デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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ーーファントムソサエティ、異例の人事を発表(退魔四季報)

脱盟者の粛清失敗が噂されるファントムソサエティ(2564)だが、広報は本日、新たな追跡メンバーとして悪魔召喚士キャロルJ氏(25歳・天海大卒)を発表した。関係者によると、失態続きで処分間近とみられていた同氏だったが、生還と報告内容が評価され、異例の人事登用に返り咲いた形だ。同氏は「俺は逃げも隠れもしねえ! 天体博物館にサプライズゲスト・コカベルを喚んでスペシャルライブをお届けするぜ! 俺が弱いとか言ってる奴ら全員、逝かれたメンバーとして紹介するぜ! ヒュー!」とコメントしており、同氏の意気込みと知的水準の低さをあらわにした。さらなる株価下落が期待される。



死徒降臨(天体博物館)

 

「ーーブッフォ」

 

 朝、部屋に届けられたばかりの朝刊を何気なく開いてーー俺は飲みかけのコーヒーをぶちまけた。

 

「? ウラベー? 何ちょっとどうしたのー?」

 

 シャワールームから頭を拭き拭き出てきたネミッサは、陽当たりの良い窓際のサイドボードに腰掛けつつ真新しい新聞にモーニングコーヒーの飛沫を散らして咽せる俺を見て、首を傾げている。

 ちなみに造魔はきちんと回復させたが引き続きGUMPのストックに収めたままで、今のネミッサはフィネガンボディだ。

 どうもネミッサは操る身体を選べるというか、どちらかを選んで宿る事もできるらしいが……まあ今のフィネガンをネミッサの支配下から解き放つと確実に逆上して俺を殺しに来るだろうから当然していない。

 

「……いや……株式面が……」

「株式面?」

 

 ーーなんで新聞の株式面に。新たな刺客の情報が掲載されているんだよ……。

 新聞名を見ると「退魔経済新聞」とある。何この業界紙……。

 だいたい記事内容も辛辣だし……。

 ネミッサが変わり果てた新聞の姿に目を見開く。

 

「あー! まだアタシ今日の新聞読んでないのにー! こんなに汚してー! どうすんのよ読めないじゃない!」

 

 ……お前も経済新聞読むのかよ。

 

* * *

 

「ホントに行くの? 律儀に行かなくてもいいんじゃない?」

「いや……まあ、ああいうのは一種の挑戦状だからな……。

 相手がどこにいるのか、わからない時用のな……」

 

 自分へ差し向けられた刺客を、わざわざ自分から訪ねて行く恰好である。

 物好きな、とは自分でも思うが。しかし後で忘れて予期しないタイミングで襲って来られてもたまらない。

 俺とネミッサは芝浜を出て、あかね台に向かう坂道を歩いていた。

 地名通りの高台に位置するここは、巨大マンションや建売の立ち並ぶ一大住宅地となっている。近年開発されたばかりの、天海市民のベッドタウンといった趣だ。

 利用者が多いことを当て込んだ、住民向けの生活スーパーや娯楽施設など商売も盛んで……目指す天体博物館もまた、星がよく見えそうなこの高台の一隅にある。

 とは言えーー

 

「今は休館中、という話だったが……」

「ねえなんでウラベずっとソワソワしてるの?」

 

 驚くべきことに。ネミッサは俺の異変に気付いていたらしい。

 

「驚くべきことに、って何よ。そんな、朝から落ち着かない様子だったら誰でも気づくわよ」

「いやーーキャロルJの召喚しようとしている、コカベル、っていうのがな……わかるだろ?」

「?」

「なんでお前同じ悪魔なのに知らないんだよ……」

 

 ああ。そうか……

 ネミッサは出自や語感からして、そもそも北米系ネイティブアメリカンの神話体系か……

 じゃあ西欧の神話体系なんて知らんよな……。

 

「まず、コカベルって言うのはな。

 堕天使……これは地上に降りて人間たちに争いの元となるような知識を与えまくったとされる元天使のことだがーーその中でも、人々に天体の知識を与えた存在、と定義づけられてるんだ。確か、旧約聖書だったかな」

