デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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レオン自動車マジかよ凄え(ムーウィス戦2・マヨーネ戦)

 

 

* * *

 

「うちのメンバーたちも是非、直接お礼を言いたいそうだけど。

 ホントに行ってしまうのかい?」

「ああ……仲間うちに水を差すのも野暮だろう。

 桜井。リーダーのお前から、今後も十分気をつけるように言っておいてくれ」

 

 パラダイムXから帰還し、今はスプーキーズアジトのトレーラーの中だ。

 引き止める桜井だが、俺はメンバーたちが戻ってくる前に去ろうとしていた。恩着せがましく振る舞うのは好きじゃない。

 それよりも気になるのは、立て続けの「無気力病」発症だ。

 原因がわからず、パラダイムX内へ魂を持ち去るその手口もわからず、加えて犯行を行う悪魔自身にさえそもそも自覚が乏しいようだった。

 まるで。

 標的の願望を、ただ忠実に投影しただけのようなーー

 

「それにしても。俺やネミッサはともかくとしてもだ。

 普通にパラダイムXを利用している桜井には症状が出ないのに、同じ利用者のはずのメンバーたちは発症する。

 ……この違いは何だ?」

「ーー場所。閲覧場所、かな」

 

 そう推測する桜井によれば。メンバーたちやその身内はいずれも、自宅の自室で発症したという。

 俺はトレーラー内を見回した。桜井の愛用する細型煙草の匂いが染み付いている。

 

「……ここもお前の自室のようなものだろう。

 他のケースと何が違うんだ?

 やはり、お前はハッカーだから、使用機器類に特殊な防護対策でも講じていたりするのか?」

「まあ逆探知対策なら抜かりはないけど……例えばどんなのだい?」

「軍用車みたいに……鉛で基盤をシールドするとか」

「ははは。核ミサイルが上空で爆発する事態までは流石に、想定してないよ」

 

 笑う桜井が言うのは電磁パルスだ。こいつが発生すると影響範囲内の電子機器は全部ぶっ壊れて使えなくなる。

 俺の推測としては、とにかくそういったハッカー的対応、別の問題への対策がたまたま功を奏したために。結果的に桜井を無気力症感染から守っていたのではないか、と考えたのだが……

 桜井は首を振り、内壁に取り付けられた機器類を眺めた。

 

「うーん。ここも、一般的なパーソナルユースの環境からは逸脱し過ぎているからね……。

 考えられる要因が多すぎて、特定は難しいな。

 無気力症の発症患者に共通する条件か。大手の報道はこぞって報じないネタだから、調べるのは難しいんだけど」

「なぜ報じない? 圧力でもかかっているのか?」

「圧力というかーーもし本当にパラダイムXと発症との関連が認められたら、この次世代情報モデル都市計画そのものがひっくり返りかねないだろう? 既にとんでもない額の公金が突っ込まれた国の計画だから、藪蛇をつつくような真似は誰もしないさ」

 

 報道しない自由の行使か。揃いも揃って腰抜けどもめ。神社庁で席暖めてただけの無能社家がろくな社頭経験も経営経験も積まず苦労スキップで大神社の宮司席横取りして、叩き上げを追い払った上に経験積んでようやく地元に帰ろうとする人間の転任まで阻止して、事前に交わしてた誓約書の法的権利を訴えようにも周囲の弁護士事務所ことごとく及び腰で、結局どこのメディアも取り上げないまま経験ない息子を呼び寄せて周囲をイエスマンの新卒で固め、おのれらの無能さ怠惰さから社入が下がってもコロナのせいで片付け恥じる色もなし、そのくせ急にヌートバーのよく喋る母親がよく喋り始めたらこれ幸いと(以下略)

 

「まあ……病院の電子カルテあたりから当たってみるか。

 こちらでも調べてみるよ。また何かわかったら連絡する」

「ああ、頼む。俺はーー魂を攫う手口の方を洗ってみる」

 

 トレーラーから降り、芝浜第一駐車場内を歩く。

 ここは半地下で外の通りから見えないから、目立つ車を停めておくのに向いている。ハッカーロゴのトレーラーだとか、俺のランボルギーニ・ディアブロとかな。

 数ブロック先に停めた愛車が見えてきたところでーーその異変に気づいた。

 俺の車の隣に停めてあった車がヘッドライトを光らせる。

 エンジン音と共に滑らかに走り出しーー俺たちの進路を塞ぐように停車する。

 

