デビルサマナー:おじさんハッカーズ   作:葛葉狐

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 ーーレオン自動車(11037)、新型車の公道走行試験中に爆発事故か

 昨日正午頃、天海市芝浜の路上で走行中の車両が突如爆発する事故が発生した。事故車両は市販車と異なる特徴を備えていたことから、同市由良島のレオン自動車(11037)天海製造工場の所属とみられ、新型車両の公道走行試験中に何らかの原因で爆発したものと思われる。
 なおレオン自動車は、当該事故車両が開発計画に存在しないとの声明を発表し、「自社の開発車両ではない」と関係を否定している。
 現場からは、ハイブランドに身を包んだ女性の重傷者もひとり搬送されている事から、内情に詳しい関係者からは「走行試験に併せ、新車発売のCM撮影まで行っていたのではないか? 事故が起きかねないほど開発スケジュールが押していたことが窺える」との見方が出ている。
 なお、公道での試作車両の爆発ともなれば本来、株価の大幅下落は避けられないはずだが、爆発した車両からはロボットアームと二足歩行用の脚部、センサー類を搭載した頭部らしき残骸まで見つかっていたため、「極秘裏に、人型へ変形する車両を開発中だったのではないか」という噂が独り歩きする結果となり買い注文が殺到、株価は逆にストップ高を迎える結果となった。
 今後も、小学生男子の心を忘れない投資家達による理不尽な株価暴騰がしばらく続くものと推測される。



ハッキングアンドスラッシュ(レオン自工)

 

「…………。」

 

 窓辺より朝の河口を眺めながら、俺はまたコーヒー片手に朝刊を開いていた。

 開いているのはいつもの退魔経済新聞。そして、またしても株式面である。

 ーーだからなんでいつもこの謎の新聞の株式面が、俺らが今一番欲しい最新情報をお届けしてくれるんだよ。

 

「マヨーネがレオン自動車のCMタレント扱いされてる……」

 

 そもそもあんな格好で戦場に出てくるから……。

 いや、出世したな。あの女。

 CM出演者と勘違いされたマヨーネが後でキレるのか、はたまた喜んで照れるのかはーー微妙なところだ。

 アイツ結局、目立ちたがり屋だからなぁ……。あんな格好してこっそり爆弾仕掛けにくる時点でもう……。ファントムを抜けた俺が言う事じゃないが、仕事なめてんのか女ァ……。

 ファントムもアイツ使うのホント大変だろうなぁ……。

 その時、朝のシャワーを終えたらしいネミッサがバスタオルで頭を拭き拭きやってきた。

 

「それ今日の朝刊? 昨日のあの爆発って、結局どういう扱いになったの?」

「ーーあの女……マヨーネが、タレントとして新車のCM撮影中に事故って爆発した、みたいな話になった」

「ハァ? どこをどうやったらそんな話になんのよ?」

 

 俺の手から朝刊を引ったくって読むと、ネミッサもまた、ああ……。みたいな何とも言えない表情を浮かべた。

 

「あの西部劇女、話題性バツグンね……。

 一夜にしてメディアの寵児じゃない……。

 ここから跳ねるのかしら……?」

「知るか……」

 

 悲劇!CM撮影中に事故に見舞われたハイブランドモデル!みたいな触れ込みで一躍有名になったかもしれないが、人知れず戦うサマナーとしてはもう終わったかも知れない。

 いやーー逆に、「怪奇!謎の新型車両と共に爆発したイタリアブランド女!」みたいな噂が広がって、ゆくゆくはアイツ自身が都市伝説化してゆくのかも知れないな。鬼女マヨーネから怪異マヨーネに属性変更か。忙しい奴め。

 そう言えば。ネミッサはマニトゥ……北米大陸由来の悪魔だから、西部劇とか一応知ってるんだな。

 まあ、マヨーネが身につけてたのは全部イタリアブランドって事を考えると、アイツが視聴してファッションの参考にしてたのはたぶん本物の西部劇じゃなくて、マカロニウェスタンの方なんだろうけどな。

 女大好きロマンス大好きカッコつけ大好きなイタリア人が自分の好きなもの全部盛りである西部劇のストーリーラインをいたく気に入ってコピーしまくったのがマカロニウェスタンということを考えれば、マヨーネも意外と軟派なものを見たりするんだな。

 あれで意外と少女趣味だったりするんだろうか。

 まぁどうでもいい。

 