「天体の知識? そんなもの使ってどうやって争うの? クイズ王とか?」

 

 どこかで猿の雄叫びが聞こえた気がした。幻聴か。

 

「いや俺も知らねえよ。とにかく、そういう堕天使なんだとさ。

 でーーここは天海市という地名なワケだ」

 

 俺が振り返って示した坂道の下には、半島に深く抱かれた静かな内海が、さながら巨大鏡のように横たわっている。

 

「地形ってのはそうそう変わらない。

 おそらくロケーション的にみてーー波の少ない穏やかな夜の海面に、空の銀河……天ノ川が反射し、さながら海が夜空のように見えたことから、こういう地名になったんだろう」

「いきなり考古学っていうか民俗学の授業が始まったけど全部聞かなきゃダメ? 寝てていい?」

「すぐ終わるから最後まで聞け……。

 で。星空と縁の深い土地に、この天体博物館が建てられたというわけだ」

「え? この天体博物館ってよその土地にはあんまり無いの?」

「すべての市区町村に天体博物館があると思っていたのかお前は……。

 人々に天体の知識を教育する天体博物館と、人々に天体の知識を与えるコカベル。

 ほらーー親和性が深いだろう?」

 

 まあ言われてみれば、という様子でうなずくネミッサ。興味ねえなこいつ。

 

「キャロルJ。アイツは新聞記事では思いっきりバカ扱いされてたが……。

 土地、地名、建物と親和性の高そうな召喚対象を選んで行動している時点でーーそれなりの知見がある」

 

 記事だと天海大卒になってたし。意外とここの地元民だったりするのかアイツ。

 

「まず。原始魔術のカテゴリに、類感魔術と感染魔術というのがあってだな……」

「ZZZ……」

「寝るな……。ちゃんと最後まで聞け……。

 魔術で効果をもたらそうとする対象、あるいはその効果を想起させるものを揃えるのが類感魔術。

 魔術で効果をもたらそうとする対象、あるいはその効果と直接関連する物を揃えるのが感染魔術という」

 

 もう酒で早死にしたが、研究室に『金枝篇』まで置いてた本澤がそんなことを祝詞作文の授業で言ってたから間違いない(以下略)

 

「キャロルJがやろうとしているコカベル召喚はどちらかというと類感魔術の重ねがけというか、応用だろう。

 まあもともとこの土地に鎮められていたのもティアマトとアプスーのようだし。感染魔術は難しいだろう」

 

 ところで何で全然関係なさそうなティアマトとアプスーなんて後生大事に祀ってあったんだろうな。

 この土地なら、星々を崇める宗教とか発展しそうな下地は十分にあったのにな。

 まあーー大昔はろくな常夜灯もないワケだし、人間が活動する昼間じゃなく休息すべき夜間にしか信仰対象をお目にかかれないような宗教じゃ、発展するわけもないか。

 

「で。もちろん場だけ整えたところで、召喚魔術が成功するってワケじゃない。

 恐らくは……こういった場所にはプラネタリウムっていう、星々を投影する施設があってな。

 十中八九それを使うつもりなんだろうが、まずこれを使って召喚しようって発想が面白い。

 正直。どうやるつもりなのかーーその、一召喚士としても興味があってなぁ……」

「なるほど。それで朝からソワソワしてたってワケ。

 ウラベ。ーー少年のような顔つきになってるわよ?」

 

 天体博物館に行くのが楽しみな小学生みたくなってるわよ?と言うネミッサに、やかましいと返す。

 やれやれ、と呆れた様子のネミッサだが、ようやく俺の知的好奇心に付き合うつもりになったらしい。 

 

