デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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ぼっちVSぼっち(ああいうトレーラー普通に一千万以上するらしい)

 まず、悲鳴めいた雄叫びを上げたのは桜井だった。

 

「ーーシィィィィックス!!

 その! トレーラーは! まだ! ローン支払いも! 終わってない上に! そもそも! 繊細な機材! 山ほど! 積んでるんだから!

 そう気安くコルトパイソンをぶち込まないでくれっ!!」

 

 おのれが作り出したトレーラー外壁の大穴を見つめ、気まずげな顔になるシックス。

 

「あ。すまん。リーダー……」

 

 そのまま決意の表情と共に撃鉄を起こす。

 

「ーー次は確実に当てるから。

 脅しじゃないぜ?」

 

 その宣告の向かう先は、日傘を差し直すマヨーネである。

 日傘の柄を肩にかけ、緑の羽根帽子の奥から笑う女。

 

「……フフ」

 

 すっーーと異形の影が割って入り、両者を結ぶ射線を切る。

 見ればマヨーネの左右前方はすでに複数の悪魔で固められている。

 おそらくマヨーネの召喚した仲魔だろう。

 

「!? なんだよ、こいつらはっ!?」

 

 幼い頃と変わらず、ホラー耐性は無いままなのか。

 目の前の悪魔達に目を見開き、44マグナムを握るシックスがたじろぐ。

 

「ーーあら。

 ひょっとして悪魔が怖いのかしら? 坊や」

 

 手袋に覆われた指を口元に添え、くっくっくと笑うマヨーネ。

 敵から視線を逸らさぬまま、俺はシックスへと声をかけた。

 

「ーービビるな。シックス」

「って言われてもさぁ……あれ? ひょっとしてウラベさん?」

「ーーお前の姉の方がよほど怖かっただろうが」

「…………。なるほど、確かに」

 

 そのつまらない一言だけで、シックスはあっさりと恐慌から回復した。

 

「ふつうに。姉ちゃんの方が怖かったわ。

 あと。もっと怖い化け物を従えてたわ。ーーアンタの“それ”よりも」

「!!……何ですって!?」

 

 自分の姉より低レベルサマナー、みたいな扱いをされたマヨーネが憤慨している。

 身内にそんな強力な女サマナーが居るとでもいうの!?などと喚いている。

 俺は苦笑した。ただの誤解である。

 ゴッギー。バグス。ルゲイエ。

 すべてはシンゴの姉、エリカがでっち上げたでたらめの怪物のはずだが……。

 幼いシックスの中では姉が恐ろしい化け物を使役する存在として定義済みだったのだろう。

 

「化け物に囲まれてても。アンタはどう見てもーー姉ちゃんほど怖くないわ」

「言ったわねぇ! このガキィ!!」

 

 と、思っていたのだがシックスのあまりの平静さを見て疑問が生じてくる。

 悪魔を前にしてこの落ち着きぶり……あれ?

 VRホラーハウスで見たあれらの記憶って、怖がりで幼いシックスの、歪められた主観だよな?

 本当にエリカが悪魔を召喚して幼いシンゴをビビらせていたーーなんて事はないよな?

 もし本当にそうだとしたら……恐ろしいサマナーの身内を倒して記憶に封をした幼いシンゴ、その意味合いが大分変わってくるんだが……。

 エリカはただのドS姉だよな? サマナーじゃないよな? あれ?

 

「ーーそう言えばお礼がまだだったわ。

 無気力症から元に戻してくれて、ありがとな。ウラベさん」

「あっ。うちのトモコ……妹も救ってもらったみたいで。

 ありがとうございます」

「あたしからもお礼を言います。ありがとうございました」

 

 混乱している内に若者達からお礼を言われて頭を下げられる。

 怖くないと言われてキレるマヨーネ。頭を下げるハッカー達。戦闘中なので反応に困る俺。

 状況は実にカオスだ。 

 

「ーーいや……今は戦闘中だ。

 礼よりもまず。敵から、絶対に目を離すな……」

「「「はい!!!」」」

 

 素直な若者達である。

 返答代わりに帽子を直し、俺はまずーー戦線を整理する事にした。

 少し離れたところでムーウィスと対峙するネミッサへ声を放つ。

 

「ーーネミッサ!

