ガチレズ少女は百合ハーレムイレブンを作りたい!   作:イナイレスカウトキャラ振興委員会

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お待たせしました!これからちょくちょく投稿の日にちが開くかもです




第九話 ガチレズ少女は負けたくない

 

「というわけで!やってまいりました個サル!」

「おお〜」

 

週末、時刻は午前10時。私たちは朝から時間を合わせて、智ちゃんが探してくれた女子限定個サルに参加することにした。

距離で言えば一駅分くらい足を伸ばすことにはなるが、その程度であれば中学生の体力なら問題ない。駅も近く、通いやすいのは嬉しいポイントだろう。

 

「流石に広いですね……」

「そうだね。まあ比較対象が公園だからあれだけど」

 

今回参加した個サルは屋内コートというやつで、体育館的な施設だ。床はピカピカに磨かれて天井の強い光を反射している。

体育館用のシューズに履き替えて床を触ってみると、結構グリップが強い。普段の環境とはまるで別物だ。

 

「さてと……どのくらい人数いるのかな?」

 

周囲を見渡す。参加者は……私たちの他には10人程度だろうか。私たちと合わせて3チームくらいはできそうな雰囲気。年代は私たちと同じく、小〜中学生くらい。

可愛い子はいるかな……お、あの子かわいい。軍帽?みたいなの被ってて、背は少し小さめ。門脇姉妹と同じ小学生6年生くらいだろうか。吊り目だけどぱっちりした可愛い系の顔だ。肌がかなり白いから、普段はインドア派なんだろうか?ブルベの典型みたいな子だ。

 

あとは……あれ、あの子どうしたんだろう。一人だけ浮いた雰囲気の、緑色に白混じりの髪の子。何故かあの周囲にだけ人が全くいない。個人で参加する子もいるだろうから纏まって行動していない子がいるのはわかるが、それにしたって()()()()()()()ような雰囲気だ。人が寄り付いていない、という表現が正しいだろうか。

 

「刃奈〜?ちょっと他の女の子見過ぎじゃないかな〜?」

「そうですよ!私たちだって、その……さ、作戦とか考えないといけないですし!」

 

と、周りの子を見ていたら後ろから圧が。え〜?すーちゃんったらもっと自分を見て欲しいのかな〜?とか言うとそのまま開き直って襲われかねないので言わない。沈黙は金である。

あと今回はあえて作戦なしで行きます。私たちが今までやってたサッカーモドキと「サッカー」とのすり合わせが大事だからね。

 

「サッカーコートの端っこのほう、練習で使っていいみたいだよ」

 

どうやら智ちゃんが担当の人に話を聞いてくれていたらしい。予定の時間までまだ少しあるので、ありがたく使わせてもらおう。

 

「わっ……この床全然滑らない!かなりシュートの感覚違うかも」

「グリップ力があるってことは足腰に力を入れやすいってことでもあるわ。踏ん張り方によっては今までよりもパワーが出るかもしれないわよ、椎穂」

「そうなのかな……?というか、私フォワードでいいのかな……」

「ここでジャンピングセーブとかして落ちたら痛そうだなぁ……」

 

各々感想があるようだが、私としては結構好きかもしれない。特に、足を動かすたびに「キュッ、キュッ」と音が鳴るのが、なんかスポーツやってる感があって良い。

いや、そんな舐めた理由だけじゃないよ?滑りにくいってことは、慣れれば自分の身体を思い通りに動かしやすいってことでもある。これなら、私の()()も成功率が高くなるかもしれない。

 

兎にも角にも、今はウォームアップが先決だ。

 

「すーちゃーん、パス練しよー」

「はーい。じゃあいくよー」

 

ゆるゆるとパス練習を始める。始めた頃と比べて、すーちゃんのキック力は格段に上がっているのがパスだけでもわかる。シュート練習の成果だろう。

……負けてられない。私も頑張らなきゃ!

 

パス練習しながら周りを見てみると、例の軍帽の子は既にチームを組んでいるのか、5人ほどで纏まって練習しているようだ。

緑と白の髪の子は……やっぱり一人。ぽんぽんと小気味良いリズムでリフティングをしているが……その視線は足元のボールではなく、他の参加者に向けられている気がする。

一瞬私とも目があったが……あ、逸らされた。

 

「刃ぁ〜〜奈ぁ〜〜?どこ見てるのかな〜〜?」

「うわぁすーちゃんっ!?」

 

しまった、周りを見過ぎてパス練習に集中できていなかった。

いつの間にか片腕を()められている。痛いです。

でも極められるついでにすーちゃんのお胸の感触を味わえてもいる。痛みと喜びは引き換えだとでも言うのか。

 

「……すーちゃんちょっと大きくなった?」

「……おかげさまでね」

 

顔を赤らめながらも続けている……どころか、さらに身体を密着させてきたあたり、そっちが本命だったりする?うぅ、いい匂いするしふわふわだし頭がダメになってしまう……!