「場を整えるって言ったけど。悪魔を召喚するのに必要な場、ってそもそもどんなのかしらね?」

「うーん……まずは。そこを悪魔の元々の居場所である魔界と誤認させて召喚しやすくするため。

 あるいは召喚しても帰還しにくく、留まりやすくするため。

 マグネタイトをバラまいて辺り一帯を異界化させておく、ってのが一番楽なんだろうがな。

 こいつはマグネタイトを結構消費する。

 駆け出しとかレベル低いとか、あまり余裕のない召喚士で、そこまでコストをかけたくないならばーー」

「ーーないならば?」

「とにかく手持ちの悪魔をバラまいたり、あるいはずっと下位の悪魔とか強引に召喚しまくって。

 ……悪魔が大勢居るような環境を作り上げておく」

 

 どちらにしても、天体博物館の中はすでに悪魔だらけだろう。

 そのせいで、臨時休館中になっているのかもしれないな。

 

「そうすれば、ーーあ」

「どうしたの?ーーあ」

 

 丘の上、ようやく見えてきた天体博物館の門前。

 そこに。一人の警備員が佇んでいた。

 目に涙を一杯に貯めて。佇んでいた。 

 

「「「……。」」」

 

 その背後、「臨時休館中」の張り紙の傍らにはーー例のごとく。

 まるで宿命のように。あの警備会社のシールが貼ってあった。

 

「わかった、わかった! もう何も言うな! また手伝ってやるから! な!」

 

* * *

 

「……。」

 

 薄暗い博物館通路を進みながらーー久々に顔を合わせた主任は、何も言わない。

 手には何か、寄せ書きのようなものを持っている。

 激励の言葉が並んでいるらしいそれを見て……なんとなく事情は察せられた。

 “異常あり契約先つぶしの男”主任。盛大な壮行会ののち再出撃ーーといったところか。

 ひたすら無言のままーー預かったままだった拳銃を返してくるので、ネミッサに受け取らせる。

 また弾丸が減っているのは、ここの館内も一人でうろつき回ったせいか。全くよく仕事する社畜だ。

 俺のレベルも上がり過ぎ、もうここらの悪魔ではいくら戦ったところで消耗すらしない。主任にまで戦ってもらう必要はないだろう。後列に下がらせると、また感涙に咽ぶ主任。

 館内は既に悪魔の巣窟と化している。そこらの暗がりから、漆黒の爪牙が襲いかかりーー

 

「え? 召喚士ウラベ?」「オカマ魔法のウラベ!?」「ひいいいぃ!」

 

 ーーそして逃げていった。いかん……悪魔にまで俺の悪評が広がってしまっている……。

 逃げた悪魔を追い詰め徹底的にシバいて、念のため借りてきておいた増設メモリにストックし続けていると……ようやく喋る気になったのか、主任が重い口を開いた。

 右の壁沿い、曲がり角の先を指差す。

 

「ーーこの辺りで侵入者を確認しました。大荷物を背負って、鈴の音をちりちりと鳴らして……」

 

 不法侵入。大荷物。鈴の音。サンタさんかな?

 

「追おうとしたのですが。奥の通路に、逃げられてしまって……」

「なぜ追わなかった?」

「それが……」

 

 主任が指し示す通路を回り込むとーー星空を模した通路が反対側の壁までまっすぐに続いている。

 

「相手は瞬時に全問突破していったのですが……私は初手から躓いてしまって……」

 

 なんだ?と思って通路に踏み込むと、頭上や左右の星が灯る。

 暢気な音楽とともに、スピーカーから声が流れ出す。

 

『第一問。いて座の西にある星座は?』

「わかるかぁ!」

 

 ブブー。俺たちは不正解音と共に、前の通路へ戻された。

 この辺りには黄道十二宮の星座知識が展示されている。勉強しなおして来いってことらしい。

 それを暢気に見学する暇もなく、またも悪魔が襲ってくる。

 悪魔をぶちのめして脅しながらお星様のお勉強かよ。温度差が激しすぎる。風邪をひきそうだ。

 この地獄のクイズフロアは全五問構成だった。

 結局、総当たりして突破する頃にはーーもう周辺の悪魔はことごとく枯渇していた。(ちょうど良かったが)

 ……ようやく星の通路を抜け。ネミッサがうーんと伸びをする。

 