「株価が下がらずむしろ上がるとなると……きょうも工場は絶賛稼働中かしら?」

「いや、工場の関係らしい車両が公道で爆発事故起こしたんだ。いくら実際には無関係とは言っても、流石に今日くらいは稼働中止するだろう。警察も調べに来るだろうしな」

「え。警察が来るんじゃ……近づけない?」

「夜を待って入り込めば平気だろう。

 そもそも俺らはーー怪しまれないわけだしな」

 

 背中合わせに喋りつつ、おのおのいつもの一張羅とは違う装いに身を包んでゆく。

 制帽を深く被り目元を隠せばーー無個性な警備員の完成である。

 

「よしーー行くか」

「いいかげん、ヤツとの決着を付けましょう」

 

 鏡の前でネクタイを締めると、背後の扉がノックされた。

 廊下から姿を現したのはーースプーキーズの面々である。

 俺たち同様、警備会社の制服へと既に着替えている。

 

「二人ともーーそろそろ、主任さんと落ち合う刻限だ。

 トレーラーに乗ってくれ」

 

 * * *

 

 大規模貨客船の船腹に空いた車両搬入口から、常設のタラップを通って一台のトレーラーが出て行く。

 「天海警備保障」。身に纏う制服と同じ社章のロゴステッカーを上から貼り、スプーキーズのロゴは隠してある。ちなみに巨大ステッカーを急造したのはランチだ。存外に器用なものである。

 岸壁へ降り立ち揺れる車内、トレーラーの内壁に肩を預け俺は緊張した面持ちのスプーキーズの面々を見ていた。

 

 昨日の爆発発生の直後。

 司直の捜査の手から逃れるため。また、マヨーネの発言から判断してスプーキーズはすでにファントムに直接狙われていたため、俺の提案で……アジトトレーラーをこの客船業魔殿へと乗り入れさせた。

 爆発現場や芝浜第一駐車場から業魔殿はすぐ目と鼻の先で、また認識を歪める結界も貼られている。逃走先と隠れ家にはもってこいだった。(もっとも、提示されたトレーラーの預かり費用のあまりの高額さに桜井は「ローン返済が遠ざかる」と悲鳴を上げていたが)

 ともあれ。ファントムから的にかけられた桜井たちの身の安全を、ひとまずは確保すると。

 ……そう何度も付け狙われてはかなわない。

 俺とネミッサは、再び逃走していったムーウィス(まああの後大爆発したっぽいが)との決着をつけるため、おそらくヤツの根城(部品調達先)であるだろう、由良島のレオン自工へと忍び込む事にした。

 悪魔の根城と化した施設であればーー自然と、思い出されてくるのはある一人の不幸な警備員である。

 どうせまた転属されて、身に余る魔窟警備を無茶振りされているに違いない。

 潜入に利用するため(そしてまた伝説の続きを作ってやるため)、俺たちが主任に連絡を取っていたところーー

 なぜか横から同行を申し出てきたのが、桜井たちだった。

 

 * * *

 

 俺は不似合いな警備員制服に身を包むスプーキーズの若者達を見ていた。学生バイトにしても若すぎる見た目だ。違和感しかない。

 桜井ーー今は運転席にいるーーは、同行する目的は調査のため、と言っていた。

 と言っても、昨日目を輝かせていた人型変形車両の秘密を探りたいわけではないらしい。

 そもそも。お尋ね者の俺やフィネガン、ネミッサの関わりとは別にして。

 ハッカー集団がファントムソサエティに目をつけられるということはーー何か、調べてはまずい領域に知らず踏み込んでしまった、って事なんだろう。

 確信のない情報の裏付けのために。狙われる自分達の生存のため、調査に同行したいーー桜井はそう言っていた。

 正面から頼み込んできた、その目に迷いは無いようだったが……

 

(大丈夫なのか……?)

 

 俺は若すぎるメンバー達を見やる。

 自身の生存のためとは言え。こんな戦場を知らぬ若者達を伏魔殿へ放り込んで、果たして本当によいものだろうか?

 軍人か聖職者かの二択を強いられやむなく神社界を選んだだけの人間をけっきょく伊勢という地獄に放り込んで本当によいものだろうか?(以下略)

 ……まあ俺らは既に。戦場に放り込まれ続けてなおしたたかに生き延びる一般人、という前例を知っているわけだが。

 脳裏では、例の警備主任がグッと親指を立てている。

 

(……いや)

 

 お前はただの例外だ。例外中の例外だ。

 お前はどうせ、長年にわたる警備員人生から今さら生き方変えられないから、仕方なく戦場に適応しただけのおじさんだろうが。

 その有り余る適応能力の半分でも使って、まず運のステータスでも上げてこい。

 だがーーなんだかんだ生き延びてるって事は、運の数値は高いのか?