 

「……で、あの子見てたの?」

「ふへぇ…………あ、うん。あの緑髪の子」

 

一瞬幼馴染に脳がやられかけていたが、その当人に声をかけられて戻ってきた。

すーちゃんもまた、緑髪の子の様子を伺う。

 

「……一人なのかな?」

「そうらしいね。でも、単に一人で来たっていうよりは……」

「……避けられてる?」

「ように見えるなって」

 

ふむ、と考えるような動作のすーちゃん。どんなポーズでも様になるしかわいい。……今日もすーちゃんのお母さんにお泊まりのお願いしてみようかな。

 

「じゃなくて。だから気になったんだよぅ、下心はないよぅ」

「そういうことにしておいてあげる。……さ、そろそろ時間よ。今は私たちのことに集中しないと」

 

確かに、言われてみればそろそろ始まる時間だ。彼女のことは、試合を見ていく中で見極めていこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

個サルの担当のお姉さんに集められ、十数人の少女たちが揃った。この中から5人ずつのチームを3つ作るとのこと。

元々チーム単位で参加していた私たちは5人で固まっている。他のチームはどうやら、軍帽の子が率いる5人組のチームと1人で参加した子達が集まったチームのようだった。

……緑髪の子がいない。と思ったら、コートの端でボールを頭の上に載せたままこちらの様子を伺っているようだ。参加しないのだろうか?というかバランス感覚すご。

 

「では、まず1組目と2組目の試合をしましょうか〜」

 

ゆるふわ系な担当のお姉さんに言われて、前に出る。私たちは1組目だ。相手は……1人参加の子たちが集まったらしいチーム。

初めてのまともなサッカーだ。ドキドキする。でも、ワクワクもする。

 

「「よろしくお願いします」」

 

お互いに礼をし、ジャンケンで先行を決める。今回はこちらのボールからのようだ。

よーし、超次元サッカーの片鱗を見せてもらうぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超次元サッカー。それはイナズマイレブンという作品の中で定義されたサッカーであり、現実からはかけ離れたド派手な必殺技が飛び交う、まさに超次元なサッカーである。

 

では超次元サッカーを超次元たらしめる要素とはなんだろうか。それはもちろん、必殺技であると言って良い。炎が出たり、雷が出たり、急に巨人になったり、翼が生えて空を飛んだり。そういう必殺技が超次元サッカーを超次元サッカーとして成立させているのであり、私がサッカーをやりたいと思った理由でもある。

 

この世界における「普通のサッカー」とは、「超次元サッカー」に他ならない。事実、テレビでサッカーの試合なんかやる日にはいつも必殺技が飛び交っている。

……では翻って、今私たちがやっているサッカーはどうだろうか。

 

「パスパース!」

「えーい!」

「ナイスセーブ!」

 

……必殺技、なし。普通にボールを蹴って、普通にパスして、普通にシュートをする。

派手な炎や雷なんて出ることはなく、宇宙に行ったりもしなければボールが増えることもない。

にも関わらず。

 

(……楽しい。サッカー、こんなに楽しいのか!)

 

味方からパスを受け取った時の、心が通じ合っているような感覚。

行く手を塞ぐ相手を華麗に抜き去った時の快感。

自分がいいところに出したパスで味方がそのままシュートを決めた時の達成感。

 

必殺技なんて使えないし、相手も使ってこない。それでも、みんなでボールを蹴ってみんなで勝利を目指す時、えも言われぬ嬉しさがある。

 

それに、動画で見たテクニックにはヒールリフト以外にもたくさんのものがあった。あんな風にボールを自由に動かせるようになったら、どれだけ楽しいだろうか。

 

「やってみたい」、「試してみたい」がどんどん広がっていく感覚。これに必殺技まで加わったらどうなってしまうんだろう。

 

「「ありがとうございました!」」

 

結局、最初の対戦は負けてしまった。相手の人たちは個サル常連なのか、実戦経験豊富なようで、圧倒されてしまった。

負けてしまったのは悔しい。悔しいが、それ以上に得るものの多い試合だった。

 