「逃げて行ったやつって、あっという間に五問とも正解していったワケ?」

「……ええ。まるで星座博士、いやクイズ王のようでした……」

「クイズ王……。なるほどね。

 天体の知識を争いに利用するってのはーーこういうことなのね」

 

 いや違うと思うが。

 星座博士であるキャロルJの得意地形は天体博物館なのか。

 

「ともあれーー敵の星座に関する知識は本物のようね。

 ここからは、気を引き締めていきましょう……」

「はい……」

 

 どう気を引き締めればいいんだそれ。

 そうこうしている内に。宝箱から力の香というレアアイテムを手に入れ即使用したりしていると……

 俺たちの行く手には、まるで映画館めいたーープラネタリウムの入り口扉が見えた。

 

「……行くぞ」

 

 両開きの扉を蹴り開け、走り込む。

 すると。作り物の星空の下にはーー俺たちの想像もしない光景が広がっていた。

 

* * * 

 

「ヒュー! ようやく来たな、メインゲストがよォ!」

 

 そう叫ぶ星座博士ーーキャロルJはプラネタリウムの投影機をなにやら操作している。

 投影機の置かれた台座の周囲には、まるで囲むように大量のコカ・コーラが並べられている。意味がわからない。

 そしてその内側で円陣を組むキャロルJの仲魔らしき八匹の悪魔たちは、各々の手にでかいベルーーあれはハンドベルというやつだーーを携えている。これまた意味がわからない。

 ああなるほど。コカ・コーラとハンドベルでコカベルというわけか。やかましいわ。

 

「よし角度はこれでいいーーGO!」

 

 キャロルJがぺしんと投影機を叩くと、照明がぐっと暗くなり。

 全三機の投影機が、それぞれーープラネタリウムの天井、右の壁、左の壁に、合計三つの星空を映し出す。

 それぞれ少しずつ様相が違う、その星空はーー

 

「これはーー夏の星空、秋の星空、冬の星空ね!」

「ヒュー! よく分かったなフィネガン、いや謎のオカマぁ!」

 

 さっき散々、強制的に勉強させられたからな……。嫌でも覚える。

 にしても飲み込み早いなネミッサ。

 

「……あれ? でもそれじゃ、春の星空は? 無くない?」

「ーーあそこだ」

「?」

 

 俺は腕時計を確認し、黙って天井を指差す。厳密にはーーその天井のさらに先。

 

「今の季節は春。屋根の向こうのーー本物の星空だ」

「ああ、なるほどね……!」

 

 キャロルJが口笛を吹く。俺は腕時計を示す。

 

「さらに言えばーーここは『あかね台』。

 夕刻や払暁は、空が茜に染まりつつも、星空もまた見える刻限。

 もっと言うなら……夕刻のこの時間は、『逢魔が時』だな?

 ーー召喚に最適な場と時間を揃えたというわけだ」

「そこまで読み解くとは! 流石だぜウラベ!」

 

 この星座博士はやっぱり、見かけ通りのバカではなかったらしい。

 

「で? ここからどうやってーーコカベルを召喚するつもりだ?」

「慌てんなって! スペシャルゲストの登場は、まずは一曲、演ってからだ!」

 

 キャロルJはギターヘッドを掲げ……周りを取り囲む、自らの仲魔たちに命ずる。

 

「行くぜ野郎ども! まずは一曲目……『twinkle twinkle little star』!」

 

 悪魔たちがハンドベルを構える。

 そのまま襲ってくるかーーと思いきや、悪魔たちは交互にハンドベルを鳴らし始めた。

 

 ♪ド・ド・ソ・ソ・ラ・ラ・ソ~ ファ・ファ・ミ・ミ・レ・レ・ド~

 

 聞き覚えのあるその旋律はーー

 

「きらきら星かよ!」

 

 俺は叫んだ。ABCの歌、といった方がわかりやすいかもしれない。

 ギター使いだから星に関連する曲を奏でるのかと思ったらまさかのハンドベルかよ。

 そのキャロルJは一緒にギターを爪弾きながら、英語歌詞を唄っている。英語幼稚園の先生かな。

 悪魔たちは練習量を感じさせる一糸乱れぬ動きで、懸命にハンドベルを振っている。

 俺たちは何を見せられてるんだ……。幼稚園のお遊戯会かよ……。

 