 俺はサマナーの相手をする! そっちのムーウィスは任せるぞ!」

「えっ。……この三人の面倒も?」 

 

 ネミッサは前方で目を爛々と輝かす解体のプロ達を指さした。

 

「無論だ」

「あーもう!」

 

 ネミッサに、やる気溢れる解体業者三人と共に、人型変形車両ムーウィスの解体を頼んでおく。

 いや普通に倒してもらえればいいんだが。

 たぶんあの三人は解体せずにはいられない。

 戦闘の素人のはずなんだが。三人が垂れ流すおぞましい知的欲求というか探究心にムーウィスは完全に呑まれている。正直あちらは負ける気がしない。あっちの戦線は大丈夫だろう。

 俺はこちら側の戦線ーー目の前に対峙する敵味方へと向き直る。

 

「ーー成る程。姉って……そういう事ね。

 だったら、お姉さん以上の本当の恐怖というものを、その身に刻み込んでやるわ……ねえ。

 怖がりの“シンゴ”君?」

「は? なんでアンタ、人の名前知ってんだよ?」

 

 そんな事を言って笑うマヨーネは、恐らくVRホラーハウス履修済みである。

 ああ……。あんな個人情報オープンスペースで公開するから……。デジタルタトゥーの被害が、既に……。

 あとそんな下らない事で小学生姉と張り合おうとするな。ドS頂上決戦か。

 ともあれーーここからは分析のターンだ。

 

 典型的な術士タイプのサマナー、敵後列中央に位置するマヨーネの左右には、龍王ミズチと魔獣カソが浮かんでいる。

 ミズチは氷術を使いカソは火術を使う。そしてマヨーネ自身が雷術使いだから……後列から火氷雷の三属性魔術を飛ばしてくるという、魔術攻撃主体の陣構成である。

 全属性攻撃とか、魔術使いのロマンみたいな構成を臆面もなく正面から組んでくるなあ。趣味全開である。いっそすがすがしい。

 

 一方、それに比べて前列はちょっと拘りが弱いというか、統一性がない。

 中央に据えた幽鬼ヴェータラは盾役(タンク)としての柱で、おそらくマヨーネの居る後列の構成を見た相手が(魔術への抵抗性が高いと考えて)物理攻撃主体で攻めようとするだろうからと、物理耐性高めのヴェータラをここに置いたものだろうという思想が感じられる。

 また、その右脇にふよふよ浮かんでいる怪異むらさきカガミは、魔術攻撃全反射という尖った属性持ちである。

 こいつを警戒した敵はより一層、魔法攻撃をあきらめ物理攻撃へとシフトしようとするはずである。

 もうホント、『マヨーネ側から魔法攻撃はバンバン飛ばしたいけどマヨーネ自身は魔法攻撃一切食らいたくない』、という意思をバリバリに感じる。自分のしたい事をして相手の行動は限定する。実にワガママである。ワガママ構成である。

 最後の一体、前列左脇にふよふよ浮かんでいるもう一体のカソはーー正直、そもそも前列である必然性も無いし、あまり意図を感じない。なんというか、露骨に数合わせである。前列で物理攻撃に耐えるべき、物理型悪魔をちゃんと揃える気があまり無かったように見える。魔術型悪魔を取り揃えているのに対し、物理型悪魔への極端な興味の無さが垣間見える。

 あと、そもそも。陣形上メインタンクに据えられてるヴェータラすら、技に強くてHPと物理耐久が高めなだけであって、別に斬撃打撃銃撃の反射も吸収もなにひとつ持っているわけではない。とりあえずの壁が必要だからそれっぽい悪魔を前列中央に置いてます、というやっつけ感が凄い。この一点からしてもいかにマヨーネが物理にぜんっぜん興味無いかが分かろうというものだ。

 

「……ウラベ。なに人の仲魔を見て、ニヤニヤしてるのよ」

 

 おっといかん。視線にマヨーネがドン引きしている。

 俺は笑顔で口を開いた。

 

「いやあーー相変わらず。

 お前のパーティは癖が強い、と思ってなぁ。

 そんなに魔法攻撃したいのか? で、魔法攻撃受けたくないのか?