 いや。ああいうのは"悪運が強い"って言うんだな。

 俺と全く同じだ。俺も運はほぼ初期値である。

 

 まあーー兵は不祥の器、ってヤツだ。運のいいやつはそもそも戦場に来ない。

 そして戦場で生き残れるのは、悪運の強いやつだけだ。

 でも運がいいんじゃなくて悪運が強いだけだから、いくたび戦場を切り抜けたところで、また戦場へと引き戻される。

 あとはーーいつか悪運が尽きて死ぬまで。それを繰り返し続けるだけである。

 傭兵の半分はルーキーのうちに死に……あとの半分は、ベテランになってから死ぬ。

 非社家はつらいね(以下略)

 

 益体もない物思いに耽っていたところで……反対側の椅子に座るシックスが、妙なものを肩にかけていることに気づく。

 

「ーーシックス……?

 おい何だ、それは……?」

 

 車内の視線が集まる。

 シックスが右手を添えているのは、右脇に廻した赤い革のベルトだ。

 右肩だけに引っ掛けた、その背に負う赤い本革製のバックパックは、えらくサイズが合っておらず小さすぎ、まるで子供用にも見えたがーー

 

「ランドセルだと……?」

 

 ーーふつうに赤の女児用ランドセルだった。

 警備員の制服に赤ランドセルを引っ掛けた17才少年。美形なのにもう異常者にしか見えない。いやもうこれ怪異系悪魔かな。怪異シックスランドと名付けよう。

 これが世間で言う「キレる17才」というやつか。

 俺が不良やってた頃もここまで尖ったファッションセンスはキメてなかった。

 正直恐ろしい。

 怪異はダーク系悪魔なので、交渉には専用ソフト「ダークマン」が必要となる。

 幸いなことに、以前にインストールしたままだったため、俺は素早く引き抜いたGUMPを構えーー交渉を開始する。

 TALK!

 

「ガグワラ 悪ラノカ?」

「何語ですか……。人間語で喋って下さいよ……。

 えっと? ああーーこのランドセルですか……」 

 

 というか、つい最近見た覚えのあるランドセルである。

 怪異シックスランドは、その背に負う赤ランドセルについてーー「説明しなきゃいけないんだけど説明したくないなぁ」と言わんばかりの表情で渋々話し始めた。

 

「いや。俺きのう、『どうしても確かめたい事がある』って言って一旦、家に帰らせてもらったじゃないですか?

 まあウチは店やってて芝浜なんで、もうホントこのすぐ近くなんですけど」

 

 そうだった。警察やファントムに見咎められるリスクは無視できなかったが、家はすぐそこと言うので許可したのだ。

 何かを思い出すような表情のシックスランド。

 

「ホラーハウスから解放されてからーー忘れていた姉ちゃんのことを少しずつ、思い出せるようになったんですけど。

 やっぱり。ただのドSじゃなかったような気がしたんですよね?」

 

 ああ、そうだな。お前の姉はただのドSではなく、とんでもないドSだったな。

 

「そういう意味じゃなくて……。

 ウラベさん達も、あのVRホラーハウスで見たと思いますけど。

 やっぱり。幼い頃、俺が目にしていた光景のすべてがすべて、子供心の恐怖が作り出した妄想や幻影ーーってわけでは無かったんですよ」

 

 そう言うと。姉の使っていた部屋でこれを見つけました、とシックスは右肩からそれを下ろす。

 まさにあの怨霊エリカが背負っていたランドセルだ。

 これが何だと言うのだろう? と見る間にーーシックスはランドセルの留め金を外し、赤革の蓋をべろんと開いた。

 中からは俊敏な動きで、三つの影が飛び出してくる。

 

「!?」

 

 現れたのはーー巨大な毛虫。腹に髑髏を詰め込んだ熊ぬいぐるみ。二つ傘をさす白い小人。

 握るGUMPのエネミーソナーが反応を示す。

 

「ゴッギー、バグス、ルゲイエだと……!」

 

 怨霊エリカが使役していたらしい三体の悪魔が。走行するトレーラー内へと出現した。

 俺は悪魔の後方、曖昧な笑みを浮かべるシックスを見つめた。

 どうやらやる気は十分らしい。交渉は決裂だ。

 

「フッ 死ネ デリルアワカー」

「ちょ!?待って待って!?別に戦うつもりで召喚したわけじゃ無いんですって!!