「!!ーー待ち伏せか……!?」

 

 二つのヘッドライトを再び光らせ……その車はなんと。変形を始めた。

 首が生え、両手足が生え。立ち上がりーー車から見事な人型ロボへと変形を遂げる。

 目を見開く俺の前で。ボディから飛び出すメカメカしい東部がブッピガン、と双眸を光らせた。

 変形完了とばかりに排気を放出し、煌々と光るライトは俺の傍ら、ネミッサを見降ろしーー

 シールドに覆われた口元から音声が流れ出す。

 

“ネミッサ……ヨウヤク見ツケタゾ。

 オ前ハ、オ前ダケハ生カーー”

「ちょっと待ってくれ!こんな凄いもの、皆にも見せてやらないと!」

“?……凄イモノ……?”

 

 何か言いかけていたのを遮って、俺は踵を返しトレーラーへ駆け戻る。

 扉傍のインターフォンを連打する。

 

「桜井!俺だ!すぐ出てきてこいつを見ろ!」

『うわっーーどうしたんだい? また敵に襲われたのかい?』

「違う! いや、多分間違ってはいないが……そんな些細なことはどうでもいい!」

『ど、どうでもいい!? 敵に襲われるのがどうでもいいってどういう事だい?』

「いいから出てこいーー

 車 が 人 型 に 変 形 し た !!」

『なんだって!?』

 

 俺が衝撃の事実を告げるや否や、桜井は一も二もなく飛び出してきてーーそして目を輝かせた。

 

「うわあ! 本当に、車が人型ロボットに変形してるぞ! こいつは凄い……!」

 

 彼方のロボへ向かって、そのまま携帯のカメラ機能でパシャパシャと写メり始める桜井。

 

「きみは変形するところを見たのかい!?」

「ああ見た! 眼の前に走り込んできたと思ったら、マジで車から変形した!」

「走行状態から変形!? こいつは本当にとんでもない技術だな!

 くそっ、聞いたこともないぞ! こんな隠し球を持ってるなんて……一体、どこのメーカーだ!?」

「ーーあれはレオン自動車だな」

 

 声に振り返ると、いつの間にか横に並んでいるドレッドヘアにコート姿の若者。

 

「燦然と輝く胸のエムブレムを見ろ。あの金文字はレオン自動車のロゴだ。

 俺は偶然、変形する前の姿まで見てたからわかるが、車種は『レオンハートtype2』だな」

「知っているのかランチーー!」

 

 解説キャラを務めつつしれっと合流してきた男はスプーキーズの一員、ランチというらしい。

 驚く桜井の反対側から、もう一人の人影が歩み出る。

 頭に被った黄色いキャップが幼い印象のその少年は、手で庇を作って彼方の人型ロボを見ている。

 

「レオン自動車って確かァ、市内の由良島に製造工場を持ってたよねえ?

 じゃああれってきっと、レオン自動車工場ーーレオン自工で作られた、テスト車両なんだよ!」

「ユーイチ……!そうか、新車両の極秘テスト走行か……!」

 

 極秘走行試験という推理を披露した彼もまたスプーキーズの一員、ユーイチというらしい。

 とーーそこで不意に。コンクリートの床にカチャリと音が跳ねた。

 振り返れば、桜井は携帯を取り落とし、何やらうなだれている。

 

「こんな凄い新技術がすぐ目と鼻の先で開発されていたのに……!

 その片鱗にさえ、気づかずにいたなんて……!

 くそ……! 何が、ハッカーだ……! 聞いて呆れる……!」

 

 そのまま両膝を落とし、硬い地面へ拳を力なく振り下ろす桜井。

 ランチもユーイチも曇った眼でそれを見つめている。

 どうやらこいつらは、人型変形車両ロボという恐るべき技術が開発されていた事にーー今の今まで気づかずにいた自分自身へ激しい無力感と怒りを覚え、自身の無能さを責めているらしい。

 ハッカーとしての矜持というやつか。よくわからん連中だ。

 

“オイーーソロソロ、続ケテイイカ?”