 敵には物理攻撃のみで泥臭く攻めてきて欲しいのか?」

「うっ。うるさいわね!」

 

 図星を突かれ喚き散らすマヨーネに、俺は陣形の改善点を教えてやる。

 

「俺だったらむらさきカガミを後列に下げ、魔法反射の厄介さを上げておくけどな。

 ああ、でもお前は後列から火氷雷の魔術を飛ばしたいって拘りがあるから無理なのか。

 それと前列の盾役を反射吸収すら持ってない幽鬼ヴェータラひとりに任せるのも酷じゃないか?」

 

 俺の言葉に、主を銃の射線から守る幽鬼ヴェータラがつい「そうなんスよ」みたいな顔をして、一瞬後にあっやべっていう顔をした。

 幸いマヨーネには背中を向けていたから気づかれていない。

 

「敵まで操りたい思想が強すぎるから。お前、組織からの評価イマイチなんだぞ?」

「ーーなっ……!」

 

 俺の言葉に、絶句するマヨーネの仲魔全員が一瞬、頷きかけたのを確かに見た。

 やっぱり。付き合いの長い仲魔達もみな、そう思っているんだな。 

 よい仲魔たちである。

 ちなみに、マヨーネは高い実力の割に、こういう癖の強い構成とかのために投入できる局面が限られ、使いづらいせいでファントムからの評価もさほど高くない。むしろ、レベルが低く術士でもないユダの方が(実家への仕送りの為)柔軟に働くので評価がずっと高い。加えて自分より強い者を認めたがらない意固地な性格も災いし、フィネガンに居たような取り巻きとかも近づいてこない。

 ぼっちサマナーである。

 

「ーーおまえ。相変わらず、ぼっちなんだな……」

「キイイイイイ!」

 

 弱点を衝かれ、マヨーネは人ならぬ雄叫びを上げた。鬼女マヨーネである。

 彼女を取り囲む仲魔達全員が、やれやれまた出現か、みたいな顔をした。

 苦労してんなあ。

 

「黙って言わせておけば!

 だいたいウラベーー貴方も人のことを言えるの!?」

「……なに?」

「黒スーツに黒帽子!一匹狼のハードボイルド気取り!

 貴方こそ正真正銘のぼっちじゃない!」

「おっ、俺はそもそも世帯持ちだからぼっちとか関係ないだろうが」

 

 弱点攻撃返しをされた。俺は若い頃から不良のカリスマで孤高だっただけでぼっちとは違うんだよ。

 俺は既婚者という括りに逃げ込んでそれを回避する。

 そのとき、前列のカソがぼそっと呟いた。

 

「……はい二人組作ってー」

 

 小癪にも俺らのトラウマを刺激しようとしてきた火ネズミ野郎を二人でギン、とにらみつける。こいつが前衛向きでもないのに不自然に前列に追いやられてる理由がよくわかった。一言多いんだ。よしこいつから倒そう。

 マヨーネが殺意高そうに(仲魔への殺意)畳んだ傘の柄をばしばし手に打ちつけながら、笑う。

 

「そもそもーーそんなお荷物を三人も抱えて。

 この私の舞踏会(パーティ)に。本当に勝てるつもりなのかしら?」

 

 舞踏会(パーティ)て。西洋貴族気取りかよ。あ、西洋貴族気取りだったわ。

 マヨーネが傘の先で指し示すのは、三人のスプーキーズの若者達である。

 カツオ。ヒトミ。シックス。

 ヒトミを庇うカツオは武道経験がありそうな体だし闘志も十分のようだが、悪魔との実戦経験はさすがに無いだろう。

 ヒトミは見るからにお嬢様っぽい。

 シックスはとんでもない姉相手に知見を積み過ぎて逆に度胸が座ってしまっているけど、肉体的には普通のヒョロい青年なので、悪魔との肉弾戦にはとても巻き込めない。 

 まあこの三人を庇って戦うことになりそうだ。

 さらにはこの三人に一切攻撃が届かないようにしないと。おそらく一発食らっただけで戦闘不能だろう。

 加えてマヨーネは三属性、魔法全体攻撃を主体としてますと言わんばかりの露骨な布陣である。

 

「ーーさあて。どうやって守るつもりかしら?」

 

 お手並み拝見ね、と余裕ぶるマヨーネは、俺の手に持つGUMPへと視線を移した。

 余裕のあらわれとしてこちらの悪魔召喚を待ってくれるつもりらしい。

 まあどんな悪魔を喚んだところでお荷物三人抱えた上で勝てるわけがないだろう、と踏んでのことだろう。

 俺は考える。

 うーん。この三人はすべて後衛に置いて守るとして。俺は前衛中央とするだろ。

 となれば、残りの枠は前衛の左右か。召喚可能は二枠のみかよ。ネミッサは今フィネガンの中にいるから頼りの造魔は使えないしなあ。

 とはいえーーマヨーネの手はわかりすぎるほど単純だ。各属性で全体魔法ぶっぱ。恐らくそれだけである。

 俺はGUMPを起動させ、迷いなく引き金を引く。

 

