デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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ネミッサおじさん(ピクシー以下)

 

 颶風吹き荒ぶ屋上。

 女言葉で礼を申し述べる麻薬王に、俺はーー風に持っていかれそうな黒帽子を直した。

 

「……あー。整理しよう。

 まずお前は、女悪魔の“ネミッサ“であると」

 

 麻薬王めいた壮年男性は頷く。

 

「そしてーーどこかへ行き何かをしなければならないが、思い出せないと」

 

 またも頷く男をよそに、俺は屋上から社屋前を見下ろした。車載電話は車まで戻らないと使えない。

 

「“ネミッサ"を連れ出すよう依頼されたのは俺だ。

 目的あっての事だろう。そこは依頼人に訊いてみよう」

 

 俺の返答に、"ネミッサ"は何やら考えている。

 しかしーー記憶喪失のラプンツェルか。

 俺は遠い地上を見下ろした。

 高い塔から連れ出すのはいいがーーそれで話は終わらないらしい。

 

「ええと、ウラベ?だっけ?

 わたしを連れ出すよう頼んだーーその依頼人って、誰?」

 

 男にしか見えない囚われの姫は、そんな事を訊いてくる。

 どうでもいいが知り合いの口から俺の名を確認するような言葉が飛び出すと、やはり違和感がすごい。

 本当にフィネガンはこの"ネミッサ"に身体を乗っ取られてしまったんだな。

 

「依頼人か? レッドマンという。俺も名前しか知らん」

「レッドマン……なんとなく、聞き覚えがあるような……」

 

 そこでふと、"ネミッサ“は笑った。

 

「でも。ウラベは、名前しか知らない人の依頼を受けてーーこんな、死にそうな目に遭ってたの?」

「依頼を受けたのは……利害が一致したからだ」

 

 俺は帽子を直すふりをして目元を隠す。俺みたいないい歳をした男のーー絶望や復讐の色なんて。女子供に見せるもんじゃない。

 まあ目の前にいるのはおっさんだけど。

 

「それにーー死にそうな目に遭うのは。いつもの事だ」

「……ふーん」

 

 タフねえ、と“ネミッサ"は呟いた。

 男はタフでなければ生きられないのだ。

 というか、タフでない男は親切な周囲から寄ってたかって人生の難易度を下げられてしまうのだ。

 そして地獄への道筋は善意で舗装されている。

 まあ今目の前にいる存在は男なんだか女なんだかよくわからんが。

 

「ーーあ。ところで、その目なんだけど……」

「……目?」

 

 ネミッサの言葉に首を傾げ、煙草を取り出そうとした手がふとぼやける。

 滲む視界に目をこすり、改めて己が体を見下ろすとーー

 謎のステータス表示が見えた。

 

:ウラベ LV20

:HP190 MP0(CLOSED)

:力10

:魔3

:知5

:耐9

:速7(9)

:運3

:スキアヴォーア

:AKS74

:ノーマル弾18

:鉄仮面

:ブリガンダイン

:ラトルスネーク

:フットエスケープ

 

 ーー何だこれは。

 COMPのデビルアナライズ機能みたいなものが、肉眼でも見えるんだが……。

 

「何だこれはーー謎の、情報画面が見えるんだが」

「あー……それはステータス表示ね」

 

 ネミッサの説明によると。

 さっき俺が自分の身体めがけて悪魔召喚し損なった際、射出されたネミッサ・プログラムが目を掠めた。

 ネミッサは電霊という分類にあたる、ネットワーク上の大容量情報存在でもあるので、その情報処理ーー解析能力が俺の目にも影響したらしい。

 俺は目だけ悪魔化したのか……?

 

「大丈夫なのかこれ……破魔術かけられて目だけ見えなくなったりしないだろうな……」

 

 便利さ以前にそっちが気になった俺に、ネミッサは笑う。

 

「大丈夫に決まってるでしょ! そもそもその程度の変化、悪魔化なんて大層なレベルのものじゃないし?