「負けちゃったね……もっと私がシュートを取れてれば」

「いえ、利根川先輩はすごく頑張ってました!私もフォワードとして不甲斐ないです……」

「……ディフェンダーとして、抜かれた私の責任もあるわ。もっと上手くなって、椎穂が……いえ、チームが勝てるようにならないと」

「まあまあ、みんな……」

 

みんな、最初の試合でそれぞれ色んなことを考えたみたいだ。そのほとんどは反省だろう。でも、それが普通だ。だって私たちにとっては、これが最初の一歩なんだから。

……それに。

 

「ふふっ」

「……?刃奈さん、ご機嫌そうですね」

「負けておかしくなったのかしら?」

 

瑞菜ちゃんに失礼なことを言われている気がするが、それでも笑みが溢れるのを止められない。

 

「今さ、みんな悔しいよね?」

「……まあ、そうだね」

「はい、悔しいです」

「次は絶対勝ちたいよね?」

「そうね。勝ちたいわ」

「うん、勝ちたい!」

 

みんなの回答にやっぱり、と私は満足する。

ああ、みんなやっぱりそうなんだ。

 

「サッカーって、こんなに私たちの心を一つにしてくれるんだね!」

「あ……」

「負けたら悔しい、勝ったら嬉しい!こんなに近くで、こんなに同じ思いを共有できる……サッカーって、すごい!」

 

これが、イナズマイレブンの主人公・円堂守の気持ちの一端なのだろうか。彼のようなサッカー好きにはきっとまだまだ足元にも及ばないのだろう。それでも、サッカーの魅力というものを確かに感じた気がした。

 

「あと1戦試合は残ってる、次こそ勝てるように頑張ろう!」

「……ふふ。ええ、頑張りましょ!」

「はい!」

 

みんなの顔に笑顔が戻ってくる。

次の試合は軍帽ちゃんのチームとだ。最後まで楽しんでいこう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よろしくお願いします!自分、令鳴司道(れいめい・しどう)と申します!」

「うん、よろしくね!」

 

次戦、軍帽ちゃんのチームとの試合。どうやら軍帽ちゃんがリーダー格のようで、彼女は前に出て元気よく名乗った。若干堅苦しい口調な気もするが、無理している感じでもない。普段からこんな喋り方なのだろう。

直近で見ると、軍帽のせいで風貌が厳つく見えてしまいがちだが、顔立ちはやはりかなりかわいい。顔が小さく目が大きい美少女だ。きゅっと引き締められた口元が小動物感も醸し出している。

……司道ちゃんかぁ。覚えておこう。

 

じゃんけんの結果、今回は相手チームボールから。

司道ちゃんはどうやらフォワードのようで、最初のパスを受けて前線に上がってくる。

 

「いかせない!」

 

司道ちゃんの前に立ち塞がったのはすーちゃん。しかし、司道ちゃんは冷静に味方を探してパスを出した。

 

「上がってください!」

 

司道ちゃんの一声で、キーパーを除く相手チーム全員が前線に上がってくる。

数の暴力に翻弄され、再び司道ちゃんにボールが渡る。

対するは、うちで現在最も頼りになる瑞菜ちゃん。

 

「パスコース塞いで!」

 

瑞菜ちゃんの声に、私たちも動き始める。司道ちゃん以外の選手のそばについて、パスを出されないようにする。こういうのをマークって言うんだっけ?

 

「……あなたは手強そうですね」

「光栄ね。そのままボールを渡してくれると嬉しいのだけど」

 

ジリジリとにじり寄る瑞菜ちゃんに対し、司道ちゃんは足元のボールを巧みに動かして触らせない。千日手だろうか。

 

「……仕方ありません」

 

呟くと、司道ちゃんは突然、親指と人差し指を輪にして口に含んだ。

あれは……まさか!?