「Summon:Murasaki-kagami,Kukunochi」

 

 俺は前衛両脇の空き枠にーー怪異むらさきカガミと神樹ククノチを召喚した。

 互いの前列にむらさきカガミが向かい合う。

 まあ普通ありえない光景だ。素人対素人みたいな構成になっている。

 

「同じ仲魔ですって……!」

 

 ギリ、と歯噛みするマヨーネだが。術士なら別に予想できたんじゃないのか。

 卜部の家伝は占術で、そこに鏡占いも含まれるし、また俺も封鏡術を常用していた。

 俺も、仲魔のストックに怪異むらさきカガミが居ても不自然じゃないサマナーなんだが……

 ああそうかこいつ他人の術とか興味なさすぎて覚えてないんだ。自分が好きすぎて。

 ぼっちめ。だからぼっちなんだよお前は。

 

「正気なの……!前列に物理に弱いむらさきカガミを出すなんて……!」

「いやお前に言われたくないわ」

 

 自分自身が召喚した悪魔どこに配置したか見えてないのかコイツは。

 マヨーネの。苦渋に満ちた、その表情はーーせっかくの自分の魔法攻撃が、全魔法反射のむらさきカガミによって反射されてしまう事への忌避感なのだろう。

 いや単にお前がやってる事やり返しただけなんだが。

 厳しい表情の中、マヨーネが口元だけニィ……と歪める。

 

「ーーたった一体きりの反射持ちを。まさか、わたくしが恐れるとでも?

 多少反射されたところで、こちらはそもそも耐魔法防御力の強い構成。

 大したダメージなど受けませんわ!

 後ろの三人もろとも、全体魔法の乱れ打ちで滅多打ちにしてやりますわよ!」

 

 どうやらマヨーネは多少のダメージは覚悟の上で全体魔法連発を強行するつもりらしい。

 どうしても魔法打ちたいのか。突撃しか知らぬ猪か。

 

「それにーーヴェータラ!」

 

 傘が開くと光る魔法陣が現れ、命令を受けた幽鬼ヴェータラは「折り畳み」の技を放った。 

 こちらのむらさきカガミがヴェータラの剛腕に綺麗に折り畳まれ、砕けて消える。

 どうやら戦闘開始らしい。

 

「こうして先制でむらさきカガミを排除してしまえば!もう反射を恐れる心配もない!

 いくらでも魔法が打ち放題よ!

 あはは! 前衛に置くなんて馬鹿な真似をしたものねっ!」

 

 高笑いするマヨーネの前列で。ふよふよ浮いている、健在な向こうのむらさきカガミが明らかに「ひでえ……」という顔をした。

 まったくもって同感である。

 

「さてーーこれでわたくし達の魔法を阻むものは何もないわ!

 脆弱な子供達はこの波状攻撃を耐えられるのかしらね!

 ウラベ! 貴方にそれが防げて!?」

 

 雷術ーー紫電を宿す掌を、高々と掲げるマヨーネ。

 右の龍王ミズチは、その顎に蓄えた氷術の冷気を口吻より漏らし。

 左の魔獣カソは、その背から尻尾に宿す火をより燃え上がらせる。

 

「! やべえーー」「……!!」

 

 さすがの姉も呪殺攻撃くらいしかしてこなかっただろう。

 シックスが銃口をさまよわせ、ヒトミを庇うカツオが身構える。

 

「さあ、食らいなさいーー!!」「ーーククノチ」

 

 魔術による総攻撃が始まる直前、俺は残る一体きりの仲魔へ指を鳴らす。

 神樹ククノチはお辞儀するように枝葉を揺らし、その術を完成させる。

 

「Makara-karn」

 

 雷、氷、炎の礫が殺到するまさにその寸前。 

 赤黒く輝く光の防壁が、俺たちの眼前に展開された。

 

「……何ですって……!」

 