 そのーーもともとウラベの身体にも流れてる異形の血と、同程度でしょ?」

 

 そこまでわかるのか。俺はネミッサを見返した。

 俺は卜部という旧い家系の裔で、そのためわずかではあるが、人とは異なる血も流れているらしい。

 

「だいたいわたし、破魔術なんて効かないわよ?」

「ーーは……?」

 

 いま、憑依した悪魔という定義を前提から覆す発言が聞こえた気がするんだが。

 ネミッサは己の麻薬王ボディを指差す。

 

「だってこの人と、もう魂が融合してるから」

「!?」

 

 そもそも憑依ですらなかった。

 ーーあんな一瞬で? フィネガンと魂の融合を果たした?

 俺の脳内教会に、鳴り響く鐘と飛び立つ鳩と舞い散る紙吹雪とが流れる。

 

「ーー結婚……?」

「ちょっと何言ってるかわかんないんだけど」

「いや違うそうじゃない。

 そもそも“ネミッサ“とはーーそんなにも強力な契約を結ぶ、高位の悪魔だということなのか……?」

 

 いやあそんな、と謎のドヤ顔を向けてくるネミッサの麻薬王ボディへ、俺は目を凝らした。

 そもそも普通の悪魔なら六体分は召喚プログラムを収納できるGUMPのメモリを、ネミッサはたった一体で使い切っていたのだ。単純に考えればプログラムの容量が6倍だ。

 なのに現界したネミッサは通常の悪魔の6倍の巨体ということもなく、ただの女言葉のおじさんと化している。

 であれば.、やたら容量を食っているのは別の部分。

 すなわち。とんでもなく強い力を持つ悪魔のはず……!

 俺の視界に情報画面が表示される。

 

:ネミッサ レベル1

:HP30 MP25

:力3

:魔3

:知3

:耐3

:速3

:運3

:使用魔法 ディア

 

「ーー弱ッ!!」

 

 思わず吐き捨てた俺に、ネミッサが食ってかかる。

 

「なによ! アタシが弱いって言うの!?」

「弱いにも程があるわ! 何だこのステータスは!

 お前、ピクシーにも劣るレベルだぞ!?」

 

 ちなみに妖精ピクシーはレベル2で、こいつより格上である。無論ステータスも1だけだが違う。(運4)

 そしてピクシーはディアだけではなくザンも使えるため、フィジカルが紙でも後列に置けば魔法攻撃と回復をさせられる。(まあ性格が友愛なので攻撃は嫌がるが)

 このネミッサ、はっきり言えば劣化ピクシーである。

 

「このアタシが……ピクシー以下……」

 

 真実を突きつけられたネミッサがダメージを受けている。

 ステータス低いしディアで回復役しかできないわけだが、誰よりも倒れやすい回復役とか非常に使いづらい。

 というか、そもそもレベル1だからステータスがスライムと全く同じなんだよな。

 

「……。アタシは、外道スライム……。

 コンゴトモヨロシク……」

 

 いかん。自己評価が下がりすぎて凹んだネミッサが妙な自己紹介を始めたぞ。屋上に体育座りで「の」の字をひたすら書いている。

 そ……そんなことないぞネミッサ!

 ホラ、スライムはディアなんて気の利いた魔法使えないし!アイツ体当たりしかできないし!あと人語も喋れなくてバロウズ語だし!お前、スライムより上だぞ!

 そう慰めると。自己紹介を済ませたばかりの仲魔スライムは、麻薬王フェイスでキッとこちらを睨んできた。

 

「弱くて悪かったわねぇ……!