 

ピィィィィッと司道ちゃんの指笛がなる。すると、地面からペンギンが……などということはなく。

その指笛を合図に、相手チーム全員が大きく動き始めた。

 

「なっ!?」

「みんな!マーク外さないで!」

 

指笛を吹く前も隙があれば抜け出そうとしていた相手チームだが、今はもう無理矢理にでも隙を作ろうという動きの激しさ。各々がマークを剥がさないように動くので手一杯だ。

……だから、誰も気づけなかった。

 

「そこです」

「……は?」

 

司道ちゃんは、突然誰もいないはずの空間にパスを出す。しかし、そこには確かに人がいた。

 

「まさか……ゴールキーパー!?」

 

見ると、確かに相手のゴールはガラ空きだ。その代わり、虚をつかれた瑞菜ちゃんをワンツーパスで抜き去り、司道ちゃんはゴール前で既にシュートモーションだ。こうなればあとは智ちゃんに任せるしかない。

 

「……っ!」

 

ワンツーパスからダイレクト気味に放たれたシュートに智ちゃんは確かに反応するも、しかしゴールネットの隅に綺麗に吸い込まれるボールを捕まえることはできなかった。

 

「やりました!」

「司道ちゃん、すごい……!」

 

シュートを決めてチームのメンバーたちとハイタッチをする司道ちゃん。吊り目だったのが笑顔になるとへにゃっとした笑顔になってかわいい。

 

「……すごいね、あの子」

「だね。チームをしっかり引っ張ってる」

 

すーちゃんの悔しげだが感心したようなセリフに、智ちゃんが同意した。

司道ちゃん、なんというか人を使うことに慣れている感じだ。事前に合図を決めておいたり動きを想定しておくことで、指示された側も反応が早いし、上がってきた場所も私たちの陣形の穴になるような場所で的確だ。

 

「やっぱり私たちみたいに普段から一緒のチームなのかな?」

「そうなんじゃないかしら?連携もサマになっていたし」

 

2戦目ともあって、割とみんな疲れてきている。それでも、相手のことを褒めながらみんなの目はまだ燃えている。闘志は途切れてないみたいだ。

……勝ちたいな。みんなで一緒に勝ちたい。()()()()というこの感情はきっとみんなと一緒だと思えるのが、今は何よりも嬉しい。

 

そんな中おずおずと1人が手を挙げた。

 

「……あの。作戦が、あるんですけど」

 

遠慮がちな様子で。しかし瞳の闘志は隠せていない椎穂ちゃんからの提案に、私たちは頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆるふわ系担当お姉さんが笛を鳴らし、刃奈からスピカにボールが渡されてゲームが再開する。

しかし、そのボールはすぐに刃奈に返され、さらに上がってきた瑞菜に渡る。直後、スピカは全速力で前線に走り始めた。

 

「……まさか!みなさん、すぐに下がって!」

 

刃奈たちの狙いを察した司道は全員に下がるように声を張る。しかし、その動きを想定していなかった司道たちのチームは動揺が走った。

 

「ど、どうしたの!?ボールが戻ってるんだし、前線で攻め込めば……」

「あの赤い髪のFWです!大きなパスが通ってしまう!」

 

言われた選手が後方を見れば、確かに赤い髪のFW……スピカが1人でゴール前に陣取っている。DFたちよりもさらに後方だ。

 

「……なんだ、DFラインよりもさらに後ろじゃない。あれならオフサイドが……」

「フットサルに、オフサイドのルールはありません……!」

「遅い!」

 

相手選手たちが気付いて動くよりも早く、瑞菜から大きなパスがスピカに出される。

 

「まずい!」

「いや、でも……」

 

しかし、そのパスは誰の目から見ても明らかに()()()()()パスだった。大きなアーチを描くそれは、このままいけば外に出てしまうだろう。明らかなパスミスだ。

 

「やばっ……ごめん乙女乃先輩!」

「……っ!」

 

瑞菜の焦った声が響く。一回きりの作戦だ。これでダメならきっと次からは前に出たスピカ達にマークがついてパスは通りにくくなるだろう。

高すぎる。ジャンプしたって届く気がしない。スピカ本人も諦めかけた、その時。

 

「すーちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

「!?」

 

刃奈の声が、スピカの耳に届いた。

 

「絶対いける!すーちゃんなら決められる!!やっちゃえ、すーちゃん!!!!」

 

その言葉には、何の根拠もなかった。誰もがそんなことできないと理解していた。

──それでも。それでもスピカには、幼馴染が本気で自分のことを信じているのがわかった。

 

仕方ないなぁ、とスピカの顔に笑みが溢れる。ずっとずっと大好きで、もっともっと大好きになった幼馴染が、自分のことを信じてくれている。それだけで、届かないボールに届き得る力が湧き上がってくるようだった。

 

「はぁぁぁぁぁっ──!」

 

大きく飛び上がる。絶対に届かないはずの距離だけれど、幼馴染が信じてくれたなら、自分も自分を信じられる。

足を高く上げる。ほぼI字バランスくらいの上げ方だ。身体が柔らかくてよかった、と場違いな思考が脳を駆ける。

 

