じゃ絶対に納得してあげない。何回でもやり直してもらうから。
そんな意味を込めて視線を返すと、刃奈はやっと覚悟を決めたようで、何度か深呼吸した。
「……すーちゃん」
「はい」
「私、すーちゃんが好き。愛してる」
「……はい」
「たとえすーちゃんが男の方が好きだったとしても……だとしても、絶対私の方がすーちゃんを幸せにする。世界中の誰よりも、絶対に」
「……うん」
「だから……だから、これからもずっと、誰よりも、私の一番近くにいてくれませんか?」
目を閉じる。刃奈から貰った言葉の一つ一つを、噛み締める。あなたの真剣な眼差しを。あなたの緊張した声を。幼い頃から見てきたあなたの……紛れもない、真心を。
「……はぁ」
「……?」
「私、少女漫画みたいなロマンチックなやつって言ったでしょ?全然違うじゃん」
「はえっ」
「もっとさ、こう……世界の全てから守ってやる!とか、俺がずっとそばにいる!とか。あるじゃんもっと」
「ほぇ……」
今にも泣き出しそうな幼馴染。そんな情けない顔を見て、厳しく作った顔が崩れていく。
読み漁った少女漫画には届き得ない。想像していたロマンチックとは程遠い。
──顔が綻ぶ。涙が出てくる。
少女漫画じゃなくても。ロマンチックじゃなくても。
あなたらしいあなたの言葉が、一番嬉しかったから。
「言っとくけど私、嫉妬する方だから」
「……え?」
「他の女の子を口説くなー、とかは今更だから言わないけどさ。たまに二人きりで
「えぇ……」
ドン引き顔の幼馴染。女の子が好きすぎる刃奈が悪いんだからね?
……覚悟しておいてね、刃奈。『ずっと一番そばにいて欲しい』ってあなたに言わせたからには、どんな手を使っても最後に刃奈の隣にいるのは私だから。
「ふふっ……まあでも、すれ違ったのはお互いのせいだからさ。一緒に取り戻したいんだ。今までの時間も、想いも」
「すーちゃん……」
「だから──
こんな私でもよければ、これからたくさん、愛してください」
そう口にした、次の瞬間。
私の身体はベッドに押し倒されていた。
「……ごめん、すーちゃん。歯止め効かない、かも」
事前に一言言ってくれたのは、刃奈の最後の理性だったのだろうか。
私だって、そういう知識がないわけじゃない。自分で言うのも何だが、耳年増な方だ。
ドキドキする。少女漫画にも描かれていないことを、今からされてしまうんだろう。……これが、求められるってことなんだ。
「……♡」
返事をする暇もなく、唇が柔らかい感触に覆われた。
Q.サッカーは?
A.ああ!それってハネクリボー?
次回からちゃんとサッカーやります