デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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責任という重装備(芝浜コア・VRホラーハウス)

* * *

 

「……う〜ーん……」

 

 画廊ラダー。

 瞳孔が開きすぎて黒目の周囲に白目が全て出ている店主の前で。俺は悩んでいた。

 目の前に展開されているのは、サマナー客にだけ提示されるショーケース。

 ギミックひとつで壁に掛けられた絵が消え、数々の展示された防具が露出するというなかなか攻めたデザインの画廊である。

 ガラスケースに収められた緑の指輪の前で……俺は延々と呻き声を漏らしていた。

 

「ちょっとーーまだ決まらないの? 他の装備はあんなに早く決まったのに」

 

 試着していた波型装甲のマクシミリアンをぶら下げて、ネミッサが俺へ歩み寄ってきた。

 このマクシミリアンは二上門地下で拾って装着している俺のものとは異なり、この店の展示品だ。

 呪殺対策ということでこの防具販売店、画廊ラダーへとやってきたものの。装備の更新もしばらくしていなかったため、拾い物ともともとの装備とで全体的に性能がちぐはぐとなっていた。

 どうせなら一新するか……と、俺は懐の札束を取り出したのだった。

 車は買い戻したものの、悪魔を売り払った金がまだまだ残っていたため、金の心配はしなくてよかった。

 現在店に展示していある品の中でいちばんいいものをーーと考えたところ、俺とネミッサの装備はお揃いとなった。

 

 鎧はマクシミリアン。波型装甲が衝撃を受け流す。

 兜はアーメット。鳥の嘴めいたシンプルなフォルムだ。これまで装備してきたドルフィンヘルムは装備効果として知+2があるのだが、睡眠や高揚に耐性がある一方で魅了や毒に弱くなるので変えることにした。さまざまな敵を相手取る稼業だから、弱点はわざわざ作らない方がいい。

 具足はミラージュブーツ。これまでお世話になってきたフットエスケープと同じ速+2の装備効果を持つ、いわば上位互換だ。ここまで速のステータスを上げ続けてきたから別に底上げの必要はないのだが、回避に先制確率にと速が役立つ場面は多い。ゲタを履かせて損はない。

 で。肝心の、呪殺耐性装備でもある、腕装備なんだが……。

 

「悩むも何も一択じゃない。実質」

 

 腰に手を当てあきれるネミッサの言う通り。

 俺が装備できる高性能防具だともう、このラウリンの指輪くらいしか呪殺耐性を持ってない。

 後は弱かったり装備条件満たしてなかったり代わりに破魔に弱くなったりと論外で、実質一択である。

 一択なんだが……。

 

「装備効果の力−2がなあ……」

 

 そうなのだ。力のステにマイナス補正が入ってしまう。

 それが嫌で、俺はこうして呻吟逡巡を続けている。

 なんとか回避する手段はないものか……。

 

「実質一択なんでしょ? それに、あの腕利きのナオミも同じのつけてたじゃない?」

 

 そうなのだ。レベル63のナオミですらこの装備を選んでいる。

 まああいつは術士タイプだから力にマイナス入ってもあまり痛くないんだろうが。

 俺は前衛型で力にも11振っているので、これが下がる装備はできれば避けたいのだ。

 避けたいのだが……。

 やっぱり、装備デメリットの無い大和手甲にしようかな……防御力が全防具中最低だけど……(それがデメリット)

 

「ああもう! 選択肢ひとつしかないんだから悩まない!

 店主! これ二つ頂戴!」

「あっ……待てって」

 

 店主は苦笑しながら指のサイズを測り、俺たちに緑の指輪ふたつを差し出した。

 

「いやーー鳥人の腕輪っていう、魔12以上が装備条件の呪殺耐性防具があるんだが。ネミッサならそっちでも良いなと思っていたんだが」

「なっ……先に言いなさいよ!」

 

 力のステータスがなんと1まで下がったネミッサは愕然としていた。スライム以下のステータスである。

 

* * *

 

 隣に建つ、ビデオ・マッスル。レンタルビデオ屋だ。

 ちなみに何がマッスルなのかはわからない。

 この店にはなんと「18歳以上限定」ではなく「307歳以上限定」と書かれた垂れ幕に覆われた謎スペースがあって、中は悪魔召喚士向けの武器や銃器で溢れている。307でサマナーってか。やかましいわ。

 そんなスペースの中央でネミッサは両手を広げた。

 

「力が下がったなら銃の威力で攻撃力補えばいいでしょ?」

 

 その考えのなさに、つい俺は両手で顔を覆ってしまう。

 浅はか。実に浅はかである。銃は力関係ないんだから非力なサマナーは銃ぶっぱなしていればいい、とは。

 あまりに想像力がなさすぎる。

 俺はサマナーの歴史について教えてやることにした。

 

