デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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前回のアンケート結果

 俺ら物理攻撃寄りだし、ティアマト:0
 いやここはあえて苦難の道、アプスー:0
 両方倒してもーー構わんのだろう?:1

やっぱりか……知ってたぜ……このアーチャーめ……!


終わり方の選択(ボス連戦)

 

 よし、両方とも倒そう。

 

「えっちょっと待ってホントに両方倒す気?」

 

 まさかの提案にさすがのナオミもドン引きである。

 

「ファントムはどちらか片方で構わないって言ったのよ?」

「別に両方倒すなとは言われてないんだろ?」

 

 たぶん、ナオミが依頼受ける際にファントムがわざわざ告げなかっただろう懸念。

 俺はそれを口にする。

 

「それにアプスーとティアマトは、古代メソポタミア文明の夫婦神。

 片方を倒したら……もう片方が怒り狂って襲いかかってくるんじゃないか?」

 

 夫婦神を祀るのは同床共殿が基本ーーって訳でもないが。

 こんなに至近に、しかも左右で対になるように部屋を配し眠っているんだから、片方倒してもう片方に影響がないとはとても思えない。少なくとも伊勢では(以下略)

 でもこの部屋配置、神道的にみると中央の開かない扉奥により上位の主神が祀られてる構造で(以下略)

 奥にもっとやばいものが封じられてるかとも思ったけど、この二神が塞の神にしては距離ありすぎというか随臣的ポジションだし(以下略)

 そもそも地名が二上門だから第三の秘神の存在は別に示唆されちゃねえけども(以下略)

 でも神門ってそもそも神を祀る場ではなくて神域入り口に配される門のことであって(以下略)

 だから多分あの二神すらただの門番で(以下略)

 閑話休題。

 俺の懸念はそれなりにナオミに刺さったらしい。

 顎に手を当て考えている。

 

「私は平気だけどーー貴方達、死なない?」

 

 気にしていたのはそっちか。

 俺は肩をぐるぐると回して健在をアピールした。

 

「後から襲われても厄介だし、のちほど後始末に駆り出されるのも面倒だ。

 危険が予想されるなら事前に排除しておくべきだろう」

「ファントムの仕事だってのに随分と協力的ね……?」

 

 怪しむナオミ。一方、フィネガンに否やはないようだ。

 ナオミの疑念はもっともで、俺の行動にはしっかりと魂胆がある。

 

 ナオミが言っていた「システムの移設先」の「システム」というのは恐らく、マニトゥ・システムのことだろう。

 あれはもともと米北大陸に存在した観測装置ーー異種生命だ。

 恐らく、これを天海市における旧い神の立ち位置たる、御座へ安置したい……というのがファントムの狙いだろう。

 ただ、いきなりよその土地神めいたものを持ち込んでもそれは闘いになるだけである。

 そこで。夫婦神の片割れを始末し、空いた座にマニトゥを紛れ込ませ、対の神として誤認させる形でーーシステム移設という名の神座の乗っ取りを、波風立てず穏当に行いたい。

 恐らくはそれがファントムの狙いであろう、と俺は読んだ。

 

 つまりーー両方ぶっ殺してしまったら。

 そこへヨソからマニトゥを持ってきて鎮座させても、ーーまあ抗戦する神はもう居ないわけだがーー、土地の拒絶反応やら何やら。それなりに波乱が起きるはずなのである。

 少なくとも、大なり小なり、計画に遅れは生じるはずだ。

 

 フィネガンは術士の家系にも見えないし、なまじ戦力が高いだけに壊し屋の仕事ばかりさせられ、こういった地鎮を担当する機会もないだろうから、このあたりの微妙な機微まではわからないだろう。実際、特に反論していない。

 ナオミもーー大陸育ちで知識自体はありそうだが、そもそも任務に際し、マニトゥが何なのか詳しく伝えられてはいないはずなのだ。まあ神の代わりに置くシステムなんて、その正体はぼんやり想像は付くかもしれないが。おそらくーー確信は持てないだろう。

 

 まあそんなわけで。

 両方ぶっ殺したらファントムはそれなりに計画修正を余儀なくされるはずである。

 

 俺の決意は変わらない、と見たナオミが腰に手を当てる。

 

「となると……しっかり戦略を練りましょうか。

 貴方達が死なないようにーー」

「……こちらの心配は不要だ」

 

 プライドを傷つけられたフィネガンが反駁するが、ここまでの戦闘でナオミの突出した継戦能力はまざまざと目の当たりにしてきた。

 ここからより強力な神に挑むなら、しっかり準備や対策が必要なのはフィネガンも理解している。

 荷物持ちも護衛の仕事だ。俺はこの地下三階まで回収してきた宝箱の中身を、山と積み上げる。

 