 姉の遺品を調べていたら。急にこいつらが出てきてーー」

「「「うむ! 未だ年少の砌、我があるじを倒せし弟よ! お前に従おう!」」」

「こんな調子でなんか、力を認められてしまって……」

 

 声を揃え、忠義の視線を向けてくる三体に困惑する様子のシックス。

 姉を倒したって言ってもお前、うっかり階段から突き落としただけだろうが。

 そんなんで強さを認めちゃっていいのかよ。

 

「「「うむ! 不意打ちとは言え見事! それにずっと見ていたが、我があるじの使っていた武具類の手入れも怠っておらぬようだしな! まさに常在戦場よ!」」」

「あ。今のは、俺のガンコレクションのことです……。

 憶えてなかったんですがーーどうも元々、姉の使っていたものらしくて……」

 

 俺はシックスの上着の内側から覗く44マグナムや、メンバー達の携えている銃火器を見やる。

 これ全部エリカが使ってたものかよ。

 殺意高すぎだろ。せめて女向けの銃使えよ。小学生女児が使ったら手首折れそうな反動デカいのばっかりじゃねえか。

 葛葉キョウジ(中身)と話の合いそうな姉だな……。

 ーーというか。

 

「お前の姉。エリカって、本当にサマナーだったのか……?」

「どうも、そうだったみたいで……」

 

 じゃあ何だ。つまり、弟を脅かすためだけに本当に仲魔召喚したりとかしてたのかアイツは。

 いやーー問題はそこじゃない。

 俺は、新たなる主シンゴに従う気満々な様子のゴッギー、バグス、ルゲイエを見やる。尻軽だなこいつら。

 ふざけた態度で尻軽だけど全員30レベル超である。

 小学生女児が、これほどの高レベル悪魔を従えていただと……!?

 エリカの死亡時期を考えるとおよそ十年前ってあたりだろうが、俺が三十の頃にそんな天才児がいたら絶対、業界の噂になってるはずだ。だが一度も耳にしたことがない。

 俺の脳裏を様々な憶測がよぎる。

 まさかこの赤ランドセルがCOMPなのか? どうやって手に入れた? それに召喚術はどうやって身に付けた? さらにはあの大口径銃器のコレクションとやらはどうやって集めた? 子供が独学で到達できる強さを遥かに超えている。

 まさかーーシックスの姉エリカには、どこかの組織の後ろ立てでもついていたのか……?

 数多の謎への回答を、シックスはあっさりと口にした。

 

「あ。姉ちゃんのつけてた日記を読んだんですけど。

 姉ちゃん。ーー本当に、魔法少女だったらしいです」

「魔法少女!?」

 

 アイツの言ってたこと本当だったのかよ。ムドオン⭐︎エリカ。

 

「それで先輩の魔法少女から、色々教わってたらしくって」

「先輩の魔法少女!?」

 

 そういう師弟制度もあんのかよ。呪殺系魔法少女。

 

「なんでも、とっても強い先輩魔法少女の、『ムドラ★マヨーネ』って人から」

「マヨーネじゃねえか!何やってんだアイツは!」

 

 謎はすべて解けた。

 ムドラ★マヨーネ……。名前からしてもう、ムドオン⭐︎エリカの師匠的ポジション……。

 そりゃあ、COMPも持ってるし召喚術も使えるし装備としての銃器だって取り揃えてるし(小学生女児にしては高火力過ぎだが)、さらには魔術だって呪殺だって使えるわけだ。師匠がアイツなんだから。

 そしてマヨーネがシンゴの名を知っていた理由も判明した。別にVRホラーハウス履修済みって訳じゃなかった。もともと名前くらいは聞かされていたんだろう。

 というかマヨーネ……。魔法少女だったのか……。

 いや、年齢考えたら十年前でも先輩魔法少女は既にキツかっただろうから、ひょっとして、魔法少女からファントムサマナーへと転身したのか……?