「あのなあ……銃は剣の代わりじゃないんだよ。

 いいか? その昔、そうだな今からだいたい百年くらい前、師範学校の生徒がサーベルとリボルバー携えて、デンデンッデンデデンデンッ、て悪魔退治をしてた頃からの伝統で。

 剣は物理、銃は属性、って決まってるんだよ」

「なんなのその擬音……」

 

 ちなみにその頃(太正時代)ってのは古式ゆかしい管(くだ)とか使って悪魔召喚していた時代で、悪魔を二体同時召喚使役できただけでもとんでもない凄腕扱いされていたらしい。

 今はCOMPがあるから誰でも五体まではラクラク召喚できる。いい時代になったもんだ。

 ネミッサは根本的な疑問を口にした。

 

「……そんな人間に教員免許を与えていいの?」

「言われてみればそうだがーーアイツ結局教師になったのか? まあいい。

 とにかく役割分担があるんだから一緒にするな」

「結局同じ物理攻撃でしょ……」

 

 わからずやのネミッサは放っておいて、俺は銃を買い換えることにする。

 属性弾は置いてないが、状態異常弾は扱いが豊富だ。ショックシェル、麻酔弾、神経弾、快楽の散弾。

 状態異常弾の使い方は、とにかく大勢にばら撒いて状態異常になればラッキー、くらいの運用が適切だ。

 次にこの弾を撃つための銃を選ぶこととする。

 残念なことに、これら四種類の弾はそれぞれ単発銃用と散弾銃用に二種類ずつ分類されるため、一丁の銃からすべて撃ち出すことはできない。

 散弾銃と単発銃の両方を揃えておくことが肝要だ。

 

「弾を変えるだけじゃなくて銃の持ち替えまで要るんだったら、剣とほとんど変わらないじゃない……」

 

 やかましい。

 そんな訳で俺は各四種の状態異常弾に加え、ナンブ百式(単発)、モスバーグ(散弾)を購入した。

 ナンブ百式とか大戦時代の軽機関銃だろう。こんなもんよく手に入ったな。完動するのも凄いが。と思ってよく見たら「乾小隊」って刻印がある。まさか平崎市のアパート(カーサ乾)から拾ってきたのか。おい大丈夫かこれ呪われてたりしないだろうな。

 モスバーグは普通の散弾銃だ。本当は「散弾炎銃ランドル」とかいうイカれた名前の散弾銃が欲しかったがレベル的に売ってもらえなかった。くっ。

 銃を二挺も新調してホクホク顔の俺に、店を出たところでネミッサが言う。

 

「……。そういえば思い出したんだけどーー今回の相手ってどう見ても悪霊とか怨霊よね?

 ひょっとして。銃弾、効かないんじゃない?」

 

 あ。

 俺は無意味な銃を二挺も抱えて立ち尽くす。

 先に言えや……。

 

* * *

 

「性懲りもなくまた来たのね! シンゴは渡さないわーーえ。

 なに、なんでそんなに落ち込んでんの……?」

「うるさい……。いいから弟を自由にしてやれ……」

 

 いまひとつ士気が上がらないまま、俺たちは再びVRホラーハウスへと舞い戻ってきた。

 姉の陰に隠れる幼い男児が、俺たちを見て呟く。

 

「お姉ちゃん怖いよ……」

「大丈夫よ。わたしがシンゴを守ってあげる!

 ーーゴッギー! バグス! ルゲイエ!」

 

 妙に色白の少女は、ここまでさんざん弟を脅かすのに使っていた化け物たちの名を呼び、俺たちへとぶつけようとする。マッチポンプ丸出しじゃねえか。いいのか。

 がーー誰も来ない。

 

「!?……どうして!? どうして一体も来ないの!?」

「ーーそこのシンゴ、いやシックスはもう気づいているからだ」

 

 帽子を被り直して告げる俺に、姉ーー怨霊エリカは目を見開く。

 ここまでの道中。目撃してきた記憶の欠片によって、過去に何があったかはもう大体わかっている。

 

「自分は姉の操り人形じゃないと。

 姉の語る化け物たちは全部嘘のでっち上げだと。

 そしてーー」

 

 俺は長い黒髪を浮き上がらせるエリカに指を突きつける。

 

「姉は自分が幼い頃に階段から突き落としーーとっくに死んでいて。

 自分はその記憶に蓋をしているだけだ、ってこともな」

「……ああああああああっ!?」

 

 頭を押さえて絶叫したのはシンゴの方だった。

 ちょっと薬が効きすぎたか。現実という名の薬が。

 そんな甘ったれじゃ指定神社実習ではお荷物(以下略)

 不意に途切れる幼い絶叫。シンゴの姿がかき消えたのは、エリカが取り出し開いた謎のおもちゃ箱のせいらしい。

 側面にはてなマークがついている。なんだあれは。株式会社はてな製か。

 

「ーーせっかく忘れていたのに!