* * *

 

 ここまでの拾得物をリスト化し、今からの戦いにどう役立てるか三人で協議した。

 

・大般若長光

・ドルフィンヘルム

・マクシミリアン

・鬼神の小手

・将門の兜

・宝玉

・チャクラポット

・ソーマ

・スタングレネード

・魔反鏡

・パール

・¥5000

 

 大般若長光は、ボクサースタイルをけして崩さないフィネガンと「おおぐま星の弓」使いであるナオミ、どちらの好みにも合わず、結局は剣(スキアヴォーア)使いの俺が装備することに。

 ドルフィンヘルムは、知+2の強力な頭装備であり術士のナオミ向けの防具だったが、すでに百七拾八式鉄耳(運+4)というやっぱりイナバのウサミミを装備していたため、術士でもある俺が装備することになった。

 マクシミリアンは、波型表面の強固な防具だが、単純に他二人の胴防具はそれよりもいいものを装備していたため、またしても俺が装備することになった。また俺かよ。

 ちなみにこういった拾得物は価値計算した上で人数割りするのが普通なので、高価な装備を押し付けられた俺はこの時点でもう取り分なしどころか持ち出し確定であり、足りない分は報酬からさっ引かれるから報酬減額も確定である。まあ装備更新できたと思えばいいが……。

 鬼神の小手は、強力な呪殺耐性持ち防具としては貴重なのでフィネガンが装備した。俺の目で鑑定したところ破魔に弱くなるらしいのだが、さっき覗いてきたティアマトは使わないようなので問題ないだろう。

 将門の兜は、そもそも装備するのに魔力10を必要とする強力な装備で、フィネガンはなんか別の装備(ジャミングアーム)で魔力を底上げしてまで装備していた。が、これもやっぱり呪殺無効ながら破魔に弱くなるという欠点があったりする。まあ今回は関係ないが。

 宝玉、チャクラポット、ソーマは、緊急時や戦闘長期化に供えてとっておく。

 スタングレネードは……これを使って逃げ出すような事にはなりたくないが……。

 魔反鏡はすぐにでも役に立つだろう。速の一番高い俺が持っておく。

 パールと五千円は……ここまで取り分のなかったナオミに進呈しておく。あんまり嬉しそうな顔もしない。まあそうか。

 

* * *

 

 準備を整えーーティアマトの眠る扉の前に立つ。

 まずは物理に弱いティアマトから撃破、という事で俺らの方針は一致していた。

 といっても俺とフィネガンの物理攻撃などたかが知れている。主力はナオミの召喚術(物理4回攻撃)、俺とフィネガンはその補佐に回る考えだ。

 

「行くわよーー準備はいい?」「……ああ」「……。」

 

 フィネガンが無言で扉を蹴り開け。

 神聖なる寝所へ土足で踏み込む破戒者に、眠れる神が竜の首をもたげる。

 戦闘開始だ。

 俺はまず、真っ先に魔反鏡を使う。不可視の鏡が立ちはだかり、敵の魔法攻撃はこれで跳ね返せる。

 続いてナオミが戦の魔王を召喚、魔王の剛腕が竜の胴体を四回殴りつける。

 フィネガンは身を翻し一回転、伸ばした裏拳を竜の体へめり込ませる。電撃裏拳だ。

こいつには属性攻撃は効きにくいはずだが、今のは「感電」狙いか。なかなか渋い動きをする。

 走る稲妻に、敵は同じく電撃で応えーー吠えたける顎から放たれるはサンダーボルト。

 その全体雷属性攻撃は……不可視の鏡に反射され、竜の全身を灼く。魔法耐性があるから大して効いてはいないが。俺らは一ターン目を無傷で乗り切ることに成功した。

 しかしもう手持ちに魔反鏡はない。二ターン目以降からが正念場だった。

 

* * *

 

 回復に手を取られ始めると、ジリ貧になっていずれ負ける。

 そう読んだ俺たちは、ギリギリまで回復せず限界まで攻撃を続けるという実に前のめりな闘いでーーティアマトを追い詰めた。

 竜の頭が吠える。ネクロ・ドグマ。中央のナオミに着弾・拡散し、左右の俺たちへも万能攻撃の衝撃が走り抜ける。

 ナオミのHPにはまだ余裕があるが、俺とフィネガンはすでに満身創痍だ。

 俺たちは互いの顔を見、頷きあう。

 回復はーー選ばない。

 フィネガンの雷震王母の蹴りが竜の胴を打ち抜き、

 俺の大般若長光が竜鱗へと突き立てられる。

 そしてーー

 もう何発目かわからない、ナオミの放った獣の魔王の前に……長い断末魔の咆哮を残し。

 ついにティアマトは倒れ伏した。

 