 魔法反射壁、マカラカーン。

 反鏡術のひとつとも呼ばれるそれは、全ての魔法を反射する。

 跳ね返されたおのれの全体魔法に仲魔ともども傷つけられ、絶叫するマヨーネ。

 耐魔法防御力の関係上、一番重傷を負っているのが前衛盾役たる幽鬼ヴェータラなのは……当然ではあるが可哀想なところでもある。

 跳ね返った雷と氷と炎が吹き荒れる間に、俺は続けて指示を出した。

 

「シックス。ーー向こうのむらさきカガミを撃て」

「え?……おうっ!!」

 

 おのれを守った赤光の壁を眺めていたシックスは我に返り、すぐさま手の中の44口径を敵前列へポイントし、轟音と共に発砲する。

 軽い銃声が二つ続いた。見れば、カツオとヒトミも小型の銃を取り出し、シックスの狙う目標へと発砲している。あれはクラップK・Kとかいう小型銃か。というか何でこの若者達はみな、普通に銃を所持してるんだろうか。

 鏡面に三つの弾丸を受け、蜘蛛の巣状にひび割れた怪異むらさきカガミはーーまた「ひでえ……」という表情を浮かべて消えていった。またしても同感である。

 

「くっ……。マカラカーンを用意してるなんて……」

 

 ようやく魔法反射の衝撃から立ち直ったらしいマヨーネは、得意の魔法攻撃の一切を封じられーーギリ、と歯噛みしている。

 その視線が前方の幽鬼ヴェータラへと向けられる。どうやらようやく、泥臭くて嫌いな物理攻撃へと切り替えるつもりになったらしい。

 仲魔たちに物理攻撃を命じようとする召喚士へ、俺はごく軽い声を放つ。

 

「で? さっき、お前は何と言っていたかな。

 “むらさきカガミを排除してしまえば、魔法反射を恐れる必要はない”……だったか?」

 

 俺の言葉に、マヨーネがハッと思い出したような表情を浮かべる。

 おや。覚えていてくれたか。

 俺もーー術士なのである。

 

「Si-kyou」

 

 俺の放った封鏡術は。

 マヨーネや他の魔法抵抗力の高い仲魔達へは一切の効果を表さなかったがーー

 唯一、魔法耐性の低い幽鬼ヴェータラを捉えると……その身を鏡へと封じ込めた。

 

「ああ!……そんなっ!」

「シックス、カツオ、ヒトミーー新しい的だ。撃て」

 

 俺の指呼に応じて放たれた三つの銃弾がーー古びた銅鏡。その中に閉じ込められた幽鬼の像を撃ち砕く。

 消える直前、幽鬼ヴェータラは「やっぱそうっスよね」という顔をしていた。

 

* * *

 

 ーーそこからは早かった。

 魔法攻撃を封じられ、乏しい手段でぺちぺちと殴ってくる悪魔達の攻撃を、前衛の俺が一手に引き受け。

 敵物理攻撃の届かない後衛から、シックスとカツオとヒトミが一方的に銃撃を浴びせる。

 

「マヨーネ。ーー終わりだ」

 

 仲魔の全てが銃弾に倒れた後。傷を押さえ佇むマヨーネ目掛け、俺は跳躍する。

 

「ぐっ……!」

 

 振りかぶり、叩きつけられた大般若長光の一撃をーーどうにか傘の柄で受け止めたものの。

 その衝撃を殺しきれず、マヨーネの痩躯は軽々と宙を舞い、駐車場の彼方に転がるガラクタへと突っ込む。飛び散る金属片。

 うん? 駐車場にこんなガラクタあったか? と疑問に思った瞬間ーーそのガラクタが動き出す。気を失ったらしいマヨーネを載せたまま。

 部品をバラバラと散らしながら、変な走行音を立てながらーー

 

「逃げるぞ!」「待て!」「絶対に逃がすな!」

 

 追いすがる、解体工具を振りかざした三人の光る眼から逃げながらーー

 

“クソ……! ココハ退ク……! ネミッサ、覚エテオケ……!”