 

 そんな俺たちを眺めてから、彼方のロボが声を発した。

 今までずっと待っていてくれたのか。律儀な人型ロボ車両である。

 

「あーーああ。

 そういえば何か言うところだったな。遮って済まなかった」

 

 謝罪し続きを促す俺に、横のお邪魔虫三匹がここぞとばかりに喚き始める。

 

「喋ったァ!?」

「このロボ喋ったぞ!?何て無駄な機能なんだ!」

「人工知能でも搭載してるのか!?いったい開発費いくら突っ込んだんだ!?」

 

 瞳に光を取り戻し、おのおの携帯を構え元気に写メり始める三人。

 俺はさながら保育園の先生のごとく、どうどう、と荒ぶる獣たちをなだめる。

 

「あー、黙れ黙れ。なんかこのロボ、俺らに用があるみたいだからーー

 とりあえず聞いてやろう?」

「もともと話を遮ったのはウラベじゃない……」

 

 ひとりで人型ロボと対峙するネミッサからの突っ込みは無視して。

 俺は人型ロボの口上のつづきを謹聴する体勢を取った。

 

“今ノハ一体何ダッタンダーーデハ、続ケルガ。

 ヨウヤク探シ当テタゾ、ネミッサ……。

 俺ノ事ヲ覚エテイルカ……?”

 

 聳え立つ巨体を前に、ネミッサは軽く肩をすくめた。

 

「は? 人型変形車両ロボに知り合いなんていないわよ」

 

 フシュ―フシューと排気を漏らすロボ。あれは笑っているのだろうか。

 

“フッ。ソウ、ツレナイ事ヲ言ウナ……。

 コノ名ヲ聞イテモ思イ出サヌカ?

 我ガ名ハ、ムーウィス……”

 

 その名にネミッサは身体を強張らせた。かつてキャロルJの身体を乗っ取り襲い掛かったムーウィスが、今度は機械の身体を得、ふたたび戻ってきたというのだろうか。

 

「!? ムーウィス……!!」

 

 一方。その名に、俺は落胆を隠しきれなかった。

 何だ。じゃああれは単に、悪魔が車に取り付いて操っているだけか。最新技術でも何でもない。

 俺は傍らの三人へ向き直り、帽子を取って頭を下げた。

 

「……すまん、桜井。俺の早とちりだった……。

 あれは最新技術で作られた人型変形車両でも何でもなく、単なる悪魔憑きだった……」

 

 しかし三人の瞳の光は消えなかった。

 

「ーーははっ。何を言うんだい、ウラベさん!

 悪魔憑きだろうが何だろうがーー十分に凄いじゃないか!

 人型に変形してみせる車なんて、まだどこのメーカーも実現できていないんだよ!?

 時代を超越するレベルの技術と何も変わらない!

 こいつを売り出せば、シェアの独占どころかーーそうだな、きっと世界中が走るこの車でいっぱいになるぞ!」

 

 目をきらきらさせて未来像を語る桜井とは裏腹に。

 俺は悪魔憑きの車だけが走り回る路面を想像した。ほんのついこないだ、そんなろくでもない高速道路を走ったばっかりだった。天海バイパスかな?

 俺は目の前、グッと握りこぶしをつくる桜井を見た。

 ひょっとして俺はーーファントムソサエティなんかよりも、よっぽど巨大な悪を……。

 目覚めさせてしまったのかもしれない……。

 

 桜井の目がぎらりと輝く。

 

「さあてーーそうと決まれば!

 まずは解体して、その使用技術……『悪魔憑き』の精密な調査からだな!」

 

 現物の動作実験とかじゃなくて、初手解体から入るのかよ。技術者って怖いな。

 いや違う。だから、その悪魔憑きってのは別に機械技術じゃないんだって。

 

「解体(バラ)すぞ! ランチ! ユーイチ!」

「おう!」

「うん!」

 

 物騒な掛け声とともに、三人はそれぞれ解体工具を取り出した。

 六角レンチ、巨大精密ドライバー、電圧テスター。

 なんでそんなもん常時携帯してんだよ……。いや最後のは解体工具ですらない。

 

「キーボードカタカタ打ってるだけだと思ってたのかい?」

「マシンやツールの改造はハッカー技術の初歩中の初歩だよォ!」

「お仕着せだけをおとなしく使ってるうちは二流ってもんさ」

 

 プロフェッショナルな大言を吐きつつ、人型変形車両ロボ目掛けて突撃してゆく三人。

 

“オ、オオ……!?

 ヤル気ナノカ、オ前ラ……!?"