 俺や葛葉みたいに古い家系からなるとか、ユダやキャロルJみたいに一般からスカウトでなる以外に。

 サマナーには、魔法少女からの転身組ってのもいるんだな……。知らなかったぜ……。

 俺は仲魔三体を持て余し気味のシックスを見つめた。

 そしてそんな才気走る実力者を、ふざけて階段から突き落とす程度で討伐してみせたこいつはもっと恐ろしいぜ……。

 その時、スッと歩み寄ってきたネミッサが。俺の耳元で囁く。

 

「魔法少年『マハムド☆シンゴ』……。

 強力なライバル出現ね、マジカル★ウラベ?」

 

 やかましい。勝手に変なコードネームつけるな。

 そしてライバルキャラっぽく設定するな。

 ちなみに。COMPは赤ランドセルではなく、その中に仕込んだ例の箱ーーハテナ・ボックスらしい。おもちゃ箱を模した得物とか、いかにも小学生の持ち物として自然である。

 姉のおもちゃ箱の中から悪魔がコンニチワしたら、そりゃあ弟もトラウマになるはずである。

 しかもこのCOMP、「性格が冷静以外の敵仲魔を強制召喚解除する」という特殊機能付きである。対サマナー戦で猛威を振るいそうだ。魔法少女ムドオン⭐︎エリカは世界の平和と弟を守るため、サマナーでも狩って回っていたのか?

 

「ねえーーところでウラベ。気づいてる?」

 

 二人でランドセルの中を見せてもらっていると。横のネミッサがーー3体の悪魔と恐る恐るコミュニケーションを試みている、カツオとヒトミの二人を指差した。

 

「あのヒトミって子。普通に、魔力があるけど? 術士いけるんじゃない?」

 

 大人しそうな外見のヒトミからは、確かに魔力を感じる。俺の目で見る限りMPはまだ20といったところだが。

 

「ああ。とは言え、普通に教えたんじゃ間に合わんだろうがな……。

 あちらのカツオという少年にもーー召喚士が務まるだけの心の強さを感じる」

 

 その傍に立つカツオもまた魔力こそ無いが、鍛えた肉体に相応しい、サマナーに必須である精神の強靭さを感じる。

 

「正直、シックスよりも適性を感じるがーー」

「ええ!? せっかく、おっかないの我慢してこいつら3匹連れてきたってのに……そりゃないぜウラベさん!」

 

 むくれるシックスに、俺は目を見て頷きを返す。

 

「いや、お前は適性の有無なんて問題にもならない。

 あれだけ強い悪魔たちに認められているだけでも、お前は完全に規格外の存在だ。それは得難い才能だぞ?」

 

 頬をかくシックスの視線の先、バグスとハイタッチを試みていたカツオがこちらを見た。

 

「ネミッサ」

「はい」

 

 ネミッサは俺から受け取ったメリケンサックに一瞬だけ触れ、バイオメトリクスの接触ロックを外してから……それをカツオに向かって放る。

 

「カツオ。受け取れ。……お守り代わりだ」

「えっ」

 

 渡したのはメリケンサック型COMP……フィネガンから取り上げたCOMPのひとつだ。

 驚きながら二つともキャッチしたカツオに、それを両拳で握り込むよう指示する。

 

「指に操作キーが割り振られてるけど、これ。本当に武器なのか?」

「……まあ、そのようなものだ」

 

 武道経験者らしいカツオは、メリケンサックを握り込んだまま慣れた様子で構えを取る。

 俺は。かつて見たフィネガンのモーションを思い出しながらーー召喚術の初歩を手解きしてゆく。

 

「何だったかな……そう。

 腕を二回転してから、ストレートだ」

「? その動きに何の意味があるんだ?」

 

 不思議そうな顔のまま、その無意味な動きをなぞるカツオ。

 

「そしてコールしてみろ。

 SUMMON:PIXYーーと」

「? SUMMON:PIXY……うわっ!?」

 

 カツオの召喚命令と共に。トレーラー内に紫電が走りーーそして空中に有翼の小型妖精が出現した。

 召喚成功だ。

 

「ピクシー参上、っていうかひさびさの娑婆ッ!

 あら? しばらく見ない間にご主人すんごく若返ってない? てか別人? あのグラサンおじさま何処行ったの? 討たれた? まあいいやご主人よろしくね!」

 

 あっけに取られるカツオを前にまくしたてるピクシーもまた尻軽である。お前らに旧主への忠節とかは無いのか。

 

「な、なんだ、この子は……」

「お前が召喚した悪魔だ。

 ーーこれでお前も悪魔召喚士だ」

 

 これから悪魔の巣窟に乗り込むんだから戦力は多い方がいい。

 腰がひけたカツオにピクシーがハイタッチを決めにいった。陽キャである。

 まあ素人同然のカツオでも召喚できる悪魔をフィネガンがストックに入れてて助かった。

 

「あれ……? ステータスと所持スキル、てのが見えるぞ……?