「こんなお遊戯で堕天使コカベルが召喚に応じるか! ふざけてんのかお前は!」

「へっ……見かけの幼稚さに騙されて本質を見失うとはな。所詮ウラベも、その程度かよ?」

 

 バカそうな見かけのキャロルJは、見かけに騙されるな本質を見ろと訴えてくる。

 じゃあまずその賢い本質を生かしてバカそうな見かけをやめたらいいんじゃないかな(真理)。

 

「へっ……ここからが本番だ。

 召喚には魂の入った演奏ってかーーならばお望み通り、聞かせてやんよ……!

 二曲目!『モーツァルトの変奏曲』!」

 

 キャロルJは一曲目とはうってかわって高速ギターピックで弦を掻き鳴らし、かつてモーツァルトが編曲した……きらきら星変奏曲を荒々しくロックアレンジで奏で始める。

 クラシックのピアノ曲ながらエレキギターで奏でられるそれはやっぱり、原曲の旋律をかなり残しており。

 キャロルJはところどころで、さっきと同じ英語歌詞を唄い始める。

 

「Twinkle, twinkle, little star,

 How I wonder what you are…

 Up above the world so high,

 Like a diamond in the sky.

 Twinkle, twinkle, little star,

 How I wonder what you are…」

(注:この歌詞の著作権は切れてるらしい)

 

 荒々しいギターの叫び声にかき消されそうな、歌詞へよく耳を澄ます。

 星よ。星よ。お前は何者だ。いと高きに在りし、空の金剛石。星よ、星よ、汝が名は……。

 気付いて、俺は目を見開いた。

 

「歌詞そのものが……召喚の呪文か……!」

「正解だ……っ!」

 

 最後の一音を尻尾まで奏で終えたキャロルJは。

 真上を向き、ギターヘッドを天に掲げる。

 そして召喚に必要な最後のピースを、星へ届けとばかりに叫ぶ。

 周囲のコカ・コーラが。まるでメントスを放り込んだように炭酸を噴き上げる。

 

「I`m a rock-star! Summon:Cockabelle!」

 

 ロックスター。キャロルJもまた星だったらしい。

 これもまた類感か。ちょっと笑ってしまった。

 まるで本物の星が、偽りの星々の絶唱に応えたかのように。

 プラネタリウムの天井から……一筋の光が差し込んでくる。

 

「召喚成功だと……!?」

「へっーー俺様のライブはここからが本番だぜ、ウラベ?」

 

 差し込む光に照らされながら。

 キャロルJは片頬をゆがめて笑う。

 

「お前のオカマ魔術から生きて帰ったのは俺だけだ、って次官に言われてなぁ。

 ただの偶然なのになあ……追跡メンバーに選ばれちまってよ。

 まあーー俺も返り討ちにはされたくねえ。

 頭を捻って考えたぜ」

 

 降り注ぐ光に全身を浸されながら。

 キャロルJはギターを、大事なもののように床へ置く。

 

「コカベルの召喚はすぐに思いついたが……お前のオカマ魔法は防げねえ。

 それにそもそも、俺じゃお前らには勝てねえ。

 だが勝てないから戦えませんなんて。男のプライドにかけて言えるわけがねえ」

 

 ギターを置いた両手は代わりの支えを求めるように、空をさまよう。

 

「そこで……最後の手段。魔人化ってわけだ。

 俺はコカベルに。召喚じゃなく、この身を捧げることにしたんだよ。

 それに天使は両性具有ーーお前のオカマ魔法も、利かねえしなあ!」

 

 物凄い浅知恵の結果だった。

 彼方の俺へ指をつきつけ。キャロルJは笑い、降り注ぐ光を抱くように両手を掲げる。

 