 

 予想外の敵の出現と、ぶわっと向けられるその気迫というか執念につい後ずさるムーウィス。

 まあそうだろう。こいつとしては前と同じくネミッサを倒しに来たはずなのに、そのためにーーたぶん自動車工場かどこかに潜伏して、機械の身体を手に入れてまで戻ってきたというのに。急に現れて目の色変えた技術者集団がおまえを解体してやると襲い掛かってくるんだからな。

 正直訳が分からない。というか桜井たちのやってる事が山賊とあまり変わらない。未知の技術に対するただのハックアンドスラッシュである。

 でもまあ都合がいい。ので、それについては突っ込まずに放っておこうと思う。

 楽だし。

 

「……とはいえーー」

 

 ネミッサを放置する形で。勢いよく駆け寄ってきた三人にべったり張り付かれる形となったムーウィスは、狼狽めいた咆哮を上げ、その機械の腕を振り回すがーー三人はぎりぎり攻撃範囲外の位置から、その振るわれる剛腕を妙にじっとりと見ている。あれはおそらく、どのような機械的駆動をしているのか外部から観察しているのだろう。視線の湿度が高い。

 ただ、機械の解体には手慣れていたとしても、肉体強度的には一般人だから、一発でも食らえばまずいだろう。

 俺は援護することに決め(まあ元はと言えば俺たち個人の敵なんだが)、GUMPを腰裏のホルスターから引き抜いた。

 ーーその時。

 

「!? 何してるんだ! やめろ!……うわっ!」

「カツオ!?」

 

 トレーラーの向こう側辺りで上がった声に、皆が振り向く。

 打撲音とともに、トレーラー後方へ跳ね飛ばされてきて転がったのは……短髪の少年。緑の上着が包むその肉体はよく鍛えられ、顔にもいくつの絆創膏が貼られ、いかにも武道経験者と見えた。

 続けて視界に入るのは、少年の名らしきものを呼び、茶のスカートを揺らし駆け寄ってくる長い黒髪の少女。

 

「大丈夫!?」

「……下がってろ、ヒトミ!」

 

 おとなしげな印象のその少女を、手負いの少年は背を割り込ませて庇う。

 ムーウィスの正面にいた桜井が、声を張り上げた。

 

「ーーカツオにヒトミちゃん!? 一体どうしたんだ!?」

「あ、リーダー!」

「俺たちが来たらこの女が……アジトに何か仕掛けようとしてたんだ!」

 

 桜井の呼びかけに答える少年少女の様子からすると、二人ともスプーキーズのメンバーらしい。

 カツオというのは確か……VR美術館で、あのマイクロソフトのイルカにたぶらかされていたトモコの兄、という話だったはずだ。そうか。こいつが兄か。妹のword利用を厳重に監視しておけ。

 ちょうどアジトにやってきたところで出くわしたようだがーー二人の様子からするとどうも、トレーラー外部で不審者が何かしていたらしい。

 が。『女』、『仕掛ける』という単語が出てきたあたりで……俺は何となくその正体に思い当っていた。

 なぜならばーー以前に一度、俺も経験済みだからだ。

 恐らくトレーラーに、爆弾でも仕掛けようとしていたのだろう。

 そしてその下手人はーー

 

「誰だお前は! その車に、何をしようとしてたんだ!」

 

 新たに出来たらしい打撲傷を押さえ、トレーラーの向こう側へ返す少年の視線の先からはーー

 ゆっくりと誰かが歩み出てくる。

 

「「!?」」

 

 その奇抜なファッションにーームーウィスを取り巻いていた三人の動きが固まる。

 なぜならば。トレーラーの向こうから優雅に歩み出てきたその女は……いかにも前時代的な、西部開拓時代風の装いに全身を包み、そして場違いな日傘をぶらさげていたからだ。

 

「マヨーネ……」

 

 俺は黒帽子を押さえてかぶりを振る。知っている相手だった。

 何しろこんな奇天烈な格好の女はファントムでも一人しかいない。

 召喚士マヨーネ。ファントムソサエティ所属の、女性ダークサマナーである。

 歩み出たマヨーネは、その蛇のような底暗い眼で旧知の俺を認めると、口元だけ微笑んでみせた。

 

「ーーあら。お久しぶりね、ウラベ。

 前のプレゼントは受け取って頂けなかったみたいで。残念だわ?」

 