 あなた達、よくも……!」

 

 弟を何処かへ消し去ると。怒髪天を突くエリカは、その株式会社はてな製の箱をそのままこちらへ向けてきた。

 標的は俺ではなくーーネミッサだ。

 

「!?……まさか! 効かないなんて!」

 

 がーー何も起きない。そのことに驚愕したエリカは信じられない表情で箱の中を覗き込んでいる。

 中には大勢の増田達の反成熟性でも沈澱しているのか。

 エリカは驚愕の表情を、ネミッサーー壮年男性の姿をした女悪魔へと向けた。

 

「この『ハテナ・ボックス』は性格が冷静以外の悪魔をすべて強制的に帰還させるはず……!

 まさかーーそんなオカマ口調の悪魔が、冷静な性格だとでも言うつもりなの……!?」

「…………」

 

 あ。ネミッサが無言のまま失礼な小娘にアギラオ投げた。エリカ悲鳴あげてる。あれ相当怒ってんな。

 そもそもネミッサは仲魔枠じゃないので、たぶんその技は効かないだろう。

 仲魔ではなく人間なのだ。これでも。

 あ。ネミッサがこっち見た。新たなアギラオを掲げている。

 違うぞ敵はあっちだ。

 お返しとばかりに呪殺魔法ムドラを放ってきたエリカに(対策済みなので効かない)俺は声を放つ。

 

「……自分のせいで死んだ姉のふりをすれば、弟の魂を頂けるとでも思ったんだろうがな。

 残念だったな。悪魔の魂胆など見え透いている」

「悪魔って何よ!わたしはシンゴのお姉ちゃんよ!」

 

 ……?

 言い張る様子に演技は感じられず、俺は首を傾げる。

 まあ、自認姉ってところか。

 こいつは明らかに悪魔である。そもそも、普通の姉はムドラとかマハブフーラとか魔法使って来ない。

 

「何よ!魔法少女とかの可能性だってあるでしょう!?」

「呪殺魔法なんて使う魔法少女がいるか」

 

 魔法少女ムドオン★エリカ。

 最愛の弟を守るためきょうも世界の敵をマジカル呪殺。

 想像するだに恐ろしい。デスノートかな。

 冗談はさておきーー応手の無くなってきた相手はそろそろ詰みだ。

 氷の雨をかいくぐり。

 俺は肉薄した少女の胸に、大般若長光を突き立てる。

 

「ーー終わりだ」

「ぐっ……シン、ゴ……」

 

 もがくように伸ばされた手の先には。例の株式会社はてな製のボックスから恐怖の表情を覗かせこちらを見ている、弟の姿がある。

 俺は片手で煙草を取り出し、火をつける。

 

「幼くして人生を奪われた恨みは深いだろうがな。

 ……記憶を見たならわかるだろう。

 あいつも長年に渡り、ここまで苦しんだんだ。

 あいつの人生はあいつのものだ。

 いつまでも記憶の中から恨みがましい眼を向けていないでーーそろそろ弟を。自由にしてやれ」

 

 立ち昇る紫煙は葬送の標だ。

 俺の言葉に、エリカはふっと笑い……そのまま全身から力が抜けてゆく。

 最期は悪魔らしくーーマグネタイト片の乱舞する光へと変じ、エリカの姿はかき消えた。

 

「ーーお姉ちゃん!?」

 

 消えた姉を見て箱から飛び出してくる弟。

 現実を受け入れられないのか、涙目で首を振るばかりだ。

 もう身を守る物も、また守ってくれる人もいない。

 

「いい加減眼を覚ませ。

 お前の姉はとっくの昔に死んでいる」

 

 だがそれはーーどこまでも自由ということだ。

 自己責任ひとつを背に負って、自らの足で立ち自らの意思で歩いてゆく。

 好むと好まざるとに関わらずーー

 それが大人というものだ。

 

「シックス。ーー大人になれ」

 

 まるで、その一言で魔法を解かれたように。

 幼いシンゴは眠るように眼を閉じ、その姿をぼやけさせーー

 最後に。年相応の青年の姿を取り戻すと……そのまま光体に変じ、天井裏へと消えていった。

 おそらくはトモコの時と同じ、魂が現実世界へ帰還したのだろう。

 きっと今頃は意識を取り戻しているに違いない。

 

「…………」

 

 煙草を一本吸いきってから。

 俺もまた、苦しみに満ちた現実へと帰還するべくーー歩き出した。

 

 その背にネミッサの声がかかる。

 

「魔法中年マジカル★ウラベ!退・魔・完・了!」

「せっかく格好よく締めたのにぶち壊してんじゃねえよ!?」

 

 

 

 

 

 

 

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