 魂が融合したばかりで、まだこの肉体の能力を十全に引き出せてないだけよぅ……!」

 

 負け惜しみだった。

 どうもネミッサとは、相手の魂に融合する能力へ全振りした極端な悪魔であるらしい。流石の俺もこんな悪魔見たことない。

 だがーー。俺は乗っ取られたフィネガンの身体を眺める。

 あの凄腕召喚士だったフィネガンをレベル1初期ステまで戻してしまうと考えれば、とんでもない破格性能のレベルドレインでありデバフであるとも言える。

 魂への作用というのは実に影響が大きいもんだ。

 しかし、何だか前にもこんな事があった気がする。

 ……思い出した。あれは三年前、平崎事変か。

 あの時も諸事情から、葛葉キョウジの肉体へ別の全然関係ない奴の魂が入り込んでしまって、しばらくの間あの葛葉がシロウトの学生みたいなまずい仕事を繰り返していたんだった。

 そういえばアイツはーー。

 と、そこまで考えたところで、不意に屋上へ男の声が聞こえてきた。

 

「フィネガンさんー? ウラベの始末、無事済みましたかー? お戻りが遅いんで様子見に来たんですが……」

 

 くぐもった声は、屋上扉の向こうから聞こえてくるらしい。階段を昇る足音もそれに続く。

 聞き覚えのある声音に、その正体に気づく。

 俺を階下で通せんぼしたーー例のフィネガンの腰巾着野郎だ。

 フィネガンの戻りが遅いので様子を見に上がってきてしまったか。

 俺はすかさず屋上扉へダッシュ。外側から扉を押さえつけ、開かないようにする。

 

「えっ!?ちょっーーいきなり何してんの!?」

(今近づいてきてるのは敵だ!

 それに今この状況見られたら面倒なことになるだろうが!

 とりあえず時間を稼ぐんだよ!

 ホラ、お前も力を貸せ!体当たりなら得意だろうが!外道スライム!)

(誰がスライムよ!?……ああもうっ!?)

 

 ネミッサも駆け寄ってきて一緒に扉を押さえる。

 だが力3(初期値)なのでほぼ役に立っていない。か弱き麻薬王である。

 鉄扉のノブが回り、少し向こうから押された後でーーゴンゴンと、ノックする音が響く。

 

「あれ?開かない。おかしいな、鍵開いてるのに。

 ーーフィネガンさん? どうかしましたか?

 扉開かないんですが。何かトラブルですか?」

 

 扉の向こうでCOMPの起動音が聞こえる。

 奴は仲魔を召喚しているらしい。

 このまま応答がなければ、数に任せて扉をぶち破ってくるだろう。

 対するこちらの味方は仲魔スライム一体のみ。力負け確実である。

 ここで扉を開けさせないためにはーー。

 何か適当な追っ払う口実を口にしかけて、俺は口を噤んだ。

 もし俺が喋ったら、俺がまだ生きているという不審を相手に抱かせてしまう。そうなれば速攻扉を破ってくるだろう。

 俺は……隣で扉を押さえる、ネミッサの顔を見た。

 

(ーーお前。フィネガンのふりをして、適当に返事しろ)

(ええーー!?)

 

 麻薬王はゴホゴホと二、三度咳をしてから、その渋い低音ボイスを響かせた。

 

「……あ、あ。私はーー私はフィネガン」

「? 知ってますよ?」

 

 一応動きは止まったようだが、扉の向こうの声は不思議そうだ。

 俺は小声で駄目出しを飛ばす。

 

(バカお前知り合いに自己紹介する奴があるか、もっとフィネガンらしい自然な言動を心がけろ)

(だってしょうがないじゃない!このフィネガンって人が普段どういう人かアタシ、全然知らないんだから!)

 

 それもそうだった。

 ネミッサは横の俺を見る。

 

(ねえ、ウラベはフィネガンの知り合いなんでしょう?

 フィネガンっていつもはーーどういう感じなの?)

 

 ……フィネガンの、普段の態度か。

 そうだな……。

 

フィネガンのいつもの感じか……。

  • 意外と明るい
  • いつもはクール
  • 結構セクシー
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