「まさか……!」

「……ふふ。見ててね、刃奈」

 

──届いた。スピカの右足は、確かにボールをとらえた。

 

「刃奈が信じてくれた私が、期待に応えるところを!」

 

そのまま、その強烈な脚力がボールを眼下のゴールに向かって()()()()()

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「なっ……!」

 

撃ち下ろしたボールは、目の錯覚か、強烈な光と爆発を伴って──相手のゴールキーパーを、真正面から吹き飛ばした。

 

「や、やった……!」

 

強烈なシュートがゴールネットを揺らすと同時、高く飛び上がったスピカ自身が落下を始める。1回のシュートで力を使い果たしたのか、体勢を整える余裕はない。

──それでも、スピカは満足していた。シュートを決めるというフォワードの役割を果たしたこと。チームにとっての記念すべき1点目を取れたこと。そして、幼馴染の期待に応えられたことに。

 

気持ちよく落下していく。もうすぐ地面に叩きつけられて痛い思いをするだろう。その間くらいは、余韻に浸らせて欲しかった。

 

そして、来るべき痛みに備えていた──のだが、その時は来なかった。

自分の背中が、誰かの腕に支えられるのを感じたからだ。

 

「……刃奈」

「すーちゃん……」

 

落ちてきたスピカを受け止めたのは、刃奈だった。お姫様抱っこの態勢でスピカを抱えた刃奈は、泣きそうな、しかし嬉しそうな顔で、興奮で頬を上気させていた。

 

そして──その興奮のまま、刃奈はスピカの唇を奪った。

 

「!?!?!?」

「すっっごい!すごいよすーちゃん!!最っ高!!大好き!!!」

 

公共の場。衆目の面前。恥ずかしい。でも嬉しい。様々な思いがスピカの脳裏をよぎるが、1番は……安堵。

幼馴染が、喜んでいる。今まで女の子と関わるために、色んなことに手を出してきた刃奈。しかし、何をできるようになっても、誰を口説いても、刃奈の心のどこかには不満足があった気がした。

 

その幼馴染が、こんなに楽しそうにはしゃいでいる。そんな表情を、そんな感情を自分が引き出せたんだ、という実感がスピカを満たしていた。

 

「……でもまだ同点だからさ。あと1点、取らなきゃなんだよね」

 

刃奈に地面に降ろされたスピカは、幼馴染の雰囲気が大きく変わったことに気がついた。

()()()()している。闘志と興奮に満ちていながら、それを来るべき時まで抑え込める冷静さを持ち合わせた表情。

 

(もう──かっこいい顔するなぁ。惚れ直しちゃうじゃない)

 

大好きな幼馴染の、知らない顔。それを見られただけでもサッカーを頑張った甲斐があったと、スピカはサッカーへの感謝を感じた気がした。

 

「それじゃ、作戦通りもう一点取りに行こっか。私もすーちゃんの()()()()()()に負けてらんないからね」

「流星、ブレード……それ、もしかして」

「そう。すーちゃんが出した必殺技だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──へぇ?流星ブレード」

 

その試合を、コートの外から見ていた緑と白の髪の少女。

彼女は意外そうな声を漏らして、手元のスマホで何事かを調べ始めた。

 

「うーん、流星ブレードを使える女子選手……しかも目立つ赤髪。やっぱり初めて見たにゃあ。情報も全然落ちてにゃいし」

 

くつくつと愉快そうに笑うと、少女はその緑の目をギラリと光らせて遠目にスピカを見やった。

まるで獲物を見つけた豹のように──もしくは、遊び相手を見つけた幼子のように。

 

「ニャハハ!これだから発掘作業はやめられないにゃあ!」

 

その声は、歓喜に弾んでいた。

 

 

 






・片梨刃奈
 「超次元サッカー」ではなく「サッカー」の面白さを実感し始めた。感情の共有に飢えていた節があり、みんなと同じ感覚になれるのが嬉しい。

・乙女乃スピカ
 記念すべき今作初の必殺技使用者。流星ブレードは自力習得技(イナイレ3)。属性一致なので非常に強力。
 最近誰かのせいで何かが大きくなったらしい。

・令鳴司道
 イナズマイレブンGOに登場したスカウトキャラ。山属性のFW。
 中学一年生にしてサバゲー同好会の会長で、マナーに厳しい。……中学校でサバゲー同好会?
 今作ではまだ小学6年生。彼女のことについては次話で。
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