「さあ! 顕現しろ、コカベル! この身を食らいつくし、あの裏切者どもをぶちのめせっ!」

「ーーやめろ!」

 

 俺の制止の声もむなしく。

 より強くなる光の中に、降りてくる何者かの影が差し込む。

 召喚に応える声がーー頭上より降ってくる。

 

「ウウ……我ガ名ハ、ムーウィス……。

 電霊ムーウィス……。

 我ヲ喚ビシハ、オ前カ……?」

 

「「「「ここまでお膳立てしたのにぜんぜん喚んでないやつ来た!?!?」」」」

 

* * *

 

「俺が喚んだのはコカベルだ! お前なんか喚んでねえ! うわっ……やめろおおおお!」

 

 キャロルJはそのまま電霊ムーウィスとやらに体を乗っ取られた。

 まあコカベル召喚には単純にレベルが足りなかったんじゃないか……?

 ともあれーー目の前の異形と化したキャロルJを何とか、シバかなければならない。

 

「ウラベ……今フィネガンを解放したら確実に襲ってくるわ。

 ツクヨの人格もまだ戻らないわ。

 アタシが造魔に乗り移って、動かすことはできない……!」

 

 ネミッサが造魔召喚できない現実を訴え、主任が拳銃を握りしめる。

 どうやらここは俺たちだけでどうにかしないといけないらしい。

 が。

 俺は自分のステータスを見る。

 

:ウラベ LV43

:HP415 MP205

:力11

:知6(8)

:魔3

:耐13

:速26(28)

:運4

:大般若長光

:AKS47

:通常弾99

:ドルフィンヘルム

:マクシミリアン

:ラトルスネーク

:フットエスケープ

 

 すでに物凄く強化されてしまっている。

 ネミッサが不在の間。

 二上門で格上相手に戦いまくった挙句、ボスも両方倒しちまったからなあ……。

 俺は自前の眼によるデビルアナライズでムーウィス(キャロルJ)を見るが、レベル20だった。

 俺一人で勝てるなあ……。

 

「……まあ一応後輩にあたるしな。ちょっと、やってくる」

「え?」

 

 返事を待たず。身体を乗っ取られて頭と左腕がムーウィスと化した半脱げのキャロルJへ、突っ込んでいく。

 容赦なく大般若長光で斬り付ける。

 

「ヌウ……!? コノチカラハ……!?」

 

 何発か反撃は貰うが当然、大したダメージでもない。

 二、三発でムーウィスはごくあっさりと吹き飛び、そしてーーキャロルJと分離した。

 意識を失って横たわるキャロルJの頭上。緑色の光体がふよふようろつき回っている。

 この光球……色は違うが、なんだかネミッサに似ているな。

 近づいてくるネミッサを俺は制する。

 

「ダメだネミッサ、近づくな。

 こいつも電霊を名乗っていた。

 キャロルJも身体を乗っ取られたしーーお前の身体もどうなるかわからん」

 

 まあそもそもネミッサは今フィネガンの身体を乗っ取ってるんだけど。

 その時ーーネミッサの名前を聞いた緑の光球が、怯えたような声を発した。

 

“ネミッサ!? ネミッサだとーー!?”

 

 どこから喋ってるんだこいつ。

 

“おまえがあのネミッサだというのか!?

 我らが主に害をなす、ネミッサーー!!

 ならば……ここで道連れにしてやる!!”

 

 そう叫ぶと、緑の光球はネミッサ目がけて突っ込んでいった。

 俺はとっさに大般若長光を振るうが、むなしく光球をすり抜ける。そういえばフィネガンの時も銃とか利かなかったな。

 

「えっーー!?」

“お前も道連れだーーネミッサ!!"

 

 緑の光球はネミッサの胸に吸い込まれると。

 大きくその体積を増し、ネミッサの全身をも包む緑の光と化しーー

 そして、不意に消えた。 

 

「はあ……!?」

 

 ーー光が消えた後には、ネミッサの姿はもうどこにも無かった。

 ただプラネタリウム投影機の操作パネルだけが。ジジ……と青い光を放っていた。 

 

 

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