 

 ーー喋る人型変形車両ロボの残骸は、駐車場出口を目指し、決死の逃走を始めた。

 徐々に速度を上げてゆくその進路上に突っ立っているのは、俺ら四人。

 

「! 危ねえ……っ!」「きゃあっ!」

 

 若者三人をまとめて押し倒し、俺たちはどうにか轢死を回避する。 

 

「待て!」「逃すな!」「最新技術置いてけっ!」 

 

 満足のゆく解体がまだ終わっていない三人がその後を追って走る。

 その速度に追いつけないと知るや、おのおの手に持つ解体工具を投げつける。

 手が空になると、相手が落としていった部品を拾って投げつける。

 それもなくなると、その辺に落ちてたものを手あたり次第に投げつける。

 もう蛮族だな。

 三人の蛮族の蛮闘むなしく。投げつけられた工具や部品やマヨーネを針山のごとく突き立てて、人型変形車両ロボだった残骸はキュルキュル唸りながら地下駐車場出口の坂を登ってゆき……そして差し込む光の向こうへと姿を消した。

 

「「「ああ〜ー……逃したか〜ー……」」」

 

 息切れしつつ駐車場出口を見上げる三人は実に悔しそうだ。

 やがて。

 身を起こすスプーキーズの面々は、互いに顔を見合わせると。

 

「「「「「「ぷっ……あははははははっ!!」」」」」」

 

 どちらともなく吹き出し、そして盛大に笑い始めた。

 腹を抱え、再びひっくり返る若者達。

 止まらない。実に楽しげな笑い声は、どこまでも続く。

 

「「…………。」」

 

 ーー俺とネミッサも顔を見合わせ、肩をすくめると……笑みを交わした。

 

* * *

 

 ようやく笑い声がやんだ頃になって。

 俺は何かーー大切なことを忘れているような気がした。

 あれ、何だったか……?

 俺の訝しげな表情に、ネミッサが不思議そうな顔で歩み寄ってくる。

 

「どうしたのウラベ?」

「いや。マヨーネが何か……大事なことを、言っていたような気が……」

 

 はてーー何だったか?

 アイツは俺たち脱盟者の追跡メンバーに選ばれたわけじゃなくて……

 お邪魔虫の排除を命じられただけ、と言っていて……

 

「ーーそうだ!」

「うわ!びっくりした」

「マヨーネ! あいつ! トレーラーに! 爆弾仕掛けてたって話じゃなかったか!?」

 

 俺の指摘に、笑い疲れて転がっていたスプーキーズの面々が飛び起きる。

 

「そうだよ!今の今まで忘れてた!」

「爆弾だって!?解除しないと!!」

「仕掛けてるの見たって言ったの誰だっけ!?」

「カツオだよ! カツオ! どこだ、爆弾!」

「そっち側のトレーラーのバンパー付近! 俺が見た時はそこに仕掛けようとしてた!」

 

 皆で駆け寄るがそこには何もない。

 ただ、ムーウィスの落としていったと思しき、細かい部品が散らばるばかりだ。

 

「おい、無いぞ! 爆弾なんてどこにも!」

「え!? 俺が最後に見た時は確かにここで! なあ、ヒトミ!」

「う、うん! 戦いになる前は確かにこの辺に、時限爆弾みたいなのが……!」

「くそっ、戦いの最中にどこかへ転がっていったのか!?探せ!探すんだ!」

 

 全員で血眼になって爆弾を探すが見つからない。見つかるのは車の部品ばかりである。

 

「無いぞ!どこにも無い!」

「ダメだ見つからない!」

「トレーラーには仕掛け終わってなかったんだな!?なら、もういい!

 ここから逃げるぞ!全員トレーラーに乗れ!」

「爆発する前に脱出だ!トレーラーを回すぞ!急げ!」

「……ねえ」

 

 緊迫した空気に何も感じていないのか。

 のんびりと、ユーイチが話しかけてくる。

 

「何だよユーイチこんな時に!?早く逃げないと!」

「その時限爆弾ってさァーーこの辺にあったんだよねェ?」

「そうだよ!今そんな話してる場合か!とっとと逃げるぞ!」

「俺たちさァーーあの、逃げる車を追いかける時に。

 走りながら色々、投げつけたよねェ……?」

「それがどうした!?早く逃げないと爆弾がハジけて全員お陀仏だぞ!?」

「俺も覚えてないんだけどーーひょっとして。

 その爆弾も。あの車に投げつけたり、しなかったァ……?」

 

 一瞬の沈黙。

 

「「「あっ」」」

 

 ーーその時。

 地下駐車場の外から、はるか遠く……

 ズゥゥゥン。

 派手な爆発音と共に。地響きめいた衝撃波が、俺たちの間を走り抜けていった。

 

 

「「「「「「「「あっ」」」」」」」」

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