「やったか……!」

 

 息を荒げ見つめる俺たち三人の眼前。

 再度の眠りについた巨龍は……もう二度と目覚めることはない。

 

「手こずらされたわーーとにかく、任務完了ね」

 

 そう告げて踵を返した、ナオミの背後から。

 たった今撃破されたはずの、神の声が響く。

 

“愚かな……。

 人の身で本当に神を滅ぼせるなどとーー思い上がりも甚だしい。

 身の程を知るがよい”

 

「ーー!?」

 

 振り向くよりも先に、鼻を突き刺す香りが異変を伝える。

 気づいた時にはもう遅く、全身から力が抜けてゆく。

 萎える足に鞭打ち、駆け出ようとした石扉は……いつの間にか閉まっている。

 

「これは……! うっ、力が……!」

 

 閉ざされた石の墓室に充満するは、死へと誘う眠り。

 ここが墓である事を改めて思い知りつつもーー俺は荷を探っていた。

 ……あった。

 装着する。視界がクリアになる。

 濾過された吸気に、遠ざかりゆく意識がほんの少しだけ引き止められる。

 

(ナオミがどうやって倒されるのか。ずっと考えていた……。

 日頃から念の為備えておいた防具が、こんな形で役に立つとはな)

 

 俺が装着したのは防毒マスク5型。画廊ラダーで安く売っていた防毒面である。

 とはいえ。墓室に充満する安息の吐息は、たった一息吸い込んだだけで眠りに落ちる。

 連れの二人はすでに、冷たい墓室の床へと倒れ込んでいる。

 俺も数瞬と保たず、二人の後を追って眠りに落ちることだろう。

 だがーーその数瞬で十分だった。

 俺は腰の後ろよりGUMPを取り出し、その引き金を引く。

 召喚起動するモニタに“処理完了”の文字が浮かんでいるのを見ーー

 どろりと溶かした鉛のような眠気に、俺の意識は閉ざされた。

 直後。力任せに石扉が破砕されるような、そんな音が聞こえた気がした。

 

* * *

 

 懐かしい、膝枕の感覚。

 

「ん……」

 

 居間でうっかり寝てしまったか。みっともない。

 ささやくような笑い声が降ってくる。髪を撫でられる。

 

「ああ。悪い、月世ーー」

 

 慌てて身体を起こすと……そこは我が家ではなかった。

 我が家はとうに鮮血に塗れ、そして悪魔召喚戦闘で跡形なく破壊された。

 俺を膝枕しているのも……妻ではなかった。

 当たり前だ。妻は死んだ。俺がファントムを裏切ったせいで見せしめに殺された。

 俺のせいだ。

 それなのにーー

 どうして目の前の女は。妻の顔でーーあんなに楽しそうに笑っているんだ?

 

「あ。気が付いた? ウラベ」

 

 冷たい石床に俺を膝枕する、その妻の顔をした女はーー目を開ける俺に気づくと、何とも気の抜けた声を放った。

 これは明らかに。ネミッサの声だ。

 ネミッサは再び、フィネガンの肉体へと戻ったのか……?

 だが俺の視界にはーー未だ気を失ったまま地面に転がる、フィネガンの姿が映っている。

 え……?

 じゃあこれは、一体誰なんだ……?

 その時、傍らの地面から、ナオミが頭を押さえつつ立ち上がった。

 震える指で、回廊の彼方ーー破壊された石扉と、飛び散った石の破片とを指さす。

 

「う……。

 あの扉を破って、私たち三人を、連れ出してくれたのは……貴女なの……?」

 

 遠ざかる意識の中で感じていた、自分を抱き抱える手の感触はーー幻ではなかった。

 

「教えて……貴女は、誰……?」

 

 ナオミの問いに、その女ーー妻によく似た女は、答えない。

 大切なものを守るように。おのれの膝から身を起こした俺を見つめ。

 優しく促す。

 

「ねえーーウラべ。

 私の名前を、訊ねてくれる?」

 

 ネミッサは、ネミッサの口調で、そんな分かりきった事の確認を求める。

 戸惑う俺はーー言う通りにするしかない。

 

「お前は……お前は。誰だ」

 

 そう問いかけながらも。

 俺の脳裏には、ひとつの確信が浮かんでいた。

 ときおりGUMPから感じた熱と拍動。

 気を失う前に引いた引き金の、懐かしい温もり。

 

「わたしの名前は……造魔。

 造魔、『ツクヨ』」

 

 そうしてーー俺の絶望と共に。

 造魔はすでに失われた、その名を告げた。

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