 ザン、ディア、メギドラオン……」

「しかもメギドラオン継承ピクシーかよ!」

 

 通称メギドラオンピクシーだった。

 合体で作るのが物凄く大変な上に、しかも実戦で役に立たないことで有名な、コレクション用悪魔である。

 なんでこんなのとっといたんだアイツは。

 俺は目を丸くしているヒトミに目をやり、そしてネミッサと頷き交わす。

 さて。残るはヒトミに魔術を覚えさせるだけだが……。

 

「普通にやってたらこの先の戦闘に間に合わん。

 ネミッサ。またお前が直接乗り移って、すぐ術を使えるようにしてくれ」

「ええ。わかったわ。

 でも私がこの体から離れたらすぐさま、怒り狂ったフィネガン本来の意識が覚醒して、この場の全員を皆殺しにかかると思うけど? どうする? 丸腰にしておく?」

「ああ、そうだな。

 加えてーー完全丸腰で怒り狂ったフィネガンVS戦う力を手に入れたばかりのスプーキーズの面々、というカードで、戦闘訓練をさせておくのがちょうどいいかもしれないな」

 

 まあ向こうは殺す気でくるだろうけど、丸腰だし多勢に無勢だしで、なんとか制圧できるだろう。

 頷いて、装備を片っ端からそこらに放り投げ始めるネミッサをよそに、俺は手を叩いた。

 車内の皆の注目が集まる。

 

「よし!みんな、聞いてくれ。

 これからこのネミッサが、お前たちに全力で襲いかかってくる!」

「「「「「は……?」」」」」

「手に入れたばかりの力を試すいい機会だ。

 どんな手を使っても構わない。

 おのおの、持てる力の全てを使ってーー襲いくる死神から、生き延びてくれ!

 では、訓練開始だ!」

 

 告げるが否やトレーラーの隅に下がり、全力でネミッサから距離を取る俺を、狼狽するふたつの声が追いかけてくる。

 

「お、おい、待て!?」「ねェ、僕たちには新しい力とか、無いのォ?」

 

 ランチとユーイチだ。

 俺は二人の得物、番線カッターと巨大電力テスターを見つめた。

 

「……。悪魔相手に躊躇いなく解体しに行けるお前らに。それ以上の強さなんて、もう必要ないだろう?」

「「…………。」」

 

 二人は反論する気を失ったようだった。工具を握りしめて覚悟完了の様子だ。

 そしてーー装備をすべて脱ぎ終えたネミッサの体から、一条の白光が飛び出した。そのまま、ヒトミの顔面へと突き刺さる。

 フィネガンの肉体が黒髪を取り戻し。

 ヒトミの長髪がすべて銀髪へと変わる。

 

「……。」「アハッ!じゃあ、教えてあげるわね?」

 

 こめかみに青筋の浮き上がるフィネガンが一歩踏み出し。

 ヒトミの身体を乗っ取ったネミッサが魔術レッスン開始を告げる。

 ゴクリ、と固唾を飲む音はシックスか。

 

「こ、こういう時ーーええと確か、姉ちゃんはーー

 『ゴッギーはあいつを噛み砕いて!

  ルゲイエはあいつの目に砂を撒きなさい。

  バグスは闇で包んであげるの』」

「「「シンゴ召喚士殿に勝利を!」」」

 

 姉の指揮っぷりを覚えていたのか、シックスはなかなか堂に入った仲魔への指示を出した。

 即座に応じる三悪魔。忠誠度最大かよ。

 そしてーー雷震王母の蹴りが放たれ、ゴッギーは一撃で吹っ飛ばされた。

 

「ゴッギーっっっ!!!」

 

 シックスの悲痛な叫びを置き去りに。

 ヒトミの放ったアギの火球をダッキングでかわしーー

 割って入ろうとしたカツオとピクシーをあっさり跳ね飛ばしーー

 ランチとユーイチの振り下ろす工具で殴られながらも構わず前進するとーー

 

「ーーウぅラぁベぇぇぇぇぇ!!!」

 

 グラサン越しにもわかる。

 憤怒の表情のフィネガンは、抹殺対象は一人のみと言わんばかりにーーまっすぐ俺に向かって突っ込んでくる。

 うわバカやめろこっち来んな。俺が戦っちゃったらこいつらの訓練にならないだろ。

 フィネガンの正拳突きが俺の真後ろにあった機器を破壊し、火花を散らす。

 

 

『ーーだから! アジト内で! ドンパチ! 始めないでくれって!

 ローンが残ってるって言ったろーーっっっ!!!』

 

 

 運転席より放たれる桜井の叫びが、むなしく響いた。

 

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