 恐らくはカツオを殴りつけただろう日傘をくるくると回し、アーミッシュめいた格好の女はそんな事を言う。

 ひらひらブラウス、ごてごてロングスカート、羽根飾りつきの帽子、細いヒール、アクセサリほか小物類に至るまで……イタリア製のブランドで固めているというこの女は、おそらくは中世高位貴族女性を意識したつもりなのだろうが。傍目からはただの西部劇オタクにしか見えていない。

 とは言えそのサマナーとしての実力は折り紙付きであり、しかも見かけと相反してこの女は爆発物工作も得意とする。

 今の発言からしてもーー以前、アルゴンNSビル前に止めた俺の愛車に爆発物を仕掛けたのは恐らくこいつである。(まああんな目立つところに目立つ外車を停めた俺も悪い)

 

「あんな物騒なプレゼント、お断りだ。悪いが受け取り拒否させてもらったぞ」

 

 応じる俺の軽口に、ふふふ、と満足げに笑うマヨーネ。

 まあ爆発物は外してその場に置いてきたから、火災報知を受けて集まっただろう消防や警察の後方でいきなり爆発して、現場は大騒ぎだったと思うが。明け方前だったから相当数の天海市民もたたき起こされたと思う。つくづく迷惑な女である。いや迷惑なのは俺か。

 俺は油断なく、マヨーネと、やつが爆弾を仕掛けていただろうトレーラーとに目を配る。

 

「どうやら。次の追跡メンバーに選ばれたのがお前、という訳でもなさそうだな……」

 

 女は日傘をくるくると回した。

 

「ええ。わたくしが命じられたのは、とあるお邪魔虫の排除。それだけですわ。

 ここでお会いしたのはただの偶然。

 もっともーー」

 

 言葉の途中で、長手袋に覆われた右手を突き出す。

 その掌中にみるみるうちにーー紫電が生まれ、膨れ上がってゆく。

 そういえばこいつは雷術を得意とする術者でもあったのだ。俺は身構える。

 

「たまたま出くわしたお邪魔虫を、追加で二匹。

 片付けておくのもーー仕事のうち、ですわね?」

 

 宣告と共に。

 マヨーネは俺に向かって突き出していた掌をーーくるりと翻した。

 

「JIO-NGA」

 

 満面の笑みの下、解き放たれる紫電が向かう先は……例の少年。ヒトミを庇うカツオである。

 まずい……!

 

 ズドォォン。

 

 その時、地下駐車場に轟音が鳴り響いた。

 マヨーネの真横にあったトレーラの銀壁に穴が穿たれ、破片が飛び散る。

 

「ひっ……!」

 

 存外に可愛らしい悲鳴を上げて、のけぞるマヨーネは術の制御を手放した。

 狙いの逸れた紫電は駐車場の天井へ着弾し、ぱりんと砕けた蛍光灯が、辺りへ細かい破片の雨を降らす。

 

「きゃ、ーー!」

「伏せろヒトミ!」

 

 ヒトミに覆い被さり破片から守ったカツオは、破片を払って身を起こす。

 とっさに防御した日傘から忌々しげに破片を振るい落とすマヨーネも、トレーラーに穿たれた穴……大きな弾痕を認め、目を見張る。

 

「大丈夫か?

 とっさに威嚇射撃しちまったけど……その女。敵って事でいいんだよな?」

 

 地下駐車場入口のやや手前。

 硝煙たなびく銃口の先、重そうな拳銃を両手で保持し射撃姿勢を取っているのはーー

 あのホラーハウスで最後に一瞬だけ見ることができた、本当の青年の姿だった。

 

「ーーシックス!」「シックスくん!」

 

 喜色を浮かべたカツオとヒトミがその名を呼ぶ。

 そうか。やはりあれが、幼いシンゴの成長した姿ーー本来のシックスなのか。

 細身の青年は、リボルバーを模したデザインのおしゃれツナギに身を包み、ガンマニアだって事はまあわかる。

 しかし何で銃なんか持っているんだ。

 しかもあれーー俺は未だに硝煙を上げる銃口を見つめるーーコルトの44マグナムじゃねえか。青少年が撃ったら手首いかれるぞ。涼しい顔して撃ちやがって。

 

 状況が混沌としてきたな……。

 一同が動きを止めている隙に。俺は黒帽子を被り直した。

 

 

 

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